最近、色々仕事が忙しいと云う理由で、中々、ルルーシュに与えられている住居には戻らなかった。
勿論、ルルーシュの騎士である、スザクとライもそれに付き従っている。
ルルーシュが自分の居住区に戻らない理由は一つ…
ルルーシュが見合いの資料を見ても、一向に候補者選びをしないので、業を煮やした執事長が『ここは私が腕をふるわねば…。これも…総督の御為…』と…(恐らくミレイに唆された感は否めない)100人余りの側室候補、7人程の(ルルーシュの従妹に当たる皇族の姫君2名を含む)正室候補がルルーシュの知らない間に招待されていた。
これまで、ルルーシュが一切使うどころか、中を見た事もない、総督のハーレムの為の部屋がすっかり満室となっていた。
大体…総督の居住区の中で女の部屋が総督やその騎士たちの居住区の面積の割合よりも大きく占められているのはいかがなものかと思うが…
それでも、実際にそれだけのスペースの必要な人物もいたと云う事であれば、ここで、ルルーシュ達がどうこう言う筋合いのものでもない。
そして、今現在、それだけの、内外からの姫たちが集っていると云う事は、これまでルルーシュが殆ど自分の身の回りの事は自分でしたいたおかげで、ルルーシュが就任する前まで数多くいた侍女たちを(きちんとした手続きに則って)必要最低限の者だけを残して解雇してしまっていた。(この場合、ブリタニアの総督の世話係だから免職になるのか?)
だから、それだけの姫君を招待すると云う事になり、とにかく、ルルーシュの居住区は大混乱となったのだ。
流石にブリタニアから招待した正式な来賓なのだ。
失礼があっては国の一大事となる。
執事長はアッシュフォード家の協力を仰いだ。
アッシュフォード家としても、ルルーシュの後見としてこんな時くらいは…と、身元の確かな…そして、これまでに正式な場に立ち会った事のある者もしくは、皇族や伯爵以上の身分の貴族の屋敷で働いた事のある者などを選抜した。
とは云っても、ここはエリア11…
ブリタニア人で、そんな経験のある物を探すのはとても難しい事だ。
ミレイが悩んでいる執事長に、多少強引ともいえる様な提案をする。
現在、背に腹は代えられぬ状態…。
何とか、ルルーシュが解雇してしまった侍女たちの中で、現在、こちらに手を回せそうな者たちを探して、首を縦に振ってくれた者もそれなりにいた。
エリア11の前総督が女を侍らし、自分を守る為に私設軍を持っていた事に感謝した。
それだけの者たちを引き連れてきていると云う事は、必要な次女も半端ではないと云う事だ。
エリア11でのルルーシュの評判は彼女たちも聞き及んでいたし、自分が世話をする姫君がルルーシュの側室…運よく正室にでもなれば、彼女たちのステータスも上がるのだ。
そんな目論見を持った女たちが結構な数いたと云う事で、必要数の8割をそろえる事が出来た。
後は…
「殿下にご相談せねばなるまい…」
執事長がその状況をルルーシュに伝えると…
「なら…日本人にも募集をかければいいじゃないか…」
ルルーシュはあっさりとそう答えを返すが…
「しかし…殿下…」
「別にいいじゃないか…。私の騎士は日本人だ…。侍女に日本人がいてもおかしくはないだろう…。私がいつまでこのエリアの総督でいられるかは解らないが…私の代で慣例化してしまえば…きっと、このエリアでの総督の在り方も変わって来ると思うぞ…」
執事長の心配も解らない訳ではなかった。
今、ルルーシュが云ったように、ルルーシュがいつまでこのエリアの総督でいられるか解らない。
植民エリアの総督は植民エリアの住人の支持を集めたところで意味はない。
ブリタニアに対してどれだけ貢献しているか…それだけが指標になる。
今のところは確かに、ルルーシュが就任してきたばかりのころと比べると、1.5倍の生産量となっている。
しかし、それは、ルルーシュの前任の総督があまりに無策であった為だ。
ルルーシュ自身、そういった、生産力の向上に力を注いだ事は、このエリアの総督に就任して一度もない。
やった事と言えば、旧日本の首相の遺児を自分の専任騎士にした事と、シンジュクゲットーで日本中のレジスタンスグループの支持を集めた枢木スザクの率いていたレジスタンスグループと和解した事くらいだ。
後は…敢えて言うなら、旧日本の官房長官だった澤崎敦が日本のゲットーを中心に『リフレイン』を日本人たちに売りさばいていた事、そして、その為にエリア11に駐在していたブリタニア軍と内通していた事を発見して、逮捕し、裁いた事…。
ルルーシュ自身は、エリア内の混乱を恐れたが…『リフレイン』の事件は、エリア11に暮らす、日本人たちの中でも不安の種となっていた。
薬物中毒者の行動は非常に危険な事も多い。
『リフレイン』の場合、自己喪失状態に陥ると云う負の副作用がある事は知られていた。
つまり、その状態に陥った人間は、自分自身、何をしているのか解らなくなったり、誰かに云われた事をそのまま行動に移したりする事がある。
だから…対処方法が解らない者たちにとっては非常に不安の大きなものとなる。
そして、中毒者たちは、『リフレイン』を求めて…どんな事でもすると云う奇行にも走るのだ。
国が法律で禁止薬物に指定するには国家の根幹を揺るがすような問題が発生する事を懸念するからだ。
これは、植民エリアの被支配層の人間にも云える事だ。
だからこそ、『リフレイン』の蔓延を恐れていた日本人たちは、ルルーシュが今回の事件に関して、何もかも包み隠さず話した事によって、ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアと云う、一個人を支持するようになっていた。
エリア11の生産性向上は…そうした、日本人の気持ちの持ち方も影響している様だった。
その事は、執事長も解っている。
しかし、皇族の住まいの侍女…ブリタニア人女性にとってはステータスのシンボルでもある。
それが、母の身分の低い、ルルーシュの住まいであったとしても…だ…。
今のルルーシュの場合、次期皇帝の座に一番近いと名高い神聖ブリタニア帝国宰相である、シュナイゼルの片腕だ。
かつて、誰からも目にかけられなかった頃のルルーシュとは立場が違ってきている。
ルルーシュ自身にその自覚が足りない事を執事長は何よりも懸念している。
今回、正室候補としても、側室候補としても、恐らく、ルルーシュが考えているよりもずっと、VIPな家柄の娘たちだ。
王族であったり、大企業の令嬢であったり…
この間、見合いの資料に目を通した時、中華連邦の幼い国家元首が入っていたり、エリア11の『キョウト六家』のトップである皇の姫君が入っていたり…
その時に、相当驚きを見せていたようだが、中にはそれまでルルーシュを蔑んでいたルルーシュの従妹に当たる姫君たちも入っていた。
尤も、父シャルル=ジ=ブリタニアは自分の即位に際して自分の兄弟姉妹を全員殺している。
だから、従妹と云っても、他の妃たちの兄弟や姉妹の娘なので、直接の血の繋がりはないし、貴族の家柄だから、皇帝の血をひいていても、母の身分が低い事でルルーシュやナナリーに対して好感を持っていたとは言い難いのだ。
だから、一応肩書は従妹であっても、こちらは王宮内でルルーシュもナナリーも安心して歩けるように…ルルーシュはとにかく、王宮の住人の関係者を調べ上げた。
ナナリーを守っている護衛たちにも要注意人物を徹底的に覚え込ませた。
流石にそんな物騒な話をユーフェミアには出来なかったが、そう云った事で悩んでいる時に、コーネリアがその事に気がついて、相談に乗ってくれた事もあったのだ。
その時に…
『ルルーシュ…ナナリーとユフィの傍にはダールトンの養子であるグラストン・ナイツを配置しておく。信用のおける青年たちだ。もし、ナナリーが気に入れば、その中の誰かをナナリーの騎士にしても構わん…。だから…少しは私とユフィくらいは…信用してくれ…』
ルルーシュの事を愛していたコーネリアはルルーシュが何を恐れているのかをよく知っていた。
実際に、コーネリアの母もマリアンヌに関してはいい顔をしていたとは言い難い。
ただ、娘たちがマリアンヌに懐き、ルルーシュやナナリーと仲良くなった事を苦虫をかみつぶしたような顔で見つめているだけ…で済んでいたのは不幸中の幸いだ。
また、現在ではコーネリアがシュナイゼルの配下となり、大きな戦果をあげている事もあり、彼女たちの母も、そうそう、ルルーシュやナナリーを悪く云えなくなったし、下手な手出しをした場合、恐らく、母から疎んじられていたコーネリアは母に対してその怒りをぶつけて来る事になるだろう。
母の実家からもコーネリアの評価が高くなっている中、母親としては、本心がどうあれ、コーネリアに対して怒りをぶつけたり、コーネリアから怒りをぶつけられたりする事は避けたいと考えるのはある意味、仕方のない事なのかもしれない。
ルルーシュとしては複雑な心境であるが…
今回、側室候補の中にはその、コーネリアの母親の血縁の姫君も交じっていた。(一応一族なのだが、本家からは少し離れている為、側室候補となった)
執事長は、いい加減、ルルーシュに本来ルルーシュの暮らす屋敷に戻るように促した。
これまで、何とか逃げてきたが…それもそろそろ限界と判断し、ルルーシュは大人しく連行されて行った。
「まぁ、色々あるかとは思いますが…。側室候補の中に、ミレイ=アッシュフォードを紛れ込ませております。色んな思惑の中から送り込まれています。殿下の御身の安全を確保する為にも…。あと、アッシュフォード家から二名、メイドを侍女として招いております。確か…篠崎咲世子と云う、日本人と…後…シュタットフェルト家の…カレン嬢の御生母と…」
二人とも日本人だ。
ルルーシュは驚いた顔をするが…
「どうしても、侍女の手配がままならず…。ただ、篠崎咲世子はSPの家系の出とか…。彼女は色々と護衛の面からも役に立つと思われます。また、怪しい姫の情報をまわしてくれるとの事…。そして、カレン嬢の母君の方は…、シュタットフェルト家の当主に見初められた事はあり、とても聡明で、政治に関しても精通しているようです。ですから、彼女たちには侍女としての仕事のほかに、特殊任務も命じております…」
執事長の話を聞いて、ルルーシュははぁ…と大きく息を吐いた。
結局いきつくところはそこなのだ。
「スザク、ライ…執事長と共に、その二人に会って、どのように姫君たちを守って行くか、そして、情報漏えいや、国際問題を発生させないようにするか、綿密に作戦を立ててくれ…」
ルルーシュは動けない…。
恐らく、そうした事にルルーシュが首を突っ込まなくてはならない事態に陥った時は、相当大きな問題が発生した時だ。
彼女たちはブリタニア側が正式に招待したVIPの来賓だ。
だからこそ、ルルーシュが出て行くのは、最後の最後だけでなくてはならない。
「「イエス、ユア・ハイネス」」
二人とも…ルルーシュがこういった問題が苦手であると察した。
考えてみれば、ルルーシュが王宮のパーティに参加していたとしても、所詮は第11皇子、皇位継承権第17位の皇子だ。
彼の他にはもっと重要視されるべき皇子や皇女がたくさんいる。
こうした場で彼が中心に立つ事はなかっただろうし、ルルーシュ自身、ナナリーを守る為だけに、そう云った招待を受けていたのだろうから…得意分野である筈がない。
それでも、必要だったから…
今回も…必要である事は…間違いないのだが…
それでも…心境は複雑だろう。
「ルルーシュ…」
後ろからスザクがルルーシュに声をかけた。
スザクの半歩後ろにはライも控えていた。
ルルーシュの表情に…複雑な色が見えていたのだろう。
「済まない…心配するな…」
ルルーシュは何とか笑顔を作って、そう云ってはみるが…
ルルーシュ個人の為に、ルルーシュの命令さえ無視する騎士たちだ…
「お気持ちはお察しいたしますが…。我々も、命を賭して、ルルーシュ殿下をお守りします…」
ライはそう云ってルルーシュの複雑な表情を何とか宥めようとする。
「ありがとう…私は大丈夫だ…。資料の中には…要注意人物がいる事も解っているな?」
ルルーシュの表情が、切ないと云う色が消え、総督であり、神聖ブリタニア帝国宰相、シュナイゼル=エル=ブリタニアの片腕としての顔つきとなる。
スザクもライも表情を引き締めた。
「ああ…。正室候補の中に2名、側室候補の中に14名…。背景を見る限り…ルルーシュの命を狙う者、このエリアの混乱を目論む者、ブリタニアとの外交にひびを入れて、ブリアニアに対して交渉ネタを拾おうとする者…」
スザクの言葉にルルーシュは厳しい顔で頷いて見せる。
「その他にもまだ、思惑のある者がいるかもしれません。我々は…その者たちに対しても目を光らせます…」
ライの言葉に、ルルーシュは更に続ける。
「今回…軍関係者を入れるのは、お前たちだけだ…。肉弾戦での戦力はお前たちだけだ。決して、姫君方にも、そして、私にも危険が及ばないよう…細心の注意を払ってくれ…」
今回は、ジェレミア達を同行させていない。
あからさまにこちらが警戒しているという姿勢を見せる訳にはいかない。
だから、ルルーシュの専任騎士である、二人だけが、そう云った意味での戦力だ。
姫たちは必ず自らのボディガードを連れている筈だ。
中には、中華連邦のように、ブリタニアとの外交にひびの入っている国もあるのだ。
「「イエス、ユア・ハイネス」」
今回は、ルルーシュの結婚云々と云うよりも、この複雑極まりない状況下…どう乗り切るかにかかっている。
おまけに、現在、このエリアには、ルルーシュが情報を見ただけで苦手意識を持っているナイトオブテンがいる。
シュナイゼルの命令さえ聞かないと云う…
そんな輩も、ブリタニア皇帝の使いとして、姫君たちとの晩餐に招待せねばならない事もあるのだ。
ジノやアーニャに関しては心配してはいない…
「アーニャか…」
ルルーシュが一言呟いた。
「殿下?」
「否、彼女も何かの形で潜り込ませておけないかと思ってな…。彼女もいざという時、戦力になる。あの見た目なら…そんな風には見えない…。それに、ラウンズは基本的の公に出て来る事はない。あの、問題の姫たちも顔を知らない筈だ…」
「なら…中華連邦のお姫様につけたら?きっと…守ってくれると思うし…例の…『神虎』のパイロットの件でも…彼女に協力して貰えば…」
「枢木卿…しかし、アールストレイム卿は…」
スザクの言葉にライが慌てたように止めようとする。
しかし、ルルーシュは…
「なるほど…面白い方法が見つかるな…それなら…。有能なパイロットが…手に入るかもしれん…。皇帝陛下は…実力主義だ…」
ルルーシュはスザクの言葉ににやりと笑って、何かを思いついたように二人を見た…
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