ルルーシュとスザクとライは約束の場所にとりあえず、3人で向かっていく。
スザクとカレンが連絡を取り合って、現在、暫定的にレジスタンスグループのトップとなった藤堂と、会談を設ける事になった。
政庁であると、ルルーシュ達の方が交渉の場において、藤堂たちよりも有利になるし、かと云って、シンジュクゲットー内だと、ルルーシュとスザクだけで入り込むには危険すぎる。
スザクは、藤堂がそんな不意打ちをするような卑怯な真似を好まない事は知っているが、それは、藤堂個人の話であり、ディートハルトがどう動くから不安だった。
あの男は、常に変革を望み、それをジャーナリストとして追い求めているところがある。
扇や藤堂の様に、日本独立のためなどと云う理念がない。
ただ、自分が追い求めるものを追い続けているのに過ぎない。
レジスタンスグループの中で、もっとも頭の切れる人材で、その部分においては認めているが、それでも、彼の考え方などに関しては、正直、スザクとしては信用おけないところが多々あるのだ。
それに、その他にも、シンジュクゲットー内にはブリタニアに対する反体制勢力がいる。
その中には、日本が独立した暁には、自分たちが、日本のトップに立とうと云う野心を持った者たちもいる。
そういう者たちは、自分たちが、目に見える形で日本の為に功績を上げたことを示さなければならない。
今回の会談は極秘に催されるものだが、どこから情報が漏れてもおかしくない。
そして、総督と藤堂との会談につけられた条件が、ルルーシュに対しては、同席が許される者はスザクのみで、警護役は建物の外に…と云う事になっている。
藤堂たちもそのような条件を出したからには、自分たちも同じような条件である。
藤堂の方は、会談に同席するのは、藤堂と、副指令の扇のみ…である。
メッセンジャー役となったカレンは建物の外で待っている事になる。
そんな条件に、ジェレミアもキューエルもヴィレッタも『イレヴンごときが殿下に対して何たる無礼!』と、憤慨していたが、ここで、そんな身分、立場の差を掲げていたら、交渉など出来る訳もない。
しかし、その条件をそのまま飲んでしまうのはあまりに危険なので、ライには緊急時用の発信機を持たせて、一番近くの軍事拠点からすぐに出撃できるように指示した。
恐らく、それは相手側も同じような処置はしてある筈だ。
こんな形での会談は初めてのことであるし、実際に何が起きてもおかしくはない。
そして、会談の場所は、富士五湖近くの小さなペンションで行う事になった。
会談と云うにはあまりに、場違いの場所のようにも思えるが、とりあえず、非公開の会談である為、目立たない場所である必要があった。
ペンションの主には事の詳細を告げてはいるが、この極秘の会談に関して第三者に公害した時には、それ相応の処置が下されることになっている。
ルルーシュ、スザク、ライが、連れだって、ペンションへと向かって行った。
ペンションの玄関には、藤堂、扇、カレンが立っている。
「初めまして…藤堂鏡志郎…。私が神聖ブリタニア帝国第11皇子にして、現在のエリア11の総督、ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアです。本日は、ご足労をおかけします…」
ルルーシュは決して、相手がイレヴンだろうと、こうした交渉ごとの時には必ず、礼を払う。
それが、相手の心象に大きく影響する事を知っているからだ。
「これは、ご丁寧に…。私は旧日本軍中佐、藤堂鏡志郎だ。今日は、シンジュクのレジスタンスグループのトップ代理としてここにまかり越した。今日の会談が…少しでも我々にとって、有意義なものになる事を願っている…ルルーシュ総督…」
藤堂がそこまで云うと、ルルーシュは見上げねばならない程長身の藤堂に対して右手を差し出した。
敵意のない事、そして、良い結果を望んでいる事を証明するために…
藤堂もその意図を読み取ったのか、躊躇なくルルーシュに対して右手を差し出した。
二人の握手に周囲にいる2人も、緊張の色を隠せない。
そして、その中で一番眼光鋭くその光景を見ていたのはライだった。
ライ自身、まだ、スザクの事を信じ切れていない。
ライにとって、スザクは旧日本の最後の首相の息子であり、ルルーシュがその命を助ける為に殆どで任せに近いような騎士任命によって、専任騎士となったイレヴンだ。
そして、ここにいる人間は、ルルーシュとライを除いては、イレヴン…の立場だ。
いざという時、ライは、この場でルルーシュの命を死守しなくてはならないと云う使命がある。
ここに来る前に、ジェレミアにも言われた。
『殿下は…どうも、枢木を信用し過ぎている側面がある。いざという時には…お前が頼りだ…。有事の際には、結果的に何もなかったとしても…お前の判断で少しでも殿下の身に危険が及ぶと感じた時にはすぐに我々を呼べ…。誤報であったにしても、此度に関しては不問とする…』
『イエス、マイ・ロード…』
実際、政庁内でのスザクに対する評価はそんなものだ。
中にはヤッカミ染みたものもあるのだが…しかし、ルルーシュの側近たちは本気でスザクに対して疑念の目で見ている。
それは、スザクにも解っていたが、それでも、ここに残れば、自分がどういう立場になるのか解っていた事であった。
故に、スザク自身、自分の働きで証明する…それ以外に、その疑念の払拭はあり得ない事は重々承知もしていた。
ルルーシュとスザク、藤堂と扇がペンションの中に入って行った。
その後ろ姿をライとカレンが見送る。
「あんた…スザクの事…全然信じてないでしょ?」
不意に声をかけられた。
しかし、ライは全く動揺した様子もなく、カレンを一瞥した。
「そんなに心配しなくても…スザクは総督を守るわよ…。何があったか知らないけど…この間、あの地下牢でスザクを見た時は…正直驚いたし…」
カレンは、敵意を見せる訳でもなく…かと云って、味方に話しているという雰囲気でもなく、ライに対してそういった。
「しかし…君たちは、総督であるルルーシュ殿下を…討とうとしていた…。それが解っているのに…安心など出来るか!」
ライは相変わらず警戒を解かないままカレンに言い放った。
ライとしては、『黒の死神』と云う名前を甘んじて背負いながら、常に大切なものの為に仮面をかぶり続け、それでも隠しきれない悲しみを持つルルーシュに対してかなり盲目的に心酔しているらしい。
「まぁ…あんたがどう思おうと勝手よ…。ただ、藤堂中佐は今の私たちにとってはトップだし…トップが短慮な行動には出ないわよ…。扇さんじゃスザクに勝てないしね…」
カレンはサラッとそんな事を云って見せる。
確かに、トップが剣を抜くのは前線でのみ…
こんな、交渉会談の場で交渉が決裂して、いきなり剣を抜くような事があっては、交渉成立が遠くなるだけでなく、これから先、レジスタンス側の方が不利になる可能性だって高いのだ。
戦力でいえば、ブリタニアの正規軍に敵う筈がない。
レジスタンスの戦力ではまだ、ブリタニアの正規軍と正面から戦えるだけの武力は持ち合わせてない。
スザクのいた頃でさえ、ゲリラ戦の様な事しか出来ていなかった。
藤堂たちが加わったところで、戦力不足である事はいまだに変わらないのだ。
交渉がうまくいかないにしても、ブリタニアの総督をこの場で傷つけたのなら、藤堂も扇もカレンも問答無用でブリタニア軍に殺されても文句は言えない。
今回は『平和的解決』を目的とした会談なのだ。
そこで、ブリタニアの総督に傷をつけたとあれば、むしろ、日本人の中からもこのレジスタンスグループに対しての反感が向けられる可能性だってある。
確かに日本と云う名を取り戻したいが、その為に多くの血が流れていくこと、自分の身に危険が及ぶ事を喜ぶ人はいない。
でも、傍若無人にその権力を振り回されている状況下であるのなら、レジスタンスに対して陰からの支援は出来ても、正面切って戦える者は少ないし、出来る事なら平和に生活をしたいと思っている人々も多いのだ。
そんな中で、今回はブリタニア側から『平和的解決を…』と今回の会談を持ちかけてきたのだ。
しかも、スザクがブリタニアの総督の騎士になってしまった。
今のレジスタンスグループの戦力ははっきり言って、心もとない事も事実だ。
だからこそ、この交渉会談に乗る事にしたし、これで平和的解決が出来ると云うのであれば、悪い話ではない。
少なくとも、前任の総督の様に問答無用の門前払いでない分、期待は出来る。
ペンションの中では交渉の話がされている。
レジスタンス側の要求は、日本人にせめて人間らしい生活を送れる環境を望む事と、ゲットーでの軍事演習の禁止だった。
ブリタニア側の要求は、テロリストたちの即刻の武装解除と政庁への出頭、そして、テロリストグループの責任者への責任追及だった。
ブリタニア側の出した条件ははっきり言って、テロリストに対しては当然の対処だ。
本来なら交渉の条件にはなりえないものではあるが、これで、テロリストたちの活動が沈静化するなら、ルルーシュとしては特にこれに対して、何も思う事はない。
ただ…その捕らえられたリーダーには厳罰が下ることは確実ではあるが…。
日本の文化の中では、戦争の時でも、大将の首を落とせば、残った武将や兵士たちに対しての責任追及はされず、それで戦争が終わるという。
ルルーシュはその事を知った時、世界の戦争でもそういった風潮になってくれると助かると思った。
他の国の場合、大将が消えても、すぐに新しいトップが台頭してきて、生き残った兵士たちを集めてテロを起こす。
これは恐らく、日本が単一民族の国であったからこそなしえた戦法だとも思うが…。
今のエリア11でそれが通用するかどうかは今のところ判断しかねるが…まずは、頭を潰す事をルルーシュは考えたのだ。
となると、本当は、スザクに対しても厳罰が下る訳だが、彼の場合、ルルーシュの専任騎士と云う事で、ある意味、特例を作る事になる。
そんな事をしたら…本当なら、ブリタニアからもエリア内の反体制分子側からも様々な不満などが噴出するだろうが…
それでも、スザクやカレンが今回の橋渡し役になっている。
もし、これで、エリア11内の反乱分子の半分以上が武装解除してくれれば、この先かなり楽になる。
それを考えれば、藤堂たちへの譲歩はある意味、ルルーシュがこのエリアを統治していく上で好都合だ。
元々、ルルーシュとしては、イレヴンを虐げるつもりは毛頭なかったし、植民エリアだからと云って、無理難題を押し付ける気もなかった。
だが、ブリタニアの方針があるから、最低限の順守はせねばならないが、皇帝は何も、植民エリアの民族を家畜同然に扱う政策を立てよとの命令は下してはいない。
ただ、人を競争させて、弱肉強食の世界を提唱はしているが…
ならば、確かに敗戦国となった植民エリアではあるが、ルルーシュの統治するエリアはもう少し、ブリタニア人のスタートラインに近いスタートラインを用意してやってもいいような気がする。
きっとその方は、エリアの生産性も上がる…そう考えるのだ。
ルルーシュと藤堂との話し合いは、意外にもお互いの利害の一致したものとなっていた事にその場にいた人物全員が驚いていた。
扇は、あの時のルルーシュへの畏怖を今になってどうしてだったのかが解った気がする。
ルルーシュは…統治者としてしっかりとしたビジョンを持っているのだ。
そして、敵となれば、『黒の死神』と言わしめるほどの破壊力を示すが、いざ、同じ思いを抱いていれば、これほど心強い事はない…。
今回の会談に同席して見て、つくづくそう思う。
「さて、ルルーシュ総督のその提案だが…今のところ、今、我々のグループで動いているメンバーと、日本解放戦線に関しては、私が何とか話をつける事が出来るが…」
藤堂がそこまで云うと言葉が途切れる。
ルルーシュ自身、藤堂が何を言いたいのか…大体、判断が出来るので、その先はルルーシュが言葉を続けた。
「あなた方のグループにはブリタニア人、もしくは、元、ブリタニア軍に所属していた者もいる…。それに、他の反体制勢力が今回の会談の提案について、賛成してくれるかどうかが、未知数である…と云う事ですね?」
疑問符の付いた言葉ではあるが、ほぼ断定的な事実である。
「ああ…その通りだ。私やスザク君とこれまで関わりのあった者たちであればまだ説得のしようもあるが…。しかし、そうでないのなら…」
日本国内の全ての反体制勢力が枢木首相の遺児であるスザクを担ごうとしている訳ではない。
第三勢力が次は己が…と言う意思の下に動いている者たちもいる。
「ならば…キョウト六家は動けませんか?彼らは日本の象徴でもあります。キョウト六家の一人、枢木スザクは今、私の騎士となっていますし、その上で、そちらへの働き掛けが可能ではないですか?」
ルルーシュはスザクから、日本の情勢を大体聞いて、自分なりに解釈し、把握していた。
正しい解釈であるかどうかは別にしても、それでも、日本の事を何も知らない相手と話すよりもきっと信頼は得られる。
「キョウト六家?確かに我々の今のパトロンではあるが…ただ、桐原翁が…スザク君がルルーシュ総督の騎士となったことに困惑されている様子で…」
「ならば好都合…。私がその辺りの説明にまいりましょう。仲介をお願いできませんか?」
藤堂の目を正面から見て、ルルーシュがそう願い出た。
「前任の総督に関しては、ブリタニア人として、私はあなた方に謝ります。申し訳なかった。そして、枢木に関しても、私はあなた方の事を何も考えずに騎士にしてしまいました…。しかし、そのお陰でこうして、話し合いの場が持てたと云うのであれば、枢木スザクを我が専任騎士にした事に関しては謝罪しません。ですから、桐原翁にも私の口からきちんと説明させて頂きたいのです…」
ルルーシュのこの対応に藤堂は舌を巻いた。
相手はまだ15歳の少年だ。
これは…いくら皇族として学んできたからと云って出来る判断でもないし、対応でもない。
政治を学んできたという点では、スザクだって、自分の父親は首相だったのだ。
恐らく…この少年の場合…身の回りで見てきた事を全て吸収した上に、彼自身の天賦の才があるのかも知れない…。
藤堂だけでなく、扇もルルーシュのその対応と、判断の速さ、そして、先を見越す能力に驚いていた。
「解った…私の方から、桐原翁にそう進言してみよう…。返事は…紅月君を通して、スザク君へ伝える様にしよう…」
「ありがとうございます…どうぞ宜しくお願いします…」
ルルーシュは、厳かに礼をいい、頭を下げた。
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