―――トウキョウ租界政庁
ルルーシュの出した、国際救難チャンネルの電波をキャッチして、内部は大騒ぎになっていた。
結局、シュナイゼル自ら、アヴァロンで、出て行く事となった。
一旦、簡単な軍議が開かれ、すぐに出発となった。
しかし、電波をキャッチした時間が既に夕方となっており、捜索は出来ないと判断された。
シュナイゼルも、迎えに行きたいのはやまやまではあったが、その場では、自重した。
確かに、小さな小島である事は間違いなく、アヴァロンで出向いても、ナイトメアなどを使っての救出となる為、夜間は難しい。
とりあえず、そこにいると云う事を知った事だけで、満足しなくてはならなかった。
シュナイゼルは自分の立場をよく解っている。
そして、シュナイゼルがいなくなれば、ルルーシュを後見出来る者がいなくなる事も…。
だから、自分の行動には細心の注意を払っていた。
ルルーシュが捕まえたというテロリストの中に、シュナイゼルを支持する貴族の娘が入っていたと知った時にも、決して取り乱す事をしなかった。
「シュナイゼル殿下…」
そこで声をかけてきたのは、シュナイゼルがルルーシュに預けた特派のロイドだった。
いつもふざけた口調になるが、今のこの深刻な状況を察してか、ロイドも神妙な面持ちでシュナイゼルに声をかけている。
「ロイドか…」
「申し訳ありません…。我々が…もう少し注意を払ってハドロン砲を…」
あの戦いの中で、ルルーシュの命令であったとは云え、ルルーシュの頭で最新の兵器を使ったのだ。
「否…あれはロイドたちの所為ではないよ…。どうせ、ルルーシュがまた、無茶な命令を出したのだろう?こちらこそ済まなかったね…。でも、これからも、ルルーシュを支えてやって欲しい…」
シュナイゼルは難しい顔をしながらロイドにそう答えた。
「では…我々特派もルルーシュ殿下救出への同行をお許し下さい。きっと…ライ君なら…ルルーシュ殿下を救い出してくれます…」
「ライ?」
ロイドの話にシュナイゼルは聞き返す。
「はい…。最近特派に入ったばかりなのですが…。腕は確かです。元々は、あの奪取されたランスロットのデヴァイサーでした。今は、ランスロット・クラブのパイロットをしております…」
ロイドはエリア11に来てからのルルーシュと、ライの経緯をシュナイゼルに話し始めた。
そして、全てを聞き終えて、シュナイゼルは少し安心したように微笑んだ。
「そうか…ルルーシュにも…そんな存在が出来たのか…。嬉しい事だね…」
シュナイゼルはそう呟いた…
―――ルルーシュ達が飛ばされた島
あれから、ルルーシュとスザクは自分たちの事を話していた。
ルルーシュの生い立ち、スザクの生い立ち…。
お互いに聞けば聞くほど、驚く事ばかりだった。
そうして話していると、お互い、なんで敵同士として出会わなくてはならなかったのか…と考えてしまう。
お互いに戦いたいと思っている訳じゃない。
でも、守りたいものの為に戦っている。
それは共通だった。
そして、望む事は…自分と自分の大切なものの居場所の確保…。
「なぁ…ルルーシュ…。お前は…あのエリアをどうしたいと思っているんだ?」
「出来る事なら…現地に暮らしていた人たちと戦わずに済めば…とも思うが…。そんな事、ブリタニアの皇子である私が云ったら、白々しいだけだな…」
ルルーシュが自嘲気味に笑う。
しかし、現実にはそうもいかない…と言う事もルルーシュ自身、よく解っている。>
そして、恐らく、スザクも…
「枢木は…あの、枢木ゲンブ首相の嫡子なのだろう?ならば、キョウト六家のメンバーなのだろう?何故…テロリストなんかに?」
ルルーシュがずっと知りたかった事…。
恐らく、首相だった人物の息子だと云えば、それほど悪い待遇で迎えられる事はないし、実力が認められれば、政務などにつく事だって可能だ。
キョウト六家はそう云った形で、ブリタニアと関わっている。
ただ…胡散臭い話もない訳ではないが…。
「俺が…首相の息子に生まれてきたのは単なる偶然…。そんな生まれた家の名前で生活が楽になっても意味はないし、ブリタニアの政務官の一人になったとしても俺の望む姿になっていくとも思えないからな…。名前を利用されるだけで、日本そのものは何もかわりはしない…」
スザクがそうきっぱり言い切った。
生まれた家…確かに子供は生まれてくる場所を選ぶ事が出来ない。
ルルーシュ自身、自分がブリタニア皇室に生まれた事を心から呪った事もあった。
望まない戦いでも、守りたい者の為に自らの手を汚さなくてはならない…。
解ってはいても、ルルーシュ自身、それを真正面から受け止める事も、回避する事もできなくて…結局、周囲からは恨まれ、蔑まれ、そして、哀れまれている。
「そうか…。君は立派だな…」
ルルーシュの口からそんな言葉が出てきた。
―――これまで、自分の意思でこうして、行動出来た事があっただろうか…
そんな風に考えてしまう。
実際に、ナナリーの為…そう云いながら、言われるがままに戦いに身を投じているだけだ。
戦いたくなんてないが、今、ルルーシュからシュナイゼル宰相の作戦指揮と言う立場を取ったら何も残らないのだから…。
スザクはルルーシュのそんな落ち込んでいる姿を見て、不思議そうな顔をする。
「お前…俺がさっき云った事…全然聞いていなかったな…」
半ば不機嫌そうな声でルルーシュに話しかけてきた。
「?」
ルルーシュが不思議そうな顔でスザクを見る。
「俺…さっき云ったよな…。『そんな風にお前に守られているやつ…ちょっと気の毒だよな…』って…。お前、その言葉の意味、解ってないだろ…」
さっき、ルルーシュがスザクに掴みかかった時の言葉だ。
正直、ルルーシュ自身、今やっている事で精一杯でそんな事を考えた事などなかった。
「……」
「ルルーシュって…初めて見た時から思うけど…。俺と同じ年のくせに、年寄り臭いよな…。何でも悟ったみたいな顔をしてさ…。それに、肩に力入っているってのが、あからさまに解るし…。お前が守りたいと思うからには、お前の大切なものを守ろうとしているんだろう?」
スザクがペラペラ喋り出した。
話している内容からしても、ルルーシュの方がはるかに知識は豊富だし、何より、答えを出す時にはルルーシュの方が正確かつ、的確に答えを出している。
「大切じゃなければ守ろうなんて思わない…」
短く帰す事しか出来なかった。
多分、スザクが今、ルルーシュに云おうとしているのは、ルルーシュに見えていないもので…多分、それは肝心な何かなのだ。
「きっとさ…お前が大切に思っている奴も、お前の事…大切に思っているんじゃないか?自分の大切な奴が自分の事で苦しんでいても、自分には打ち明けてさえ貰えない…なんて思ったら…多分…苦しいと思うけどな…」
スザクは
―――こんな簡単な事も解らないのか?
と言った表情をルルーシュに向けた。
ルルーシュはその言葉を聞いた時…ナナリーの笑顔が頭にちらついた…。
ナナリーは決してルルーシュにそう云った事を聞いては来ないが…それでも、ルルーシュが一人苦しんでいる事に気がついてるのだろうか…。
そう思った時、再びルルーシュの中で動揺が広がる。
―――枢木スザク…僕の決定的に足りない何かを持っているというのか…
ルルーシュがそう思った時、振り返ると…スザクはすっかり眠っていた。
あの戦闘の後だ…よほど疲れているのだろう…。
それに、レジスタンスとしての生活だって、楽ではない筈だ…。
「ったく…敵を目の前にして寝るとはな…いい度胸をしている…」
そう云いながら、ルルーシュは焚火に枝をくべた。
―――翌朝…
ルルーシュもいつの間にか眠ってしまったらしく、スザクの声で起こされた。
「おい…朝だ…。そろそろ、お前の国際救難チャンネルの電波で迎えが来るんじゃないのか?」
「…ん……」
ルルーシュがゆっくり目を開けると目の前にスザクの顔があった。
結局、野宿になってしまい、体中が痛い。
「枢木…お前…私が眠っている間に何故殺さなかった?」
「それは多分、お前と一緒だよ…。俺の方が先に眠ってしまったのに、お前、俺を射殺するどころか、拳銃すら奪ってない…。まぁ、いくら眠っていたって、お前が不穏な動きをすれば、目が覚めるけど…」
スザクはそう云いながら不敵に笑った。
「でも…これでお前の迎えと、俺の迎えが来たら…また…敵同士なんだな…」
スザクがそう呟く。
ルルーシュも同じ事を思っていた。
多分…ルルーシュにとって初めて、人として興味を持った他人である。
不思議な感覚でもある。
そして…このまま敵として別れるのは…多分…辛いのだと思う。
「もう少し…話をしたいと…思うが…」
ルルーシュもぼそりと呟いた。
その時…
「海岸の方から足音が聞こえる…」
スザクが耳を澄ませながらそう呟いた。
「多分…数は多い…。恐らく、俺のグループの連中じゃなくて、ルルーシュの救出に来たブリタニア軍だろう…」
あっと云う間に別れの時がきたらしい…。
「そうか…。なら…枢木は隠れていた方がいい…この場は私がやり過ごしてやる…」
それは…軍人であるルルーシュがやれば、背任行為である。
スザクは驚いた顔でルルーシュを見る。
「礼だ…私を『ルルーシュ』と呼んでくれた事への…」
そう云ってルルーシュがスザクに笑いかけた時…ルルーシュの背後から声をかけられる。
「ルルーシュ殿下!」
後ろを振り返ると、無数のブリタニア軍人が周囲を取り囲んでいた。
「!奴は…」
スザクの事に気がついたらしい…。
周囲を取り囲まれており、逃げ道はなかった。
彼らを取り囲んでいるブリタニア軍人の前にジェレミアが出てきた。
「殿下!ご無事で何よりです!」
そう云って、ルルーシュに礼を払い、その後にジェレミアが言葉を続けた。
「あそこにいるのはテロリストグループのリーダー…枢木スザクに間違いない!捕えろ!」
「「「「イエス、マイ・ロード!!」」」」
そう云って、兵士たちがスザクを取り囲もうとしていた時…
―――彼を…死なせたくない…
そう思った時、ルルーシュはスザクの前に立ちはだかった。
「この者は…神聖ブリタニア帝国第11皇子…ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアの騎士である!銃をおろせ!」
ルルーシュの言葉に一同が完全に止まった。
云った本人ですら、恐らくは…何を言ったのか解っていたのか定かではない。
そして…しばしの沈黙の後…取り囲んでいる兵の間からシュナイゼルと…その供として来ていたロイドとライが出てきた。
「ルルーシュ…」
「あ…異母兄上…」
ルルーシュは驚愕の表情を浮かべているがその場を動こうとはしなかった。
「ルルーシュ…」
ルルーシュの背後に立っているスザクが小声でルルーシュの名前を呼んだ。
「いいから、私に合わせろ…。ここで君が死んだら…日本はどうなる…」
ルルーシュもスザクに小声で返した。
「これはどう云う事かな?ルルーシュ…彼はイレヴンじゃないか…。そのような者を大切な私の異母弟の騎士になど…」
「専任騎士を選ぶのは…皇族の特権です。誰を選ぼうと…誰もそれを覆す事は出来ない…」
初めて自分に逆らうルルーシュを見て、シュナイゼルは驚いたようであるが…。
それでも、何かをつかんだのかも知れないと思う反面…これから…また大変だ…と思っている部分もある。
「ルルーシュ…これまで君は特派のライと懇意にしていたそうじゃないか…。ロイドから話は聞いている…」
シュナイゼルの言葉にルルーシュは迷いなく答えた。
「特派は…シュナイゼル兄上の直属…。いずれ、私の手から離れて行く者たちです。ライの事は気に入っていますが…立場上…ライは私の騎士にはできませんから…」
相変わらず、その場を動こうとしないルルーシュにシュナイゼルがふっと笑った。
「私は…ロイドから話を聞いて、ライを君の騎士に…と思っていたのだがね…。一歩遅かったかな…」
「異母兄上…」
シュナイゼルはスザクの方を見た。
スザクも馬鹿ではないらしく、この場で逆らっても捕らえられて、最終的には極刑が待っている事くらいは解っていた。
「枢木スザクくん…だったね…。旧日本最後の首相…枢木ゲンブ氏のご嫡子…。我が異母弟は少々我儘でね…。大変だとは思うが…よろしく頼むよ…」
不敵な笑みをスザクに贈った。
まるで、逆らう事を許さない…と言った、その目が…認めたくないが、恐ろしかった。
スザクはその言葉に何も返せなかった。
結局…ルルーシュもスザクも…シュナイゼルの思惑の解らないまま、トウキョウ租界へと帰って行った。
スザクとしては…正式な『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』の騎士と言う…最悪な称号をつけさせられた形で…
スザクはルルーシュと共に乗り込んだアヴァロンの中で唇をかみしめる事しか出来なかった。
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