―――シンジュクゲットー レジスタンスアジト
スザクはつい先ほど合流した藤堂と、四聖剣を連れて戻った。
これから先、彼らと力を合わせてレジスタンスとしての活動をしていく為に…
「藤堂さん…よかった…。何とか連絡が取れて…」
「確かに、困難を極めたが…我々と言うよりも、スザク君のグループの諜報部のおかげであるとも思うが…」
ディートハルトの事だ。
かなり胡散臭い男ではあるが、有能な男である事は事実だ。
元々、パソコンなどの危機に関しての知識も皆無で、扱う事も出来ない。
それ故に、必要だった男だ。
「彼のおかげです。かなり骨を折ったようですが、何とか、情報の網をかいくぐったようです…」
「ディートハルト=リートと云います。お会いできて光栄です…『奇跡の藤堂』…」
そう云って、スザクの隣に立っていた長身の外国人の男が藤堂の前に進み出て、右手を差し出してきた。
藤堂は怪訝そうな表情を見せる。
「スザク君…この男は…」
「ええ…ブリタニア人です。しかし、ブリタニア人にもいろんな人たちがいるという事らしいです。彼の能力に関しては…疑う余地はないですし、俺達にとって必要な人材です…」
怪訝そうな顔をする藤堂にスザクはそう説明する。
そのスザクの口調と表情を見て、藤堂はゆっくりと右手をディートハルトに差し出した。
「藤堂だ…。これから…よろしく頼む…」
そう云って、二人は握手しているが、四聖剣の4人は何となく胡散臭そうなこのブリタニア人の男を何となく信用出来ていないような表情で見つめている。
「とりあえず、紅月カレン以下、8名の救出の策を立てましょう。スザク…ラクシャータの方もだいぶ準備を整えたようですし…」
ディートハルトが待ち切れないかのように話を進める。
スザクはそんなディートハルトに促されるように今連れてきた5人をその部屋にある椅子に腰掛けるよう合図した。
そして、彼らもそれに従い、決して豪華とは言えないそこにある椅子に腰掛ける。
「ディートハルト…ラクシャータもここに呼んでくれ…。彼らもラクシャータのテストパイロットとなってくれる…」
スザクの『テストパイロット』と言う言葉に四聖剣たちは眉をひそめるが、藤堂は平然とその会話を聞いていた。
そして、その表情に気づいた藤堂が彼らに対して言葉をかける。
「我々は今は正規の軍人ではないし、兵器を開発するにはテストパイロットも当然必要だ。今は正規の軍人ではない以上、前線の戦い以外でも我々がやらねばならない事はたくさんある。すべては…日本の解放の為だ…」
藤堂のその言葉に彼らも納得できたという感じではないものの、理解は出来たようである。
5分ほどして、長身で長い髪の東洋系の女性が入ってきた。
「スザクぅ…後は、起動実験とかすれば、多分、実戦で使えるわよぉ…」
そう云いながら、キセルを吹かして入ってきた。
「そうか…。藤堂さん、彼女はラクシャータ=チャウラー…。元は、ブリタニアの技術開発に携わっていた研究員です…」
スザクのその言葉に再び彼らは驚きを表情に表した。
それはある意味仕方ないと言える。
藤堂たちはこれまで日本解放戦線で、旧日本軍の生き残りたちと活動してきたのだから…レジスタンスグループにブリタニア人やブリタニアに関わっている人物が存在すること自体に驚くのも無理はない。
「大丈夫です。彼らは、ブリタニアに対して特別な感情は持ち合わせていません。と言うか、自分本位にやりたい事の為に俺達に協力しているのですが…」
「それで本当に大丈夫なのか?」
四聖剣の一人、千葉が耐えきれずにスザクに尋ねる。
「ベストとは言えない事は事実ですが…。しかし、俺達がブリタニアに…あの、ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアと対等に戦うためには必要な事だと思っています。ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアを倒したとしても、その後には、彼の異母兄姉である、コーネリアやシュナイゼルが控えています…。それを考えた時、各自に思想まで考えている余裕はありません…」
スザクが現状を正確に判断しつつ、そう答えた。
今のスザク達のグループにしても、日本中に散らばっているレジスタンスグループにしても今、必要なのは、ブリタニア軍とまともに戦えるだけの力であり、その力があってこそ、ブリタニアに対して意見を言う事もできる。
力なき正義…あの時のブリタニアとの戦争で現実を思い知らされていた。
結局、余力を残した状態での降伏…それ以外に道がなくなったのだ。
長い間、外交手腕だけで表向きの平和を甘受してきた日本が、世界を支配するべく戦争を続けているブリタニアに敵う筈もなかった。
結局、スザクの父親は分裂する政府や軍を抑えきれず、スザクの父親に反対する勢力の人間に暗殺された。
それ程、当時の日本と言う国の内部は脆弱だったという事だ。
スザク達は、それを1から作り直しながら、日本を取り戻そうとしている。
「ラクシャータ…すぐに藤堂さんたちにナイトメアの説明を…。カレンたちを助けに行く…。それと…紅蓮の方はどうなっている?」
「あとは、カレンちゃんが帰って来るのを待つだけよぉ…」
「そうか…なら、次はラクシャータ…お前もついてこい…」
スザクがそう云うとラクシャータが嬉しそうに笑顔を返した。
ラクシャータの表情とは裏腹にスザクの表情は…あまり明るいとは言えないものであったが…
その頃、トウキョウ租界政庁のルルーシュの執務室では、意外な情報にざわめきたっていた。
「おい!これは…」
先日、捕虜にした紅月カレンの事だった…。
調べてみると、アッシュフォード学園に通い、しかも、出自は名門貴族であるシュタットフェルト家の令嬢だという…。
内情を調べてみると、かなり複雑な家庭環境ではあるが…
こんな事が本国にでもばれたら、シュタットフェルト家は爵位の剥奪は免れない。
「恐らく…シュタットフェルト伯爵は知らない事なのでしょう…。しかも…イレヴンとのハーフ…。情状酌量を考えてはやりたいが…事はそれ程小さなことでもありませんね…」
ほぅ…とため息をつきながらジェレミアが資料を読みながら零した。
正直、扱いに困る相手を捕まえてしまったと思う。
しかし、これは現実であり、レジスタンスグループをつぶしていけば、遅かれ早かれ彼女の素性はばれる事となる。
「さて…どうするのが良策かな…」
「例に洩れず、対処すべきかと思いますが…」
「シュタットフェルトを潰すか?確か、異母兄上を支持する貴族の一つではなかったか?」
事情が事情故に、ルルーシュ一人の判断ではどうにもできない。
シュタットフェルト家はルルーシュの異母兄、シュナイゼルを支持する貴族の一つで、シュナイゼルを推している。
それに、シュタットフェルト家はシュナイゼルに仕えている貴族でもある。
となると、ルルーシュが勝手に判断して処罰する訳にも行かないし、一族の中にテロリストがいるともなれば、当然ながら、爵位の剥奪は免れない。
反逆罪は…首謀者、実行犯であれば、極刑だ。
総督権限として、ルルーシュにはそれを行うだけの権限を持ち合わせてはいるが…
それでも、シュナイゼルに敵対する皇族を支持する貴族であれば、それこそ悩みもしないのだが…。
この事が公になれば、シュナイゼルにも火の粉が飛んでいくことになるのだ。
「気が進まないが…異母兄上と話す…」
そう云って、ルルーシュは自分のプライベート通信を開いた。
とりあえず、文書でシュナイゼルに内密に話したい事があるから、時間のある時に通信をつないでほしいという旨だけを書いて送った。
「まったく…このエリア11ってところはどうなっているんだ…」
「流石にシュナイゼル殿下もここまでとは…考えてはいなかったでしょうね…」
恐らく、シュナイゼルに伝えても、シュタットフェルト家がお咎めなしで済む筈もない。
否、シュナイゼルは自分の身内のスキャンダルとして、普通よりも厳しい態度に出るかもしれない。
シュナイゼル自身、自分の身内には甘いという評判が立ってしまっては、これから先の事を考えてもいいとは言えないからだ。
「でも…異母兄上なら…何とかして下さるかも知れないな…」
ルルーシュはそんな淡い期待を持たずにはいられなかった。
その後、ルルーシュが一通りの執務を終えて、一息ついた頃…ルルーシュのプライベート通信のアラームが鳴った。
「はい…」
『ルルーシュ…』
エリア11に入って、まだ、1ヶ月ほどだった。
こんなに早くに異母兄に連絡を取らなくてはならない事態になってしまった事に自分の無力さを感じる。
「すみません…異母兄上…。お忙しいところ…時間を取らせます…」
モニターに映るシュナイゼルに向って頭を下げた。
『否、構わないよ…。私もルルーシュの近況を知りたいと思っていたところだ…。それに、あのエリア11でよくやっているよ…』
穏やかな笑顔を浮かべながらシュナイゼルがルルーシュに話しかけてくる。
異母兄の手を煩わせてはならないが…今回ばかりは、ルルーシュの独断でどうにかできる事でもない。
『で、ルルーシュから私に内密な話とは…?』
温和な表情から宰相としての顔になったシュナイゼルの顔をモニター越しに見ながらルルーシュはゴクッと唾を飲み込む。
「すみません…。こちらのゲットーでテロが起きた際にテロリストの捕虜を何人か確保したのですが…」
『ああ、その報告なら受けているが…』
「……」
ルルーシュは一瞬言葉がつまる。
しかし、一人で判断のしようがないし、ここは異母兄の判断を仰ぐしかない。
「その中に…異母兄上を支持する貴族の一つ…シュタットフェルト家のご令嬢が入っていたのです。彼女はブリタニア名を名乗ってはいませんでしたが、顔や指紋の照合した結果…間違いありません…」
『シュタットフェルト家の?』
シュナイゼルは殆ど表情を変える事もなくその家の名をオウム返しするだけだった。
「他の、異母兄上に敵対する勢力の貴族であったなら、私の独断でどうとでも出来ますが…一応…異母兄上を支持する貴族ですので…。それに、異母兄上に仕えるシュタットフェルトを私の権限で裁いていいものかどうか…。総督として、反逆罪を問う事は出来ますが…」
ルルーシュの立場では勝手に制裁を加える訳にも行かないのは、シュナイゼルにも解った。
しかし、自分を後見する家からテロリストが出てきたともなれば、シュナイゼルを邪魔に思う皇族達に付け入るすきを与えるだけだ。
『そうだな…シュタットフェルト家は確かに私を支持してくれているが…これが表に出て貰っても困るな…。それに…シュタットフェルト家がルルーシュに危害を加えるようであれば、放置しておくわけにはいかない…』
そう云って、シュナイゼルは愛おしそうに自分の最愛の異母弟を見つめる。
「ただ…そのご令嬢、私と同じ年のようでして…利用できるのであれば、利用したいと考えますが…。処分に関しては異母兄上にお任せしますが…その娘だけは…コマとして利用させて頂きたいのですが…」
シュナイゼルの一言でシュナイゼルが何をしようとしているかが解った。
故に、いくつも考えていた答えのパターンの中から一番いいものと考えるものをチョイスして答えた。
『解った…。シュタットフェルトにはすぐに本国の私の離宮へ来るように通達を出しておく。後…その後の連絡が来たら、後始末はルルーシュ…君に任せていいかな?もちろん、そのテロリストの娘の方も…』
「承知いたしました…」
そこまで話が終わると、シュナイゼルの表情がルルーシュの異母兄の表情になる。
『ルルーシュ…このひと月で痩せたんじゃないのかい?』
心配そうにシュナイゼルがルルーシュに尋ねる。
「いえ…そのような事は…」
『済まないね…ルルーシュ…。私はこんな形でしかお前を守ってやれない…。でも…私が皇帝になった…その暁には…』
心底、弟を案ずる兄の顔だ。
「異母兄上…私は大丈夫です…。申し訳ありません…。異母兄上にご心配かけてしまって…。私ももっとしっかりせねばなりません…」
『ルルーシュ…くれぐれも無理はしてはいけない…。ルルーシュに何かあったら、私は、ナナリーだけでなく、コーネリアやユフィ、クロヴィスに何を言われるか解らないからね…』
母亡きあと、ルルーシュは異母兄姉妹たちに良くして貰っている事は知っている。
だから、嫌いな父を支える為である事を承知していても、こうして、ブリタニアの為に戦っている。
「はい…肝に銘じます…。では、異母兄上…私はこれで失礼いたします…」
そう云って、礼を払い、通信が切れた。
通信が切れ、その直後にシュタットフェルト家の当主がブリタニア本国に戻った事を知らされる。
そして、あのカレンと言う少女が捕らえられている地下牢へと足を向けようとした時…
政庁内に緊急アラートが鳴り響いた。
「ジェレミア?」
専用通信でジェレミアの名前を呼んだ。
『殿下、申し訳ありません…。ランスロット…他数機、ナイトメアが政庁に対して攻撃を仕掛けてきています!』
「解った…お前はすぐに出撃して海岸線に奴らを誘導しろ!そして、迎撃の指揮に当たれ!私もグロースターで出る!」
そう云って、すぐに格納庫へと向かっていく。
格納庫ではエリア11の駐留部隊の兵士たちがナイトメアや装甲車に乗り込み、迎撃態勢をとりつつ、出撃している。
「ロイド!すぐにライを出せ!」
「たった今準備が整いましたぁ…ライく~~~ん、出番だよぉ~」
『了解しました。MEブースト…ランスロット・クラブ発信します!』
そう云うが早いか、すぐにライが出撃して行った。
「殿下…ランスロットに加えて、Unknownナイトメアが…4…いえ、5機…我が軍と交戦中です!」
セシルがモニターの熱源反応を見ながら、叫んでいる。
「私もすぐに出る!グロースターの準備は?」
ルルーシュが怒鳴りつけるように尋ねる。
「起動完了…すぐに出られます!」
「よし、私が出る…。お前たちはアヴァロンで空から援護してくれ…」
「え?しかし…」
「構わない!空中からの攻撃が可能だと解れば、相手も怯む!それに、味方の弾に当たるような兵士ならブリタニアには必要ない!」
そう云って、ルルーシュがグロースターに乗り込み出撃した。
外に出ると、ジェレミアやライたちが激闘を繰り広げている。
そして、ルルーシュのグロースターを見つけたランスロットが攻撃を避けつつ、グロースターに近づいてくる。
ルルーシュはランスを構える。
ランスロットはMVSの切っ先をグロースターに向けて突っ込んできている。
ギリギリのところでかわしているが…相手の方がナイトメアのコントロール技術ははるかに上である事がよく解る。
「くっ…」
ランスロットのスペックもさることながら…あの枢木スザクと言う少年…。
ライの疑問ももっともだと思った。
確かにナイトメア戦ではルルーシュでは太刀打ちできなかった。
そして、アヴァロンへの通信チャンネルを開いた。
「今から空中からの攻撃を開始しろ!すぐにだ!」
『イ…イエス、ユア・ハイネス…』
ルルーシュの勢いに気圧されて、セシルが返事をした。
そして、間もなく、空から銃弾の雨が降って来る。
一通りの銃撃が治まった時…
ルルーシュの乗るグロースターとスザクの乗るランスロットの姿が消えていた…
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