皇子とレジスタンス



初対決

ルルーシュの雰囲気に押されているレジスタンスグループを見て、ルルーシュは一瞬安堵する。
この状況で話し合いに乗って貰えなければ、次のステップに移らなくてはならなかった。
今回の状況だとだまし討ちとなってしまっても仕方ない方法になってしまっていた事を考えると、それ相応に頭の使えるものがいた事に感謝した。
「とりあえず、貴殿らのリーダー、枢木スザクと話をさせて欲しいのだが…」
「スザクに?」
ルルーシュの言葉にその小隊のリーダーがあからさまに嫌悪を見せつける。
ルルーシュはおかしな反応だと半ば苦笑する。
「こちらも、私が話をするのだ。そちらもリーダー…もしくはそれと同等の能力と権限を持つ者を代表として出すべきではないかな?それとも、そう云う所にのこのこでていけば、だまし討ちに遭ってしまうような無能なリーダーなのかな?」
やや上から目線の笑みを見せながら、ルルーシュは言い放った。
対等な話し合いであることを強調すると同時に、皮肉交じりなセリフを付け加えるのは、相手のリーダーの存在感と、立ち位置を確認するためだ。
その組織にとって、リーダーが絶対的存在であればある程、頭をつぶせば崩壊する。
逆に、リーダーとその周囲の人材によって組織されているグループである場合には、リーダーよりも、その組織にとって一番のネックになる戦術兵器をつぶすに限る。
ルルーシュのこういう時の会話はすべて、計算の元に紡ぎだされている。
それを最初に悟ったのが、今回は扇であった。
まだ、15歳の子供に…そんな芸当が出来るとは…
扇は愕然とするしかなかった。
自分たちの敵は第二皇子だけではなかった事を悟る。
と言うよりも、第二皇子の持つ、カードの多さに驚き、そのカードも、かなり強力なものである。
日本が降伏した後に就任した、あの総督であったなら、スザクとカレンの力を用いれば、潰せたかもしれない。
しかし、この目の前にいる第11皇子には扇も勝てる気がしなかった。
「待ってくれ…ここにスザクはいない…」
扇は両手を上げながらルルーシュに言った。
ルルーシュもランスロットがいない時点で、ここに枢木スザクがいるとは思っていなかったが…。
「そうか…どうやらあなたと話しても、拉致が明かないようだから、とりあえず、我々の本陣にご招待しよう…。強制的に…」
そう云いながら、皇族専用の無線でここにいる十数機のナイトメアと、そのパイロットを確保できる人員と機材を用意させる。

扇がルルーシュの見守る中、自分が率いていたパイロットたちに、武装解除するようにと伝達した。
今、ここでルルーシュを殺しても意味はない…扇はそう判断した。
判断と言うより、この少年に気圧されたのだ。
恐らく、こんな事は、スザクと出会った時以来の感覚だ。
それに、植民エリアになってから、初めてみた…。
こんなブリタニア人を…。
きちんと話し合い、戦闘行為をやめるべきなのだろうか…
元々、戦いに向いていない事をよく知っている扇は真剣に考える。
今、スザクの副官として存在しているが、自分がそれ程の働きが出来ている自信は全くない。
もしかしたら、この、若い総督の手法なのかもしれないが、テロリストと言うだけで殲滅するのであれば、前の総督がやったように、シンジュクゲットーごと壊滅させればいい。
それに、この少年総督、みた感じでは虐殺を好むようには見えない。
扇はレジスタンスになる前は学校の教員をしていた。
彼くらいの子供たちをよく見てきた。
恐らくは、ウソはついていない。
そして、言っている事も本当の事だし、必要な事はすべて話している。
扇の経験がそう言っている。
それ故に、あの少年総督の目は恐ろしかった。
深い闇を知る、そして、その闇を受け入れながらも、黒く染まりきれない心根…。
そんなものが垣間見えている。
恐らく孤独なのだろう…。
有能であるが故の孤独…。
同じ時代に生まれて、同じ年の少年が二人…扇に同じインスピレーションを感じさせた。
そんな風に思える。

その時…
「ランスロット!?」
ルルーシュが驚いた顔で見上げる。
確かにそこにはスザクが奪取したランスロットが存在している。
「スザク…!?また、無茶な事を…」
扇が驚いて、周囲を見渡す。
ランスロットの周りにはルルーシュがランスロットを食い止めるために出撃させたジェレミア達のナイトメアがいた。
「ここまでの実力差があったのか…」
ルルーシュもさすがに驚いて、呟いた。
ジェレミア達は仮にもルルーシュ達の護衛として選ばれた騎士で、ブリタニア軍の中でもかなりの実力の持ち主だ。
お膳立ては済んだはずなのに、こんな形で崩されることになろうとは…。
そこにいた扇たちが散り散りになってその場を離れて行った。
そして、ナイトメアから降りていたルルーシュの姿がランスロットのカメラに捕らえられた。
相変わらず3機のナイトメアに囲まれていて、完璧な動きとは言えないが、ジェレミア達も、ルルーシュが生身の状態でこの戦場にいる事を確認すると、これまでのような戦闘をする事はままならない。
『殿下!!』
ジェレミアが叫ぶのが聞こえる。
しかし、この状況下、下手に撃てば、ルルーシュに当たる。
ジェレミアは有能ではあるが、こういった時、戦術的にルルーシュを傷つけることをひどく嫌い、決して撃てない。
ランスロットの右手がルルーシュをさらおうとしたその時…
ランスロットめがけて放たれた銃弾があった。
「ランスロット・クラブ?ライか…」
ようやく、準備を整え、ライが到着した。
新しいナイトメアの登場にランスロットが後方へ飛んだ。
『殿下、遅くなって申し訳ありません…。お怪我は?』
ルルーシュの目の前にとまり、ランスロット・クラブからライの声が聞こえる。
「私は大丈夫だ。こちらの客人たちは他の兵たちに任せる。ライはランスロットを追ってくれ…。出来れば、枢木スザクとともに、私の元へ…。不可能なら破壊も止むを得ない。あれを使ってのテロ行為など、認める訳にはいかない!」
『イエス、ユア・ハイネス…』
そう云うと、ランスロットが飛びのいた場所までフルスロットルで追いかけた。
「ジェレミア、お前たちは、ここに残っているレジスタンスグループのメンバーを確保…。一通り取り調べを行ってくれ…」
『あの、ランスロットはいかが致しますか?』
「とりあえず、ライに任せよう…。恐らく、余計なナイトメアはかえって足手まといになる…」
『イエス、ユア・ハイネス!』
その一言を残し、周囲のナイトメア達が散開して行った。

ランスロットを追って行ったランスロット・クラブは程なくして、ランスロットに追い付く。
「あなたは…枢木スザクですか?」
ライが、オープンチャンネルを開いて、ランスロットに対して通信を送る。
そして程なくして、ランスロットからも返事が返ってきた。
『ああ、俺は枢木スザク…。日本最後の首相、枢木ゲンブの息子だ!』
「僕は、本当はあなたの乗るランスロットのパイロットになる筈だった、ライと言います…。できる事なら、このまま、あなたには投降して頂きたいのですが…」
絶対にそんな話に乗ってくるとは思ってはいないが、社交辞令的にそんな言葉を投げかけた。
『ベタな社交辞令だな…。カレンを捕らえられ、扇たちのグループまであの状態にされて、俺までそちらのご招待を受ける訳にはいかない…。それくらいは、お察し頂けるかな?』
スザクの言葉に、ライは表情を一気に変えて返信する。
「ならば…力づくでもご招待するまで!」
そう言って、お互いがオープンチャンネルを閉じた。
睨み合いの時間が続く。
お互いが相手の隙を狙っている。
しかし、お互いの力が拮抗しているらしく、中々そんな隙が見つからない。
「ならば…」
先に動いたのは、スザクだった。
―――隙がないなら、作ればいい…
その動きにライもライフルを構え、ファクトスフィアを起動させようとしたが…
予想以上のスザクの動きの速さに一瞬怯む。
そこで、ライフルを捨て、MVSを構えて、応戦の態勢をとった。
―――この枢木スザクと言う男…一体どこでナイトメアの操縦を…
日本にはナイトメアはなかった。
だから、ナイトメアのパーソナルポテンシャルは絶対的に有利だと思っていた。
しかし、これまでのテロのデータを見ると、何度か、ナイトメアとの交戦記録が残っていた。

こうして目の前に突きつけられる現実を受け止めざるを得ない。
ライはそう思う。
確かに全体を見れば、ブリタニア軍の方がはるかにナイトメア操縦のスキルも高い。
しかし、ここに一人、ブリタニア軍でもトップクラスの操縦スキルを持つ、敵がいる…その事は認めなくてはならないようだ。
「ならば…」
MVSを構えて、ランスロットの懐に突っ込んでいく。
元々ランスロットはデヴァイサーも決まらず、誰もそのスペックを使いこなせない機体で、やっとライがテストパイロットとして起用された。
ランスロット・クラブはライのデータをもとにライ専用に開発されたナイトメアだった。
ランスロットの操縦の難しさをよく知るライは枢木スザクと言う男を認めざるを得なかった。
ルルーシュは彼のリーダーとしての存在を気にしていたが、ナイトメアパイロットとしても認めなくてはならない。Mbr< ライの動きにスザクも反応して、MVSで対応する。
「「くっ…」」
これが、戦争などと言う、命のやり取りの場でなければ、良い、好敵手となったに違いない…。
お互い、そう思う。
そして、二人が共通して気にかけている、エリア11の少年総督…ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア…。
こんな出会い方でなければ…スザクも、ライも、そして、この場にいないルルーシュもそう感じている。
「しかし…ルルーシュを守る事が、自分の役目…」
目の前にいるテロリストからルルーシュを守る事が、最優先…。
ライはそんな風に考えていた。
誰に言われた訳でもない。
誰かに命令された訳でもない。
ただ、何度か見ているルルーシュの姿に心を奪われた…とでも云うのだろうか…。
常に仮面をかぶっているが、時折見せる、心の奥深くに刻まれている、深い悲しみと苦しみ…。
何かを守る為に、全てを受け入れ、全てを抱え込んでいる。
ライの中で…何か、重要な事を思い出させる何かがある…。
「枢木スザク…このまま放っておくわけには…」
そう一言呟いて、意を決したように、MVSを振るった。
そして、ランスロットのMVSが弾かれ、ランスロットの右手部から離れて行った。
そこですかさず、クラブのMVSをランスロットの首元に突きつける。
「ここまでだ!」
ライがランスロットに向けて言い放つ。
「くっ…」
スザク自身、余計な事を考えていて、詰めを誤ったと舌打ちする。

スザクは仕方なく、ハッチを開ける。
それを見届けて、ライもハッチを開ける。
ランスロットにライフルを構えたまま…。
「あなたが…枢木スザク…」
スザクに銃口を向けながら、話しかける。
ライは自分の年齢は知らないが、ライ自身、彼らと同じくらいの年齢だと察した。
そして、同じ時代の同じ場所で、自分が魅入ってしまうほどの人間を二人も、しかも自分と変わらない年齢の人間と出会えた奇跡に驚く。
「こちらは白旗を上げたんだ…。とりあえず、この場では抵抗はしないよ…」
スザクはそう云いながら、ランスロットのコックピットから飛び降りた。
ライもそのまま、地上に降りた。
彼も、レジスタンスグループを率いているのだ。
奥の手を隠し持っている事を前提に動くべきだと思う。
ゆっくりとスザクに近づいていく…。
そして、あと、2歩…と言うところまで来たとき…
―――どっかーん…
「!」
ライが驚いて爆発音の合った方向を向く。
「どうやら間に合ったな…」
スザクはそう云って、ランスロットの凹凸と自分の身体能力を使ってランスロットのコックピットに戻った。
どうやら、奥の手…だったらしい。
「ライ、すまないな…。俺はここでブリタニア軍に捕まる訳にはいかないんだ…。それに、カレンや扇たちは、絶対に俺が助け出す…。その時には、お前の力を見くびらないようにするよ…」
そう一言残して、ランスロットのハッチを閉めてその場をフルスロットルで駈け出した。
ライは、多分追っても、今の状態では捕まえられない…そう思って、クラブに乗りなおした。
―――こんな形での、出会いでなければ…。ともに、ルルーシュ殿下の下で、このエリアの平和を築けたかもしれないのに…
ライは、そんな風に思う。
ルルーシュがスザクにこだわる理由が今になってなんとなく解る。
お互い、組織のトップである事で孤独であり、その孤独であるという事さえ、仮面をかぶって隠さなければならない。
今回、初めてスザクと戦った。
いろんな思いが駆け巡る。
しかし…今はルルーシュを守る事が最優先…ライはそう思い直した。

フルスロットルで駈け出したスザクは、とにかくアジトを目指していた。
「くそっ…カレンまで…」
―――しかし…カレンは何故に捕まった?
スザクはカレンがルルーシュの暗殺を謀っていた事を知らない。
普通に歩いていれば、テロリストと間違われる事は少ない。
カレンはシュタットフェルト家の令嬢であり、れっきとしたブリタニア人としての立場がある。
―――誰かが…俺に黙って、カレンに何かを命じた…と言う事か…
スザクはその瞳に怒りをたたえて、アジトに入って行った。

『敵と味方』へ戻る  : 『初戦のその後…』へ進む
『皇子とレジスタンス』メニューへ戻る

copyright:2008
All rights reserved.和泉綾