相変わらず、ブリタニア軍からの圧力は強力だ。
日に日にその規模も増していく。
その割に一般人の犠牲者が少ないのは、ひとえに両サイドのトップの努力の賜物とも言えるだろう。
ブリタニア軍のトップはナイトオブセブンの枢木スザク。
黒の騎士団のトップは復活したゼロ…。
ルルーシュが記憶を取り戻し、復活したゼロだ。
しかし、ゼロの正体は一般的に知られている訳でもなく、また、その正体を知るスザクも、ルルーシュが記憶を取り戻し、ゼロとして動いている事については、疑ってはいるものの、確信的な情報がないので、彼の性格から、まだ、ルルーシュは記憶をなくしたままと云う認識を外せずにいた。
確かに、戦い方は、ブラックリベリオンの時のように、奇襲であったり、奇策であったり、スザクとしては感情的に好きになれない手法ではあるが、それでも、ゼロの計算のもと、以前のように無差別に一般人まで巻き込んで…と云う事は圧倒的に少なくなった。
復活したゼロは…犠牲者と云う点では本当に、人が変わったかのように、犠牲者の計算までされている手法を取っている。
ただ…話す声、話す時の高慢さは変わらないが…。
「枢木卿、軍の配置、完了しました。」
「解った。彼らが姿を現した時点で、一斉射撃を敢行する。射撃可能範囲に彼らが入ったら、すぐに報告を…」
「イエス・マイロード」
スザクは今の立場になって、正直、自分の性分ではないと感じる。
だが、ユーフェミアを殺したゼロを許せない。
その怒り、憎悪だけが、今のスザクの原動力となっている気がする。
スザクは決して、戦いが好きなのではない。
そして、ルルーシュも、戦いたい訳ではない。
ただ、二人の求めるものは一つだった筈…。
でも、ちょっとした歯車のかみ合わせの間違いで、ここまで来てしまった。
お互い、それが間違っていて、お互い、それが間違ってはいない。
でも、肝心な部分が、お互いに通じる事なく、お互いを誤解したまま…。
本当は、お互いの良い部分、悪い部分を知っている筈だった。
今となっては、それを思い出すことさえ、殆どなくなっている。
ただ…そんな中でも、ふと、我に返った時に自分の中にあるドロドロした気持ちに気がつくと、自己嫌悪を感じてしまうところだけ、まだ、人らしい自分を見ているような気がする。
一方、黒の騎士団も、着々とナイトメアを出動させて、偵察し、陣営を敷き始めた。
本当に、いつ終わるかもわからないこの戦いの中、絶望に落ちる事を恐れた人々が集ってきている。
ブラックリベリオンでの敗戦の後、イレヴン…否、日本人は過酷な生活を強いられた。
そんな中でも、こうして、何とか立ち上がろうとする日本人の底力は…ブラックリベリオンの後、ブリタニアに捕らえられ、処刑された、桐原泰三の遺志とゼロの力であろう。
ゼロと云う存在…日本人ではないと云う事の他、世間では殆ど知られていない。
しかし、そんな正体不明のゼロと云う存在に日本人たちは自分たちの未来を託している。
今の生活に精いっぱいの日本人たちにしてみれば、枢木スザクと云うナイトオブラウンズの深層心理まで理解できるだけの余裕がないのだ。
その点、黒の騎士団…否、ゼロと云う男は、誰の目にも見える形で、ブリタニアと戦っている。
スザクはそんな日本人を『ゼロに騙されている』として、その考えに決して耳を傾ける事もない。
どれほど…ブリタニア側の報道が、黒の騎士団がどれほどの残虐行為を働いているかをデフォルメしてみても、日本人には伝わらないし、ブリタニア人たちは他人事のように高みの見物を決め込んでいるだけである。
この状況は、ゼロにしてみれば、都合のいい状態であろう。
ゼロは…ルルーシュは、スザクの思い描いている日本の姿をよく知っているから…。
今のまま、スザクがナイトオブワンになって、日本をスザクの領地としたところで、そこから先に進めない可能性すらある。
枢木元日本国首相の子息だけあって、並みの高校生よりは、政治に精通しているとは言っても、所詮、スザクは戦士であり、政治家ではない。
そして、スザクにはナイトオブランズになった今も、自分の思いを話せる腹心も友人もいないままだ。
ルルーシュが、敵に回っていなければ、きっとスザクのそう云った話相手とはルルーシュであったのだろうが、
今の状況で、そんな事は望むべくもない。
子供の頃に二人で語った『俺達二人が力を合わせれば出来ない事なんてない…』スザクも、ルルーシュも時々思い出すが、それを知らないふりをして、自分とは全く正反対のタイプの相手と戦い続けている。
いつ終わるかもわからないこの戦い…。
しかも、戦う大義の前に、トップ二人の個人的感情まで練り込まれているものだから…泥沼な状況にもなろうと云うものである。
「ゼロ、全員、配置に着いたぞ!」
モニターの前で指示をしていた扇がゼロに一言報告する。
「よし!敵のナイトメアを射程位置まで引き寄せたら戦闘開始!」
簡単な命令一つで動くようになってきていた黒の騎士団ではあるが、初めて率いた頃には本当に、動きも鈍く、カレン一人でその穴埋めをしている状態だった。
いつからか、藤堂が加入し、それに追随して四聖剣が加入…そこから、現場での指示系統が出来あがり、彼らを慕う入団者も増えた。
それに伴い、入団者には軍隊並みの規律、軍事行動などの指導、訓練を施している。
勿論、正規の軍隊ではない為、早々おおっぴらに演習などが出来る筈もなく、実機に初めて搭乗して、実戦…となるものもいたくらいだが、それでも、ゼロの判断力、洞察力は本物で、きちんと、選んでそう云う人間を輩出している。
今では、シミュレーターもあるが、かつては、そんなものなしで、テキストを読んでいきなり搭乗、実戦…と云う事もない訳ではなかったのだから、その事を考えただけでも、かなり充実している。
『敵左翼の一部が総崩れ…突破します!』
「よし、今開いた突破口には、千葉の部隊が回れ!そこをさらに切り崩し、ナイトオブラウンたちを引きずり出せ!」
そう、彼らが出てこないと云う事は、ブリタニア軍にはまだ余力があると云う事だ。
余力を残させたまま、こちらの切り札を出してしまう訳にはいかない。
『了解!』
ナイトオブラウズが3人もそろっているような、テロリスト鎮圧部隊が世界のどこにいるのだろうか…。
皇帝直属であり、騎士の中でも最高位で、最強の称号を持つ者たちだ。
「あの、ブリタニア皇帝も、C.C.の確保のために必死と云う訳か…。しかも、そのエサたる俺にここまで苦戦しているのだからな…」
ここ最近の闘いを見ていて、つくづく思う。
これまでの黒の騎士団はゼロを総指揮として、カレンが紅蓮を駆り、突破口を作っていた。
しかし、今では、カレンをスザクを止めるための戦力に専念させることが出来る。
「カレン!ランスロットが出てきたら、今日こそ破壊しろ!パイロットの生死は問わない!」
ゼロがカレンに向かって指示を出した。
その指示にカレンが、はっとする。
『…よろしいので?』
何となく、驚いて、迷ったような声でカレンが返してくる。
「構わない!生け捕りにできればベストだが…あの枢木スザク相手にそこまでの手加減など、出来る者はそうはいないだろう…。無理はするな!余計な事を考えずに、破壊に専念していればいい…」
『解りました…』
こういう時、カレンは決してゼロに逆らう事はない。
そして、ゼロの命令に対して、全力でその命令を遂行しようとする。
恐らく、カレンの強さは、ナイトメアパイロットとしての資質や実力だけでなく、その任務に対して、全力で取り組むその姿勢にあるのだろう。
しかし、その、全力で取り組む真面目さ、使命感が、時として、ゼロ…否、ルルーシュの胸に不安を落とす事がある。
今まで、ずっと、見て見ぬふりをし続けてはいるが…。
「ゼロ…どうやら、ナイトオブラウンズの3機のお出ましのようだ…」
扇の一言でゼロが立ち上がり、さらに指示を出す。
『朝比奈の11時方向距離3000の地点にモルドレッド、藤堂の1時方向距離2500の地点にトリスタン、カレンの2時方向距離2800の地点にランスロット…各部隊、この3機の撃墜を最優先…。雑魚は地上部隊に任せる!』
「「「了解!」」」
ゼロのその一声で、カレンは紅蓮を言われた方向へと向ける。
「スザク…」
ずっと戦い続けてきた。
早いところ、消えて貰いたい。
カレンにとって、既に、スザクは敵でしかなくなっている。
実際にスザクがカレンを見る時、彼からの殺気に気づいていない訳もなく、相手も、しっかりと敵として認識しているようだ。
学園の生徒会メンバーとして、楽しくやってきた事もあった相手だけに、戦いにくい…そう思っていた時期も、お互いにあった。
でも、今となっては、お互いに憎むべき敵…。
「今日こそ、あんたと決着をつける!」
『カレン…できれば、君を殺したりはしたくなかったけど…』
「でも、ゼロを殺す為にはまず、私を討つことね…。と云っても、そう簡単にやられてやる訳にはいかないけど…」
そう云いながら、紅蓮の右腕の輻射波動を構える。
その態勢を見たランスロットもヴァリスを構えている。
『君がゼロを守らなくてはならないのと同じように、僕にも守らなくちゃいけないものがある!だから…』
「ふん…ブリタニアのイヌになり下がった裏切り者がぁ…!」
そう云いながら、紅蓮のシールドを展開させて、輻射波動をランスロットに向けて放つ。
『遅い!』
そう云いながら、ランスロットは一射目の輻射波動を交わす。
しかし、そのランスロットの後ろに控えていた、
フロートシステム搭載のナイトメアがその輻射波動によって爆発を起こしている。
その隙を逃さず、ランスロットの背後に回り、紅蓮で羽交い締めのように固定する。
「千葉さん!」
『心得た!ランスロット…覚悟!』
千葉の暁が白兵戦用に備えて、ランスロットに向かって突っ込んでくる。
『くっ…』
スザクのランスロットもシールドを展開しているが、まずは、紅蓮から解放されなくては何もならない。
千葉の暁が目の前まで来たとき、ランスロットの右腕が動き、武器も持たない状態で暁の胴体を薙ぎ払った。
流石に、それほどの損傷は与えられないが、紅蓮からの拘束も解ける事になる。
「くそっ…あとちょっとだったのに…」
『紅月、すまん…』
専用チャンネルからの謝罪の声…。
「いえ、こちらこそ、しっかり拘束できずに済みません…」
そう云いながら、通信を切り、再びランスロットと対峙する。
すると、ランスロットは、このわずかの隙にMVSを構えていた。
『カレン…僕には守らなくちゃいけないものがある…。申し訳ないけど、こんな形でやられてあげられないんだ…』
なんとも人を馬鹿にしたような口調にカレンも怒りを覚える。
「仕方ないわね…今度は、ちゃんと捕らえてあげるわ…」
それを皮切りに紅蓮とランスロットの白兵戦が始まった。
とにかく、周囲から見ていても、みた事ないくらいのカレンの意気込みを感じていた。
お互いが、ノーガードで撃ち合っているみたいな感覚だ。
戦っている彼らもここまで熱の入ってしまう理由なんて解らなかった。
でも、今は、目の前にいる宿敵を倒すべく、無心に戦っている。
『カレン、一度引け…消耗戦を続けても意味はない!』
扇からの通信が入ってきた。
しかし、そんなものも耳に入っていないかのように、カレンはスザクのランスロットと戦い続けている。
『カレン!やめろ…!』
次に入ってきたのはゼロの声だった。
しかし、今回は何だか解らないけれど、引くに引けないような感覚に囚われていた。
「お叱りは…後で全部受けます!だから…今はいかせてください…」
その一言を残して、カレンは通信を切り、再び、ランスロットとの戦闘に集中している。
「確かに…このままじゃらちが明かない…」
相手はMVSをもって、攻撃を仕掛けてきている。
それを見て、カレンは輻射波動発射の準備をした。
「絶対に負けてやらない…」
そう一言呟いて、一旦ランスロットから離れた。
そして、ランスロットの胴体めがけて再びフルスロットルで突っ込んでいく。
「これで…終わりだぁ!」
ランスロットは持っていたMVSを紅蓮に突き立てる。
ちょうど、人間の体でいえば腰の左側部分に貫通している。
そして、すかさず、MVSを握っていた右の上腕部をつかみ輻射波動を発射させた。
直撃である。
『な…』
「ふん…みたか…この、ブリタニアのイヌが…」
ランスロットが爆発を起こしている。
多分、スザクは脱出したかもしれないが、あのランスロットは破壊できただろう…。
そう思いながら、カレンは、落下していく紅蓮に身を任せていた。
斑鳩でその様子を見ていたゼロがガタンと立ち上がった。
「カレン?」
目に映ったものがなんだか信じられず、立ちすくんでいる感じだ。
「C.C.!ここは任せる!扇、すぐに私の蜃気楼を準備させろ!」
「あ…ああ…」
その場をすくっと立ち上がり、ゼロがナイトメアの格納庫に向かった。
そして、戦闘が激しくなるばかりの戦場に蜃気楼で飛び立った。
「カレン…」
―――俺はまた…手放すのか…自分の大切な存在を…また…
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