ルルーシュの言葉に何も返せない状態が…何分か続いたが…
「なぁんか…二人とも仲よくって妬けちゃうわね…」
その一言でその場の沈黙が破られた…
「でも!スザク君!流石に私!男には負けないからね!」
シャーリーがスザクの目の前に人差し指を立てて強調する。
色んな意味で変な方向に話が云っているような気がしているのは…リヴァル、カレン、ニーナであるが…
ミレイはその状況をすっかり楽しんでいる。
ミレイとしても、このシャーリーの明るさに救われた…と思った。
実際に、スザクの様子を見ていると…時々、凄く危うい空気が漂っているように見えていのは事実だ。
ルルーシュにあそこまで云わせるとなると…多分、相当なものだと思う。
「ルルーシュって…男にも女にももてるのね…」
シャーリーの一言にカレンがやや呆れたような口調で言い放つ。
ルルーシュとしては、自分の背後で一生懸命笑いを堪えているミレイをキッと睨みながら
「お前らはそんな事しか考えられないのか…」
云ってはみるものの…スザクに対して、少しきつすぎたかと考える部分もあり…
元々、頭を使っての行動の苦手なスザクは非常に感情的な部分がある。
「って云うか…話ずれてるって…」
リヴァルの一言は…この女子たちに通じるかどうかは解らないが…
ただ、出来れば軌道修正しておかないと後々面倒な事になる…
ここにミレイが参戦したら…止められる者などいないのだから…
「あ、そうだった…。って云うか、ルル達って凄いのね…。私なんて、今度の水泳の大会でどうしたら記録を出せるかとか、今度のテスト…どうしたらいいかとか…そんな事しか考えていないのに…」
シャーリーが感心したように告げると…ルルーシュとスザク、カレンは苦笑いするだけだった。
「でも、それが普通の高校生なんじゃねぇの?俺だって、今度のテストのヤマ、どうやってルルーシュから聞き出そうかと模索中だしさ…」
「確かに…3人の話を聞いていると…この3人が大人になって、政治家とか官僚のトップに立ったら面白そうな話よねぇ…」
別の意味でミレイが話に乗って来た。
さっきまで熱弁をふるっていた3人が急に黙り込む。
「でも…カレンなら…シュタットフェルト家の御令嬢な訳だし…出来るんじゃないの?そう云った場所に立つのって…」
黙り込んでいる3人に向かって、今度はニーナが口を開いた。
ニーナの一言に…またも静まり返る…
何とも、誰かの些細な一言で静まり返ってしまう日である。
「そう云う意味では、アッシュフォード家でもなんとかなるんじゃないですか?」
シュタットフェルト家の空気に色々思うところのあるカレンがそう云い放つが…
「まぁ、それも努力次第でしょ?確かに、家のバックアップって大きいとは思うんだけど…。最終的に物を云うのは、実力なんじゃないの?確か…今は亡き、『閃光のマリアンヌ』さまだって、庶民出身で、騎士候に上り詰め、果ては、皇帝の寵愛を受ける皇妃様になっているのよ?」
この一言は…恐らくミレイだから云える一言…
彼らも、まだ幼い時に暗殺されたとされる皇妃の名は…知っていたが…
ここで様々な事情を知るのはミレイとスザクだけと云う事もあり、ルルーシュは表情を変えるわけにもいかず、しかし、内心はハラワタが煮えくりかえった状態である。
ミレイに何か考えがあるのか…それとも、何も考えていないのか…
その考えなしの言葉が意味するものがどう云う結果を招くのか…
ルルーシュの頭の中でぐるぐると回り始める。
そんなルルーシュに気づいたのは…スザクだった…
そして、小声でルルーシュの名前を呼んだ…
『ルルーシュ…』
下手にここのメンバーたちに知られれば、どう云う危険性が生まれて来るか…そして、ルルーシュ達を取り巻く環境がどうなって行くか…
「まぁ、カレンにその自信がないって云うなら、使える武器を使わずにここで文句だけ云っていればいいじゃない…。なんだか、カレン、今のこのエリアの状態を凄く憂いているように聞こえたから…。カレン、シュタットフェルト家って、アッシュフォード家なんかよりもずっと格上の貴族だって解っているの?そんなに、今のこのエリアやブリタニアが気に入らないなら…何を使ってでも変えて行けばいいじゃない…」
どうやら、ミレイが『閃光のマリアンヌ』の名前を出した理由はそこにあったらしい。
確かに、カレンのあの云い方では、自分がテロリストをやっているとばらしているとまではいかなくとも、テロリストたちの肩を持っていると思われても仕方がない。
「でも!私は!」
ミレイの言葉に頭に血が上ったのか…カレンがミレイに噛みつくような声を上げた。
「まぁ、おうちが色々複雑な事は知っているけれどね…。でも、それでも欲しいものは…何を使ってでも手に入れたい…そんな風にさっきのカレンの話からは受け取れたのよね…。だったら、使える物を使えばいいじゃない…。どんな手を使ってでも生きようとする…そして、幸せになりたいと願って生きている存在を…私は知っているから…」
ミレイは…普段の柔らかな表情ではなく、その言葉の最後だけは…真剣な…深い色の瞳で告げた。
それが誰であるのか…解るのはルルーシュとスザクだけだろう…
「そうだよね…カレンが身体が弱くて無理出来ないって云うなら…私たちも手伝うから…。ニーナがイレヴンを怖がらずに済んで、イレヴンもブリタニア人に対して怖いと思わない様にしたいんでしょ?カレンは…」
シャーリーのその…一見拙いように聞こえるその言葉には…全てが凝縮されている様に思えた。
シャーリーの言葉に…カレンはただ…驚く事しか出来ない…
考えてみれば至極当然かもしれない…
カレンの中ではずっと…この日本からブリタニア人を追い出す事しか考えていなかったから…
でも…シャーリーは…リヴァルは…ブリタニア人であるが…それでも、現在の状況に対して決して、良いと考えている訳じゃない…その事が伝わってくる…
そして…『ゼロ』のもう一つの言葉を思い出した…
『我々は武器を持たない者…全ての味方だ!』
今の…ここにいるメンバーたちの言葉は…重いと思う…
武器を持っていない…恐らく、ブリタニアと云う大きな帝国の中では恐らく取るに足りない学生たち…
でも、こうした場を設ければ、確実に…自分たちなりの考えが出てくる…
そして…シャーリーの、カレンに対する言葉には…
『そこまで思うなら…私たちも協力するから…頑張ってよ…』
と云うエールが込められているような気がした。
そして、シャーリーの言葉、リヴァルの言葉には、『ゼロ』とはまた違った、不思議な力があるように見える。
ここまで、軍人としてのスザクの言葉なんて、聞く耳を持とうとも思わなかった。
でも、こんな機会があって、スザクの中にある、『名誉ブリタニア人』としての、『ブリタニアの軍人』としての…目指す物を見た気がした。
確かに…カレンは『黒の騎士団』のメンバーで、スザクはブリタニアの軍人…
そして思う…
―――何故…あの時…スザクは『ゼロ』の手を取ってくれなかったんだろう…。この二人が手を組めば…こんなに心強い味方は…居ないと思うのに…
ただ…ここでそれを聞く訳にはいかないから…ぐっと言葉を飲み込む。
でも…
「スザクは…やっぱり、ブリタニアの軍人として…イレヴンを…殺し続けるの…?」
ここまでなら聞いても…大丈夫だろうと云う判断で…尋ねる…
恐らく、答えにくい質問だろうが…でも、今回の件で、やはり…これを聞かなくては…カレンが先に進めない様な気がした。
カレンは…ずっと、日本の為に…日本人の為にレジスタンスとして戦ってきた…
ただ…今になって、心の中で疑問が生まれた…
今回の生徒会メンバーでのディベートで…何度も…『ゼロ』の言葉が浮かんできた。
それは…何かを考えさせられる時に…頭を過って行った…
そして…思う…
―――私は…本当に…『ゼロ』の言葉をちゃんと…理解していたのだろうか…。ううん…『黒の騎士団』のメンバーの中で…本当に『ゼロ』の言葉を理解して、トリガーを引いている人がいるんだろうか…
と…
『ゼロ』を尊敬し、『ゼロ』の親衛隊の隊長である事を誇りに思っていたけれど…でも…
それは…『ゼロ』の言葉を理解していなければ…ただのお飾りであると…そんな風に思えてきてしまう…
ルルーシュとスザクの言葉は…正直、グサッと刺さった…
シャーリーやリヴァルの言葉は…たくさんの事を気づかされた…
ニーナの言葉は…この植民エリアと云うシステムの苦しみと悲しみを感じさせた…
『黒の騎士団』の紅月カレンとして戦っている時に…その手に握っているのは…人を殺すトリガーだ…
しかも…圧倒的な力をもっての…
たとえ、自分の願う世界の為とは云え…そこに犠牲がついてくる…
スザクの様に、『不殺(ころさず)』なんて綺麗ごとを云ってなどいられない事は解る…
でも、やはり頭を過って行く…
―――撃っていいのは…撃たれる覚悟のある奴だけだ…
その後…カレンは…自分の中に…そんな覚悟があっただろうかと…考えてしまう…
目の前にいる、こんなに優しい人たちに…銃口を向ける事になるかもしれない状況が…今のカレンの状況だから…
カレンの質問に対して…スザクは苦悩の表情を隠さない。
「僕は…殺したい訳じゃない…。勿論、戦いたい訳でもない…。正直、今回の、この…ディベート…って云うの?それをやってみて…僕がこれまで見えていなかったものが…たくさん見えた様な気がする…。皆の言葉…軍人じゃない立場からの言葉だから…余計に突き刺さったよ…」
スザクの言葉は…まだ…答えになっていない。
まだ…どう答えていいのか、自分の中でも解っていない…そんな感じなのだろう…
「ただ…やっぱり、あの『黒の騎士団』のやり方は…あの有無を言わさずのやり方は…僕は納得できない…。何とか…トップ会談が出来れば…いいとは…思うんだけれど…。確かに、現在の植民エリアの政策では、あの政庁に『イレヴン』が入る事さえ難しい…。どうしたら…いいのかな…とは思うよ…。殺したい訳じゃないのに…」
スザクがそこまで云うと、言葉を切った。
と云うより続かなかった。
どうしたらいい…
そんなもの、恐らく、こんな学生レベルのディベートで答えが見つかる訳がない。
「なら…一度お前が、『ゼロ』と話してみればどうだ?」
それはルルーシュの言葉…
その一言にスザクもカレンもギョッとしたようにルルーシュを見たが…
ルルーシュは特にふざけて云っている感じではない。
「突然、トップ同士で話をしようと思うから話しが無茶な事になるんだろう?」
「でも…どうするんだよ…。スザクだって…そんなにほいほい『黒の騎士団』と接触している様な部署なら、それはそれで、俺たちも心配だし、そんなところにいて欲しくないぜ…?」
ルルーシュの言葉に…リヴァルがそう云ってしまうのも致し方ない…
確かに、ルルーシュも何も知らなければリヴァルと同じ事を云うだろう。
「確かに…相当危険な…事よね?でも…スザクは…イレヴンの兵士として…最前線に立っているんでしょう?」
「あ、えっと…まぁ、そうだけど…」
スザクは自分がランスロットのパイロットだとも云えないので、ニーナの言葉にはあいまいに答えた。
「枢木スザクがクロヴィス皇子の暗殺容疑にかけられて一度は逮捕されている事は、ゲットーでも有名だろ?大体、『ゼロ』がお前を助け出したんだからな…」
ルルーシュの言葉に…生徒会室にいるメンバー全員がはっとした。
すっかり頭から抜け出ていたが…転校早々スザクは有名人だった…
悪い意味でのウェイトが高かったが…
「非番の時にでもゲットーをうろちょろしていればあえるかもしれないじゃないか…」
かなり低い確率であろうが…『0』や『−』ではない…
その程度の確率ではあるが…
ルルーシュの言葉に…スザクはごくりと唾を飲み込んだ…
その様子を…そこにいたメンバーたちは…敢えて見ないふりをした…
ここまで黙っていたミレイだったが…ディベートごっこだった筈なのだが…
知らない間に、話しがとんでもない所に飛び火してしまっている。
「さぁて…一応メンバーたちでこれだけの濃い話が出来るのよ?これ以上あんたたちが話していると、その内あんたたちが戦場に乗り込んで行っちゃいそうな勢いだから…ここで切るわよぉ〜〜〜」
ミレイの一言で話しが一旦切られた…
そして、ミレイは心の中で思う…
―――このメンバーが頑張れば…ルルーシュも、ナナリーも…こんな箱庭に閉じ込めておく必要のない…そんな世の中になるかも…。と云うか…してくれるかも…
そして、ルルーシュとナナリーの秘密を知っても…このメンバーなら…二人を守るために頑張ってくれるのではないかと…そんな風に思えてきた。
―――でもま、それは…きっとこやつは望まないでしょうけれどね…。
とも思って、心の中で苦笑する。
でも、さっきのルルーシュの…スザクへの言葉は、正直驚いたのは事実だ。
ルルーシュにあんな風に思える相手がいたとは…と云うのは正直なところだ。
常に、ナナリーの事しか考えられない、プライドが高くてどこか抜けているシスコン兄貴と思っていたが…
そして…そう思える相手がいる内は…ルルーシュはきっと、笑っていられると…強く荒れると…そんな風に思う。
エリア11には第二皇女であるコーネリアが総督として赴任してくる程、騒がしい事になっているが…
アッシュフォード家としても…どこまでこの二人を守り切れるか…解らないのは実際に正直なところだ。
落ちぶれた貴族であると云うお陰で、これまでは誰に目にもとまらずに来ているが…
ただ、今度赴任したコーネリア=リ=ブリタニアは…ルルーシュとは懇意にしていた数少ない皇族だ…
副総督に就任したユーフェミアは…ルルーシュと歳も近く、王宮では仲が良かったと覚えている。
見つかったら…どうなるのか…
ミレイは、甘えだと解っていても…それを願ったら、ここにいるメンバーたちの人生を変える事になってしまいかねない事を解っていても…望まずにはいられなかった…
彼らが…その身分でも、地位でもなく…ルルーシュとナナリーを大切に思ってくれる存在であってくれる事を…
ミレイが終了宣言した後も、何か真剣な顔をして何か話している。
普段、ミレイがためまくった生徒会の書類整理に愚痴を零しているメンバーたちの顔しか思い浮かばないから…現在の状況は新鮮だ。
そんな事を考えていると…横から声をかけられた。
「ミレイ会長…」
「あら…何?」
声をかけて来た人物の方を見る…
「今日は…こうした話が出来る場を作って下さって…有難う御座いました…。色々、考える事が出来ました…」
「あら…最初はあんなに嫌がっていたのに?」
「すみません…ここまでの話が出来るとは思わなかったので…。皆には失礼だとは思うんですけど…」
「でも、あなたも何か見つけ出せたならそれでいいじゃない…。私の云い出した事がきっかけになったに過ぎないでしょ?」
ミレイは話しかけてきた相手を見て笑った。
何か…収穫があったのならそれでいいと…そう思えるから…
「でも…お礼が云いたかったんです…」
その人物は…それだけ残し、ミレイの隣から離れて行った…
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