自由の意味と価値 1


 ここはアッシュフォード学園生徒会室…
ミレイ=アッシュフォードの絶対支配下にある、ある意味、聖域…
「お!珍しく、全員集合ね…」
最後に生徒会室に入って来たミレイがそこにいる全員に声をかける。
「最近、一番肝心な時に休んでいるのは会長が多いですよ?」
そのツッコミを入れるのは副会長、ルルーシュ=ランペルージ…
こいつは、こうしたツッコミを入れると、自分が墓穴を掘ると云う事を知っていながらもつい、口出ししてしまう…
しかし、今日のミレイは、そんな事よりも面白いネタを持ってきているらしい…
「で、今度の企画なんだけどぉ…」
このミレイの言葉に生徒会室の中が緊張に包まれた。
と云うのも、こうして突然企画を思い立った時には色々と無茶振りである事が殆どだからだ…
敢えて、メンバーたちが顔を合わせない様に目を逸らした。
しかし…そんな事で挫けていてはアッシュフォード学園の生徒会長などやっていられない。
メンバーたちが目を逸らせている中、ミレイは特にダメージを受けた様子もない。
「そんな顔していると…前回却下された『メイド祭り』するわよ…」
この一言で勝負あり…
「聞きますから!それだけはやめて下さい!」
身の危険を感じたルルーシュが光速の反応を見せた。
そして、そこまで云った時、ルルーシュはまたも『しまった!』と思うのだが…
しかし、時は既に遅し…
「はぁ〜い♪ルルちゃん…皆を説得してね♪」
こう云う時、ルルーシュの一言で、まず、スザクとシャーリーが落ちる。
そして、リヴァルはルルーシュの脅しで落ちる。
カレンは色々裏表があるようだが…それでも、周囲の空気を読んで返答する。
ニーナに関しては…ミレイの云う事は大抵逆らわない。
従うと云う事もあるが、逆らうと云う事は基本的にしない。
「で、今回の企画は何なんです?」
ルルーシュが諦めたような表情を見せて、尋ねる。
そんなルルーシュの姿にミレイは満足そうな笑みを見せる。
そして…持っていた丸めてあった白い紙を広げる。
「じゃじゃぁぁぁん…♪」
ミレイの掛け声と共にその紙に書かれている文字が見える。
「第一回」
「アッシュフォード学園」
「ディベート大会?」
生徒会室にいたメンバーの誰かが3つに分けてそこに書かれている文字を読み上げる。
そして…
「……」
今回の企画に、中々珍しいネタを持ってくる物だと思う反面、一体そんなものをどうする気なのだ?と云う思いもあって…
「あの…会長…一つ伺ってもいいでしょうか?」
ルルーシュはこのツッコミどころ満載の企画に対して色々と聞きたい事が頭に浮かびあがってきて声をかける。
「何かしら?ルルちゃん…」
「えっと…ディベートって…あのディベートですよね?何を題材にそんな事をするんです?そもそもそんなものに参加して楽しめる生徒がどれだけいるんですか?」
「まぁ、今度、学校同士のディベート大会があるとかで…で、うちからも代表を2名程出さなくちゃいけなくなっちゃって…」

 ミレイのここまでの言葉でメンバーたちが呆れるのには十分な効果があった。
「そんなもの、適当に原稿を決めてやって適当に見栄えのいい…例えばカレン辺りにその原稿を読ませればいいじゃないですか…」
ルルーシュの一言にカレン以外のメンバーたちがこくこくと頷いている。
そのルルーシュの言葉に…ミレイは…
「じゃあ、男子代表はルルーシュね…。あと、原稿はルルーシュね…」
ミレイの言葉にルルーシュが凍りつき、そして、次の瞬間に融解して次の言葉を口にした。
「全力で却下です!」
「なら、イベントと称して代表を選んで楽しんじゃった方がいいじゃない…。まぁ、ディベートって考えるから難しいんで…。テーマは『ブリタニアについて』って事らしいし…。このメンツの中でそんなテーマを書ける人もいないでしょ?だから、全校生徒から代表を選ぶのよ…」
本当にまとめて説明しない御仁であると…メンバー全員が思うが…
ただ、どの道、どんなものなのかよく解っていないメンバーが多いと云う事にまず気が付いたのは…
「でも、会長…。この学園どころか、生徒会でもそんなものをちゃんと解っている人っていないですよね…」
「え?ディベートってそのテーマについて、自分の意見をつらつらと並べればいいんじゃないの?」
ミレイの一言…結構適当だが、割と当たっている…
変に難しい言葉で説明されるよりも解り易い…
「まぁ、正確に云うと、さっきの会長のテーマだと、結構大雑把過ぎて参加者も困るでしょうが…『ブリタニア』の何について話すかにもよるんですけれど…少々ネタとしては危ないんですが、『ブリタニアの在り方』について賛否に分かれて、賛成の人間はどう云う理屈で賛成なのか、反対の人間はどう云う理屈で反対なのかを議論する…って云う事だが…。さっきの会長のテーマでは少々大雑把過ぎて二つの意見に分かれて…と云う訳にはいきませんよね…」
「でも、私のところに連絡が来た時にはそうあったんだもの…。仕方ないじゃない…。当日に詳しいテーマを話す事になるんじゃないの?」
開催者の方も相当適当なのか、それとも、何かを考えてのものなのか…
「ただ、そんなもの、いきなりやれと云われて出来るとも思えないんですが…」
周囲を見渡せば…ルルーシュ以外、目が点になったままの状態だ。
確かにそんな者をいきなりやれと云われて何とかなる人間などいる筈もない…
そして、ミレイは一言…
「じゃあ…生徒会でやってみましょうか…」

 ミレイの一言に…ルルーシュ以外のメンバーが正気に戻る。
「え?やるって…ここで…そのディベートをですか?」
シャーリーが困ったような顔をして…と云うより明らかに困惑している表情である。
「うん♪そう…」
ミレイの言葉に…今度はリヴァルが『この人にはどうやって突っ込めばいいのだろうか…』と云う表情で口を開いた。
「あの…会長…ルルーシュが味方についた方が…確実に有利だと思いますよ?こいつの場合、先読みの速さと正確さは半端じゃありませんし…」
リヴァルの言葉に…ミレイも…『ああ…確かに…』と云う表情を見せるのだが…
「別に…ディベートって、勝ち負けじゃないんだけど…。互いの意見を述べ合う事が趣旨であって…。ただ、やっぱり、意見の詰めの甘い方が結局、しっかりした意見を持って、その意見をしっかり述べられるだけの技量のある方に意見は傾くし、見ている人はそれによって、影響を受ける事はないとは云えないわね…」
「簡単に云うと、討論番組のまねごとだよ…。多分、リヴァルみたいなのはそう云った知識が少ない分、意外と素朴な意見が出てきそうだよな…」
ミレイとルルーシュの言葉に…リヴァルとしては複雑な表情を見せるしかない。
ただ…ニュースなどをちゃんと見ているかと聞かれれば『No』と答えるしかないし、実際に、リヴァルの中で、偉そうにしている連中を見てムカつく事はあるし、色々と思うところは多々ある。
ブリタニア国内は弱肉強食の世界…強い者の意見が正しいとされる世界だ。
なのに、このような大会が学生の中で行われるのは…なんだか不思議な感覚だ…
「また…なんで学生の中でそんな大会を?」
リヴァルの抱いた疑問は他のメンバーたちにも生まれたようだ。
「えっと、まぁ、ユーフェミア皇女殿下が副総督になられて…色々とこのエリアの事を知りたいとお考えになっているとか…。あと、現在の植民エリアの中でエリア11程反ブリタニア勢力の抵抗運動の強いブリタニアの植民エリアも珍しいそうなの…。まぁ、ぶっちゃけ、ブリタニア人の学生しか集まらないところでこんな事をしてもあんまり意味がない…単純にプロパガンダにも見えるけれどね…」
ミレイの言葉に…リヴァル、シャーリー、ニーナが『そんな事云っちゃって大丈夫ですか?』と云う視線をミレイに送るが…
しかし、ミレイの方はそれほど気にしている様子もない。
「まぁ、一応、表向きには平和を愛していますからね…ブリタニアは…」
ルルーシュの言葉に更に緊張が走る。
誰が聞いている訳でもないのだが…これも教育の賜物であろう。
独裁国家と云うのはそんな感じだ…
そして…
「平和を愛しているのなら…何故…イレヴンはあんな風に抵抗運動を続けるのかしらね…」
今度は、この生徒会室ではかなり珍しいカレンの登場だ。
ルルーシュはカレンの本性を知っているからあまり驚く事もないのだが…

 そこに参戦してきたのはスザクだった…
「それは…『ゼロ』が…『黒の騎士団』が先導しているからだ!」
スザクのその言葉に…ルルーシュとカレンは少し表情を歪ませ、シャーリーがおずおずと言葉を挟んだ。
「でも…ゲットーとかの抵抗運動って…『黒の騎士団』が現れる前からあったわよね…。アッシュフォード学園の生徒でも、色々面白がって出入りしていた人がいたみたいだけど…」
「で…でも、相手は…イレヴンよ?イレヴンって…怖いじゃない…」
シャーリーの言葉にニーナが入り込んで来た。
そのニーナの言葉に、スザクは少し悲しそうな顔をするし、カレンは『心外だ!』と云わんばかりの顔をしている。
「ニーナ…全員が全員怖い訳じゃないと思うけどなぁ…。確かに、ゲットー内のテロリストとか、ブリタニアに対して恨みを持っている人たちって確かに怖いけど…。でも、それって逆も云えると思うけどなぁ…。別に、怖い人間って、ナンバーズだけに限らないと思う…。と云うか、ナンバーズにしてみれば、ブリタニア人の方が怖いと思うんだけど…」
シャーリーの言葉が気に障ったのか、ニーナが激昂したように言葉を荒げた。
「何よ!シャーリーはあんな怖い目に遭った事がないから云えるのよ!イレヴンなんて…」
「そう云う風に、一部を見て全てを決めつけるから、怖いんじゃないのか?確かにニーナは怖い目に遭った事あるかもしれないけれど…。単純にニーナを怖がらせたのが『イレヴン』と云う名のナンバーズだっただけだろ?」
取りなす様にリヴァルが告げるが…こう云った形になってしまうとニーナが孤立する。
「まぁ、ニーナが怖い目にあった事は事実だし、それに関しては私も責任があるから…。それにこの子、口下手だから…中々真意が相手に伝わらない事も多いしね…」
「少し考え方を変えないと…生きて行くのは辛いと思うけどなぁ…。スザク君はイレヴンだけど、とってもいい人だし、怖いなんて全然思わないわ…。スザク君、軍人さんだから、絶対に私たちが力勝負したらスザク君には勝てないと思うけど…」
「で…でも…」
「ニーナ…別に皆、あなたの事を責めている訳じゃないの…。ただ…そんな風に云っていると、この学園にも居づらいんじゃないの?今のところ、イレヴンの生徒はスザク君だけだけれど、この学園はイレヴンの生徒も認めているわ…。その内、イレヴンの生徒が増えるかもしれないのよ?その時、ニーナはそんな風に壁を作るつもり?」
ミレイの言葉に、ニーナとしても返す事が出来ない。
ただ、状況としてはニーナは自分だけが責められている感覚となっているだろう。
「別に…嫌いなら嫌いでいいじゃないか…。俺だって嫌いな人間はいるし、殺してやりたいと思っている人間はいる…。ただ、それを関係のない人間にまで影響を及ぼす真似はしない努力はしているつもり…だがな…」
ルルーシュの言葉に…ニーナははっと何かに気づいたような表情を見せた。

 開始の号令もないまま、なんだか意見のぶつけあいになっている。
ニーナの場合、感情部分が多過ぎて、行けんと云っていいのかどうか、微妙なところだが…
ミレイはこんな中で『意外とサマになるものね…』と考えている。
特にテーマも決まってはいなかったのだが…
自然発生的にこうしてテーマが決まって、こうした会話をさせておけば…
とも思って、今回は様子を窺う事にした。
「ニーナとしてはその印象が強かったって事なんだろう?ただ、スザクは怖いか?」
ルルーシュがニーナを見て、さっきから黙っているスザクを見た。
「俺とスザクの初対面は最悪だ…。俺は初めて会ったこいつにいきなり殴られたからな…」
ルルーシュの言葉にメンバーの全員が驚いた顔をしている。
ミレイさえも…
「ただ、国同士の問題はともかく、俺たちは出会いとしては敵同士だった…。国の問題で…。でも、俺とスザクはこうして友達になった…。確かにニーナが最初に出会った日本人はニーナにとっていい相手ではなかったかも知れないが…。俺とスザクもお互いの第一印象は最悪だったんだ…。少しだけ見方を変えれば、こうなれるんだ…」
「ルルーシュ…」
すっかり変わってしまったスザクに対してはかなり複雑な感情を抱いているものの、ルルーシュの中では相変わらずスザクは一番の友達と云う存在だ。
ルルーシュ自身、ここで詳しい事を話す訳にはいかないが、それでも、ルルーシュの中ではブリタニア人も日本人も印象最悪な存在…と云うよりも、敵だった…
恐らく、今のニーナと同じ心境だっただろう…
「まぁ、それには本人の努力も必要だがな…」
最後にそれだけ付け加えた。
ニーナの中で、今の言葉に何かを変えるきっかけが出来たような…少なくともニーナの中ではそんな風に思った…
確かに…正直、『イレヴン』と云うだけで怖い部分はある。
「まぁ、スザク君が生徒会のメンバーなんだし…少しはニーナもスザク君と話しをしてみたら?」
「多分、そう云った部分から、イレヴンとブリタニア人の壁って…消えないと思うんだよな…。そう云う感情の壁が最悪、テロに繋がって行くんじゃねぇの?国是ってやつはどうしようもないけどさぁ…」
リヴァルの言葉は…多分、何も知らないからこそ云える、感情の部分でも意見だ。
現在、テロリストのリーダをやっているルルーシュ、テロリストのエースパイロットをしているカレンにしてみれば、色々と云いたいことが山ほどある言葉ではあるが…
でも、これは、リヴァルを『ブリタニア人』と云うくくりで見ているからかもしれない…
そんな風に思えてきた。
もし、そう云った部分を完全に取り払ってしまったら…素直に受け止められるかもしれない…と思ってしまっていた…


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