ルルーシュがコンタクトを付けられなくなり、公の場はおろか、王宮内さえも、迂闊に出歩けなくなってしまった。
と云うのも、『ギアス』が絶賛暴走中のルルーシュだ…
迂闊に人に会って話しちゃったりするとうっかり、不本意な『ギアス』をかけてしまう恐れがある。
まぁ、ジェレミアに『ギアスキャンセラー』を…と思っていた矢先、ルルーシュが解放してしまった元ブリタニアの植民エリアを中心に『超合衆国』の様々な国々で民衆による暴動が始まってしまったのだ。
まぁ、無条件に解放しちゃったものだから…当然の事ながら、ルルーシュは植民エリアにいたブリタニア人の即時帰国を命じた。
勿論、ルルーシュは帰国者たちの住まいなど、最低限の保証をしたうえで…だったが…。
まぁ、ブリタニアでも不満は出てきたし、皇族、貴族に『お前ら、これからは平民だからね♪』宣言しちゃったお陰で、ブリタニア国内もそれなりの暴動は起きていた。
それまでの特権を全て没収されれば、そりゃ、不満も出ると云うものだ。
ブリタニア国内の方も、結構大変な事になってきたので、ジェレミアに『あいつら、ちょっと静かにさせてきて…。あんまり殺すなよ?』と、命じて、1週間くらい前から遠征に行ったきりだ。
元々、ジェレミアは貴族であったとはいえ、ルルーシュの母で、『閃光のマリアンヌ』と呼ばれる程の女性に対して敬愛の念を抱いていただけの事はあり、前線に立てば、有能かつ、それなりに楽しそうに制圧してくれている。
スザクがそんなジェレミアに
『ジェレミア卿…最近楽しそうですね…。そんなに遠征が楽しいんですか?』
と尋ねたところ、
『我が尊敬するマリアンヌ様を『平民出身』と云うだけで礼を払わず、今では、その御長子であるルルーシュ陛下に対してもこのような無礼な振舞い…。そんな連中を叩き潰す事に情熱を抱いて何が悪い!?それに、仮にも私は軍属…戦場ではどうしても血が騒いでしまってな…フフフ…』
と答えた。
結構物騒な奴だった…
最初はただ、変な奴だと思っていたのだが…
これは、ジェレミアがおかしな奴だから『マリアンヌ』に対して敬愛の念を抱いたのか、それとも、『マリアンヌ』に傾倒した為におかしな奴になったのか…今のところは謎であるが…
今のところはどうでもいい…
とりあえず、ブリタニア国内の暴動はジェレミアに任せておけばいい…。
とにかく、『超合衆国』の中で暴動が起き始めてしまったので、ルルーシュを一人、王宮においておくわけにもいかず、現在ではスザクが護衛役(と云うより、見張り役?あほな事を考えて身投げしないように)の為に現在、ルルーシュの傍に控えている。
それに、もし、『超合衆国』の中での暴動がブリタニアにまで飛び火して来て貰っては色々と面倒な事になる。
「流石シュナイゼルだな…。使えないコマに対しては容赦ないな…」
これは、ルルーシュの談…。
まぁ、そこら中で暴動が起きてしまい、各国の軍の寄せ集めの『黒の騎士団』は合流している各国籍軍を国元に帰さざるを得なくなっていたからだ…
で、肝心の…ルルーシュの、コンタクトにやられちゃった目の方なのだが…
「何故だ…何故、俺を取り巻く『タイミング』と云うのは片っ端から俺を裏切って行く…」
そう云って地団太を踏んでいた。
いつでも、ルルーシュと云う人間を取り巻いている『タイミング』と云う奴はどこかずれており、致命的な敗北を味わっている事が結構多い。
今回の事に関しても…本当は、『独立』と云う甘言を使って喜ばせたところに、ブリタニアの企業や資金を全て撤収して、その不満をどう言う訳か、自分に向くと考えていたルルーシュだが…
しかし、実際にその後の執政を行うのはその国の為政者出会ってルルーシュではないし、植民地だったところから元宗主国が全てを撤収させるのは至極当然の話し…。
と云うよりも、それだけで済んだ事の方が、独立した国々の為政者としては『ラッキー♪』な事だったりする。
普通、植民地が独立をした時には、宗主国に対して、色々とお金を支払うのが通例だ。
例えば、手で持って帰れない様なインフラ施設…
これについては宗主国が創ったものとみなされ、その独立した国に買い取りを要求する事になる。
また、植民地を独立させる事、手放す事に対する宗主国に降りかかる不利益を『賠償金』として請求される事もある。
基本的に、『黒の騎士団』の幹部連中が考えている程、『植民地の宗主国からの独立』と云うのは簡単なものではないのだ。
また、国民も宗主国からの支配を受け入れちゃっていたりした場合、いきなり独立したから、諸手を挙げて『万歳!』とは云えないのだ。
植民支配する側も、される側も、中では様々な利害関係があり、『独立』と云う…まして、独裁者の鶴の一声で『独立』させられちゃった場合、後々迷惑するのは、実は、植民地の現地民だったりする。
歴史をひも解いてみると、例としては殆ど例外に近いのだが…ある植民地(正確には併合されていたのだが)とされていた国が、その国を植民地としていた国よりもっと強い国が(ほぼ強引に)独立させてしまったのだが…
その強い国…暫定的にその強い国の人間を派遣して、総督府を接収したのだが、その時、元植民地となっていたその国…どうやら、植民地支配されていた時の方が心地よかったらしく、その総督府に強い国の人間が派遣されて数日後(確か『独立宣言』から1週間も経っていなかった)その国の国旗と『独立させた強い国』の国旗ではなく、以前、その国を植民地支配していた国の国旗を立てる事になったと云う事もある。(殆ど例外中の例外だけれど)
こうしてみると、『独立』と云うのも善し悪しで、計画的に『独立』しないと、国民は迷惑するし、為政者はにっちもさっちも行かなくなる。
恐らく、現在の『超合衆国』を構成している国々の中で暴動が起きているのはそう行った理由だろう。
どっかの金貸しのCMではないが、『独立は計画的に…』と云う事である。
まぁ、話を戻して、中々目の充血が止まらず、コンタクトを付ける事が出来ないから、資質に引きこもり生活となってしまっているルルーシュだったが…
「タイミング…ねぇ…。大体、ルルーシュって、いつも1000パターンぐらいの可能性を考えてプラン立てている設定だったのに…なんでここまで初歩的な事に気づかないのさ…。『植民地』って、自分たちの力で独り立ちしてこそ『独立』なんじゃないの?ルルーシュがやった『植民エリア解放』って多分…そのまま放りだしただけ…なんだと思うのは僕だけかなぁ…」
スザクの言葉は…余りに飾り気がなく、余りにストレートで…グッサリと突き刺さる。
多分、今のダメージは相当でかい物と思われる。
「まぁ、『ゼロ』が『黒の騎士団』にいれば…また違ったんだろうけれど…。あ、又、ユーラシア大陸のA国で暴動が起きているって…」
話の最中に、ルルーシュの皇帝専用通信に連絡が入ってきた。
一応、病気療養中って事になっているので、音声オフにしてあり、また、パソコンを今の状態で見るのは御法度と云う事で、スザクがパソコン画面に気がついて報告する。
ここ数日、ほぼ毎日『超合衆国』を構成している国のどこかで暴動が起きている。
しかも、ブリタニアの植民エリアとなっていなかった地域でもそんな暴動が起きている。
「扇は一体何をやっている!神楽耶は!星刻…お前は既に天子を守る事に専念しているのか!」
現状に嘆くルルーシュだったが…
これも皆、『ギアス』がオン・オフ出来なくなって、コンタクトレンズでコントロール背にゃならんくなったと云うこの状況が原因だ。
「いっそ、シュナイゼル殿下が『超合衆国』の議長になれば逆にこの騒ぎが収まるかもね…」
スザクの言葉に…まったくもってシャレになっていないが、確かにその方が確実かもしれないと思う。
相当な危険因子も含んでいるが…
大体、ルルーシュの『ゼロ・レクイエム』は…『超合衆国』と『黒の騎士団』が一致団結して、一枚岩になっていてこその策…
それが…こんな風にばらばらになっちゃっている状態では…
シュナイゼルがこんな『超合衆国』や『黒の騎士団』にちょっかいを出さないのは、放っておいても、こいつらが自滅する事が解っているからだろう。
元々、無駄な事をするのが嫌いなところはルルーシュにそっくりなのだから…
「なんで…なんでこんな時に…コンタクトが使えなくなるんだ…」
ルルーシュの…多分、この上ない本音がぽろっと零れる。
「仕方ないでしょ?『ゼロ・レクイエム』の為に色んなところで『ギアス』を使わなくちゃいかなくなって…しかも、『ギアス』をかけちゃいけない人と、『ギアス』をかけなくちゃいけない人と…色々混在しているので、まとめていっぺんに…と云う訳にも行かず…結局その度に着けたり外したり…と云うか、頭いい癖にホント、ルルーシュってバカだよね…」
スザクのとどめの一言は…ルルーシュの精神力を削って行く…
きっと、メンタルポイントが一気に50くらい減ったようなダメージだ…
「スザクにだけは云われたくない言葉だな…『バカ』と云う言葉は…」
『ウサギさんな目』の状態のルルーシュに…ちょっぴり同情しない訳でもないが…
ここにミレイがいたらひょっとしたら立ち直れるかもしれないのだけれど、でも、ミレイは『ギアス』をかけられた事がないので、連れて来る事は出来ない。
「あ、ルルーシュ…君宛に通信だって…」
スザクがパソコンの点滅に気がついて、報告する。
「とりあえず…こんな真っ赤っかな目では『ギアス』の件がなくても人前に顔を晒すのは嫌だ…。Sound Onlyに出来るか?」
「了解…。オープンスピーカーにするよ?」
「ああ…解った…と云うか、誰からの通信だ?」
「これ…繋いでいいのかなぁ…。と云うか、ルルーシュ…きっと機嫌悪くなると思うけど…」
スザクはそんな事を云いながら、相手の名前を告げずに通信をつないだ。
『やぁ…久しいね…ルルーシュ…。君が体調を崩したと聞いていてもたってもいられなくてね…』
この場の空気を読まず、どこまでもマイペース…スザクとは違った意味で『KY』で天下無敵キャラ…
「あ…異母兄上…!?」
確かに…ルルーシュの機嫌が悪くなる相手だ…
『思ったより元気そうで安心したよ…。ルルーシュ…済まなかったね…私は君を随分と見くびっていたよ…』
「なんの話ですか…?」
『いやぁ…『黒の騎士団』…あそこまでバカ揃いだと、おもちゃにもならなくてね…。それで、私も退屈になってしまって…。ルルーシュ…遊んでくれないかい?』
まるで、子供のような口調でルルーシュに告げて来る異母兄に…ルルーシュとしては…本当に病気になりそうだった。
「……」
『いっそ、蓬莱島をはじめとした『超合衆国』を構成している国々の『首都』に『フレイヤ』を落としてしまおうかと思ってね…そうすれば、少しは掃除が出来ると思っているんだけれど…』
顔は見えていないが…恐らく、とんでもない『悪魔の笑み』を湛えて話しているに違いない事は容易に想像が出来る。
「もう勝手にして下さい…。もう、俺の手にはあまりありますから…」
ルルーシュの言葉にスザクがびくっとして、スピーカーの向こうから『はて?』と云う言葉が聞こえてきた。
『枢木卿?私のルルーシュは一体どうしてしまったんだい?』
シュナイゼルはとりあえず、矛先をスザクに向ける。
スザクからは得も言われぬシュナイゼルへの殺気があふれ出ている事は…恐らくシュナイゼルには届いていない。
どうやら、『私のルルーシュ』の一言に相当ご立腹のようだ。
「ルルーシュは今、僕との約束の為だけに生きているんですよ…。でも、それも、綿密なプランを立てて、完璧だったはずなのですけれど…シュナイゼル殿下がもう少し、あの、出来損ないのコマたちを使いこなせなくても、掌で転がしてくれていればプランが遂行できたんですけれどね…。ただ、僕としてはそのプランにはあんまり乗り気じゃなかったので、ここまであほな事になってくれた事には感謝しますけれど…。あのバカさ加減には呆れかえってはいますけれど…」
スザクが敵意をむき出しにしてシュナイゼルに喧嘩を売っている。
スザクの『ルルーシュとの約束』に今度はシュナイゼルが御立腹の様で…
『ルルーシュとの約束…?一体何をしたいのかな?ルルーシュ…私にも教えてくれないかな?是非とも力に…』
この二人の『KY』…どうやったらコントロールできるのか…
正直、ルルーシュの頭で考えても解らない。
ちなみに、現在のルルーシュ…『ウサギさんな目』をしているし、その為に公に姿を見せる事が出来なくなり、と云うより人前に出る事が出来なくなり…意外と『ゼロ』の仮面って便利だったのだと実感している最中だった。
「シュナイゼル殿下には…ルルーシュの息の根を止める覚悟はおありですか?あるのなら、ルルーシュの力になれるかもしれません…。ないのなら、(かなり不本意だけど)僕と同盟を組みませんか?」
スザクがまたもとんでもない発言をかます。
ルルーシュがギョッとしてスザクの口を抑えようとするが…スザクの腕力の前にすぐにねじ伏せられる。
『ルルーシュ…君は…君は…そんな事を考えていたのかい?それは嫌だ…。物凄く嫌だが…枢木卿…私の『萌え♪』を守るために、君と手を組もう…』
本当に同盟を組もうと云う人間の会話とは思えないのだが…
しかし、ルルーシュにとっては…
「スザク…異母兄上…俺は…二人の敵だ!」
と、叫んでは見るが…
結局、いつの間にか『ギアス』に行動を制限されてしまっているルルーシュに…一体何を出来るのだか…
今では、ルルーシュの食事もスザクが運んでいるのだ。
スザクの方はそれはそれは楽しそうに、嬉しそうに毎日を送っているが…
「とりあえず、シュナイゼル殿下は僕と手を組んでくれるんですね?ルルーシュが『身投げ』なんて事を考えなくなるまで…」
『み…身投げ…?』
「はい…シュナイゼル殿下に苛められ、『黒の騎士団』からは集団リンチに遭い…そのお陰で偽りとはいえ、大切な弟を亡くし、御両親とは…まぁ、色々複雑な出来事で色々ありまして、生きる理由がなくなったそうです…」
『ルルーシュの一番大切なものを木っ端みじんにしたのは君だろう…』
「あなたの御命令で…」
同盟組んでいるくせに中々殺伐とした会話である。
そんな中…スピーカーから恐らくシュナイゼルの背後からの声だろう…
聞き覚えの声が聞こえる。
『シュナイゼル異母兄さま!お約束が違います!いつになったらお兄様と感動の再会をさせて下さるんですか!』
はっきりと…聞こえた…ルルーシュにとっては最愛の妹…スザクにとっては一番手ごわい小姑の声が…聞こえてきた…
「「え???」」
『いやぁ…済まないねぇ…今、君を呼びにやろうと思ってたところだよ…』
どこまでも適当なウソをつく異母兄であるが…
ルルーシュの瞳に…ちょっぴり希望の光が宿った…
まだ…信じられないと云う表情なのだが…
『お兄様!御病気と聞いて…私は…。大丈夫なのですか?スザクさんに酷い事をされていませんか?』
完全にシュナイゼルを押し退けてSound Onlyのマイクに向かって喋っている最愛の妹の声…
「ナ…ナナリー…」
『お兄様…もう大丈夫です!シュナイゼル異母兄さまには私が目いっぱい仕返ししておきますから…。お兄様…どうかお気を確かにお持ち下さい…。必ずお兄様をスザクさんの手から取り戻して見せますから…』
一体…何の宣言だったのだろうか…
しかし、ここで、コンタクトレンズで目が大変な事になった事による、多分、巧妙と呼べるべき出来事が起きた。
そして…ルルーシュの目に…少しだけ光が宿った…
面白くなさそうにしているスザクに対して…
「スザク!ナナリーが生きていた!なら…『ゼロ・レクイエム』は確実に成功する!大丈夫だ…俺にはまだ、ツキがあった…」
ルルーシュの言葉に…彼が本気でそんな事を云っているのか…と疑ってみたくなるのだが…
しかし、ここで、口では言えないが断言できる…
―――ナナリーにチクッたら絶対に失敗するよね…。シュナイゼル殿下も止めてくれるって云うし…
ここに…『ゼロ・レクイエム』阻止隊が当人たちの知らない間に結成されていた。
そして…ルルーシュがコンタクトレンズを付けらる様になる事には…
ルルーシュは何もしていないのに…世界中から『All Hail Lelouch!』の声が響き渡る土台を…この3人がしっかり作って、ルルーシュが引っ込みつかないようにしていた…
ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア…『コンタクトレンズ』のイレギュラーに寄り…彼の『ゼロ・レクイエム』は失敗した…
その後、ルルーシュは神聖ブリタニア帝国第99代皇帝として…天寿を全うし、シュナイゼルはその宰相、スザクはナイトオブゼロ、ナナリーは外交の顔として…ルルーシュの治世を支える事となった…
結局…ルルーシュの『ゼロ・レクイエム』…彼のプラン通りにはならなかったが…世界最大の力を持つブリタニアが落ち着いた治世を保つ事により、少しずつではあるが、他の国々も『ブリタニアに続け!』とばかりに留学生を送り、様々なノウハウと吸収して、国の復興へと役立てた。
お陰で、ルルーシュの考えていた方法で成り立たなかったものの…世界はそれなりに平和な時代を迎える事となったのである。
copyright:2008-2010
All rights reserved.和泉綾