―――恐らく…あれは…神が僕に与えた宝であり…試練だったのかもしれない…
今ならそう思える…
何不自由のない生活…確かに…『王』という、厄介な肩書はあったものの…あの時は…これまで真面目に『王』をやってきてよかったと思った…
だから…僕の我儘は…周囲に受け入れて貰えた…
あの時の君以外は…その我儘を…我儘とも思わずに…受け入れてくれた…
その日も…多くの来賓がいて…スザクはその国の『王』として、その場にいた。
パーティと云う事で…様々な余興が催されていたが…スザクとしては、とっとと席を立って後宮に入ってしまいたかった。
御歳18歳の少年王…
父王が早世してそろそろ8年が経つ。
10年前に父王が病死して…何も知らぬまま『王』の名を背負わされ…それでも、幼少の頃から帝王学やら政治学やら叩き込まれてきたお陰で、若いながらも周囲の自分の3倍以上生きている様な大臣たちにも一目置かせている存在となっていた。
確かに、スザクを支えてきたトウドウは非常に優秀な従者であったが…スザク自身も相当な努力をして来ての結果だ。
その自負があるから、こうした席であからさまに退屈そうな顔をしていても誰も咎める事が出来ない…
と云うよりも、自身の実力による権力ほど強いものはない事が証明されていて、そんな顔をさせた一座はその後、王宮への出入りを禁止される事が殆どだ。
「ねぇ、トウドウ…まだ続くの?これ…」
「もう少々…御辛抱を…」
いよいよ、このパーティに嫌気がさしてきたのか…傍に控えている長身の男に声をかけて見るが…型どおりの返事が返ってくるだけだった…
そんな時…
「それでは…最後の興となります…。大陸一の踊り子の舞をご覧にいれましょう…。その踊り子は数多の王を魅了する素晴らしい舞を舞うと云う…また、その踊り子の意に沿わない舞台には意地でも立つ事のない…踊り子が舞台を選ぶと評判の…」
長い御託を並べる進行役にイライラしながらスザクが大きくため息をついた。
―――そんなに素晴らしい踊り子ならさっさと出せ!勿体ぶってつまらなかった時にはこの進行役も出入り禁止にしてやる!
心の中でそんな事を考えつつ…真正面にある扉を睨みつけていた。
毎日のように…外国からの来賓をもてなす為とか、スザクの后選びとか…どうでもいい理由から催される…夜会…
本当に必要なパーティであればスザクだって真面目に参加するが…普段、しっかりと『王』の務めも果たしているのだから、こんな下らない…とってつけたような理由で開かれるパーティは勘弁して欲しい…そんな思いもあったのだが…
しかし…長い進行役の前置きが終わり、スザクから見て正面の扉が開かれ…その、踊り子が姿を現した時…
スザクは息をのんだ…
その姿に…多分…見惚れていたのだ…
これまで、スザクの為に用意された女は自分の後宮に掃いて捨てるほどいる。
それこそ…紹介してきた者が『絶世の美女』として紹介してきて…スザクも客観的に『ああ…確かに綺麗だな…』と云う女も多くいる…
しかし…今…広いこのパーティ会場の…スザクのいる場所から一番離れている扉から入ってきたその踊り子は…
その、掃いて捨てるほどいる…スザクの後宮にいる女の誰よりも…
美しかった…
スザクは女を捨てる時にいつも
『君が一番美しいと思っていたの?自惚れだね…。上には上がいるんだよ?』
そう云って捨ててきたが…
―――本当に…上には…上がいる…
長い黒髪に…透き通るような白い肌…細くて長い手足…
踊り子をやっているだけあって、身体全体は引き締まっていて…
スザクの為に用意される女は全て豊満な胸を持っていた。
確かにスザクも大きな胸の女の方が好みだったと云えばそうなのだが…
しかし…その踊り子は…そんな豊満な胸を持つ訳でもない…
そう云う意味では確かに、好みが分かれるかもしれないが…
それでも、その踊り子の全身が纏っているその…オーラは…誰をも魅了する…
長い前置きさえも忘れてしまう。
会場内は…静まり返り、その踊り子の為に奏でられる弦楽器の音と、踊り子の身につけている細いアクセサリーがぶつかり合う『シャラン』と云う金属音だけが会場内に響いていた。
まさに…目が離せず…ひたすらその踊り子に魅入ってしまっていた…
舞が終わり、その一座が王の前に跪いている。
「この度は…我ら、『オウギ一座』のお召し…光栄至極に存じます…」
恐らく、この一座の座長だろう…
先ほどの舞の時には弦楽器を弾いていた。
「なかなかの舞…王も御喜びであった…」
トウドウがスザクに代わって彼らに対して労いの言葉をかける。
基本的に余興の為に呼ばれた者の為に王が声をかける事はあり得ない。
しかし…きっとこの一座は…王からの声を何度もかけて貰っているであろうことが予想された…
―――あの…踊り子一人のお陰で…
スザクは頭の中で様々な画策をする。
何としてもあの踊り子を欲しいと思ってしまったからだ…
少年のようにも…少女のようにも見える…その美しい踊り子を…
「そなた…名は?」
スザクが立ち上がり、自分の目の前で跪いている踊り子の元まで歩いて行き、腰を落として踊り子が顔を上げれば視線の合う高さに顔を合わせた。
「……」
どうやら、王の行動に戸惑ったのか…困ったのか…何も答えられないようだが…
王の存在に委縮している…と云う訳でもなさそうなのだが…
しかし…何かがおかしい…
「あ…あの…王…その者の名前は…」
座長が何か慌てた様子でその踊り子の名前を告げようとするが…スザクはその座長の言葉を無視してその踊り子に話しかける。
「私は…そなたに聞いている…。名は?」
スザクは再びその踊り子に名前を問うた。
踊り子は…少しの間…何かを考えて…そして、何か覚悟を決めたかのようにゆっくりと顔をあげてスザクの目を見た。
―――傍で見ると…本当に綺麗だ…。特にこの…紫色の瞳が…
そんな事を思っている時…
「ルルーシュ?ランペルージと申します…。国王陛下…」
その踊り子の声を聞いて…周囲の驚いたため息が聞こえてきた。
スザクの方はと云えば…それほど驚いた様子もない。
そして、にこりと笑った。
「有難う…。名前を教えてくれて…」
その時、スザクは『王』の仮面を外してルルーシュと接した。
驚いたのはルルーシュを含めた、その場にいた全員だ…
普段は決して外す事のない『王』の仮面…
「ねぇ…僕、この子が欲しいから…連れて行くね…」
まるで子供の様な王の姿に…その場にいる大臣や外国からの来賓たちが目を丸くする。
「あ…ちょっと…」
一番慌てているのはこの一座の座長だ…
そんな言葉を無視して、スザクはルルーシュを肩に担いでパーティ会場をすたすたと出て行ってしまった…
その出来事から2時間が経っていた…。
ルルーシュは恐らく、後宮の一室と思われる豪華な部屋に…スザクの命令でルルーシュの部屋に一緒に入ったロロと云う少年とナナリーと云う少女と共にいた。
話を聞いてみると、元々下働きだったらしいが、急に王からの命令でルルーシュの身の回りの世話をするように…とのことでこの部屋に連れて来られたらしい…
―――世話をする?見張りの間違いじゃないのか?
ルルーシュは心の中で悪態づく。
この二人…どう見てもルルーシュを監視する為につけられている様には見えないが…それでも、人を外見で判断できないのは世の常だ…。
様々な王宮で舞を舞ってきて…嫌でも、その国の事情が耳に入ってくる。
知りたくもない事は…こうして踊り子になってからいやと云う程知ってきたし、今では既に諦めの境地で、知ったところで何を思う事もなくなっていたのだが…
「あ…あの…ルルーシュ姫様…」
なんだかびくびくしたようにナナリーがルルーシュに声をかけてきた。
きっと、先ほどからあからさまに機嫌の悪い顔をしているから気になったのだろう…
「俺は『姫様』じゃない…。男だ…。それに、女だったとしても、下賤な旅芸人一座の踊り子だ…。君たちの方が余程身分が高い立場にいるよ…」
下働きとはいえ、王宮内で仕事を貰えると云う事はそれ相応の身分が必要だ。
そして、この二人は王がいきなり連れてきた踊り子の世話役を申し付かっているのだ。
それ相応に信用できるものでなければ王の懐に入り込める後宮に入れる訳がない。
「あ…ごめんなさい…。でも…その…そろそろお着替えを…。陛下から…陛下がお戻りになるまでにこの衣にと…」
ナナリーがそう云いながら手に持っている綺麗に畳まれたルルーシュの為に準備された衣装を見せた。
「悪い…君はとばっちりを食った方だったな…。えっと…」
ルルーシュが現在の彼らの状況をいち早く理解して謝った。
「私は…ナナリーと申します…」
にこりと笑ってその少女が自己紹介をした。
「じゃあ、君は?」
先ほどから何を考えているか解らないが…それでもまだ、完全に準備しきれていないこの部屋のルームメイク(と云っても後宮の一室なので、大して必要ないと思われるが)をしていた少年に声をかけた。
「あ…僕は…ロロと云います…」
二人とも、まだ、ルルーシュよりも年下に見える。
そして…ルルーシュが踊り子となった時の年齢に近い…そう思った…
―――もし…国が滅びなかったら…俺も…あの若い国王と、元首として会っていたのかな…
そんな事を考えてしまう。
しかし、そんな感慨に耽る暇はないと…すぐに頭を横に振って切り替えた。
「そうか…二人ともよろしく…。俺は、ルルーシュ?ランペルージだ…」
それほど長い事ここにいる事もないとは思っているのだが…
それでも、この二人を見ていて…少しだけ、自分の心が穏やかになったような気がしていたから…
だから…二人には自然に笑みを見せる事が出来た…
「「よろしくお願いします!ルルーシュ様…」」
二人が声をそろえてそう、答えてくれた時には…本当に嬉しかった。
そんな時…この部屋の扉が開いた…
「ルルーシュ?」
スザクが入ってきた。
スザクはこの国の王でこの後宮の主だ…
ノックなど必要ない事は…ルルーシュにも解っている。
「あなたは…一体何を考えている!俺を…こんなところに…」
「あれ?普通はノックもしないで入ってきた事を怒るものだけどね…。君が怒っている理由はそっちなんだ…」
スザクはルルーシュの反応に面白そうに指摘した。
「別に…それは…個人によって違うだろう?感じ方は…」
ルルーシュがスザクから目をそらしてそう答える…
「君…ただの踊り子じゃないだろ?まぁ、僕にとってはそんな事…どうでもいいんだけど…。どっちかって云うと、まだ、君が着替えていない事の方が…気になるんだけどね…」
その一言にずっとルルーシュの傍にいた二人がびくりと反応する。
その事に気づいたルルーシュは間に入った。
「待て!この二人はずっと俺に着替えろと云っていた…。でも…俺がずっと…」
「そんな事はどうでもいいよ…。言いつけを守れなかったのは彼らだ…」
「なっ…待ってくれ!あの二人に罪はない…。罪があるとするなら……俺だ…」
「……なら…君が…その責任をとる…って事…?」
意地の悪い事を云っていると…スザク自身解っているが…この、高貴な雰囲気を醸し出している踊り子がこんな風に困っている様子を見ていると…更に困らせて見たくなったのも事実だ。
ルルーシュは…先ほどのスザクの指摘を気にしながら…それでも、頷いた…
「そう…じゃあ、ナナリー、ロロ…君たちはもう休んでいいよ?明日からちゃんとルルーシュの世話をしてね?」
「「あ…はい…承知いたしました…」」
二人がスザクの言葉にまるで条件反射のように答える。
そして…部屋を出て行く時…ルルーシュに心配そうな表情を見せるが…ルルーシュは『大丈夫だから』と云う意味を込めた笑みを見せた。
二人きりの部屋の中で…二人の心境は反対だった…
スザクは楽しそうに笑っている。
ルルーシュは…これからどうなるのかという不安の表情だ…
「ね、君ね…正式に僕のものになったんだ…。あの座長さん…中々首を縦に振ってくれなくて困ったけれどね…。でも、所詮、人は『金』で動くんだよね…。『いくら欲しいの?』って聞いたら…『100万$』って云うからさ…即金でくれてやったんだよね…。だから…君は僕のものなの…」
「まさか!それに…俺に『100万$』って…」
「ああ、大丈夫…。僕のポケットマネーだから…。僕さ、特別な趣味とかないんだけど…個人の企業とか資産とか持ってたりしてさ…。意外と僕、お金持ちなんだ…。王宮にはちゃんといざという時の金庫とかあるからね…。それに…そこで税金を使って…とか考えるなんて…普通、『旅芸人』の『踊り子』は考えないよね…。気をつけた方がいいよ?折角隠しているのに…ばれちゃうから…」
まるで…心の中を読まれている様な…そんな感覚だったが…
「何が…望みだ…?」
「望み…そうだね…君を…僕のものにする…」
「もう、金で買ったんだろう?」
「そうじゃなくて…こう言う事…」
言葉遊びは飽きたとばかりに…スザクがルルーシュの身体を引きよせて…後頭部を手で押さえながら…ルルーシュの唇を奪った…
スザクの突然の行動に…目を見開くしか出来ない…
はっとして、スザクの腕の中で何とか逃れようとするが…本当に王宮で暮らしている王様なのかと思える程、スザクの力は強かった。
「大人しくして…僕…久しぶりに凄く興奮しているんだ…。あんまり暴れると痛くしちゃうから…」
相手の声の調子で本気である事を知る。
それを悟った時…身体ががたがたと震え始める。
「君…可愛いね…。その高貴なオーラが…僕の手で少しずつ崩れて…僕のものになって行くなんて…」
そんな事を云いながら、これまで来ていた踊り子の衣装をびりびりと破って行く。
「やめ…」
「君には拒否権はないよ?だって…あの二人の不始末の責任を君がとるんだから…」
「だからって…こんな…」
「君が大人しくしていてくれれば優しくしてあげられるよ?どうやら…君、こう言う事初めてみたいだしね…」
既に殆ど全裸の状態にさせられて…スザクの目の前にその姿を晒されている。
その一言でルルーシュは顔を真っ赤にする。
「……」
「まぁ、仕方ないよね…。あの『オウギ一座』だっけ?君一人で支えているみたいだったし…。でも…正解だったよ?『100万$』程度で君を売り渡すような奴だし…」
その一言で…ルルーシュの瞳の色が変わる。
本当に…この王は…人の心をよく読む…
「好きにしろよ…。お前が払った代金の分は…」
「そ?なら…遠慮なく…」
スザクがそう言うと…露わにさせられた肌にその指が触れて来る。
「っ……」
その触れ方は…これまで誰に触れられてもそんな風に感じた事のない何かがあった。
知らない感覚に…身体が反応している事が…恥ずかしくて、そんな自分に嫌悪を抱いてしまい…
「い…イヤだ…ヤダ…」
目尻から涙がこぼれて…手足をばたばたとさせて…何とか逃れようとする。
無駄な抵抗だと解っているけれど…
しかし…今のその状況から逃れたくて仕方なかった…
座長から金でこの王に売られた事とか、この王がどういう意味で自分を欲しがったのかとか、この王が自分が何者であるのか…気付き始めている事とか…様々な現実の中で頭は完全にスクランブル状態になっている。
「暴れると痛くする…僕、そう云ったよ?その方がいいなら…お望み通りにして上げるけれどね…」
そう云って、ルルーシュの細い手首を掴み上げて後ろ手に縛り、ベッドの上に転がす。
「まぁ、こう言う、SMとかって、あんまり興味なかったんだけど…君が相手だと、どんなことでもしてみたくなるよね…」
スザクの止まらない話に…ルルーシュはただ…涙を零していて…それでも、スザクはそんなルルーシュを楽しんでいるかのようで…
「やだ…もう…ヤダ…」
「もう?これからなのに?」
そう云いながらスザクの指がルルーシュの臀部の割れ目へと入り込んで行き…
「い…痛い!痛い…ヤダ…」
「う〜ん…流石にきついね…。まぁ、今日は最後までやらないで上げるよ…。流石にこれじゃ、可哀そうだもんね…」
スザクのその言葉にほっとしたのも束の間…スザクが自分のスラックスを寛げる。
そして…スザクがベッドの上に上がり、ルルーシュに腰を高く上げた状態にさせる。
「ね、ルルーシュ…口を開いて?」
ルルーシュが『え?』と云う表情をしてスザクの方を向いた時…ルルーシュの小さく開いた口にスザクのその欲望をねじ込んだ。
「んぐ…!!」
「とりあえず、一回僕をイカせてくれたら許してあげるよ…。でも、君、初めてだから…きっと、時間かかるね…。少しは楽しめるかな…」
そんな事を云いながら、ルルーシュに奉仕させる。
しかし…ルルーシュに奉仕させながらも…スザクの瞳はなんだか優しい瞳をして…優しい手つきでルルーシュの髪を撫でていた…
その姿は…ルルーシュの目に入る事はなかったのだが…
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