Our Good Day 07


 隣で眠るルルーシュを見ながら…スザクは口の中で呟いた…
「約束の時は…もうすぐだ…」
恐らく、ある一人を除いて、誰が聞いても何の事だか解らない…
それでも、スザクは…あの時…約束した…
赤子となっていたルルーシュに…初めて触れた直後…
全てを知る…彼女と…
「絶対に…一人になんてさせないから…」
深く眠っているルルーシュのその、やわらかな感触の黒髪を撫でながら誓いの言葉を口にする。
もう…二度と失わない為に…
もう…二度とあんな涙を流さない為に…あんな涙を流させない為に…
彼女が、これまでに調べた…ルルーシュの身体に眠る『コード』…
ルルーシュが破壊してしまった為に、殆ど残っていない資料の中から…何とか探り出した今回の『コード』…
彼女の話では…ルルーシュの中の『コード』が、完全となるまで…あと、1年足らずだ。
本当は…そんなもの…なければよかった…
ルルーシュもスザクも…人間としての肉体が滅ぶ時に…黄泉の国へと旅立てればよかった…
しかし、『コード』は、消滅する事はないと云う…
継承者から次の継承者へと受け継がれ…その力がこの世から完全に消滅する事はない。
ならば…
『なら…C.C.…僕に…『ギアス』をくれないか?僕が…君の契約者になる…』
『おまえ…自分の言っている意味が解っているのか?』
『君にも協力して貰う…。こんな形でルルーシュを…僕の目の前に連れてきたんだ…。僕とルルーシュとの約束を知っている君が…』
『そうだったな…確かに…。いいだろう…。今の私の想像の範囲では…恐らくルルーシュが完全に『コード』を継承するのは…18年後の…9月28日だ…』
『本当に?』
『確証はこれから集める…。ただ、可能性でいえば、その日が…一番確率が高い…』
『解った…じゃあ、それまでに僕は君から貰った『ギアス』を『コード』継承可能になるまで昇華して行けばいいんだね…』
『確率の問題なのに…本当にそんな事をする気か?』
『うん…バカだと思うのは仕方ないね…。でも、これは…ルルーシュだけの十字架じゃない…僕の十字架でもある…。なら、一緒に背負うべきだろ?』
『でも…その時になってもルルーシュの記憶は戻らない確率が高いぞ?』
『うん…そうだね…。でも、僕が知っていればいい話だ…。必要となれば…僕が話す…』
『本当にバカだ…お前たちは…。何故…そこまで自分たちの罪を責め続ける?』
『許されるため…じゃない事は確かだね…。多分、ルルーシュもそう言うと思う…。でも、僕たちには責任があるから…。ルルーシュがこうして生きているとなれば…これは…僕とルルーシュの責任だ…。だから、その責任を果たす…それだけだ…。ルルーシュだってきっとそう望むよ…』
その時、C.C.は…一言…『バカな奴だ…』とだけ口にして…スザクに『ギアス』を与えたのだった…

―――ルルーシュ18歳8月
 スザクは…『ゼロ』の仮面を外してナナリーの前に立っていた。
「ナナリー…話がある…。ルルーシュの『コード』に関して…」
スザクのその言葉に…ナナリーは、小さく息を吐いた。
「いつか…その時が来るとは思っていましたが…」
これまで、ルルーシュの母として、ずっと、ルルーシュを見続けてきたナナリーは複雑な表情を浮かべる。
その日は…必ず自分たちの目の前にやってくる事を…心のどこかで感じながら…会えて知らぬ振りを続けていた。
『コード』の事もあって、ナナリーはルルーシュを極力公の場に出す事を避けてきた。
第一位皇位継承者…現在の神聖ブリタニア帝国の中では『謎』の一言で表される事が殆どだ。
ナナリーの周囲でも、ルルーシュの顔を知る貴族は…殆どいない。
「以前…C.C.から聞いたんだ…。もし、ルルーシュの『コード』が完全に発言するとすれば…18歳の9月28日だと…」
「それは…」
ナナリーが驚いた表情でスザクを見る。
スザクはそんなナナリーを見て、黙って静かな笑みを見せる。
そして、少しの間をおいて口を開いた。
「そう…僕が…ルルーシュを貫いた日だ…」
はっきりと答える。
ナナリーにとっては…辛いと云う感情しかない…その日…
来るべき時が来た…そう言う事だ…
ナナリーはすぐに気を取り戻して、毅然とスザクを見る。
「では…ルルは…その日に…『コード』を…?」
「最近まで、確証がなかったらしいけれど…昨日…彼女が僕のところにきたよ…」
「そう…ですか…」
これまで…ずっと、自分の子供として…見守ってきた…
本当に優しい子に育ってくれたと思う。
否、ルルーシュの本質は…周囲に残酷なほど優しかった…
そのまま、あのルルーシュにもその優しさを表しているだけだ…
これまで、自分たちがルルーシュを見守り続けて…あんな残酷な優しさを表に出さなくてもよかっただけだ…
「僕も…その日に…彼女との約束を果たす…」
「彼女との…約束…まさか…スザクさん…!」
「ああ…僕は…僕のすべてで、ルルを守ると決めたんだ…だから…」
スザクの言葉に…ナナリーは複雑な笑みを浮かべた…
「スザクさん…もう少し…『コード』の事を…教えて頂けますか?どうして…お兄様があんな事になられたのか…。そして、スザクさんはどうして、スザクさんのすべてでルルを…いえ、お兄様を守るとお決めになり、それを可能にしているのかを…」
まだ…ナナリーは知らない事がある…そう感じて、スザクに申し出た。
スザクも全てを放す事を決めていた。
恐らく…それは…ナナリーのルルーシュへの思いが…スザクのルルーシュへの想いと変わらないほど大きなものであると…そう感じた事と…彼女が皇帝であると云う事は…その権力は…ルルーシュを守る為の布石にもなる…そう言った打算もあった。
今のスザクに…ルルーシュを守る為には形振りなど構ってはいられなかった。
そして、ナナリー自身もルルーシュを守る為なら何でもする覚悟があった。
その部分で…二人の気持ちは一致していたのだ…

 全ての話を終えて…ナナリーははぁ…と、息を吐いた。
「では…ルルに…私の後を継いで頂きましょう…」
「ナナリー?」
「それも…早急に…。私にはやるべき事が出来ました。後で、C.C.さんに会わせて頂けますか?彼女のお話を、彼女から直接伺いたいのですが…」
「ナナリー…ルルは…」
「解っています…時間がありません…。だから、私はすぐにでも退位したいのです…。ルルを…私の息子を…そんな地獄へと送ってしまう前に…」
ナナリーの決意が…そのままナナリーを取り巻く空気を変えているようだった。
「恐らく、スザクさんの仰った日に…ルルは『コード』を継承するのでしょう?そして…スザクさんも、その日にC.C.さんから継承する…。だとしたら、それまでにC.C.さんの知っている事をすべてお聞きしなくてはなりません…。皇帝の立場では…そんな個人的な事で動く訳には参りません…。だから…この国の皇帝の座をルルに渡して…私は…ルルをそんな地獄から解放する為に動きます…」
ナナリーの強さに…スザクは驚かされてばかりだった。
恐らく…ナナリーが兄としてのルルーシュを失った時から…彼女は強くなっていった…。
それまで、兄の存在によって強くなってきた…
しかし、その兄を失って…ナナリーはその小さな肩にブリタニアと云う国を背負う事となった。
でも、彼女は決してひるむことなく、前を見続けてきた。
そして…赤子となったルルーシュをその腕に抱いた時から…更に強くなった…
強くなろうとした…
「ですから…スザクさん…それまで、あなたもルルと同じ『コード』を持つ者として…ルルを守って下さい…。あなたが…ルルの騎士です…。お兄様が事切れる寸前…私はお兄様の記憶を見せて頂いたんです…。お兄様は…ずっとスザクさんを私の騎士に…とお考えだったそうです。でも…私は…ルルの騎士には…スザクさん…あなたを望みます…」
「ナナリー…」
ナナリーの強い決意に…スザクは驚かされてばかりだった。
そんなスザクにナナリーはにこりと笑って言葉を続ける。
「あと…コーネリア異母姉様は…私にお貸し下さい…。コーネリア異母姉様は…結構『ギアス』について調べておいでのようでしたので…私の知りたい事を近づく為にはきっと力になってくれますから…」
「それは…僕の決める事じゃないだろ?でも…ルルの事は解った…。僕が…何に代えても守って見せる…。だから…ナナリーは…一刻も早く…『コード』から解放出来る方法を探してくれ…」
そして…スザクとナナリーは…対等な人間として…握手を交わした。
守りたいものを…守る為に…

 その後、準備が着々と進んだ。
コーネリアもナナリーの話に最初は驚いていたものの…
『確かに…そんな地獄を味わわせたくはないな…』
そう言って、ナナリーに同行することを決めた。
シュナイゼルもルルーシュを想い、それに賛成した。
『ナナリー、コーネリア…かならずルルの事を救ってくれ…。やっと…あの子は心の底から笑えるようになったのだから…』
それがシュナイゼルの言葉だった。
そして、大幅な人事の変更がなされた。
まず、軍部に関してはコーネリアが元帥だった為、軍のトップを空席にする訳にはいかなかったので、ジェレミアがその座につく事となった。
アーニャも正式に軍に入り、ジェレミアの補佐をする事となった。
シュナイゼルは年若い皇帝の補佐役として、引き続き宰相として国を支える事となった。
そして、スザクは…『ゼロ』として、ルルーシュの騎士となった。
世界平和の為の象徴…としての立場を逸脱する事となる。
しかし、これまでのブリタニアの世界貢献の成果もあり、これまでも、ブリタニアの皇帝であるナナリーの傍にいたことは周知の事実だった。
だから…この度、世界最大の国力を持つブリタニアの皇帝がナナリーから、年若いルルーシュへ移るとなった時、その年若い皇帝が誤った道を進まない為の布石としてもルルーシュの傍に『ゼロ』が存在すると云う事は反対される事も少なかった。
「ルル…いえ、ルルーシュ…私にはやらねばならない事が出来ました。だから…あなたにこのブリタニア帝国をお願いしたいと思います…」
そう話を切り出されて…ルルーシュは驚いた表情を隠す事が出来なかった。
あまりに突然だったから…
「母上…しかし…」
「年若いあなたに対して、色々云う方々もいるでしょう…。でも、あなたはこれまで一生懸命勉強してきた…。『ゼロ』の姿を見て、私の姿を見て、シュナイゼル異母兄さまやコーネリア異母姉さまを間近で見てきた…。あなたなら大丈夫…。年若い為に失敗はするかもしれません…。でも、『ゼロ』やシュナイゼル異母兄さまがいれば…間違った道に進もうとすれば…必ずあなたを元の道へと戻してくれます…」
ナナリーの言葉に不安はなかった。
ルルーシュ…かつてはたった2ヶ月で世界を敵に回した程の実力を持っていた。
ならば…逆も可能な筈だ。
全力でルルーシュがブリタニアを想い、自ら動いて行けば、ナナリーは自分よりもすばらしい王になると確信している。
ナナリーの兄だったルルーシュは…たった一人の大切な妹を守る為に、『黒の騎士団』を組織し、果ては、ブリタニアの皇帝となり、世界と戦い…そして、ナナリーに世界を託した。
そんなルルーシュが…こうして、そんな非情の仮面を被る必要がなければ、きっと、民を導く、素晴らしい王になる筈だ…

 ナナリーはそういう確信が出来たし、シュナイゼルもコーネリアもその確信は間違っていないと思う。
ルルーシュほどの優しさと、実力があれば…
「母上…俺…」
まだ戸惑いはぬぐえないようだが…
確かにまだ18歳のルルーシュにはつらい選択かもしれないが…
それでも、結婚をしていないナナリーには、実の子供はいない。
シュナイゼルもコーネリアも、伴侶はいるが、皇位継承権を考えた場合、やはりルルーシュよりは下の順位だし、それに…自分たちの子供がルルーシュほどの実力を持っているとも思えないのだ。
「ルル…そろそろナナリーを楽にしてやれ…。ルルなら…きっと、異母兄上や『ゼロ』をうまく使いこなす事が出来る筈だ…」
「コーネリアさま…」
ルルーシュは困ったようにコーネリアを見た。
この姿で『コーネリアさま』と呼ばれるのはなんだか変な気分であるが…
「でも…何故、コーネリアさまは…王宮を離れるのです?」
「ナナリーのやりたい事に…私も興味があってな…。だから、ついて行く事にした…」
何も知らないルルーシュに本当の事は言えない…。
だから、コーネリアは勝手にナナリーについて行くのだと表現しているのだが…
確かに、ルルーシュを『コード』から解放する方法を見つけ出さなくてはならないと思っているのは本当だ。
この世にそんなものが存在する限り、再び同じ悲劇を繰り返すから…
「ルル…あなたは立派な皇帝になれます…。これまで…シュナイゼル異母兄さまが山ほど買ってきたあなたの洋服を…色々な孤児院に届けさせていたでしょう?コーネリア異母姉さまがせっかちに作り過ぎた実戦用の剣…すべて売り払って病院や福祉施設に寄付していたでしょう?そう言った事が出来れば…その心を持ち続けていれば…必ずいい皇帝になれますよ…」
「母上…どうしてそれを…」
幼い頃、ルルーシュを溺愛するあまり、シュナイゼルやコーネリアがやたらとルルーシュに物を贈っていた。
それらすべて、ルルーシュが使いきれないものに関しては、ジェレミアやアーニャに頼んで、そう言った形で届けさせていたのだ。
「母と云うのは…自分の子供のやっている事には…敏感なんですよ…」
にこりと笑ってナナリーが答えた。
「だから…『ゼロ』と仲良くするのはいいですけれど…ほどほどに…ね?孫の顔もみたいですしね…私も…」
最後の言葉はルルーシュよりもスザクにチクリと刺さった。
でも、こんな和やかな空気の中…ルルーシュの皇帝即位が決まったのだった…

 約束の9月28日…『コード』を知る者たちはハラハラし通しだった。
ルルーシュが『コード』を継承し、スザクがC.C.から『コード』を渡される日…
ルルーシュの身体の変化は…ちょうど、18年前…あのパレードが始まったくらいの時間から始まった。
身体からは紅い光が放たれ…首筋に…『ギアス』の紋章が表れる。
「始まった…」
今度は…どうやら、完全な『コード』の継承となったらしい…
やがて、その光が収まり…ルルーシュが目をあける。
「ルル!」
誰かの声が…ルルーシュを呼んだ…
「……俺…一体…何が…俺は…確か…」
これまでの口調と…何かが違っている。
そして…雰囲気も…何か…違っている。
「ルルーシュ!」
スザクがルルーシュの名前を呼ぶと…ルルーシュがスザクに視線を向けた。
「俺は…一度…死んで…それから…それから…」
周囲が驚愕する。
「ルルーシュ!記憶が…以前の記憶が…?」
コーネリアの声に、ルルーシュはぼんやりと頷いた。
「では…ルルとしての記憶は…?」
「あります…俺…ずっと王宮にいて…」
ルルーシュの言葉にその場にいた者たちが驚きを隠せずにいた。
「どうやら…記憶が流れ込んで…少し混乱状態にあるようだな…」
C.C.の言葉に…流石に驚きを隠せないが…
それでも…
「ルルーシュ!」
そう言って抱きついたのは…スザクだった…
「スザク…?」
その姿を見ながら…C.C.はひとり呟いた。
「これで…私の役目も終わりだ…」

 ルルーシュの戴冠式を終えて、王宮内はすっかり様変わり…と云う訳でもなく…ただ…これまで玉座にいたナナリーと、国を支えてきたコーネリアがいなくなり、代わりにその玉座位にはルルーシュがいる…
と思いきや、皇帝になってから、政務をこなし、国の安定の為に…と、ブリタニア国内を見て歩きながら、様々なものを吸収し、ブリタニアの国の為にとにかく仕事をしていた。
そんな風に頑張るルルーシュのお陰で、王宮に残ったシュナイゼルと『ゼロ』はとにかく仕事が増えた…
その代わり、ルルーシュの民からの支持は高くなっていった。
その美貌もさることながら、恐らくナナリーたちのそそがれた愛情によって、民たちに対して無限大の愛情を注いでいた。
それ故に…ルルーシュはブリタニア国民のルルーシュとなっていた。
不満に思っている者たちもいた訳だが…
それは…これまで、ルルーシュの笑顔を占領していたルルーシュを取り巻いていた大人たちだ。
面白くなさそうに見ていることもしばしばで…
特にスザクは『皇帝になんてするんじゃなかった…』とうっかり思ってしまった事が何度もあるが…
それは…また…別のお話…。


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