スザクが、『ゼロ』の正体が自分の親友であると…疑い始めたのは…多分、スザクがクロヴィス殺害の犯人として処刑されそうになった時、『ゼロ』…黒い衣と黒い仮面に身を包んだ人物に救い出された時…
そう…最初から疑いを持っていた。
もし、日本人であるなら…他にも名だたる将が公開処刑される為に租界でその姿を曝されながら引き回され、その後、ナイトメアの銃撃によって射殺される…。
それがセオリーだった。
そして、スザクも、自身が旧日本最後の首相、枢木ゲンブの息子であると云う…その事実だけでそう云った殺され方をすれば、イレヴンたちへの脅しになる。
それに、自分の国の最後の首相の息子が、名誉ブリタニア人となり、クロヴィスを殺し、当人は公開処刑、その後、残ったイレヴンたちに対しては、常に疑いの目で監視が続けられることになる。
それまでも、過酷なブリタニアによる締め付けがあったし、これ以上の過酷な状態を強いられるとなると…
それでも、スザクの訴えは何一つ聞き入れられる事はなかった。
形だけの弁護士さえつけられない裁判によって、既に台本の決まった形だけの裁判が行われ、死刑が言い渡される事になる。
そんなとき…『ゼロ』と言う存在が現れ、スザクを救った。
廃墟で話をしていた時…何故か、目の前の男から懐かしさと…何か…えもいわれぬ感情が込み上げてきた。
そして…彼に対して背を向けた時に聞こえてきた…
『この…バカが…』
その一言…
懐かしかった…
7年前…良く言われていた…
『このバカ!』
それと同じ感じがした…
だから…その時からずっと…『ゼロ』の正体は…彼ではないかと…思っていた…
でも、クロヴィスを殺したと公然で言いのけた。
もし…この事がブリタニア軍に知られたら…
否、彼は…廃嫡した皇子…
邪魔とする者からも、利用しようとする者からも彼らの身の安全が脅かされる。
これまで、ブリタニア軍にいても、ニュースを見ていても決して出て来る事のなかったルルーシュの名前…。
もしも、彼に何かが起きて、そして、廃嫡した皇子だと知られれば…いい意味であれ、悪い意味であれ大きなニュースとなる。
それがなかったと言う事は…スザクとの再会を果たしたと言う時点で、それこそ…息を潜めて…極力目立たないように生きてきた事は…簡単に察しがつく。
―――じゃあ…あれは…僕を助ける為に…
スザクの中でたどり着いた結論…
8年前に出会い…7年前に別れた…初めてできた…そして、たった一人の…スザクの友達…
そして…スザクにとっては…誰よりも守りたいと思った…そんな相手…。
―――君を守りたいと思って…父さんを殺したのに…僕の存在が…君の安全を脅かしているのか…
そう思うと…スザクはただ…胸が痛くなった。
やがて、ブリタニア軍の裁判で、証拠不十分だとして、釈放された。
いくら、犯人が名乗り出たとはいえ、名誉ブリタニア人のスザクの冤罪が完全に晴れた訳じゃない。
ただ…あれだけおおっぴらにクロヴィスを殺したと宣言した輩が出て来たのだ。
しかも、多くの人が見守る中…。
スザクを乗せた護送車の周囲にはそれを見つめていた人々がいた。
テレビカメラも入っていたから、租界、ゲットー関係なくその模様は放送されているだろう。
そう云えば、嬉々としてカメラを構えていたカメラマンがいた。
完全生中継だったから、きちんと放送をカット出来ていたか怪しいところだ。
とすると…スザクを犯人にしておけなくなったと言うところがある意味本当のところだろう。
そこへ、ブリタニアの中でもかなり身分の高い人間が口添えしたらしい。
それが誰なのかは…最後の最後まで教えて貰えなかったが…。
そして、恐らくその、スザクを釈放するときに尽力してくれた人のお陰だろう。
学校へ通う事も命じられた。
勿論、軍の仕事が優先されるが、ただ、特派の研究所にいるだけである時には必ず学校へ行くようにとの命令が下ったのだと言う。
―――自分だけが…特別扱いされているみたいだ…
当然だが、スザクの中では割り切れない者がなかった訳じゃない。
スザクと同じ年頃の少年、少女が名誉ブリタニア人となって、上官からの無理難題をこなしながら軍人をやっている者だっている。
生活のために仕方なく…望まないのに軍人にならざるを得なかった少年や少女たちだっている。
スザクの場合…自分の目的のために軍人になった…
なのに…こんな扱いは…
最初はそう思っていた。
しかし、通う事になったアッシュフォード学園には…あの、ゲットーで再会した幼馴染がいたのだ。
ルルーシュ=ランペルージという、普通の少年として…
学園で再会できた時には天にも昇る気持だった。
しかし、同時に…あの時抱いた彼への疑い…
―――どうか…僕の考えすぎ…でありますように…
そんな風に真剣に考えていた。
アッシュフォード学園に編入して…最初の頃は…イレヴンと言う事もあって、ルルーシュ以外の生徒は遠巻きに見ているか、スザクへの嫌がらせをするか…そんな状態だった。
そして、ルルーシュとスザクの過去を考えたとき…傍にいない方がいい…彼はスザクの近くにいてはいけない…そう思っていた。
正直、ルルーシュがいなければ、『学校へ行きなさい』などと言う命令を下した人間をただひたすら理解する事が出来ず、自分の置かれている環境をただ…我慢し続ける事しか出来なかっただろう。
「スザク!」
ルルーシュは…7年前と少し変わっているように見えたが…でも、根の部分は変わっていなかった。
プライドが高く、決して弱みを見せない…冷たい雰囲気を醸し出しているから誤解され易い部分があるが…でも、本当は自分の大切だと思う者に対しては限りない情を注いでいる。
「ルルーシュ…」
「何ボーっとしているんだ…。昼休み…すぐに終わってしまうぞ?どうせだから屋上にでも行って一緒に食べないか?」
ルルーシュがこんな風にスザクを構うから、恐らくルルーシュのファンであろう女の子たちにはよく睨まれた。
ルルーシュはもてるらしい。
確かに、本当は皇子様だから身のこなしは優雅だし、取り巻いているオーラは本当に惹きつけられずにはいられない。
そして…100人に尋ねたら100人が彼をこう評価するであろう。
『美しい』
と…。
それ程の美貌を持っていて、もてない筈もない。
そして、同じ生徒会のメンバーであるリヴァルに教えられた。
ルルーシュは男にももてるらしい事…
確かに…あの中性的な美しさに惹かれるのは…解る気がする。
ただ…ルルーシュ自身、男女問わず、告白されてもきっちり断っていると言う。
確かに、ナナリーの事があれば…ルルーシュは決して誰かと特定の付き合いをする事はないのは解る。
そんなルルーシュはスザクに対してだけ向ける表情…
それがあるから、スザク自身優越感を感じもするが、他のルルーシュのファンの生徒たちからは睨まれる事になるのだが…
―――僕は…多分…ルルーシュが好きなんだ…。だから…殆ど確信に近い状態で疑っているんだ…。あの時僕を助けたのは…
そんな風に思うと胸が苦しかった。
何とか、ルルーシュをそんな危険な場所から退散させたかった。
ルルーシュは…スザクが守るのだと…ずっとそう思っていたから…
その為に、どれだけ嫌な事をされたって学校へ来ていたのだから…
ルルーシュが常に傍にいるから、スザクに対する嫌がらせは減ったと思う。
一度、スザクの荷物が荒らされた時…普段、殆ど感情を表さないルルーシュが烈火のごとく怒ったのだ。
そのお陰からか…ない振動思っているかは知らないが…スザクに対する物理的な嫌がらせは消えた。
―――相変わらず…弱い立場の者を守ろうとするんだな…君は…。あの頃と変わらない…
軍と学校の二重生活…
決して楽ではなかったが、それでも充実している。
学校へ行けば…ルルーシュがいる。
良く学校をさぼるらしいが、それは今に始まった事でもないと言う。
それに…スザクが学校に来ている時は…ルルーシュも学校に来ている…。
学校へ来れば…ルルーシュに会える…そう思えば…相当ハードな生活ではあったけれど…ルルーシュの笑顔を見られればそんなものは忘れられた。
「おはよ…ルルーシュ…」
「ああ、おはよう…スザク…。3日ぶりだな…」
軍の仕事で学校を休んでしまうと、いつも、ルルーシュはそんな風に声をかけてくる。
「それに…軍ではちゃんと食事…していないんだろう?今日も弁当作ってきたから…昼食、一緒に食べるだろ?」
「え?僕…いつ学校に来られるか解らないのに…ひょっとして、昨日も作ってきてくれたの?」
「ま…まぁな…。どうせ、軍の寮にいると言っても大した食事なんてできないだろ?なら…俺が面倒みられる時くらい…作ってきてやるよ…」
少し顔を赤らめているルルーシュを見ていると、嬉しさで抱きついてしまいそうになるが…
そして…だんだん気がついてくる…。
『黒の騎士団』とブリタニア軍との戦闘があった日には…ルルーシュは…
疑惑から…確信へと変わっていく…
「今日のお昼ごはんも屋上へ行くの?っていうか、あそこ…一般の生徒は立ち入り禁止だからロックシステムがかかっているんじゃないの?」
「あの程度なら見つからずに出入りできる…」
「あ、否、僕が言っているのはそう云う問題じゃなくて…」
でも、二人しかいない屋上…
実は、スザク自身、凄く気に入っていた。
ルルーシュと二人だけで過ごせるし、租界を見渡せる。
スザクは軍人として…その租界を守っていると思えるから…。
ルルーシュの暮らす、この租界を…
その先に見えるゲットー…見て辛くないとは云わないが…
それでも…今、できる事を精いっぱいやる…その先に、スザクの望む世界…ルルーシュとこうして笑っていられる世界を見ているのだから…
「まぁ、その辺りは見つからないから…安心しろ…。それに、最近では減ったみたいだけれど…他の生徒のいるところで食事をするのは…辛いものがあるだろう?」
以前、学園内の食堂で食事をしようとしたら…他の生徒たちに絡まれたのだ。
ルルーシュが忘れ物を取りに言っているほんのわずかな時間だった。
スザクにしてみれば、大した事じゃないと思っていたが…未だに変わらない学園の生徒達のスザクへの感情をルルーシュが気にして…スザクが学校へ生きている時には常に貼りついていたのだ。
そんな生活が続いては…スザクとしても…ルルーシュへの想いと疑惑…二つの感情に苛まれて苦しむ事になる。
―――ルルーシュ…
日に日に増していくルルーシュへの想い…
多分…愛しているのだと…ルルーシュを誰よりも大切に想い…守りたいと願っているのだと…スザクは思う。
もし、スザクの抱いている『ルルーシュが『ゼロ』かも知れない…』という疑念が…もし本当だったなら…
―――僕が…ルルーシュを止めたいのに…
「…ザク…スザク…どうした?」
昼休み、二人で屋上に来ていた。
色々な思いが…スザクの中で込み上げていた。
「あ…ごめん…。ちょっと考え事…」
曖昧な笑顔でそう答えるが…
ルルーシュの方は怪訝そうな顔をしている。
「どうした?やっぱりこの学園での生活が…辛いのか?」
ルルーシュが心配そうにスザクの顔を覗き込んでいる。
「そんな事ないよ…。ルルーシュもナナリーもいるし…。それに最近では、リヴァルも良く僕と話してくれるしね…」
「じゃあ、疲れているのか?軍と学校の二重生活なんて…」
「そんな事ないよ…。ルルーシュだよ?僕の事、『体力バカ』って云ったのは…」
くすりと笑いながらそう返してやる。
体力的に辛いと思う事は殆どない。
特派のロイド博士が無茶を言っても、セシルが止めてくれるから、確かに普通の人では辛いスケジュールかも知れないが、スザクの体力でなら平気だ。
「そうだが…しかし…」
最近、ごちゃごちゃと考えているから、ルルーシュが心配したのだろう。
申し訳ないと思いながらも…でも、ふと、妙な事を思いついた。
―――もし…僕がルルーシュを好きだって言ったら…ルルーシュは危ない事をする時間…失くしてくれるかな…
ルルーシュは多分、スザクの事を大切な友達として見ている。
恐らくルルーシュにとって、初めてできた、大切と思える他人…
「ねぇ…ルルーシュ…」
「なんだ?」
スザクがルルーシュに声をかけると、ルルーシュはいつものようにスザクに返事した。
「もし…僕が…ルルーシュの事…好きだって言ったら…ルルーシュも僕の事…僕が君を思うくらいに僕の事…思ってくれる?」
思いがけないスザクの言葉にルルーシュは目を丸くする。
恐らく…何も言えないのだろうと思う。
「ルルーシュ…僕は…君が好き…。だから…ルルーシュのいるこの学園に来たいと思っているし、君のいるこのトウキョウ租界を守りたいと思っている…」
「スザク…」
ルルーシュが驚いているのがよく解る。
それはそうだ…
親友と思っていたスザクからこんな告白をされてしまえば…
「ルルーシュ…ずっと君が好きなんだ…。7年前…君と笑い合えたとき…僕はそれを自覚した…」
そう言葉にして、ルルーシュの細い身体をぎゅっと抱きしめる。
「ルルーシュ…君の事は…僕が守る…。ナナリーもひっくるめて僕が…君を守るから…。君の全てを守るから…」
泣きそうになっているのが解る。
自分でも情けないと思ってしまうが…
「だから…僕の知らないところで…危ない事を…しないで…僕を…もう、一人にしないで…」
一方的に抱き締められていたルルーシュの腕がスザクの背中に回る。
「お前を一人になんてしないよ…。やっと…再び会えたんだ…。俺は…お前を一人になんてしない…」
ルルーシュのその言葉に…涙が出てきた。
そして…止まらない涙をそのままに…ただ…ただ…強く、ルルーシュを抱き締めた。
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