スザクはルルーシュをベッドの横たわらせるなり、その細い身体に覆い被さった。
これまで…10年近く…スザクは表に出ていく『ゼロ』として、ルルーシュは陰から支える『ゼロ』として…この世界を見続け、そして、自分たちの起こした『ゼロ・レクイエム』の罪を知ってきた。
今回のカンボジアの件でもそうだった…
そして…アーニャの一言で…二人に最大の『罰』を与えられた…
そう、『ゼロ』を知る者が生きている限り…『ゼロ』として、表舞台に立てないと云う…この世界に対して罪の償いを出来ないと云う…最大の『罰』…
「でも…今のこの瞬間だけは…それを忘れても…いいよね…?」
スザクの言葉は…同意を求めると云うよりも、同意しろ…と言う命令に近いものだ。
「ふっ…アーニャのくれた…俺たちへのちょっとした『プレゼント』と云うわけか…『罰』を受け入れる前の…」
「ルルーシュ…黙って…」
スザクがそう告げると、ルルーシュの唇からもう言葉が出てこないように…と…これまで会う事の出来なかった時間の分の口づけをそこに与える。
ルルーシュも…それに答える。
本当は…欲しくて堪らなかった温もり…
お互いが…この世界の為にと…自分たちの幸せを望んではいけないと…そう思ってきたからこそ…それさえもかなぐり捨てていた。
それが…傲慢な…自己満足だと…事ある毎に思い知らされてきても…『自分たちに出来る事が必ずある…』その思いから、彼らの想いはそちらへと向けられ続けてきた。
その、彼らに付けられていた枷は…外されて…そして、この世界の外へと放り出された事でもある。
これから先、自分たちが愛した者たちがどれほど苦しんでいようと、彼らに手出しする事は出来ない…
ただ…それを見つめ続けるだけ…
しかし、そういう『罰』もある…。
否、そちらの方が余程重い『罰』だ。
でも…今の二人にとって…この瞬間だけは…それを忘れていい…わずかな時間だ…
「ん…ぅん…」
なかなか解放されないその唇から、やや苦しそうな声が漏れる。
スザクとのキスは嫌いではない。
言葉の次に…自分を求めてくれる事を感じられる行為だから…
敵同士となっていた時でも…その、少し強引で、苦しいほどの…でも、そこには必ず優しさが含まれているそのキスが好きだった。
あの頃は…お互いに嘘をついていたから…後で…酷く切ない思いもしたし、辛いと思う事もあった。
しかし…今は…
敵同士じゃない…
同じ『罪』を共有し、『罰』を受けている同士だ…。
本当は…あの頃にこういう風になれていれば…そう思うが…今そう思ったところで、過去に戻る事は出来ないし、『罪』が消えるわけでもない。
だから…『今』を全力で受け止める…
そう決めた。
決めたとか…決めない以前に…アーニャにとどめを刺されたわけだが…
スザクの手はルルーシュの来ている白いカッターシャツのボタンを一つずつ外していく。
ルルーシュの白磁の肌…スザクは相変わらずだと思い、そっと触れる。
すると、キスを甘受しながらそのスザクの手が触れられると、ぴくりと反応する。
初めて、ルルーシュと関係を持ったのは…一体何年前だったろうと思う。
あれから…こういう時にルルーシュの反応が変わらない。
確かに、時間は経っていても変わらないルルーシュの反応…
―――確かに…回数的には…それほど多い訳じゃないんだよね…色々あったから…
嘘を吐き合っていた時も、傷を付け合っていた時も、そして…共にこの世界から名前を消すための戦いをしていた時も…ずっと求めていた…
お互いが嘘を吐いていても、傷付け合っていても、彼らの終末を求めていた時も…そのぬくもりだけは…お互いが与え合うそれだけは…真実だった…
彼らにとっての真実…
真実ではあっても…それは…確実に現実に引き戻される真実だった。
でも…今は…『ゼロ』と言う仮面を取り上げられて、彼らは、名もない時代の旅人…
これから彼らの重ねていく時間を思えば、彼らに与えられた、この時間は、恐らく、本当に束の間の夢…
そうと解っていても…それに溺れそうになってしまう…
「ルルーシュ…声を…聞かせて…」
やっと、ルルーシュの唇を開放したスザクがそう、ルルーシュの耳元で囁く。
そうして、スザクはその唇を、首筋へと落とし、首筋から鎖骨へ…鎖骨から胸へ…と、移動させていく。
その行為をしながら、ルルーシュの穿いているスラックスや下着を脱がしていく事も忘れない。
「ふ…ぅ…ん…」
スザクに与えられる刺激の為に…スザクから解放された唇から…その、スザクが望んだ声が漏れだす。
ルルーシュの腕が…スザクを放すまいと…スザクを抱き締める。
ルルーシュ自身、決して言葉に出して認める事はなくとも…同じ運命を持つ…否、ルルーシュと同じ運命を持つ事を選んでくれたスザクは…誰よりも手放したくない…伴侶だ…
心の底から思う…。
嘘を吐いた。
傷付け合った。
お互い殺し合った事もあり、そして、お互い、この世界から相手の名前を消した。
それでも決して、憎悪を抱いた事はあっても、嫌悪を抱いた事はなかった…
心のどこかで、ルルーシュを…スザクを…求めていたと思う…。
そして…二人がこの世界から名前を消して…やっと…お互いの想いを伝えあう事を許された…。
二人とも、この世界に大罪を犯した…罪人…
彼らを知る誰かは…きっと二人を…『あれは…あなたたちだけの所為じゃない…』そう言ってくれるかも知れないが…
それでも、彼らは自分たちの犯した『罪』から目を反らす事を拒んだ。
それが…彼らが決めた、彼らの中の矜持…
「っ…ふぁ…ああ…」
スザクの口が…ルルーシュのそこへと辿り着き、スザクは奥まで咥え込んで吸い上げる。
ルルーシュの身体が桜色に染まり、身体をひくひくとさせているのがよく解る。
流石に久しぶりとあって、こんな刺激にもルルーシュは過敏に反応する。
元々、敏感だった身体が更に輪がかかったような状態だ。
「ス…スザ…もう…放せ…」
いつまで経っても、スザクの口の中で絶頂を迎える事を拒もうとするルルーシュ…
それでも、スザクはそんなルルーシュを見ているのが好きで…決して放す事はしない。
ルルーシュが今、きっと涙目になって、顔を真っ赤にしている…スザクはそんな風に考えながら、更に刺激を強くすると…
ルルーシュの身体が痙攣し、そして、スザクの口の中に…ルルーシュのソレが…放出された…
スザクは何の抵抗もなく、それを嚥下する。
「バ…バカ…お前はどうしていつも…」
ルルーシュが顔を真っ赤にしてスザクに抗議するが…
そんなルルーシュの抗議など…ただ、可愛らしいだけだ。
「君だろ?あの寺院で、僕を煽ったのは…」
ルルーシュの行為の時にしか見せない…スザクのサディスティックな笑みにルルーシュの身体がふるっと震える。
「だから…責任…とってよね…」
スザクの意地の悪い笑みに…ルルーシュはただ、従う事しか出来ず…腕を伸ばし、目の前に来ているスザクの顔を両手で包んでルルーシュの方からキスをする。
スザクの中にまだ残る…今さっきルルーシュが吐き出した…ルルーシュの欲望の味がする…
「お前…何でいつも…こんなものを飲めるんだ…」
「どうしてかな…。他の男なら絶対にお断りだけど…ルルーシュだから…」
そう言いながら、ルルーシュの後孔に指を差し入れる。
1年以上も誰にも触れられていないそこは…思った以上に固く閉ざされていた。
「ルルーシュ…本当に、未遂だったんだね…安心した…」
「な…何を言っている!」
「だって…ルルーシュは無自覚に人を惹き付けるから…心配なんだよ…僕だって…」
見た目とは裏腹に強い独占欲を持つこの男…
アーニャに伝えられた『ルルーシュが襲われかかっていた』という言葉…と言うより事実に大層ご立腹らしい…
「あれは…別に…っく…んん…」
言い訳なんてさせないとばかりにスザクがそこをほぐし始める。
それを聞いた時、どれ程その相手の男を殺してやろうかと思った事か…
流石にそれをやる訳にいかなかったから、仕方なく、ルルーシュに責任を取ってもらおうと云うスザクの魂胆だった。
「あ…少しずつ…拡がってきた…」
耳元で、いつもより低い声のスザクにそう囁かれると、自分の遺志に反して身体がぴ君と反応する。
「っ…スザ…もう…やめろ…」
久しぶりに感覚にまだ、身体が慣れてこないのか…ルルーシュの表情にはまだ、苦痛の色が見えている。
「じゃあ…ここ…触ってあげる…」
そういって、決して忘れる事のないルルーシュのポイントに指を押し込んで行く。
スザクに開発された身体…スザクには隅々まで熟知されていた。
そして、スザク以外を知らない身体…
こんな思考の宝石を手にしていると思うとスザク自身も気持ちが昂ぶっていく。
「ひぁぁ…ああ…ん…そこ…ダメ…」
「感じすぎちゃう…?」
スザクの意地の悪い囁きさえも、ルルーシュの身体は反応してしまい…さらにスザクを煽る事になる。
スザクもルルーシュの身体に傷をつけたくない…そう思う心と、早くルルーシュとひとるになりたい…そう思う心が葛藤していた。
ルルーシュにとって久しぶりと言う事は、スザクにとっても同じことなのだ。
だからつい、意地の悪い事を言って、ルルーシュの気分を高ぶらせるようにしてしまうのだろう…
心の片隅では『ごめん…』と謝ってはいるのだが…それでも、ここまで来てスザク自身もコントロールが効かなくなっている。
「挿入れるよ?ルルーシュ…」
もう、聞こえているのかいないのか…解らないが…そう告げて、スザクは自分のスラックスのファスナーを緩めて、すっかり準備万端となっているそれをルルーシュの中へと挿入れて行く。
「はぁぁん…あ…あつ…い…」
「そりゃ…僕だって…男だからね…。こんな状況で熱くならないわけ…ないじゃないか…」
そのセリフを吐いて、スザクは律動を開始する…
「ルル……シュ…すごい…キツ…」
スザクのソレを締めつけるそこは…考えていたよりも狭くなっていて…少し痛いくらいで…
「ルルー…シュ…そんなに…しめない…で…」
「む…無理…だって…」
ルルーシュ自身が涙声になっている。
久しぶりに行為…久しぶりの温もり…久しぶりの熱さ…
こんなに…お互いに対して何の心配もしていない状態でのセックスは…多分初めてで…
常に、相手の何かを憂いていた…
憎んでいた…
でも、今彼らの中にあるのは…お互いがお互いを愛おしいと思う心だけ…
「ルルーシュ…ごめん…僕…」
「っ…スザク…俺…」
そうお互いが名前を呼びあった時…二人の頭が真っ白になるほど…弾け飛んでいた…
そして…二人は…そのまま、夢の世界へと入って行ったのだ…
そして…数日後の早朝…
アーニャと共にブリタニアへ帰ると決めていた日の前日だった…
「スザク…準備は…?」
「うん…出来た…」
あれから二人は話し合いを繰り返した。
これから…自分たちの身の振り方をどうするべきか…
もはや『ゼロ』の仮面は、数十年先まで封印される事になる。
だとするなら…ジェレミアのところにいる理由もない。
それどころか、二人がそろって、あの場所にいたら、ジェレミアやアーニャに迷惑がかかるかもしれないのだ…
そして…二人が出した結論は…
次…『ゼロ』の存在が本当に必要となるまで…『ゼロ』と言う存在なしで、世界が代わって行く様子を見届ける…。
その為に、世界中を旅すると…
ルルーシュは新たに偽造パスポートを作った。
ルルーシュと、スザクの分を…
そして、これまで二人が使っていた携帯電話や通信機はすべて…ここにおいて行く事にした。
持っているものは、必要最低限の衣類とほんの少しのお金だけ…
そして、黙って出ていくことを申し訳ないと思いながら…それでも、反対されても困るし、邪魔をされてもなお困る。
そっと、扉を開いて、玄関から出ていく。
外はまだ、薄暗い状態で…でも、熱帯雨林気候だけあって、その気候に違わない気温と湿度を保っている。
「……」
「ルルーシュ…?」
「あ、否…少し、心苦しい気もするが…それでも、彼らの邪魔になるよりはいいか…」
「そうだね…僕たちはもう、この世にいない筈の存在だから…」
そう、小さく会話を交わして、その家の門を出ようとした時、門の外の塀に寄り掛かっている人影に気づいた。
「あんたたち…ちゃんと…ちゃんと帰ってきなさいよ…!私が…絶対に日本を変えて見せるから…だから…」
「『ゼロ』の仮面を捨てさせたけど…私は…二人の帰る場所まで捨てさせた覚え…ない…」
無視して通り過ぎようとした時…二人の女性が彼らにそう告げた。
二人の言葉に、ルルーシュもスザクも苦笑する。
どこまでも強い女たちだと…
「ナナリーからあの、『踊り子』さんに伝言よ…。いつか…ブリタニアにもいらしてください…と…」
カレンの言葉にルルーシュは目を見開くが…すぐに目を瞑る。
あの時…成長して、綺麗になっていたナナリーの姿を見る事が出来た…。
そして、強い女性になったと…
「あと…もう一つ…。『ゼロ』は奇跡を起こす男…だから…必ず帰ってくる…って…」
二人は思う…
本当に、どいつもこいつも身勝手だと…
でも、その身勝手な事を言って貰える存在であれた事を幸せだと思ってしまう。
恐らく、これから『永遠』の時を生きる彼らにとって、彼女たちがこの世から去るまでの数十年は…星の瞬きほどもない時間だろう…。
でも、彼女たちが与えてくれた…束の間の夢…
その言葉だけを聞いて、二人は無言で歩きだす…
それが…今彼らに与えられ、彼らが選んだ道だから…
二人の女性たちは…その背中を黙って見送った…
そして…カンボジア国内の熱帯雨林の奥深く…
白装束を身に纏った男と…その胸に抱かれている遺体があった…
熱帯雨林気候であるにもかかわらず、その遺体に腐敗がない。
その白装束を身に纏った男の身体から、不思議な光を発している。
そして…何かを察知して…その白装束の男の身体から何か、青白い煙のようなものが出てくる…
そして…その青白い煙は…消えることなく、二人の少年を見送る形でしばらく、漂っていた…
そして…きっと、人間にも、『コード』を継承した彼らにも恐らく聞こえない…声で、こう言葉を出した…
―――やはり…私の目に狂いはなかった…あの者こそが…。そう…あの者が…くっくっく…見つけた…私の…
その言葉をただ一つ残し…その青白い煙が元の場所へと帰って行く…
そして、再び、その白装束の男はトリブバーナディティの…腐敗のない遺体を守るように…そっと抱きしめ続けるのであった…
END
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