心の在処


 入口を塞がれた扉は、C.C.の力で通りぬけた。
そして、あの、洞窟の出口が見えてきた。
戦闘は…まだ続いているようだが、だいぶ鎮静化されている。
「スザク…なんでシュナイゼルの軍がロイヤルガードたちを攻撃している?俺の『ギアス』に関してある程度知っているようではあったが…殆ど無差別に攻撃しているじゃないか…」
ルルーシュはロイヤルガード全てを掌握した訳ではなかった。
ただ、ルルーシュが阿野遺跡にたどり着くまでの道を開けてくれさえすればいい…つまり、時間稼ぎさえしてくれればそれで良かった。
にも関わらず、ブリタニア軍同士が撃ち合いをしている。
「それは…」
スザクが説明をしようとした時…スザクの目が変わり、周囲に警戒し始めた。
「動かないで…ルルーシュ…囲まれている…」
スザクの言葉にルルーシュがはっとする。
元々、こちらの世界に戻ってくる予定はなかったのだ。
神聖ブリタニア帝国皇帝であるシャルル=ジ=ブリタニアを、こちらの世界に戻さなければいい…その為に自分自身もあの世界に封印されようとしていたのだ。
「帰る予定がなかったからな…確かにこの遺跡は…警戒されても仕方がないな…」
ルルーシュも小声で口にしていかにも納得いくと云った感じだ。
そして、スザクがルルーシュを庇うかのようにルルーシュの前に立った。
「誰だ!」
恐らく、多勢に無勢…下手な抵抗はしない方がいいとの判断だったのだろう。
相手が誰であるのかが解りさえすれば、一度捕まったところでルルーシュとスザクがまとめて捕まるのであればなんとでもなる…そう云う判断だろう…
「枢木卿…無事、シュナイゼル殿下のご命令を果たされたのですね…」
彼らを取り囲んでいる中から…一人の人物が前に進み出た。
そして…ルルーシュもスザクもその顔を見るなりぐっと奥歯を食いしばった。
枢木神社で…ルルーシュを捕らえた…シュナイゼルの側近…カノン=マルディーニであった。
こんなところでシュナイゼルが出てくると…下手をすればルルーシュを殺されてしまう可能性があった。
少なくともルルーシュはそう考える。
そして、この状況の中…どうやって3人で逃げ出すかを画策し始める。
そんなルルーシュの様子を見て、カノンが跪いた。
「我が主、シュナイゼル=エル=ブリタニアの命により…お迎えにあがりました…ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア様…」
その言葉にルルーシュはカノンを睨んだ。
そんなルルーシュの顔を見て、カノンは深々と頭を下げる。
「その節は…大変失礼いたしました…。しかし、今のあなた様の異母兄君はあなた様の敵ではありません…。どうか…お信じ下さい。もし嘘であった場合、この私が命をかけてあなたをこの場所へお返ししましょう…」
その言葉に…何の疑いを持たなかった訳でもないが…必要なら『ギアス』を使ってでも目的を遂行する…そんな思いで、ルルーシュはカノンと共に、アヴァロンへと向かった。

 その後、あっさりとランスロットも蜃気楼も回収されていた。
そんな事はどうでもよかった。
スザクが自ら『皇帝暗殺』を命じろとシュナイゼルに進言しているのなら、スザクがシュナイゼルに報告するのは当たり前で…ここに来ているのは解る。
しかし…ルルーシュの場合は、異母弟であるとはいえ、『黒の騎士団』を率いていた『ゼロ』だ。
様々な思いを抱きながら、シュナイゼルの執務室へと案内される。
「ここからは…ルルーシュ様だけを通すよう…言われていますので…」
案内役となっていたカノンがシュナイゼルの執務室の前まで来るとルルーシュにそう告げた。
そして、カノンがその場から去っていく。
『ギアス』の事は彼も知っている筈だと云うのに…もし、ルルーシュがシュナイゼルに『ギアス』をかければ、このアヴァロンごと乗っ取れるというのに…
数歩進んだところでカノンはルルーシュを見る事もなく、こう一言だけ告げた。
「あなたの様な頭の良い方は…『ギアス』の使うべき場所を知っていらっしゃる…。今ここでこのアヴァロンを乗っ取ったところで、意味がない事も…」
全てを読まれているような錯覚を起こしそうな言葉にルルーシュはぐっと唇をかみしめる。
確かにその通りだ…。
ルルーシュとスザクが目指す『ゼロ・レクイエム』の為に…シュナイゼルに対する『ギアス』は決まっていた。
だから…ここで使う訳にはいかない。
『絶対遵守』の『ギアス』は一人に対して一回しか使えないのだ。
つまり…シュナイゼルはルルーシュの『ギアス』がむやみに使えない事は解っているし、シュナイゼルに対して『ギアス』を使うにしても、自分が助かる為に使う事は決してないと考えているのだ。
―――流石は異母兄上…俺の事をよくご存じだ…
そう思いながら…目の前の扉をノックした。
中々返事がない。
ここでイライラしていたら、シュナイゼルの思うつぼだ。
シュナイゼルと対峙するときには冷静な状態でなくてはならないのだ。
そう…シュナイゼルがルルーシュを認めているように、ルルーシュもシュナイゼルの事を認めているし、誰よりも恐ろしい敵だと思っている。
暫く待って、痺れが切れてきて、再びノックする。
すると…備え付けのスピーカーからシュナイゼルの声が聞こえてきた。
『誰かな?』
間違いなく…シュナイゼルの声…
ルルーシュはそんなシュナイゼルの声に複雑な思いを抱く。
「ルルーシュです…」
そう一言だけ告げると、先ほどの待ち時間が何だったのかと思えるほどあっさりと扉が開いた。
「やぁ…ルルーシュ…。良かった…生きていてくれて…」
シュナイゼルのにこやかな表情に…ルルーシュの顔はさらに険しくなる。
「こうして、異母兄と異母弟としてお話しするのは…枢木神社で捕まった時にモニター越しで話した時以来ですね…異母兄上…」

 ルルーシュはシュナイゼルを冷たい目で見据えているが、シュナイゼルは相変わらず何を考えているか解らない柔和な表情を見せている。
「ルルーシュ…こちらのソファに腰掛けなさい…久しぶりの再会だ…。昔、お前の好きだった紅茶も用意させてあるのだよ?」
これまでの戦いなど、忘れてしまったかのようなシュナイゼルの様子に…ルルーシュはぐっと拳に力を入れる。
「一体…何が目的なのですか?俺を『黒の騎士団』から排斥されて、あなたの手中に収まった…。今の俺にはなんの力もない…。今更気にかけるような存在でもないでしょう?」
ルルーシュの一言にシュナイゼルはそれまでの柔和な表情を崩し、悲しそうにルルーシュを見ている。
そんなシュナイゼルの顔を見て、さらにルルーシュは怒りをあらわにする。
「ルルーシュ…手荒な真似をしてしまった事に対しては謝ろう…それに、『黒の騎士団』の君に対する思いがあれ程迄に脆いものだったとは知らなくてね…」
ルルーシュは心の中で『今更何の話をしている…』と、その心が言葉に出ないように必死に自分をおさえている。
「私は…本当に君を取り戻したかっただけなのだよ…。まさか、『黒の騎士団』が君を引き渡す代わりに『日本を返せ!』などと言い出すしね…。それに、私は君を引き渡して欲しいとは云ったが、君の死体を引き渡せと言った覚えはなかったしね…」
「異母兄上…確かに騙される方も悪いですが…それは詐欺ですよ…。『ゼロ』がブリタニアの皇子と知られれば『黒の騎士団』の結束が緩み、彼らは確実に衝動的な者とは云え、俺に全ての怒りをぶつけてきます…。その大きさは…俺を殺しても余るほどの大きな怒りでしょうから…。それに加えて、『ギアス』の事まで話しては仕方ないでしょう…。まさか、あんなオカルトネタをすっかり信じ切る様な連中だったとは俺としても計算外でしたが…」
ため息をつきながら、普通に考えればさも当たり前の事を口にする。
そんな事をこの異母兄の前で言葉にしているルルーシュも自嘲してしまうが…
「まぁ…皇族の話はコーネリアもいたからね…。『ギアス』に関しては、どうやら、あの、ヴィレッタ=ヌゥの話をあの扇とか言う副指令が鵜呑みにして、彼は裏付けられてしまったようだな…。君も…幹部にはあんな古参メンバーだけではなく、もっと冷静にものを見る事の出来るものを置く必要があったんじゃないのかな?」
確かに…扇を副指令としたのは邪魔にならないから…と思ったのは事実だが…女一人でああも持ち崩すとは…と、内心呆れはしていた。
何度も命を助けた『ゼロ』よりも、自分を殺そうとした『ヴィレッタ』を信じたのだから…それはルルーシュ自身、不徳の致すところと…自分の中で自分の未熟さを認めていた。
「確かに俺のミスです…。しかし…あなたは何をなさりたい?あなたが追っていた俺はこんなところであなたと話をしている…何か、俺にやらせたい事があるから…ここに呼んだのでしょう?あなたが意味もなく人と会うなどしない筈…」

 ルルーシュの言葉にシュナイゼルは心底嬉しそうな表情をする。
「さすがルルーシュ…。だから私は君を愛さずにはいられないのだよ…。そう…君にはやって貰いたい事があるのだよ…」
その笑顔と言葉にルルーシュは全身を緊張させる。
シュナイゼルの言いたい事が…少しずつ解ってきた様な気がしたからだ。
「先ほど、彼らに『日本を返す』と云う誓約を借りとは云え、したところだ。正式な調印は明後日にでもできるだろう。ちょうどいい事に『黒の騎士団』の旗艦『斑鳩』はアヴァロンのすぐ隣にいる。そして、現在の日本代表である皇神楽耶姫も明日にはキュウシュウからこちらに到着するそうだよ…」
「あ…異母兄上…まさか…」
ルルーシュは驚愕の表情を隠せない。
この予想が外れていて欲しい…ルルーシュは切に願った。
この異母兄がルルーシュの思いつくような事はしない…そんな風に考えるが…今度ばかりはその予想が外れて欲しいと願ってしまう。
「彼らに『日本を返す』と云う約束は守るから…私はウソはついていない…。ただ…ちょっとした脚色を加えようと思ってね…」
楽しそうにシュナイゼルは語っているが、ルルーシュは背中に冷や汗を流している状態だ。
「まぁ、全世界に『黒の騎士団』は『ゼロ』の身柄と引き換えに『日本を返して貰う』と敵将と密約したという事は言ったりしないよ…。私も鬼じゃないからね…」
この段階で充分鬼だとルルーシュは思う。
「あ…異母兄上…一体…どうされるおつもりですか…」
震える声で何とか言葉を紡ぎだす。
聞くまでもない…問い…
「ただ、明日『斑鳩』に戻られる皇神楽耶姫と『超合衆国』の各国代表くらいには、事の経緯を説明する責任はあるだろう?いきなりブリタニア帝国宰相がそのような約束を果たそうと云うのだから…」
ルルーシュとは反対ににこやかに答えるシュナイゼルを見て…やはり恐ろしいと思う。
―――俺が呆けている間に…
ルルーシュはぐっと唇を噛み締める。
「ルルーシュ…ナナリーの為の『黒の騎士団』だったのだろう?」
シュナイゼルはルルーシュの核心をつく。
「だったら…作った君の手で壊してやるのも『ゼロ』の義務じゃないかな…」
確かに…その通りではあるが…しかし、『ゼロ・レクイエム』の為には必要で… 「異母兄上…俺とスザクには…まだやるべき事があります…。いずれ、『黒の騎士団』は俺の手で滅ぼします…。だから…」
「ルルーシュ…私を甘く見て貰っては困るな…。君の考えそうなことは解る…。コーネリアからもいろいろ話は聞いた…。確かにコーネリアは色々君に対して思うところはあるかもしれないが…。だから…ルルーシュがやろうとしている事を…私は止める…その為に、わざわざ神根島まで君を迎えに行かせたのだから…」
ルルーシュを捕まえたのがシュナイゼルでなければ…今になって公開する事がになるが…どれだけ抵抗したところで、確実に監禁されるだけだ。
「異母兄上…あなたは…」
「もし、ルルーシュが私の言う事を聞いてくれないというのなら…そうだな…私が蓬莱島の合衆国日本暫定首都も含めて、日本を制圧しよう…。きっと、彼らの後悔はさらに大きなものに…」
「異母兄上!」

 ルルーシュは声を荒げてシュナイゼルの言葉を遮った。
シュナイゼルは笑顔のままルルーシュを見ている。
「解りました…どうせ、日本も『返す』と云う約束はしたけれど、『二度と侵略しない』とは云っていないのでしょう?なら…俺が…」
ルルーシュの言葉にシュナイゼルがにっこりと笑って、インカムマイクを使って話し始めた。
「聞いたかな?次期皇帝にはオデュッセウス異母兄上にお願いしよう…。私はそのまま宰相の座に…」
「シュナイゼル異母兄上…オデュッセウス異母兄上でブリタニアがまとまるとお思いか?」
ルルーシュの言葉にスピーカーのを通しても向こう側の人間が息をのむ様子が解る。
確かに…そう云われてしまうと答えようがない。
「最初は…俺が即位するつもりでしたが…シュナイゼル異母兄上…あなたが即位してください…。そして…いずれ力をつけて…俺があなたから帝位を奪い取ってみせる!」
ルルーシュの言葉にシュナイゼルが満足そうに笑い、そして、マイクに向かって言葉を投げる。
「聞いたかね?枢木卿、たった今から君を私のナイトオブワンに任命してあげよう…約束通り…そして、君が一番求める国を…奪還したまえ…。どちらにしろ、『黒の騎士団』に残った者たちではあの国は治められまい…」
確かにこれまでの事を考えると、彼らに背負わせるにはかなり過酷な状況にあるのは確かだ。
『シュナイゼル殿下…あなたは一体何をお考えか?』
スピーカーの向こうから聞こえてくるスザクの声…
手荒な扱いは受けていないと判断してほっと胸をなでおろす。
「私かい?私はただ…愛する異母弟を裏切った者たちを許せないだけだよ…」
シュナイゼルがサラッとそんなセリフを吐いた。
『自分も…ルルーシュにとっては裏切り者ですが…?』
そんな言葉にルルーシュは少し悲しげな表情を見せる。
この姿をスザクに見られていない…それだけが救いかもしれない。
「ルルーシュはそんな風に思ってはいないようだが?それに、枢木神社での事は私がした事だよ…。ルルーシュ、君が騙されたというなら彼も騙された者の側に入るよ…」
シュナイゼルの楽しそうな声を聞いていると、何もできないと自覚させられているようで怒りが込み上げてくる。
―――いい加減にしてほしい…
「もう…解りました…。異母兄上…あなたの望み通り…俺が完膚なきまで『黒の騎士団』を叩き潰して見せましょう…。ですから…これ以上…余計な事はなさらないで下さい…」
その時…やっと出てきた言葉だった。


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