Special Twins4


 やがて…殆ど強引にわがままを通したという形になるが、ゼロとルルーシュは自分たちの居場所…立ち位置を明確にする為にシュナイゼルの軍へと入る事になった。
その報せを受け、シュナイゼルは複雑そうな笑顔を見せ、ナイトオブラウンズとなり、シュナイゼルの脇に控えていたスザクが驚いた顔をしている。
「まったく…君たちは…。皇帝陛下まで脅したと聞くが?」
いたずら坊主たちを見るような目でゼロとルルーシュを見ている。
「多少わがままは言わせて頂きましたが…それでも、人々は平等ではない…強い者こそこの国に必要だと言って憚らない父上です。これくらい、我儘にもならないと思いますが?」
ゼロが『やれやれ』と云った表情を見せているシュナイゼルに毅然と答えた。
そして、シュナイゼルはルルーシュの方にも目をやる。
「ルルーシュ…君は足が…」
「俺は…確かに歩く事はできませんが…チェスだけでいえば、ゼロよりも強いですよ?だったら…きっと、異母兄上のお役にも立てるかと…」
どうせ何を言っても彼らが言い出したら聞かない事は…幼い頃の彼らを知るシュナイゼルにも、エリア11で友達だったスザクにも良く解っている。
「しかし…シュナイゼル殿下…皇子殿下方は…まだブリタニアに帰ってきて間もないですし…」
スザクはなんとか二人が軍に入る事を止めようとする。
確かに、『黒の騎士団』を率いていたゼロがブリタニア軍で、味方として共に闘うというのであれば、これほど心強い事はないだろう。
ルルーシュも、ゼロよりチェスの実力が上と云う事になれば、軍の作戦などを補佐する仕事など…きっといくらでも仕事はある。
けれど…軍に入り、彼らほどの実力を持った人物に与えられる任務は…安全なものではない事は容易に察しがつく。
「枢木卿…気を使って頂いて感謝する…。でも、これは俺とゼロが話し合って決めた事だ…。自分たちの身くらい、自分で守る…。あなたの手を患わせたりはしない…」
ルルーシュがスザクにきっぱりと言い放つ。
尤も、スザクの中では『そんな事を云ったんじゃない!』と反論の嵐ではあったが、二人の真剣な目を見ていると、そうも言っていられなくなる。
シュナイゼルはスザクと双子の事情を知るだけに、何とか、自分の軍に入る…と云うのは避けて欲しかったが…
「コーネリアの軍では…ダメなのかな?」
シュナイゼルがゼロに尋ねる。
「コーネリア異母姉上の軍だと、実戦に長けている者が必要であって、私とルルーシュの様に、頭脳プレイを得意とする場合は、シュナイゼル異母兄上の下で働いた方が、きっと、お役にたてるかと…」
言う事が一つ一つ理に叶っているだけに何とも言えない。
仕方なく、この二人の申し出を受諾する事にした。
父、シャルルにしてみれば、シュナイゼルが突っぱねる事を期待していたようだが…と、傍に控えていたカノンがため息をついた。

 シュナイゼルが承諾した事で、ゼロとルルーシュが準備を始める。
スザクとしては、絶対に二人が軍人となる事は避けたかった。
そして、現主である皇帝と、詳細であるシュナイゼルのこの二人に対する溺愛ぶりを見ていれば、絶対にそれはないとタカを括っていた部分は否めない。
「ゼロ殿下…ルルーシュ殿下…。お待ちください…」
ルルーシュの車いすを押しているゼロの後を追いかけて、スザクが引きとめる。
―――そう云えば…こんな呼び方…した事なかったのに…いつの間にか板に着いてきているな…
そんな風に考えると、つい苦笑してしまう。
「なんだ?」
答えたのは車いすを押しているゼロだった。
まるで…ルルーシュを守る様に…潜在意識の中で…何かを覚えているのだろうか…そんな風に考えてしまう。
確かに、記憶そのものは書き換えられたかもしれないが、あの時の事を身体が覚えているのかも知れない…そんな風に考えてしまう。
「あなた方は…軍とはどういう場所かご存知なのですか?」
スザクは何としてもこの二人を止めようと必死だ。
しかし、ゼロやルルーシュほど言葉を巧みに使う事が出来ないから…どうしてもストレートな表現となってしまう。
「解っている…。しかし…私もルルーシュもいつまでも父上や異母兄上のお気に入りでいられるという保証はない。だとすれば…自分たちの身は自分たちで守れるだけの力が必要だ…。枢木…お前だってそんな事は解っているのだろう?この、神聖ブリタニア帝国最強騎士の一人であるのなら…」
ゼロの言葉に言葉がつまってしまう。
力がなければ…力のある者に絶対服従して生き延びなければならない。
力ある者がもっと力のある者に倒されてしまえば…倒されたものは弱い者として、服従菓子かを選ぶ事になる。
だから力が欲しい…ゼロの言っている事はその通りだ。
しかし…ゼロを再び戦場に送る…足の不自由なルルーシュを戦場に送る…それを考えるだけでスザク自身あの、『ブラックリベリオン』を鮮明に思い出してしまう。
主は…『ゼロ』に殺された…
そして、『ゼロ』を捕らえ、ルルーシュ共々引き渡せと命じられ…二人はスザクの事を知らない人間として見ている。
その事実が…スザクにとっては、切ないし、悲しい…
後悔の気持ちだってある。
だから…

 そんな風に考えているところへ、ルルーシュが車いすの方向を変えて、スザクの方へと進み出た。
「枢木卿…これは、俺達が決めた道だ…。その先、たとえ俺達が破滅する事になったとしても…それは…俺達に力がないから招いた結果として…受け止める覚悟はある…」
ルルーシュが顔をあげて、立っているスザクの翡翠の瞳を見ながら伝える。
そんなルルーシュを見て、スザクは思う…。
―――ゼロも…ルルーシュも…持つ強さは元々のものだった…僕は…もう必要がない…
スザクはそんな風に考えると複雑な笑顔を見せる。
「そ…そうですか…。それは心強い…」
多分、ちゃんと笑顔になっていないであろうことは解る。
スザクが守りたいと思っていた者達は…こんなに強かったのだ。
その強さがあったから…『ブラックリベリオン』と云う革命戦争を起こした。
もし…あの時、『ゼロ』が戦場を離れていなければ、どうなっていたか解らない…
スザクのランスロットだって、カレンの操る紅蓮との戦いで精一杯だった。
カレンの乗っていた紅蓮はフロートシステムのない…つまり空中戦は出来ないナイトメアだった筈なのに…
あの時…互角の戦いをしていたのだ。
スザクはユーフェミアが殺された事実で頭に血が上った状態でひたすら『ゼロ』を追っていた。
そのような戦士たちを集め、あれだけの組織を作り上げたのは…『ゼロ』だったからであり、ここにルルーシュが加わっていれば…確実にブリタニア軍はあの戦いに負けていたに違いないと思う。
「何を言っている…。不本意ではあるが、私が前線指揮を執っている時の私の護衛は貴様だ…」
そのゼロの一言で我に返る。
「え?」
スザクは驚いたように顔をあげてゼロを見た。
ゼロは心底『面白くない』と云った表情でスザクを見ていた。
「ルルーシュが、どうもお前の事を気に入ってしまったらしくてな…。一度、話した事があるのだと言っていたが…」
ゼロの言葉にスザクはルルーシュの方を見た。
その時のルルーシュの顔は…スザクの知る…ややおどけたような笑みを湛えていた。
「俺…あなたと話をしていて…何だか…懐かしくなってしまって…。デ・ジャ・ヴと云うのだろう?こう云うの…」

 ルルーシュの言葉にスザクは目を見開いた。
―――本当は…そんなんじゃない…そんなんじゃないんだ…ルルーシュ…
今の彼らにそんな言葉が届く訳はないが…
「で、父上と直談判して、あなたを異母兄上の軍へ配置して貰ったんだ…。今のブリタニアにはユフィもいないし…俺達の事を知る人間は少ない…。枢木卿はイレヴンだと言っていた。確かに呼び名は違うが、俺達とあんまり変わらない立場だと思ったから…」
ルルーシュはそこまで云うと、はっと何かに気がついたような表情を見せた。
「あ、でも、俺の勝手な気持ちであなたを振り回してしまって…迷惑だったか?」
スザクはそんな相変わらずなルルーシュを見て、つい泣きそうになってしまう。
『本当にお前は泣き虫だな…』
遠い昔…彼らに何度も言われた台詞…
こんな時になって思い出してしまう。
「いえ…とんでもありません…」
記憶がなくても、彼らの本質は変わっていない。
否、記憶がない分、本来の…彼らの本質の部分が出ているのかも知れないと思う。
『ブラックリベリオン』の真相や『行政特区日本』の失敗など…彼らの記憶には残っていないのだろう。
その話に関してはほとんど触れてこない。
恐らく、スザクとかかわりが深すぎる事柄なので、記憶が書き換えられてしまっているのだろう。
「しかし…いいのか?お前はユフィの騎士だろう?本当はユフィの騎士のままでいたかったのではないか?」
ゼロの質問に胸にグサッとくるものが来た。
確かに…ユーフェミアはスザクの敬愛すべき主であった。
あの時のゼロは…『綺麗事だ』と切って捨てたが…確かに『綺麗事』だったかも知れないが…それでも、彼女の理想の世界が実現できれば…親友のゼロや恋焦がれているルルーシュと何の不自然もなく…一緒にいられたかもしれない…そんな希望を持ってしまった。
だから…その話をした時のゼロとルルーシュの表情は今でも忘れられない…
きっと、ルルーシュもユーフェミアの『行政特区日本』は『絵に描いた餅』であると考えていたに違いない。
そして…結果は…
記憶が戻ったら…きっと二人はスザクを許さないだろうと思う。
結果的に、二人をブリタニア皇帝に売り払った代償に、ナイトオブラウンズとなったのだから…
そこに本人の意思がどこにあったのかなんて…その話を聞く側にとっては関係のない事だから…
そして、その当事者にさせられたゼロとルルーシュにとっても…
今ある…その結果がすべてだ。
そして、その時のスザクの気持ちがどこにあったかなど…彼らに知る術はどこにもない…

 ゼロとルルーシュのこの態度は…記憶がないゆえだと…解っている。
もし、記憶を取り戻したら…きっと…スザクを軽蔑し、離れていくだろう…
そんな事は解っていた…
でも…
「はい…殿下方の…寛大なご処置に…心から感謝します…」
そう云って、二人の前に跪いた。
ゼロもルルーシュもスザクがなんでここまで感激しているのかが解らないが…
それでも、同じ年だと知らされたナイトオブラウンズの一人である枢木スザクと云う少年に対して何だか、色々胸のざわめくものを感じたのは事実だ。
確かに、祖国からは裏切り者の誹りを受ける。
ブリタニア人にも『祖国を売って地位を得た男』と云う評価は決して消える事はない。
ゼロもルルーシュも一度は日本と云う国に渡って、7年間と云う時間を過ごしてきた。
今は…その時の事があまり思い出せずにはいるが…
「枢木…ルルーシュはこんな身体でナイトメアに乗る事は出来ない。しかし、私は必要となれば、今度ロールアウトする私の専用機で出撃する…。正直、私はお前の事は気に入らん!ルルーシュがやたらと気にするからな…」
その一言にスザクが目を丸くする。
「ゼロ!別に俺は…」
「なんだ…父上にあれだけ駄々をこねていたくせに…」
双子のやり取りを唖然として見ている。
「だが、私はお前ほどナイトメアの操縦技術はない…。だから…その…」
ゼロの言葉がどんどん小さくなっていく。
幼いころからゼロを知っているからスザクは何を言いたいのかは解る。
少しだけ、柔和な笑みを浮かべてこう答えた。
「はっ…命に代えても殿下をお守りいたします…」
スザクがそう云って頭を垂れる。
しかし、その直後にゼロがしかり飛ばすような声を上げた。
「バカ者!お前が死んでは意味がないだろう!お前に何かあれば…ルルーシュが泣くからな…だから…」
顔を赤くして…しかもルルーシュをダシにしている辺りは…ゼロらしいと思って、ついくすりと笑ってしまう。
「ゼロ…少しは素直になれば?ゼロだって…枢木卿を気に入っているんだろう?」
呆れたようにルルーシュが云うとゼロは顔を真っ赤にしてそっぽ向いてしまった。
「ふん…」
二人に記憶はないが…やっぱり、ゼロはゼロ…ルルーシュはルルーシュ…だと思った。
ユーフェミアの件に関してはいろいろ気になるところだが…ゼロの本質がこう云ったものであるのなら…何か…他にもスザクの知らない謎が隠されているのではないかと思う。
『ギアス』…今のゼロにはそれがない。
だから…大丈夫だと思える。
もし、記憶が戻って…スザクに対して憎しみをぶつけて来る日が来るまでは…二人を守って行こうと…そんな風に考えるのだった…



END



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