Special Twins


 そこは…普段なら…皇帝のみが存在するという事など考えられない場所…
謁見の間…
そこには…神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル=ジ=ブリタニアと『黒の騎士団』のリーダーである『ゼロ』を決して許さないという強い信念を持った少年、枢木スザク…そして、その『ゼロ』の正体であり、スザクと…親友であった筈の…ゼロ=ヴィ=ブリタニア…その弟、ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア…

 時は、この1日前にさかのぼる。
トウキョウ租界での激戦の中…『ゼロ』は突然、トウキョウ租界から姿を消した。
そして、C.C.の言葉通り、神根島へと向かった。
神根島のあの遺跡の前で…・ゼロは足を止める事になった。
スザクが…追ってきていたのだ…
そのまま、ゼロは捕らえられた。
そして、スザクは皇帝に直結する通信に『ゼロ』を捕らえた事を報告する。
その時に…スザクの耳に届いた命令に…スザクは驚愕する。
しかし、自分の主を殺した『ゼロ』を許す事は出来ない。
それが…幼馴染で親友であるゼロであったとしても…
迷った末に…スザクはその、下された命令を遵守した。
もし、逆らって…スザクが誰よりも大切に思う…そして、足が不自由なルルーシュを一人残していく訳にはいかないと…そう判断した。
今のトウキョウ租界…アッシュフォード学園でさえ、『黒の騎士団』の中でもかなり悪質な人間が取り押さえている状態だ。
先ほど…ただの学生たちに銃を突き付けて、殺そうとしていた男がいた事を思い出すと再び怒りでおかしくなりそうになる。
そんなところに置いておくくらいなら、何とか、ルルーシュの身柄は自分で…そう思って、スザクはランスロットでルルーシュを迎えに行った。
スザクがアッシュフォード学園のゼロとルルーシュが暮らしていたクラブハウスへと足を運んだ。
まだ、中は混乱している状態のようだが…
いつも、ルルーシュがお茶を飲んだり、スザク達と話をする時に使っていた、リビングルームへ行くと…ルルーシュが一人…車いすに腰掛けていた。
そして、誰かが入ってきた事に気づいて、振り返る。
「スザク!」
少し安心したようにルルーシュはスザクの顔を見た。
スザクはそんなルルーシュの表情に、少し複雑な笑顔を返した。
「迎えに来たよ…ルルーシュ…」

 ゼロはブリタニアの拘束服を着せられ、親友である、スザクに抑えつけられている。
「元第17位皇位継承者…ゼロ=ヴィ=ブリタニア…第18位皇位継承者…ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア…久しいな…我が息子たちよ…」
ゼロはその抑えつけられたままの状態で、父であるブリタニア皇帝を睨みつけた。
ルルーシュはゼロ程素直に怒りをぶつけるような視線ではないが…『今更何の用だ!』と云わんばかりの目で見ている。
おまけに、自分は普通の服のまま、ゼロにはブリタニアの拘束服を着せられている事にかなりの怒りを感じているようだ。
その父の目は、まるで、反抗期の息子を見るような目でゼロとルルーシュを見ていた。
そんな父の表情にゼロはさらに逆上する。
しかし、拘束服を着せられて自由に動けないうえに、スザクに完全に力で抑え込まれている。

 ルルーシュはここに連れてこられてすぐにスザクに怒りをぶつけた。
「スザク!これはどういう事だ!俺とゼロをどうする気だ!」
「ルルーシュ…ゼロは…君の異母妹君…ユーフェミア様を殺した…」
スザクの言葉にルルーシュはびくっとなるが…スザクはユーフェミアの騎士になった…そして、ルルーシュとゼロの元から離れて行ったのだ。
「知っている…そうか…俺はゼロの双子の弟…連帯責任…と云う事か…。しかし…ナナリーは!?ナナリーは関係ない…。俺とゼロが罰せられるのは仕方がない…でも…ナナリーは…」
「何を言っている!スザク…ルルーシュは何も知らない…。これは私が…一人で考えて一人でやったこと…ルルーシュには手を出すな!」
この双子のやり取り…近くで見ていて、辛かったのは事実だ。
スザクが本当に愛していたのは…自分を騎士にした皇女ではなく、目の前にいる…親友の双子の弟…ルルーシュだったから…
しかし、ここで何を言っても彼らを逆上させるだけだ…
敢えて、不本意な態度を見せた。
「さぁ…お決めになるのは皇帝陛下だ…。それに…ゼロ…君は…ユーフェミア様の仇だ…」
精一杯、冷たい瞳で二人を見下ろしていた。
恐らく、ゼロもルルーシュも…こんなスザクを見るのは初めてで…
「頼む…直接手を下したのは私だ…ルルーシュもナナリーも…ユフィを殺した事に関しての責任は何もない!」
ゼロの…必死な表情に…スザクも心が痛まない訳ではなかった。
確かにゼロの言うとおり、ルルーシュはゼロのやっていた事に気づいていたかも知れないが、直接的な関与など…なかった筈…
ナナリーに至っては、ゼロがそんな事をしていたなど…微塵も考えていなかっただろう。
常に、この双子は…ナナリーの為に守ってきた。
ゼロは…さらにルルーシュをも守ってきた。
「僕に云われても…そんな事は解らないよ…。さ、二人とも…皇帝陛下がお待ちだ…」
そう云って、二人を連れて、謁見の間の扉を開いた。

 二人を連れて、ゼロは無理矢理スザクに抑え込まれた状態で、ルルーシュは無駄な抵抗はしない…とばかり、ゼロの隣まで車いすを進めた。
「枢木…御苦労であった…。褒美だ…ナイトオブセブンの称号をそなたに授けよう…」
スザクはその言葉に驚愕の表情を隠せない。
ナイトオブセブン…ナイトオブラウンズの7番目の椅子だ。
スザク自身、そんなものは欲していなかった。
そして、双子達の驚愕の視線はスザクに向けられる…
―――自分たちを売って…ラウンズの称号を手に入れた?
その視線にやや表情を歪めるが…この状態では何を言っても言い訳にもならない。
それに…ナイトオブラウンズは皇帝の命令以外の拒否権を持つが、逆にいえば、皇帝の命令は絶対と云う事だ。
この場で…この二人を殺せなどと云う命令を下されたら…実行しなくてはならない。
それに…褒美だというのであれば…ルルーシュを守る騎士としての称号が欲しかった。
「…イエス、ユア・マジェスティ…。ありがたき幸せにございます…」
この状況では…スザクはこう答えるしかない。
二人の生殺与奪の決定権は皇帝の手にあるのだ。
ここで、下手に断ったりして、ルルーシュの身に危険が及ぶのは…絶対に避けたかった。
「枢木…もう下がって良い…。儂はこの二人に話がある…」
「しかし…よろしいので?」
ここには護衛の者さえおいていない。
と云うより本音はルルーシュの事が心配なのであるが…
「ゼロはこのように身動きは取れん。ルルーシュは歩く事が出来ない。二人に武器もない…何が出来るというのだ?」
あまりに尤もな答えが返ってきた。
「失礼いたしました…。では、何かありましたら…お呼び下さい…」
スザクはルルーシュの姿をちらっと見ながら謁見の間を後にした…。
そして…次に二人に会った時には…二人は…変わっていた…

 アリエスの離宮…
今はゼロとルルーシュの住まいとなっている。
元々この二人は皇帝、シャルル=ジ=ブリタニアの双子の兄であるV.V.に攫われ、ずっと行方を捜していた。
そして…なかなか情報もつかめないまま、エリアを広げ続け…そして、やっと、エリア11で見つけ出した。
兄のゼロはなかなかの戦略と知略でブリタニアの正規軍を翻弄していた。
弟のルルーシュは足が不自由ながら、美しく、心優しい少年に育っていた。
シャルルはこの二人の記憶を書き換えた。
二人は何者かに攫われ、エリア11での『黒の騎士団』とブリタニア軍との戦闘のどさくさの中、ブリタニア軍に保護された…と云う風に記憶を書き換えられた。
大方間違ったものではないのだが…その記憶の中に…ゼロが『黒の騎士団』のリーダーの『ゼロ』であった事、スザクの手によって、捕らえられた事はなくなっている。
そして…ナナリーに関しても、二人の元から引き離され、ナナリーの名前はナナリー=リ=ブリタニア…つまり、コーネリアやユーフェミアの妹としての記憶を植え付けられた。 ―――ドタドタドタ…
ドアの向こうからなんだか騒がしい足音が聞こえてくる。
その足音はどんどん近付いてくる。
―――バァン…
「ゼロ!ルルーシュ!」
そこには…二人の異母兄であり、神聖ブリタニア帝国宰相であるシュナイゼル=エル=ブリタニアが息を切らせて二人を見つめている姿があった。
「「シュナイゼル異母兄上…」」
双子達はその、シュナイゼルが汗だくになってここまで走ってきたであろうことを予想させるその姿に目を丸くする。
「ああ…二人とも…。エリア11で見つかり、アリエスの離宮に戻ってきたと聞いて…。済まなかったね…7年もの間…見つけ出す事が出来ずに…」
その、次期ブリタニア皇帝の座に一番近いと言われる男が…ゼロとルルーシュの前で涙を見せた。
二人とも驚いて、言葉を失うが…先に口を開いたのはルルーシュの方だった…
「異母兄上…ご心配をおかけして…申し訳ありませんでした…。俺達は…こうして、帰って来る事が出来ました…」
ルルーシュの言葉にシュナイゼルがひしっと車いすに座るルルーシュを抱き締めた。
「良かった…良かった…君たちが無事で…。これからは…私が君たちの後見をする…。二度と…あんな風に君たちを失わないように…」
「シュナイゼル異母兄上が…私たちの…?」
ゼロがやや驚いたようにシュナイゼルに聞き返した。
これまで、皇族は貴族の後見をつける事はあっても、自分の兄が…まして、皇位継承争いのライバルと云う立場になる相手の後見をするなど稀な話だ。
―――確かに…私たちは皇位継承争いに巻き込まれる事は少ない…。異母兄上のお気に入りでいられるうちは…ルルーシュの安全のためにも…
ゼロはそう考える。
たとえ、このアリエスの離宮に帰ってきたからと云って、身の保証が完全にされる訳ではないのだ。
だとするなら…ゼロ自身が力をつけるまではルルーシュを守る者が必要だ…そう考えた。
「ありがとうございます…異母兄上…」
ゼロがにっこり笑ってシュナイゼルにそう答えると、シュナイゼルは上機嫌でゼロにも抱きついてきた。
「ああ…君のそのきつい瞳も、ルルーシュのやさしげな瞳も…やっと…私の手の届くところへ戻ってきてくれたのだね…」

 結局、シュナイゼルは自分の側近であるカノンが『帰りたくない』と泣きわめくのを無理やり双子から引き剥がして連れて帰って行った。
「異母兄上…お元気そうだ…」
「昔からルルーシュをいつも自分の宮に連れて行ってしまうから…お前を連れ戻すのに骨を折ったくらい、お前の事を気に入っていたからな…」
「何を言っているんだ…シュナイゼル異母兄上はそうやって、ゼロの事の興味を引いていたんじゃないか…。シュナイゼル異母兄上は確かに俺を構うのが好きだったけれど、俺をおもちゃにゼロで遊ぶ…と云う感覚だったんじゃないのか?」
「お前をおもちゃにだと!シュナイゼルめ…私のルルーシュをなんだと思っているんだ!」
そんなやり取りの後で必ず二人が笑いあう。
そして、ゼロがルルーシュの車いすの前に跪いてルルーシュの膝に手を置いて、ルルーシュの顔を見上げた。
「ルルーシュ…お前の事は…私が必ず守る…。だから…絶対に私から離れるな…」
そう云ってルルーシュの唇にゼロのそれを押し付けて行く。
「…ん…ぅん…」 騎士としての誓いのキス…と云うには深すぎる…
でも、ルルーシュは決してそれを拒む事は出来ない。
ルルーシュが本気で嫌がれば絶対にゼロは無理強いはしない。
そして、いつでも、ルルーシュを守ってくれる…ルルーシュ自身、ゼロから離れたくない…そんな思いを抱いている。
ゼロがルルーシュの唇から離れていくと…ルルーシュの白いその顔はまるで桜の花の様な薄ピンクに染まっている。
「ルルーシュ…愛している…」
ゼロに耳元でそう囁かれ…ルルーシュはさらに顔を赤く染めていく。
そんなルルーシュの姿にゼロはくすりと笑いながら自分と同じ色の髪を持つ弟のさらさらしたその感触を楽しむ。
「ゼロも…異母兄上も…俺の事…いつも子供扱いして…」
少し脹れっ面をしてルルーシュが自分の頭を行ったり来たりしているゼロの手を奪い取る。
―――そんな風にすぐに膨れるからいじめたくなってしまうのにな…
そんな事を云ったらさらにへそを曲げてしまうだろう事が予想出来ているのでゼロはその本心は口にしない。
でも、そんなルルーシュが愛おしくてたまらないという表情でルルーシュを抱き上げる。
「ゼロ?」
「一緒にシャワーを浴びよう…なんだか、どこかの犬が紛れ込んでいるようだし…」
ゼロの意味深な発言にルルーシュが身体をこわばらせる。
エリア11に連れ去られる前にも…そう云った事はこのアリエスの離宮内で起きている。
彼らが攫われる少し前…彼らの生母であるマリアンヌ皇妃がこの離宮で殺されていたからだ。
「解った…ゼロ…」
今はゼロに従った方がいいとルルーシュが踏んだのか、そう答えた。
そして…ゼロはルルーシュを抱いたまま、バスルームへと向かって歩いて行った。

 その部屋の窓の外に…一人の少年が立っていた。
二人がブリタニアに還って来る事になるきっかけとなった張本人…
「まったく…僕は一体何をやっているんだ…」
さっきのゼロの言葉…恐らく、誰と限定している訳でもなく、ここに人がいるという事に気づいたのだろう。
エリア11では、『黒の騎士団』が敗れ、多くの団員が鹵獲された。
そして、リーダーである『ゼロ』は死亡したと発表され、現在はエリア11駐在のブリタニア軍が全力で残党狩りをしている。
自分の主はユーフェミア皇女からブリタニア皇帝に代わり、そのユーフェミアの仇を執る事も出来ず…そして、自分が恋焦がれていたルルーシュは奪われた。
「ルルーシュ…」
スザクはその場で…ぎゅっと拳を握り、この状況の自分の置かれている場所を…ただ…呪いたくなっていた…


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