僕たちの学園生活編(後編)


 ルルーシュの両親も揃ったところで、派手にパーティーが始まった。
大体、お祭りと云うとすぐに集まりたがるこの一族だ。
―――多分…父さんの遺伝子は優性遺伝とみた…
ルルーシュはそんな風に思ってしまう。
「ルルーシュ…どうしたんですか?そんなに浮かない顔をして…」
話しかけてきたのは、ピンクの魔女の恰好をした一番年の近い異母妹、ユーフェミアだった。
ユーフェミアはコーネリアと同母姉妹だ。
「あ…いや…。シュナイゼル異母兄さん、コーネリア異母姉さん、クロヴィス異母兄さん、それにユフィまで集まる事ってあんまりないだろ?準備にちょっと疲れたと云うか…なんと云うか…」
確かに疲れはある。
あのお祭り好きの生徒会のお陰で、今週、ずっと、お菓子教室などをやらされていたのだ。
本当なら、ナナリー、スザク、カレンと楽しめればいいと思っていただけに…。
「ルルーシュは、いつも完璧主義過ぎるんですよ…。私、ルルーシュの作ったお菓子やお料理、大好きですけれど…一番好きなのは、ルルーシュの笑った顔ですし…。そうだ!来年からは私も何か持ってきますね…」
ユーフェミアが料理など出来るとも思えなかった。
コーネリアがユーフェミアを溺愛しており、ルルーシュがナナリーに何もさせないのと同じように、コーネリアもユーフェミアには何もさせないのだ。
ルルーシュはやや複雑だったが、それでもその気持ちが嬉しかった。
「ありがとう…ユフィ…」
ルルーシュのその優しい笑顔にユーフェミアの顔は花が咲いたようにほころんだ。
その兄妹の様子に嫉妬の眼差しを向けている人間がその場には…と云うか、この状況にヤキモチを焼かずに見ていられるのは恐らく、妹のナナリーと母のマリアンヌくらいのものだろう。
「ルルーシュ…今回の僕の衣装…デザインがいいだろう?僕がデザインしたんだ…」
そう割り込ん出来たのはクロヴィスである。
この異母兄もルルーシュを溺愛し、いつも負けると解っているチェスに挑ん出来ていた姿に、ルルーシュもちょっと意地悪をしたくなって、毎回、コテンパンに負かせていた。 「クロヴィス異母兄さん、今日はハロウィンですよ?なんで、そんな、白馬の王子様スタイルなんですか?」
「僕にお化けをやれと?無理に決まっている!」
クロヴィスの答えにルルーシュは軽くため息をつき、その後クスッと笑った。

 当のルルーシュはと云えば、ミスターバンパイヤの恰好をしている。
これは、シュナイゼルが勝手に決めた衣装で、突然送りつけてきた。
「シュナイゼル異母兄さん、なんで今年はいきなり衣装を送りつけてきたんです?どうせ、どんちゃん騒ぎをするんですから…自分で用意しましたのに…」
ドラキュラ伯爵の恰好をしているシュナイゼルを見つけてそう声をかける。
「いいじゃないか…。何となく、特別な繋がりっぽく見えるだろう?」
この異母兄も何を考えているんだか…と云った思いを隠せずにルルーシュの顔には呆れた表情が浮かぶ。
「ナナリーの衣装も用意して下さった事には感謝しますけれど…。一応…俺、途中までは作っていたんです…。今年は時間が足りなくて、仕上げられそうになくて…困っていたのですが…。ありがとうございました。」
毎年、ナナリーのハロウィンの衣装はルルーシュが作っていたのだが、今年は、あの生徒会のバカ騒ぎのお陰で時間が取れなくて途方に暮れていたのだ。
ナナリーにはチェリーデビルの衣装がルルーシュの衣装と一緒に送られていた。
ナナリーはさっきから、恐らく、ユーフェミアに無理矢理着せられたのだろうと予想される、天使の恰好をしているコーネリアと話している。
スザクは白いワイシャツと黒のスラックスにダークマントを羽織り、カレンはシスターの恰好をしている。
当の、先ほど、明るく入ってきた父はオレンジ色のカボチャをイメージする衣装を身につけ、母はウィッチレディの恰好だ。
成人しているメンツは既に、それなりのアルコールが入っており、かなりデキあがってしまっている。
「母さん、これだけの人数、うちでは泊められないですよ?」
「まぁまぁ、心配しないで…。社長は私がホテルまで連れていくし、シュナイゼルはカノンが迎えに来るらしいし、コーネリアもギルフォードが来てくれるそうよ…。クロヴィスはジェレミアに送らせるわ…」
「ジェレミアって…今どこにいるんですか?」
ジャレミアとは母の部下の男で、いつも、マリアンヌの仕事についてくる。
時々、このマンションにもルルーシュ達の様子を見に来て、その度に色々と世話を焼いてくれる。
「今は、地下の駐車場にいるわ…。多分、車の中で寝ているか、近所の喫茶店でコーヒーでも飲んでいるんじゃないかしら…」
母のあっけらかんと云う言葉にルルーシュは少々呆れてしまう。

 そして、携帯電話を手に取る。
『もしもし…』
受話器の向こうからジェレミアの声がする。
「ジェレミアか?ルルーシュだ…。今どこにいる?」
『ル…ルルーシュ様…。今は、ルルーシュ様のマンションの地下駐車場におります。』
「そうか…ならすぐに上がって来い!ロックを解除するから…」
ルルーシュはそう云って電話を切った。
「母さん、少しは部下を大切にしてあげて下さいよ…。あんなところで一人で待たせるなんて…」
「だって…ジェレミアがいいって云うんですもの…」
「そりゃ、口だけで云ったんじゃ、遠慮もするでしょ…。どうせ、今のままだと来ないでしょうから…俺、迎えに行ってきますよ…」
そう云って、上着を羽織る。
その様子に気がついたスザクとカレンが、ルルーシュに近づいてくる。
「ルルーシュ…どこへ?」
「地下駐車場に行くだけだ…。スザク達は異母兄さんたちと話していたんだろう?気にしなくていい…。すぐに戻って来るから…」
「ルルーシュが行くなら…私も行く!ここ最近、スザクに邪魔されて二人でいる時間が少ないもの…」
そのカレンの言葉にスザクがむっとする。
「カレン…二人になってもルルーシュを襲ったりするなよ…」
ぼそっとスザクがカレンに嫌味混じり呟いた。
「安心して…あんたとは違うから…」
そう云って、ルルーシュはカレンと一緒に出て行った。
「スザクさん…よろしかったんですか?お兄様…行っちゃいましたけど…」
ナナリーがスザクの後ろから声をかける。
「え?何が?」
「だって…スザクさん、お兄様の事…」
この子はこんなに大人しそうな顔をしていて、なかなか鋭い。
―――ルルーシュより、ナナリーの方がよっぽどカンがいいや…
「ナナリー…何を想像しているのかは知らないけど…」
スザクが何とかごまかそうとして、ナナリーに否定しようとするが、すぐにその言葉はナナリーに遮られてしまう。
「お兄様がカレンさんとお付き合いしているのは知っていますけれど…。でも、スザクさんだって…。別に、あのお二人の邪魔をする気はないんです。ただ…何もしないで、悩んでいるスザクさんが…辛そうだから…」
「ナナリー…」
スザクはこの時、ルルーシュにナナリーの爪のアカを煎じて飲ませてやりたいと云う衝動に駆られた。
ナナリーの勘の鋭さの半分でもルルーシュにあれば…
「ナナリー…ありがとう。僕は、とりあえず、ルルーシュの役に立ちたいと思っているだけだよ…。確かに、ルルーシュの事は好きだけど…。でも、今はルルーシュが笑っていてくれればいい…」
「スザクさん…」
ナナリーは心配そうな表情でスザクを見る。
「大丈夫…。どうしても、辛くなったら…そうだな…一緒に出かけて、慰めてよ…」
そう云って、スザクはナナリーに笑いかけた。
ナナリーもその表情を見て、やや複雑な思いもあるが、柔らかく微笑んで頷いた。

 10分も経たず、ルルーシュとカレンがジェレミアを連れて戻ってきた。
「こ…これは、ナナリー様…ご無沙汰しております。」
そう云って、ジェレミアがナナリーの前で跪いて挨拶する。
「ジェレミアさん、そんな風になさらないで下さい…。お元気そうでなによりです。お母様の事だから、とても大変でしょう…」
そう云って、ジェレミアに微笑みかける。
「いえ…そのような事は…」
そんな様子を見ていたルルーシュが二人の間に漂っている空気に割り込んでくる。
「とりあえず、ジェレミア、何も食べていないんだろう?ビュッフェ方式で、みんなが食い散らかした後だけど、食べてくれ…」
冷蔵庫から、ノンアルコールのドリンクを取り出し、グラスに注いでジェレミアに渡してやる。
「あ、すみません…ルルーシュ様…ありがとうございます…」
「あら?ジェレミアさん…ご無沙汰しておりますわ…」
グラスを受け取ったと同時に声をかけてきたのがユーフェミアだった。
「こ…これは、ユーフェミア様…ご無沙汰しております…」
挨拶だけでも大変である。
ジェレミアのまじめさがこう云うところで発揮され、最終的には、全員にあいさつして回っている。
これでは何の為にルルーシュが連れてきたのか…と、その様子を見ていてマリアンヌは思うのだが…。
それでも、ジェレミア自身、それほど苦痛を感じているようには見えないし、意外と楽しんでいるようにも見えるので、一応、安堵の色を見せる。
部屋の中は賑やかで…
「ねぇ…ルルーシュ…」
マリアンヌがふとルルーシュに声をかける。
「なんですか?」
いつの頃からか、ルルーシュは母であるマリアンヌに対しても『です・ます』調で話すようになっていた。
普段、せめて母親であるマリアンヌが傍にいてやらない所為もあるかもしれないと、多少、心苦しさを感じていた。
普段は言えない事でも、ハロウィンとは、本来、ケルト族の祭りで、ケルト人にとって、この日が1年の締めくくりの日である。
1年の最後の日…なら、母親らしい事を云ってもいいかも知れない。 今年の大みそかに帰って来られる保証がないのだから…。 尤も、ルルーシュがその事を知っているのかどうかは知らないが、マリアンヌはそんな事を思い出した。
「ホント、あなたはいい子に育ってくれた…。スザク君やカレンちゃんがきっと、あなたにいい影響を与えてくれているのね…」
ルルーシュは突然の母の言葉にびっくりした表情を浮かべる。

 マリアンヌはそんなルルーシュを見て、クスッと笑う。
「大事にしなさいね…。あの二人はとてもあなたの事を大切にしてくれてる。ナナリーの事を心配するのもいいけれど…そろそろ、妹離れ…始めた方がいいと思うわ…」
「いきなり何の話ですか…。俺にとって、一番大切なのはナナリーです。今までも…そして多分…これからも…」
「あ〜あ…やだやだ…そう云うのをシスコンって言うのよ!」
ルルーシュの言葉にマリアンヌが呆れたように返してきた。
「何が云いたいんです?誰かをからかいたいなら…」
ルルーシュがそこまで云いかけて、マリアンヌがルルーシュの口元に人差し指を当てる。
「ルルーシュ…確かに私はあなたたちに母親らしい事はしてないけれど…心配はしているのよ?ナナリーだってそのうちに素敵な彼氏を見つけて、自分の世界へ飛んで行っちゃうのよ?ルルーシュ、あなたはあなたの為の世界を作りなさい…。でないと、あなたに対する幸せが全部逃げちゃうわよ!」
「……」
スザクとカレンがシュナイゼル達と笑いながら話している。
スザクもカレンも、ルルーシュの事を大切にしてくれているのは解る。
ただ、自分がそれに対して、何を返せているかが解らない。
と云うか、彼らがルルーシュをあんな風に大切にしてくれる理由が解らない。
「ね、ルルーシュ…もっと、スザク君やカレンちゃんと真正面から向き合ってみなさいな…。確かにうちの事情はめんどくさい以外の何物でもないけれどね…。でも、スザク君に至っては、あんたが、昔、一族の騒動に巻き込まれそうになった時、助けてくれたでしょ?あれで懲りるかと思ったら、今でも友達でいてくれているのよ?だから、大丈夫よ…。カレンちゃんも多分、スザク君と同じだと思うけれどね…」
「でも…ナナリーは…」
「だぁいじょうぶ!ナナリーはナナリーで自分の足で歩かなくちゃいけないのだし、ほら、ユフィと話しているナナリー…とても楽しそうでしょ?大丈夫…ルルーシュ…あんたはもっと、自分の為に頑張りなさい!」
母がいきなりこんな事を云い始めた理由…その発端となったのが何だったのかを知ったのはそれから数日後、ネットでたまたまハロウィンの話題の書かれていたサイトを見た時だった。
「解りました…。どうしたらいいか、解りませんが…ナナリー離れに関しては…出来るだけ善処します…」
そう云って、ルルーシュはスザク達の会話の輪に入って行った。
マリアンヌはそんなルルーシュの後ろ姿に、『やれやれ』と思う気持ちと、『あの優しさは美徳なんだけど…』と思う気持ちを抱いていた。
「マリアンヌ様…ご苦労されていますね…」
「コーネリア…あの子の事…お願いね…。どうも、父親に似たのか…不器用で…」
「そんな事言ったら、ルルーシュに怒られてしまいそうですね…。あの激甘な父と似ているなんて…。確かにナナリーに対しては通じるものを感じますけれど…」
そう云いながら、マリアンヌはコーネリアとグラスをカチッと音をたてた。


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