僕たちの学園生活編(前編)


 今年もこの時期が来た…
ルルーシュはそんな思いでカレンダーを見る。
もうすぐ、ハロウィン…
この日は…とにかく、ルルーシュの周囲は大騒ぎになる。
生徒会のお茶の時のお菓子を持っていくのは、今ではルルーシュが持っていく事が当たり前…
同じ生徒会のリヴァルが変にルルーシュがお菓子を作る事をそこら中にばらまく為に、ハロウィンの日には『先着●名様』と云う限定をつける事をやっと取り付けたが、それでも相当数のハロウィン用のお菓子を請求される。
おまけに、この時期になると何を置いても、あの多忙の両親と兄弟姉妹たちがルルーシュのマンションに集まるようになっていた。
ちょうど、ナナリーの誕生日が近いと云う事もあるのだが…。
「今年は…何人分になるんだ…」
とにかく、1週間くらい前から準備を始めないと、とても間に合わない。
労力が半端じゃないから、今年はちょっと変わった趣向でやりたいと、ミレイ会長には云ってある。
そうしたら、あのお祭り好きの会長は快く了承してくれた。
ただし、材料の準備はすべて…ルルーシュに任されたのだが…
生徒会からの要求の場合は、その分の予算は生徒会から降りる。
いくら、ルルーシュの父が大企業の社長とは言え、ルルーシュに金銭的余裕がある訳ではないし、そんな…たかがお祭りの為にルルーシュだけが負担をすると云うのは筋が違う。 ―――本当は、俺の労働の分の報酬も欲しいところだが…
そう思いながら、外出の準備をする。
「スザク…そろそろ出かけるぞ…」
そう云って、同居人のスザクの部屋の前で声をかける。
すると、スザクはすぐに部屋から出てくる。
久しぶりのルルーシュとの外出でご機嫌らしく、スザクの頭にはピンと張った犬耳と腰のあたりにはぶんぶん振っている犬の尻尾が見えるようだ。
「準備出来たよ…。ルルーシュも毎年大変だよね…」
そう云いながらも、ルルーシュとの外出にご機嫌らしい。
「ああ…。あとは…公園の噴水の前でカレンが待っているから…」
その一言にスザクの機嫌が急降下する。
スザクの機嫌の急降下に気づいたルルーシュはやれやれと息を吐く。
「仕方ないだろう…。今年もとんでもない量を作らなければならないんだ…。荷物持ちは多いに越した事はない…。恨むなら、俺にこんな仕事を作り上げたリヴァルを恨めよ…」
スザクとカレンがルルーシュの事となると、一触即発になる事は解ってはいるが、他に頼める者もいないし…
下手に異母兄のシュナイゼルにでも頼んだ日にはスザクは更に機嫌が悪くなるし、シュナイゼルの事だ…あのド派手な車でルルーシュを連れ回すに決まっている。

 ルルーシュとスザクは二人で公園の噴水の前まで歩いていくと、後ろからカレンに声をかけられる。
「ルルーシュ…スザク…」
このスリーショット…実は物凄く目立つ。
ルルーシュ、スザク、カレン、それぞれが一人でいても十分目立つのだが、この3人がそろうと、まぁ、云わずもがな…
3人で歩いていても、各自、ナンパされるのは当たり前で…『連れがいる』と云っても、他の二人まで拉致しようとする輩さえいる。
「とりあえず、デパート行って、パンプキンパイの材料…揃える…。予算は生徒会に請求するから…」
「で、今回も手わけするの?」
「個々の材料が膨大な量だからな…。手分けした方がいい気がする…。いっそ、面倒でも、シュナイゼル異母兄さんに車を出して貰った方がよかったかな…」
ルルーシュのその一言にいち早く反応したのが、スザクだった。
「ダメだ!ルルーシュ!僕がちゃんと荷物持ちするから!」
スザクはルルーシュの父や異母兄たちがルルーシュを溺愛している事を知っているのだ。
スザクにとっては、ある意味、カレンよりも、ルルーシュの身内の方が厄介な存在だ。
「じゃあ、それぞれ買い物が済んだら、また、ここに集合な…」
この言葉にはスザクだけではなく、カレンも反応した。
「ルルーシュ!あんた、まだ懲りていないわけ?あんたが一人で歩くと、老若男女問わず、ナンパされて、ちょっと買い物するだけでも1時間以上かかるじゃない!」
「そうだよ!そのうちに本当に拉致されちゃうよ!ルルーシュには僕が…」
スザクのその言葉にカレンが反応する。
「何言ってるのよ!この世でルルーシュにとって一番危険な相手はスザク…あんたよ!」
ルルーシュも気づいていないスザクの本心を察知しているカレンがスザクに対して怒鳴りつける。
仮にもここは休日のデパ地下である。
周囲には数多くの人々がいる。
この二人は、周囲を取り囲んでいるギャラリーなどお構いなしである。
「カレン!僕をなんだと思っているのさ…。それに、君の細腕じゃ、ルルーシュを守れないだろ?」
どんどん趣旨の変わっていく二人のどなり合いに、ルルーシュ自身、げっそりとしながら見ている。
「おい…スザク、カレン…俺、先に買い物行くから…。とりあえず、材料は、端から探して買うから…終わったら追いかけてくれ…」
そう云って、ルルーシュはそのギャラリーの人だかりを縫うように脱出して、カートにかごを二つ置いて、売り場へと向かった。
―――この二人に荷物持ちを頼むのは…もうやめよう…。来年は…リヴァルあたりに頼むか…

 結局、買い物そのものはルルーシュ一人で済ませ、レジで会計しているところに血相を変えたスザクとカレンがルルーシュを見つけた。
「ルルーシュ…ごめん…」
「あっ…終わったのか…。荷物、流石に全部は持ち帰れないと思っていたんだ…」
ルルーシュがやや呆れたように二人を見る。
いつもの事で、慣れているとはいえ、まさか、デパートの人の往来で派手にやってくれるとも思っていなかったので、ルルーシュはさっさと買い物を済ませようと考えた訳で…。
シュナイゼルにつき合わせても、後が大変だし…と、スザクとカレンに頼んだのだが…。
どちらか一人でももめるし…。
ルルーシュはルルーシュで気を使っていたのだ。
「とりあえず、疲れたから、どこかで、休まないか?これだけの荷物はあるんだが…」
まるで、業務用の材料の様な量のパンプキンパイの材料だ。
とりあえず、そのカートごと地下のイートインの店に入る。
「今年はいくつ作るの?それだけの量…一般住宅のキッチンで作れないでしょう?」
「ああ…会長が調理室を確保してくれたんだ。それに、今年は俺が作るんじゃないからな…」
「え?今年はルルーシュが作るんじゃないの?」
何だかがっかりしたような表情でルルーシュを見るスザクに、ルルーシュはやれやれと言った表情でスザクを見る。
「お前なぁ…俺は、スイーツショップをやる訳じゃないんだ…。去年は先着30人としたが…その中にお前とカレンまで混じっていたからな…数が足りないって苦情が来たんだよ…」
「ああ…ルルーシュのお菓子、おいしいからね…。去年、ゲット出来なかった子が男女問わずに悔しそうだったけど…」
カレンが去年の出来事を他人事のように喋っている。
「他人事みたいに言うな!お前らにはちゃんと他に準備していたのに、そっちの分までゲットしようとするから…。まぁ、どの道数が少ないって苦情は来たんだろうが…」
ルルーシュが去年の事を思い出してぶつぶつ言っている。
「で、今年はルルーシュが作らないで、誰が作るの?」
スザクが尤もな疑問を投げかける。
「今年は、欲しい奴が作る…。俺が教えてやるから…って事で…。これも先着順だがな…」
「でも、絶対に希望者が殺到するわよ?」
これまたカレンが、もっともな疑問を投げかけた。 「ハロウィン当日にはやらない…。前日までにさばく…。俺だって、祭りの時くらい、ちゃんと楽しみたいからな…」
「で、限定は何人?」
「一応、一日当たり、25人で4日間…当然だが、スザクとカレンは遠慮しろ…」
去年の大変な事態を考えると、この二人には遠慮して欲しい。
その一言に二人が一気に機嫌が急降下する。

 二人の表情の変化にルルーシュがやれやれと言った表情を見せる。
「お前たちは、どうせ、当日、俺のうちで騒ぐんだろ?多分、父さんや異母兄さんたちがいるとは思うが…」
そう云いながら、オーダーした紅茶を口にする。
二人がきょとんと顔を見合わせる。
「お祭り騒ぎなんだ…大人数の方が楽しいだろ?それに、ナナリーもその方が喜ぶ…」
この二人をなだめるのはいつも大変だ。
二人ともルルーシュを好きでいてくれる事は解っているのだが…。
それでも、あの、ルルーシュを溺愛する父や異母兄の大きすぎる愛情に加えて、すぐ暴走するこの二人の愛情表現をなんとか、宥めるのは大変である。
「それに、なんでそこでスザクが驚くんだよ…。お前、俺のうちで生活しているくせに…」
「私も…行って平気なの?」
カレンがおずおずと尋ねてくる。
「カレンがいいならな…。帰りは…俺が送っていくから…」
「ダメよ!ルルーシュが一人、夜道を歩くのは危険よ!」
「そうだよ!カレンなら僕が送っていくから!と云うか、カレンなら一人でも大丈夫だし!」
ここは二人の意見が一致したらしい…。
しかし、今のスザクの一言にカレンがカチンときたらしい…
「スザク…あんた、いちいち、私に喧嘩を売ってるの?なら、高く買ってあげるけど?」
「別に…それはカレンの捉え方だろ?そんな風に勇ましいから一人でも大丈夫なんだよ…」
ルルーシュはこの二人のやり取りにただ、ため息をつくしか出来ない。
結局、彼らが気が済むまで放っておく事になるのだが…。
結構大変なのだが、横やりを入れたとしても、どうせ同じ事を繰り返すだけだ。
とりあえず、時計を見ながら、そのまま放っておく事にした。

 ハロウィン当日…
前日までの生徒会主催のお菓子作り教室の疲れが残ったままであるが…
ルルーシュの予告通り、ルルーシュとナナリーの暮らすマンションにはルルーシュの両親、異母兄姉妹が揃う事になった。
そこに、スザクとカレン…。
ルルーシュの中で、この状況下で傍にいて一番安心出来るのはナナリーの傍の様な気がする。
個人的には悪い人間ではないのだが、こうしたメンツが集まった時に厄介だからである。
「あれ?父さんは?」
「まだ来ていないみたいですね…」
「来なければ来ないで、多少は平和なんだけれどな…」
既に、ルルーシュを溺愛する異母兄姉弟が揃って、スザクとカレンがいて…見えない火花が飛び交っているのが解る。
ナナリーもそれが解るのか…
「なんだか…花火大会みたいですね…」
と楽しそうに笑っている。
ルルーシュはナナリーの方がこんなに愛らしいと思うのがだ、彼らは何故にこうもルルーシュに構いたがるのだろうか…。
―――ピーンポーン
「あ、お父様かもしれませんね…」
ナナリーがそう云って、インターフォンをとった。
「はい…」
『とりっくおあとり〜〜〜〜とぉぉぉぉぅ!』
「キャッ…」
インターフォンの向こうから聞こえてくる素っ頓狂な声の主にナナリーは驚いたようである。
そこですかさずルルーシュがインターフォンを取り上げる。
「ナナリー…大丈夫かい?いいから、異母兄さんたちのところへ行っていていいよ…」
「は…はい…」
そういって、ナナリーが異母兄姉妹のところに行くのを見届ける。
「父さん…今、開けますから…」
そう云って、ロックを外すと、気合の入った仮装をして入って来るなりルルーシュに抱きついてくる。
「ルルーシュぅ…久しぶりだな!パパは会いたかったぞ!」
「と…父さん…放して下さい…異母兄さんたちもいますから…」
この微笑ましい(?)父子の再会をここにいるメンバーが全員呆然と眺めている。
「だ…誰か…父さんを何とか…」
力いっぱい抱きつかれていて、苦しそうに声をあげているルルーシュにいち早く反応したのが、スザクとカレンだった。
「「お義父さま!ルルーシュを放して下さい!」」
完全なるユニゾンにその場にいたルルーシュも、他のメンバーもキョトンとする。
「お前ら…実は凄く仲がいいんだな…」
父親に抱きつかれたまま、ルルーシュはスザクとカレンの方を見て呟いた。
ともあれ…全員そろったと云うところで、パーティーの開始である。
このメンバーで何が起きるのやら…
内心、ルルーシュの気持ちの中に、一抹の不安を覚えない訳に行かなかった。


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