見えない明日


 『ゼロ・レクイエム』の後…疲弊した世界は…混沌とした闇に落ちた。
たった一人の独裁者を否定し続けてきたはいいが、その先の未来に展望を開いている者がいなかった。
神聖ブリタニア帝国と云う国は世界中に『植民エリア』を持っていた。
自らの国の国力を背景に、力で手に入れてきた。
ルルーシュが皇帝に即位した直後、それらの『植民エリア』をすべて解放した。
それ故に、一部の者を除いてはルルーシュ皇帝に対して賞賛の声を送った。
『植民エリア』の国家元首で、海外へ亡命していた者からは帰国後、ルルーシュ皇帝に対して賛辞と感謝の意を表明している国もあった。
『植民エリア』は、ブリタニア人の居住区であり、インフラ整備が行き届いた『租界』と、その国に国籍を置くナンバーズが住まう『ゲットー』とに分かれていた。
ルルーシュ皇帝は、その、インフラ整備も含めて全て、その国の財産として残してきたのだ。
本来、『植民地』が宗主国から独立する際、宗主国の作り上げた物を無償でその国に残してくるなどあり得ない。
独立宣言の後、財産を持ちかえると云う名目の下、多額の賠償金を支払わされるのが普通だ。
それを…ルルーシュ皇帝は無条件にその国の財産として残してきた。
超合衆国側は…亡命政府を自国においていた国もあった為…その事実を知る国もあったから、そのルルーシュ皇帝の行動にトップクラスの人間は慌てた。
正確には…『黒の騎士団』の中枢に近い者たちが慌てた。
『ゼロ』の正体が『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』である事、そして、彼には『ギアス』と云う、人ならざる能力を持っていた事を知る者たちだ。
物理的にそんな事をされたのでは、『ギアス』の事を隠すのは仕方ないにしても、彼を『悪』の存在として裁く事が難しくなったからだ。
皇神楽耶を始め…『ゼロ』の能力と実力を知る者は、自分たちが敵とみなしているルルーシュ皇帝がこのような行動に出た事に対して畏怖を覚える事はある意味仕方がない。
特に、『黒の騎士団』の中枢に立っていた者たちは、敵将であるシュナイゼルの言葉をそのまま鵜呑みにして…事実確認もせず、彼の弁明も聞かず、一方的に『ゼロ』を裏切り者として、断罪し、追放したのだ。
そして、『超合衆国』代表である皇神楽耶もシュナイゼルとの交渉と『黒の騎士団』の幹部たちの話により、『ゼロ』に対して牙をむいた。
皇神楽耶に関しては、『ゼロ』の正体をその目で確認する事もなく断罪する側に回ったのだからタチが悪い。
彼らの自分自身への過信は…やがて訪れる、ルルーシュの遺した世界の命運を変える事となった。
歴史上、どんな偉人でも、立派な統治者でも闇の部分を持ち合わせる。
その部分を、全否定した者たちに…人々の上に立つ資格など…ありはしない…
所詮、彼らは三流のテロリストに過ぎなかった…そう云う事だ…

 『ゼロ・レクイエム』の後…超合衆国に参加した各国の首脳たちは自国へ帰って行き、彼らの役割を果たし始める。
そして…『ルルーシュ皇帝』が倒れてから知る…彼が世界を『話し合いと云う一つのテーブル』につける為に施した…彼の施策…
そして…募る『超合衆国』と『黒の騎士団』の中枢を握っている人間たちへの疑念…
ルルーシュ皇帝が即位して、世界は彼の行動に賞賛した。
しかし、『超合衆国』代表は決してルルーシュ皇帝の行動を認める事はなかった。
彼女が何を知っているかは決して、教えられる事はなかった。
そして、『超合衆国』を構成している国々は暗黙の了解で彼女の云っている事を疑うな…彼女の云う事に従え…そんな空気が流れていた。
彼女が強い態度に出られるのは彼女の後ろには『黒の騎士団』と云う武装集団がいるからだ。
『超合衆国』参加の条件は、各国の軍隊を放棄する事…代わりに、軍隊に所属していた者たちは『黒の騎士団』に籍を置き、必要な時には『黒の騎士団』の兵として戦う事…。
つまり、『超合衆国』に参加している国々は、二つの人質を取られている。
『黒の騎士団』に出頭している、自国の軍人…。
そして、軍を放棄した自国の国民たちの命…。
『ゼロ』がいなくなった時点で、『超合衆国』の中のパワーバランスが明らかに変わった。 日本に権力が集中した。
軍事力と、皇コンツェルンの財力…
それだけあれば、皇神楽耶の独裁も可能になる。
『超合衆国』を構成する国々は様々な問題を抱え、国力そのものが疲弊し、弱っている。
皇コンツェルンの財力は『超合衆国』の中ではトップクラスの財力だ。
その上、『黒の騎士団』は、彼女に逆らえない…。
だとするなら…
何故…あの時に気づかなかったのか…
気付けなかったのか…
こうして、一つの闘いが終わり、様々な事が冷静な目で見れるようになると…様々な可能性まで見えてきた。
そして…あの戦いの後、充分な力を残している日本に脅威を覚える。
『黒の騎士団』の幹部だった者たちを多く有し、そして、ブリタニア皇帝の直轄領となっただけあり、あの『ゼロ』による、ルルーシュ皇帝の抹殺劇により、可能な限りのインフラ整備を施されていた。
他の国からみれば…それがどれほど羨ましい事か…
しかし、妬んでいても仕方ない。
確かに、ルルーシュ皇帝の唯一の騎士、ナイトオブゼロ…彼は旧日本、最後の首相の息子、枢木スザクだったのだから、ルルーシュ皇帝が日本に対して何らかの想いがあったのかもしれない。
また、元々『ゼロ』が『黒の騎士団』を創り上げた国だ。
ルルーシュ皇帝が警戒してもおかしくはない。
ブリタニアにとって、『黒の騎士団』は、歴史に残る忌むべきテロリスト集団だ。
こうして冷静に第三者として、分析すれば…立場が変われば、敵も変わり、味方も変わる。
第三者として分析した結果…『超合衆国』を構成していた小さな国々は…日本…そして、日本に近い中華連邦を信用できない…

 これからの国の在り方を…考えなくてはならない。
ブリタニアはもう敵ではない。
そして、『黒の騎士団』に集められていた自国の軍人たちは国に帰ってきた。
確かに、ルルーシュ皇帝の死後、ブリタニア、そして、『超合衆国』を構成していた国々の代表が集まり、当面必要な条約を結んだ。
暫定的なものであり、基本的には2年後には正式な条約を作り、今回の会談に参加した国々は守る義務を負う事になる。
ただ…そんな条約の細部を決める…そして作り上げる…それだけの人材を提供し、そちらに専念させられるだけの余裕のある国は…恐らく、ブリタニアと日本…
ここまでの分析で、自分たちの国の要望を託すのは…どちらがいいのだろうと模索を始める。
二つの国の代表を比べる。
片方はルルーシュ皇帝の妹で、ルルーシュ皇帝を討つ為に立ち上がったシュナイゼルと『黒の騎士団』の旗頭となった少女…。
片方は『超合衆国』の代表であり、日本の『キョウト六家』の最後の生き残り…現在では世界的なコンツェルンをも手中に収める少女を後ろ盾とする、『黒の騎士団』の副指令だった男…
ルルーシュ皇帝の行動を冷静に判断した時…どちらの方が信用できるか…
それを考える。
ブリタニアは敵ではあったが…それでも、ルルーシュ皇帝のやろうとした事を知れば知るほど…様々な疑念を抱き、疑問を抱いてしまう相手はブリタニアではなくなってしまう。
確かに、多くの人が死んだが…戦争で全く犠牲のない戦争などありはしない。
ルルーシュ皇帝はその犠牲者の『業』をすべて背負い、世界の新たな出発を促した。
全ての憎しみを…あの細い身体に一身に集めて…。
18歳だったと云う…。
自分たちの半分も生きていない少年皇帝…
冷静に見れば見るほど…『超合衆国』や『黒の騎士団』の言い分が…解らなくなって来る。
だから…迷う。
迷うから…今は日本を信用できない。
あの時、『超合衆国』での会議で…自分たちにどれ程真実が語られたのだろうか…
中には虚偽はなかったのだろうか…
解らない事が多いと云う事は…不安を煽りたてる。
だから、今は…『超合衆国』と『黒の騎士団』の中枢に近い者たちは…国の為に信用する訳にはいかない。
ブリタニアの代表は…まだ、16歳と聞いている。
彼女の事は何も知らないが…皇神楽耶や扇要に対するような不信感はない。
天秤を掛けた時…答えはいとも簡単に出てきた。
ナナリー=ヴィ=ブリタニアを全面的に信用する訳にはいかない。
しかし、皇神楽耶や扇要に対して抱いているような不信感はない。
だから…その国の代表は決めた…。
日本と中華連邦とは、距離を置くと…

 そして、定期的に行われる国際会議の場…
『超合衆国』を構成していた小さな国々は、何とかブリタニア代表に挨拶しようと…機会を窺っている。
どこの国も考える事は同じようだ。
それは…日本と中華連邦に対する不信感…
皇神楽耶自身、頭の悪い少女ではないようだ。
この状況を予測していたかのように浮かない顔ではあるが、仕方がないと云った感じにため息をついている。
そして、日本国の代表である扇要は状況把握が足りなかったのか、その状況にただ驚愕している様子だ。
中華連邦の天子や黎星刻はなるべく目立たないように…会場の隅の方で現在の国際状況の縮図のようなこの会場全体を眺めている。
どの国も今、疲弊している。
そして、何とか自国を復興させるべく、内政は勿論、外交活動でも使えるものは何でも使う…形振りなど構っていられなかった。
もし、自国だけがそんな事をしたら、『裏切り者』としての誹りを受ける。
それでも、自国民を救えるのなら…そのぐらいの誹りなど…いくらでも受けてやろうと思った。
そう思わせてくれたのは…ルルーシュ皇帝の潔さを見せつけられたからかもしれない。
『超合衆国』を裏切ったのは、代表の独断であり、国民には何一つ関係ない…
そのくらいのカッコを付けられるくらいのプライドは持っている…
ここまでの『黒の騎士団』…特に『ゼロ』が死亡したとの報道がなされた後は…めちゃくちゃだった気がする。
正直、ブリタニアの植民エリアとして、ルルーシュ皇帝に解放された国々は…誰も口にはできないが…
『黒の騎士団』、『超合衆国』に対して不信感を抱いた事は間違いなかった。
恐らく、『黒の騎士団』、『超合衆国』の中枢にいる人間にしか解らない事情があったのだろうが…
それでも、そこを察して、全肯定出来る程の信頼関係があった訳じゃない。
『超合衆国』とは、一つの国となった訳ではなく、複数の国々が協力体制をとる為の連合体だった訳だから、事情も知らぬまま全てを信用できる訳がなかった。
そして、それが現在の世界の…日本と中華連邦に対する不信感だろう。
どの国も彼らに対する不信感は大きかったのだろう。
確かに…過程、結果を見れば…不信感は当然だ。
自分たちは、『超合衆国』の一員でありながら、何の事情も知らなかったのだ。
日本…当時のエリア11の奪還は、あの時の『超合衆国』の行く末を占うものであり、それが、ブリタニアに対して『否』を正式に伝えるものであったのだから、政治家として世界情勢を見据えたうえで必要であった事は理解できるし、納得もできる。
しかし、ルルーシュ皇帝が即位した後の『超合衆国』の決定は…考える時間もないし、判断を下すには情報も決定的に足りなかった。
だからこそ…どう判断してよいか解らなかった。
ただ…『超合衆国』のトップの人々の有無を言わせないあの態度は…
尋常ではなかった事は覚えている。
皇神楽耶はその辺りを覚悟していたようだし、中華連邦の黎星刻も、その辺りを納得済みだったようだが…
ただ…現在この会場にいる扇要を見ていると…こんな事になるなんて…と云う表情だ。
ブリタニアの代表に群がる各国の代表たちの姿を…遠くから見つめている『超合衆国』『黒の騎士団』の中枢に立っていた者たちは複雑な顔をしていた。

 その時…世界は…
『超合衆国』と『黒の騎士団』に対して、不信感を抱き始めていた。
情報の隠ぺいは…確実に不安を生み出す事になる。
まして、『超合衆国』への参加は…『ゼロ』がいたから…と云う部分は大きく影響していた。
『ゼロ』のカリスマ…政治センス、戦略は目を見張るものがあった。
そして、世界で唯一…あのブリタニアに畏怖の念を持たせた人物だった。
100万人の日本人を中華連邦へ逃れさせた手腕は認めない訳にはいかない。
今になって、あれだけの手腕を振るえる人物が…『超合衆国』だけでなく、全世界を探してみても見つからないだろう。
そして、今になって少しずつ漏れてきた…『ゼロ』の死亡が発表された時の…斑鳩の中の動き…
隠したい情報を無理やり隠しても…隠しきれるものではない。
そして、このような形でちらほらと漏れ始めると云う事…そして、そんな形で情報漏えいされると…隠していた者たちの信頼度は格段に下がる。
あの時の、彼らの事情はよく解らない。
言い分を聞いていても、よく解らない。
ただ…『ゼロ』が『黒の騎士団』をコマ扱いしていた…
だから、彼らは『ゼロ』を許さなかったと云う…。
恐らく、虐げられた国々の為政者たちは…呆れた…の一言しか出て来なかっただろう。
彼らは、目的は同じであったかもしれないが、志は同じだった訳じゃないだろう。
最終目的が、ブリタニアからの解放だったのだから…
あの大国を相手にしているのだ。
トップで指揮を執る者は、『業』を背負う覚悟を持たねばならない。
戦争をしているのだから…
しかし、『黒の騎士団』は…それを理解していなかった。
『ゼロ』がいなければ三流のテロリスト集団でしかなかった…それを証明していると思う。
だからこそ、『黒の騎士団』も、彼らのバックアップをしていた皇神楽耶も信頼に値しないと判断を下した。
それと同時に…世界は混沌に叩きこまれる事となった。
『黒の騎士団』の中枢に立っていた者たちは、マスコミに向けて現在の『超合衆国』を構成していた国々の対応に不満を表明した。
それは決定的だった。
『超合衆国』は目的を同じくした国々が集まっただけだ。
そこに志まで同じくした訳ではない。
つまり、利害関係だ。
利害を考えた時、自分の国に利を齎さない関係を築く訳にはいかない。
それを理解出来ない者たちの愚痴など…聞いていても仕方ない。
これから復興活動をしなければならない国々にマスコミまで巻き込んで世界に愚痴を零している連中の相手が出来るだけの余裕はないのだ。
だから…
多くの国が、日本を見限った。
日本代表に声をかければ、過去の『超合衆国』と『黒の騎士団』の功績に対しての代償に関する話しか出て来ないからだ。
そんな余裕…ある訳ない事など…一目瞭然なのだ。
それでも、厚顔無恥な日本の為政者はそれを堂々と要求してくる。
皇神楽耶も表の顔となっている訳じゃないから、彼の表向きの暴走を止める事が出来ていない。
民主主義で、国民選挙によって選ばれている首相だから…皇神楽耶が口出しする事は出来ないのだ。
日本以外の国々は…未来が見えないながらも、模索を重ねて前進を始めている。
日本だけが…本当に見えない明日に不安を抱えて…迷走している…。
これが…これから先の大きな問題になるという不安を抱えながら…



『others short story』へ戻る
『Novel』へ戻る トップページへ

copyright:2008-2009
All rights reserved.和泉綾