不思議の国のコードギアス


 ユーフェミアと共に、二人きりの部屋へと入っていく。
ルルーシュはここで、ユーフェミアにギアスを掛け、自分が撃たれて奇跡の生還を果たし、本物の英雄となる…というシナリオを描いていた。
そして、ユーフェミアはエリア11の日本人、全ての怒りを…世界中からの批難の目に晒される…そんなシナリオだったのだが…
結局、ユーフェミアの無力ゆえの力に敗けた。
仮面を脱ぎ棄てた時…ルルーシュは敗北感による屈辱よりも、清々しさを感じていた。
本当なら…ユーフェミア相手にそんな手段を講じたくなどなかった…と云うのはルルーシュの本音だったから…
『黒の騎士団』の中でもユーフェミアの唱えた『行政特区日本』の案に賛同する者が出てきていた事は知っていたし、あの提案によって、『キョウト六家』がどう動くか…それも気になるところだった…。
だからこそ、自分でもためらってしまうような手段を考えつき、実行に移そうとしていた訳なのだが…
「でも、私って信用がないのね…脅されたからってルルーシュを撃つと思ったの?」
ユーフェミアが心外だと云わんばかりにルルーシュに抗議する。
ルルーシュには『絶対遵守のギアス』がある事を知らないユーフェミアなら当たり前の反応だ。
「違うんだよ…俺が命じれば誰も逆らえない…。例えば…スザクを解任しろとか…日本人を殺せとか…」
そこまで云いきった時…ユーフェミアの様子が変わった。
さっきまでの和やかな雰囲気が一変した事に、ルルーシュは一瞬遅れて気がつく。
「イヤ…スザクを解任するなんて…イヤ…」
ユーフェミアが自分の身体を抱きしめて震えている。
『ギアス』に対しての抵抗…なのだろうか…
必死にその命令に逆らおうともがいているのが解る。
―――ユフィ…君は…そんなにスザクの事を…
そんなユーフェミアの態度に…ルルーシュ自身…心底申し訳ない気持ちになった時…
「スザクを解任して…自由にしちゃったら…ルルーシュの純潔が危ないわ…。あの野獣…いつも私にルルーシュと一緒にいるときの自慢をするの…。ルルーシュは私のお嫁さんになるっていうのに…」
ルルーシュは一瞬思考が止まった…
今、目の前の異母妹は何をぶちかました?
しかも…涙目になりながら、心底悔しそうにそんな事をほざいている。
「ユ…ユフィ…?」
「だから私…特派の主任にお願いしたのに…。スザクをアッシュフォード学園に行かせないようにこき使ってくれって…。それでもって私の騎士にしてしまえば…ルルーシュの純潔は守られると思ったのに…」
『ギアス』への抵抗のさなか、どさくさに紛れて結構ひどい事を云っているような気がするが…
ここはスルーすべきなのか、きちんと訂正すべきなのか…迷うところである。

 云いたい放題言って満足したのか…
ユーフェミアに、完全に『ギアス』がかかったらしい…
「そうね…スザクを解任しないと…」
ユーフェミアの爆弾発言にフリーズしていたルルーシュが我に返る。
ルルーシュの作戦は云うまでもなく失敗に終わっているのは明白…
だが…この、会場には多くのブリタニア軍関係者、日本人たちが来ているのだ。
特別ゲストで『キョウト六家』の面々も勢ぞろい…
確かに、ここで、自ら選んだイレヴンの騎士を解任するともなれば、日本人たちからの反発はあるだろう。
しかし…それではインパクトが弱い…
それに、さっきの爆弾発言を聞いていると、皆の前で何をぶっちゃけるか解ったものではない。
はっと我に帰り、ステージの方へ走り出したユーフェミアを追いかける。
「待て!ユフィ…」
ルルーシュは『ゼロ』の仮面を被り直してユーフェミアの後を追っているので、当然ではあるが、護衛の者に阻止された。
「あなた方…私の愛する人に何たる無礼ですか!ちょうどいい機会です…。スザクに対して、あなたが誰のものであるか…懇切丁寧に説明して差し上げます…。そして…ルルーシュ…このままスザクを解任して自由奔放にしてしまってはあなたの純潔が危険にさらされます…。でも、安心して下さい…。これから、私があなたを守ってあげます…、さっき説明した通り…私はもう皇族ではないのですから…どんな道を選ぶも私の自由ですもの…」
ユーフェミアがにこりと笑って、しかも、この仮面の男の本名を護衛兵の前でぶっちゃけてしまってくれて…
どうやら、『ギアス』の効果と皇族と云う肩書からの解放ですっかりハイテンションになってしまっているご様子だ…
「ちょっと待て…ユフィ…」
「問答は無用ですよ?ルルーシュ…あなたの非力さは私が良く知っていますわ…。アリエス宮にいた時も、腕相撲で私に勝てた事なんてなかったじゃないですか…。その度に悔しがってルルーシュは何度も挑んで来てくれましたわ…。私…ルルーシュの手をしっかり握りたくって…お姉さまに特訓までして頂いた甲斐がありましたわ…」
なんつう爆弾発言の連発か…
「さぁ…ルルーシュ…私と一緒に逃げましょう?スザクを解任すれば最後のお仕事は終わりですもの…。そして、あなたと二人…様々な危険が待ち受けているかもしれませんが…そんなものは私の力でふっ飛ばして見せますから…安心して下さいね?」
にこりと笑って…しかし、『逆らったらお仕置きですよ?』と云う目の輝きにルルーシュが思わずのけぞってしまう。
「ユフィ…君にはそんなものは似合わない…。君は、皇女としてスザクに…」
『スザク』の名前を出したとたんにユーフェミアの目の色が変わった。
「その名前…思い出すだけでも忌々しいですわ!ルルーシュ…あんな男と一緒にお風呂に入ったんですって?許せません!」
どうやら、ルルーシュとスザクを引き離す為に…それでも、ルルーシュの日本で出来たお友達と云うから、とりあえず、スザクを釈放し、特派に放り込み、アッシュフォード学園にルルーシュがいた事を知り、自分の騎士に据えて会わせないように頑張ってきたのは本当らしかった…

 そして、ユーフェミアが力強くルルーシュの手首をつかんで、前に歩き出す。
その先は…『行政特区日本』の式典会場だ…
とことんイレギュラーに弱いルルーシュは頭の中は大混乱である。
このまま、ユーフェミアに引っ張られて、一体何を云われるのか…想像もつかない。
「さぁ…ルルーシュ…これから、スザクの解任宣言と、私とルルーシュの逃避行宣言をいたしますわ…」
ステージ上で、ユーフェミアが云い放ったこの一言…
もしかしなくても、しっかりとマイクが拾って…というより、この時すでに発表が始まっていたらしい。
おまけに『ゼロ』の本名言ってるし!
最前列に並んでいたブリタニアからの代表参加者や『キョウト六家』の中で唯一『ゼロ』の正体を知っていた桐原などは『え???』と云う顔を見せている。
ブリタニアからの参加者たちは…その、死んだ筈の…『先行のマリアンヌの遺児』の名前にびっくりする。
―――まさか…
―――多分…同じ名前だったんだろ?
―――でも、ユーフェミア皇女殿下って…凄く、あの、第11皇子殿下をお慕いしておられたような…
当然のごとく、様々な思いが各自の頭を過っていく。
そもそも、皇子殿下がこんな騒ぎを起こす筈などあり得ない…そう思うのが自然だが…
そして、桐原は、思いっきり複雑な表情をしているのが解る。
―――ルルーシュ=ヴィ=ブリアニアよ…こんなメロドラマを演じる為に修羅の道を歩むと決めた訳でもあるまいに…
やれやれと云った表情で、ちょっと、かわいい孫に色々任せてはみたけれど、まだまだ荷が重かったんだね…そんな表情に落ち着いたようだ。
「ユーフェミア皇女殿下…今の御発言…本当ですか?」
後ろからかけられたその言葉…
その言葉の声で、それが誰の言葉であるか…ルルーシュには解った。
『スザク!』
「やぁ…もう、ユーフェミア皇女殿下がばらしちゃったからルルーシュでいいよね?ルルーシュ…駄目だよ…。僕は騎士を解任されるのは別にかまわないよ…。だって、この我儘皇女さまってば、僕にルルーシュに会わせないが為に報告書を提出してもすぐに突っ返してくるんだもん…。君はもう僕のものなのに…この皇女さまってば…僕とルルーシュの仲を引き裂こうとするんだから…」
ここに…空気を読まず、どこまでもマイペースに喋りまくるスザクに『ギアス』で黙らせたかったが…こいつには既にたった一度しか使えない『ギアス』は使用済み…
このままでは多分、このステージ上がまず修羅場と化すだろう。
そして、これは確実にこの会場内を飛び火する。

 スザクがゆっくりとユーフェミアとルルーシュの傍に歩いて行く。
「ユフィ…悪いけど、君とルルーシュの逃避行を認める訳にはいかないな…。僕とルルーシュは既に将来を誓い合った仲なんだから…」
呆然と立ち尽くしていたダールトンがこの状況にやっと、我に帰り、スザクを止めようとスザクに対して銃を向けるが…
スザクはそんなダールトンに対してにこりと笑った。
「ダールトン将軍…そんなもので僕を止められるとお思いですか?この距離でその程度の銃なら僕、その銃弾を避けちゃいますから…」
普通ならこんな事を云われたって信じる事なんてできないが…
しかし、その瞳が語っている。
こいつの云っている事は本当だと…
百戦錬磨のダールトンも、この、人外のバケモノ相手に拳銃一つで立ち向かおうとは考えられなかった。
否、百戦錬磨の経験者だからそう言う判断を下せたのだろうか…
「スザク!無礼でしょう!私とルルーシュの門出を祝ってくれないなんて…イレヴンのくせに…」
あ…この皇女さま…その一言言っちゃったよ…
この会場には多くの日本人が集まっており、カメラも入って世界に実況生中継中だ…
「まったく…黙って聞いていれば…ユーフェミア皇女殿下…あなたの魂胆は知っているんですよ?ルルーシュを見つけた時点で、『行政特区日本』を思いついて、点数稼ぎをしておいて、自分は皇族の身分を返上と云う名目で皇帝陛下に突っ返し、ルルーシュと一緒にコーネリア皇女殿下の庇護の下、ひっそり暮らそうって計画を立てていた事は…」
スザクの暴露に世界中が『特ダネだ!』とばかりに、『ルルーシュ』と云う名の皇子を調べ、エリア11に常駐している特派員に指示を出す。
そして、スザクの発言に驚いたのはルルーシュも同じで…
『ユフィ…お前、コーネリアまで巻き込んでいたのか…』
「はい…お姉さまに1週間のうち2日だけルルーシュを貸し切りにして上げますって言ったら快く承諾して下さいましたわ…。なんでも…ルルーシュにあんなカッコとか、こんなカッコとか、あまつさえそんなカッコとかさせたいって…仰っていましたが…」
ニコニコ笑いながらトンデモ発言を…マイクを通し、しかもカメラがしっかり回っている中、世界実況生中継で世界にお届けされてしまった…
そして、ブリタニアの自室で『しまった!』と舌打ちする皇帝と、アヴァロンの中で『先を越された!』と悔しがる宰相の姿が目撃されている。
と云うか…ユーフェミアのそのコーネリアとの取引の中で、ルルーシュの意思は完全にスルーされている事は…多分、彼女の中ではないものとされているに違いない。

 流石にこの状況はまずいと思ったのか、その場にガウェインが表れた。
『ルルーシュ!ユーフェミアと逃避行して哀願人形にされたくなければ、逃げるぞ!』
ガウェインのオープンマイクから聞こえてくる共犯者の声…
この二人の熱のこもったバトルの中、拘束されていない事に非常に感謝してしまう。
『解った…C.C.…ひとまず撤退だ…』
『否…『黒の騎士団』の中でも色んな反応があってな…。ディートハルトがお前の昔の写真をどっから入手してきたかは知らんが、団員に見せてから様子が変だ…。下手すると、あの野獣ども全員の相手をさせられる事になるぞ!』
C.C.の言葉に倒れそうになった。
「あ…ルルーシュ!ロイドさん!すぐにランスロットの用意を!ルルーシュの救出に向かいます!」
インカムマイクに怒鳴るようにスザクが自分の上司に指示を与える。
そして、普段は温厚なスザクがこんな形で、マイクを通してさえも感じる冷気を漂わせている事に気がついた特派のメンバーたちはランスロットの準備を急いだ。
いつになく行動の速い状況で、ランスロットはガウェインを追って飛び立った。
「ダールトン…さっさと追いなさい!私のルルーシュを取り戻すのです!お姉さまもそれをお望みなんですよ…」
ユーフェミアの無茶振りな指示に…
どうしたものか…と…頭を悩ますが…
『姫様がお望みなら…』
と、ダールトンは配置してあったブリタニア軍に指示を出す。
ガウェインにもランスロットにもフロートシステムが搭載されているが、現状のブリタニア軍のナイトメアの中でフロートユニットを搭載しているのは、ランスロットだけである。
「一応…命令には従っているし…フロートはエナジーの消耗が速いっていうからな…」
やれやれと云った状態でブリタニア軍の指揮に当たる。
そして、『ゼロ』が攫われた事により、『黒の騎士団』も動き始めている。
このカオス状態に一番喜んでいるのは…『ゼロ』を『黒の騎士団』に戻れないように死だディートハルトだろう…

 ガウェインの中では…
「おまえ…こんな事をしたかったのか?」
黄緑の髪の魔女が呆れたようにルルーシュに声をかけた。
「違う!俺は『ギアス』を掛けたつもりはなかった…。なのに…」
この状況に泣きそうになっている共犯者に対して…何故か笑い飛ばすよりも先に、庇護欲を掻き立てられるのは何故だろうか…
まぁ、『ギアス』が暴走して、しかも、タガの外れたユーフェミアが爆弾発言を連発していたのだから…
「とりあえず…今は逃げるぞ!このままだと多分…シャルルもお前を拉致する為に追い掛けて来るからな…」
涙目になりながら『なんでその男の名前が出てくる?』と云う表情を見せるが…
「おまえにとって、一番貞操を危うくしているのはお前の父親だ…。それを懸念して、マリアンヌとV.V.が画策したんだよ…お前たちの日本行きは…」
トンデモ話が暴露されているが…今はそれどころではない…
今はただ…共犯者と共にどこか安全なところへ身を隠したい…そんな思いでいっぱいだった…

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