己が戦いの終焉


 シュナイゼル=エル=ブリタニア、皇神楽耶の二人が…誰にも知られぬように、彼らの愛する者を奪われた悲しみと恨みの行き場を求めて…画策していた。
こんな事は…ただの独りよがりな、自分勝手な行動である事は解っていた。
彼らの頭の中に、為政者としての矜持も、責任も…なくなっていた。
でも、それは、『黒の騎士団』の中枢に籍を置いていた者たちも変わらない。
よりマシ論で行けば、恐らくは、シュナイゼルと神楽耶が彼らを排除する方がよりよい世の中になるだろう。
それでも、変に大きな権力をもってしまったが故に、排除はそれなりに頭を使って慎重に行わないと…ブリタニアからも日本からも邪魔が入る。
今では、扇首相を中心とした日本政府は世界から完全に無視されているような状態だ。
恵まれた環境を作って貰っておきながら、彼らの感情だけで破壊し尽くし、自分たちが『黒の騎士団』の中枢部にいたと云うだけで国際会議の場では大きな顔をしている。
そして、自国の利益のために発言する事は至極当然の事なのであるが、自国の要求を呑めない国が現れた時には、声を大きくしてその国を批判する。
どの国も、戦後、それほど楽な国内情勢ではないのだ。
扇も、その取り巻きたちも、自分の痛みに関しての主張は大きな声で主張するが、相手の都合も、相手の気持ちも考えた発言はない。
シュナイゼルも神楽耶も、この国際会議の中継VTRを見ながら、呆れるの通り越して苦笑するしかないし、星刻は、どうやって天子を守るか…必死に考える。
星刻は自分のタイムリミットが解るだけにシュナイゼルや神楽耶の様にほくそ笑みながら状況の成り行きを静かに眺めていると言えるような状態ではない。
先日の神楽耶からの誘い…受け入れる事を心に決める。
いくら、『黒の騎士団』に籍を置いていたからと云って…あんな連中と、天子や星刻たちを同じレベルで見られては困る。
国際会議の場だ。
そこでの評価は、国に対する評価となり、国際的にその国をどういう見方になり、どういう接し方になるかが変わって来るのだ。
そこで安く見られてしまって、信頼を落としてしまっては…ルルーシュ皇帝が残した『話し合いで解決できる世界』の中では、確実に孤立する。
軍隊での自己主張が出来ない今、その国の姿、在り方、統治者の姿勢などが評価基準になる。
そう言われてしまった時、今の日本は…救いようがない。
今、この世界に存在する『ゼロ』は今、ブリタニアに身を寄せているのだ。
国籍を持たず、どこの国にも属さず、客観的に世界を見つめる立場となっている。
だから…あの『ゼロ』の正体が誰であったとしても、『黒の騎士団』のメンバーで『ゼロ』と懇意にしていた者たちに対して特別扱いは出来ない。
それは…公人としては当たり前の事だし、『黒の騎士団』の幹部たちは…今の『ゼロ』と、『黒の騎士団』のCEOとしての『ゼロ』と別人である事は解っている。

 当然、シュナイゼルも神楽耶もそれを知っている。
だからこそ、やり易いと思った。
『ゼロ』を排斥して、殺そうとした。
シュナイゼルは…『黒の騎士団』のメンバーに、『ルルーシュの身柄を引き渡して欲しい』とは云ったが、『ルルーシュを殺せ』とは、一言も云っていない。
彼らの独断で、ルルーシュに対して発砲し、ルルーシュを武装したナイトメアで追跡していたのだ。
―――私の云い方が悪かったのかも知れないね…。あんな、頭の悪い人間たちに…ルルーシュに対して話すのと同じレベルで話していたとは…
シュナイゼル自身、自分の失敗に後悔をしてしまう。
決して執着を持つ事がなかった。
ルルーシュが敵に回ってしまった…
もし、枢木スザクを追跡して捕らえた時に、そのままルルーシュの身柄を確保できていたなら…
もし、『黒の騎士団』達があんな、ルルーシュを殺そうと銃口を向けなければ…
―――それでも…ルルーシュはなかなか私の手には戻って来なかっただろうけれどね…。こんなことなら…中華連邦で『ゼロ』として私の目の前に対峙した時に何を捨てても、『ゼロ』を…ルルーシュを…確保しておくべきだった…
シュナイゼルには珍しい…後悔…
ナナリーがいれば…ルルーシュはシュナイゼルの元へ戻ってくると考えた事が甘かったのかも知れない。
ナナリーは…あくまで、ルルーシュを取り戻す為のエサだった…
シュナイゼルが欲しかったのは…たった一人…
ルルーシュを失った今、シュナイゼルの中に残っている執念は…
今、考えているシュナイゼルの復讐は…世界を巻き込んだ…独りよがりで、自分勝手な復讐だけだった。
しかし、皮肉にも、その口火を切るのが、日本政府の崩壊にあるのだから…笑ってしまう。
今の日本政府を潰す事が出来れば、いろんな人間から感謝されるに違いない。
特に…現在日本に暮らしている…日本人たちにとっては…
但し、完全に割れてしまっている国家だから…犠牲は多く出る事は間違いない。
政治にも精通しているシュナイゼルなら…別に、軍事力を使わなくても、国家の崩壊を図る事は出来る。
おまけに、おあつらえ向きに、日本政府への日本国民からの反感は半端なものではない。
恐らく、蓬莱島へ移った100万人の日本人が全て扇要を支持したとしても、残りの数千万単位の日本人は、扇要を支持しないだろう。

 一方…皇神楽耶は恐らく、シュナイゼルの指一本を皮切りに日本政府の崩壊が始まるであろうと考えている。
この際、キョウト六家も皇家もどうでもよくなっている。
今となっては、キョウト六家の生き残りは表向きには皇神楽耶だけ…
こんな、形にすらなっていない日本の古の皇の家も残っていても仕方がない。
恐らく…神楽耶は…このシュナイゼルと共に行う、日本政府への反逆で…死ぬ事になるだろうと考える。
それだけの事をするのだから…
だからこそ思う。
あの、ルルーシュ皇帝の抹殺劇の前の彼の思いも…こんな感じだったのだろうか…と…。
『死』を目の前にしていると云うのに…神楽耶の心の中は…凄く静かだった。
ルルーシュ皇帝と一緒にするのは…失礼な話かもしれない…神楽耶はそんな事を考えつつ、ふっと笑みをこぼした。
『黒の騎士団』の中で…『ゼロ』は誰一人、信じる事が出来ずにいた…。
だから、こんな形の結末となった。
神楽耶が信じていても…彼らに対して、『ゼロ様は裏切っていない…』と云えなかった自分の愚かしさを悔やむ。
あの時…ルルーシュ皇帝が即位してから、すぐに世界から支持を集めていた。
その支持には裏付けがある。
貴族制度の廃止、財閥解体、そして…全エリアの解放…
やはり、ブリタニアの植民エリアとなっていた国々は自分の国を取り戻したのだ。
しかも、普通ならあり得ない…無条件での解放…
だからこそ、『超合衆国』内でもルルーシュ皇帝を支持する代表もいたくらいだ。
それを…一方的に疑ってかかったのは…『黒の騎士団』のメンバーたちだった。
ルルーシュは彼らの性格をしっかり読みとっていたという事なのだろう。
神楽耶はあの時…『超合衆国』の代表ではあったが、『黒の騎士団』に対する口出しは越権行為に当たるので、口を出せなかった。
ただ、『ゼロ』が排斥された時、『黒の騎士団』は契約者である『超合衆国』に話すべき事を話していなかった事は事実だ。
そして…その時の彼らの話は…あまりの頭の悪さに泣くのを通り越して、笑いそうになっており、笑いをこらえるのが大変だった事を覚えている。
そして、確信した…
―――『黒の騎士団』はシュナイゼルの手中に収まった…
と…
実際に、『黒の騎士団』はシュナイゼルの口車に乗せられて、フレイヤの通り道を作る為の軍隊となっていた。
その時…ブリタニア軍は…自分の身を切って、フレイヤの数を減らそうとしていた…

 やがて…中華連邦は正式に日本との国交を断絶した。
それに呼応して、多くの国が日本との国交を断絶し始めた。
つまり、国際的に孤立している…と言う立場に追いやられたのだ。
各国に置かれた大使館、領事館はすべて撤収を余儀なくされ、日本国内の大使館、領事館も職員が、こんな危険地域からさっさと撤収し始める。
その行動の速さを見るや…世界は、よほど日本国内の治安が悪いのであろうと思えてくる。
流石にこの動きには扇たちも驚いているが、それでも、止める術がなかった。
否、扇たちは止められると思って、いつものように『黒の騎士団』の名前を出した。
それこそ、根拠のない、中身のない、今となっては恒例の決まり文句になっている。
『黒の騎士団』…確かに、斑鳩から『ゼロ』死亡の発表がされる前は、奇跡的な戦果を見せていたが…
その後はどうだ…
まるで、シュナイゼルの手足となってしまったかのようになって…
はっきり言って、あの時点で、『黒の騎士団』は世界が知る『黒の騎士団』ではなくなった。
確かに、『ゼロ』の軌跡には確実に多くの犠牲を出してきた。
しかし、それらの戦いを検証していくと、その時、『ゼロ』の持つ戦力で、その時のブリタニア軍に対抗するために、真正面から戦って勝てるわけがない。
物量で勝負されたら、今だってブリタニアに敵う国などない。
となれば、必要になって来るのは、その物量差を補うだけの戦略…
戦闘につぎ込める力が少なければ、少ない程、敵に『卑怯者』と罵られる方法を取らざるを得なくなっていく。
ナリタの時などはまさにその典型だろう。
あの時、『黒の騎士団』が対峙していたのは、戦場の女神と呼ばれたコーネリアの軍だ。
そんな、戦術面で行けば、物量では確実に相手の方が大きい。
そうした時に使えるのは…知恵しかない。
多くの犠牲を出していた。
それを行った『黒の騎士団』たちは、コーネリアに一矢報いたと喜んだではないか…
そして、『ゼロ』は最初に宣言していた筈だった…
『ここでやるのはテロじゃない!戦争だ!』
と…
そんな事を理解せずに戦闘行動を取っていたのだとしたら、ルルーシュ皇帝よりも、『ゼロ』よりも、罪深いのは…
未だに理解出来ないのだとしたら…
そして…その未だに理解出来ていない頭で、現状を把握して、収集せよと云っても無理な話なのだろうか…
シュナイゼルも神楽耶も…ただ苦笑するしかない。

 やがて、扇が首相になってから作り上げた首相官邸の周りを市民が取り囲んだ。
あまりの苦しい生活…安定しない治安…
これでは、ブリタニアの植民エリアだった頃となんら変わらない。
神楽耶はそのタイミングを計って、シュナイゼルに連絡を取り、ブリタニアから軍の派遣を要請した。
首相官邸が市民に取り囲まれて、扇自身が籠城していては国政を執れる者がいない。
故に、キョウト六家の人間は非常時には、代わりに国政をつかさどる。
そう、神楽耶が待っていたのはこの時だった。
今、外交権も神楽耶の手にある。
だから、ブリタニアに軍派遣の要請をした。
あとは、シュナイゼルがこの状況を治めて、あの頃…そう、シャルル皇帝が施していたような植民エリアとなるのだ。
ただ、形は神楽耶が要請して、軍を派遣して貰い、暫定統治をしてもらい、最終的にブリタニアに吸収して貰う…
世界各国から完全に『軍隊』と云う名の凶器は消えてはいない。
その証拠に、今でもテロが起きているのだ。
日本国内の治安崩壊の陰には元軍人たちが武器を持って争っているという事もある。
―――まさか…本当に世界から武力が消えて、話し合いで解決できる…なんて、甘っちょろい事を考えていた訳ではないのでしょう?『ゼロ』を残さなくてはならなかったのは…多分、その証拠…
ブリタニア軍によって、日本の暴動は沈静化させられた。
そして、ブリタニアの…つまり、シュナイゼルの暫定統治が始まる事になる。
恐らく、シャルル皇帝が治めていた時よりも…過酷になる…一部の人間にとっては…
ブリタニア軍代表と日本政府代表代理の調印式が行われ、その後に、国民に向けての挨拶がある。
その時に…恐らく、玉城辺りが神楽耶に向けて銃口を向けるだろう…
その為に、神楽耶はずっと彼らを挑発していたのだから…
ただ…計算外だったのは…『ゼロ』も同席する…と言う事だった。
―――パン!
会場に銃声が鳴り響いた…
神楽耶に照準を合わせられたもの…の筈だったが…
その銃弾は神楽耶には届かなかった。
目の前には…右腕をおさえている『ゼロ』が立っていた…
「だ…誰か!ストレッチャーを…!」
神楽耶が叫ぶ。
シュナイゼルはその、『ゼロ』の行動に驚いた表情を見せるものの、すぐに玉城を拘束させる。
式典は中断された。
神楽耶はストレッチャーに付き添っていた。
「な…なんで…」
涙ぐみながら、身体を震わせて『ゼロ』に問いかける。
「私は…そんな事は望まない…。あなたは…きちんと生きて、あなたの責務を…」
太い血管を傷つけたのか…『ゼロ』の言葉がそこで途切れる。
そして、処置室へと入って行った。
「ゼロ様…今の声…」
変声器を通していても…間違うはずがない…
神楽耶は…ただ…その扉の前に立ち尽くしていた…

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