執念…復讐のそのワケ…


 シュナイゼル=エル=ブリタニア…
神聖ブリタニア帝国第二皇子にして、帝国宰相…
そして…最も皇帝のいすに近い皇子と言われている。
ただ…シュナイゼルは皇帝のいすには…あまり興味はなかった。
しかし、シュナイゼルは皇帝のいすを望んでいる。
それは…自分が欲しいと…自分が唯一執着を持つ者を…取り戻す為に…
その為になら、シュナイゼルは悪魔と呼ばれようと構わなかった。
あの時…シュナイゼルにはその大切な者を守るだけの力がなかった。
しかし…今のシュナイゼルにならその者を守る力がある。
それが…その者が望む事でなくても…
シュナイゼルにとって、その者は…自分の命に代えても欲しいと願う者だったのだ。
どんな手段を取ってでも…
シュナイゼルは取り戻すと決めた…
しかし…天はそれを許さなかった。
その大切な者は…その稀代才能ゆえに…凡人には理解される事なく…また、本人もその理解を求めなかった。
優れた頭脳、そして行動力、慈悲深さ、自分の罪と過ちを認められる潔さ…
彼の本質は…恐らく、シュナイゼルにはないものであった。
だから…シュナイゼルの目には輝いて見えたのかも知れない。
シュナイゼルが何よりも愛した彼は…運命の翻弄されながら…シュナイゼルの手の届かない場所へと飛ばされて…そして…自ら『悪』を完璧に演じて…シュナイゼルの目の前で散って行った…
その時に目にしたショック…
それ故なのか…シュナイゼルは自分に彼の『ギアス』をかけられていた事を知る。
『ゼロに仕えよ…』
それが…彼がシュナイゼルに残した…最期の…言葉だった…。
―――ルルーシュ…君になら…本当に仕えたのに…。君は大きなミスを犯したね…。誰よりも君を愛する私の前で…君は散った…。それ故に…君の私への『ギアス』は…
様々な式典で、シュナイゼルの愛したルルーシュの最愛の妹の斜め後ろに立ちながら、そんな風に思う。
愛する者を…自分の手から奪い去った世界になど…シュナイゼルは執着を持たなかった。 唯一の執着がルルーシュだったのだから…
自分の隣でナナリーの車いすを押している『ゼロ』の姿をしたその人物にも…ルルーシュにあのような決断をさせた車いすに乗っているナナリーにも…そして…いとも容易く自分たちのリーダーを排除し、『悪逆皇帝』と呼んだあの武装集団にも、国にも…シュナイゼルは復讐を誓う。
―――ルルーシュ…すまないね…。私はやはり許せないのだよ…。あの甘ったれた異母妹も、君に直接手を下した『ゼロ』も、君を簡単に裏切った『黒の騎士団』を含めた『超合衆国』も…

 シュナイゼルの様子を窺っていたシュナイゼルの側近、カノン=マルディーニがやや訝しげにシュナイゼルを見つめている。
「殿下…」
「カノン…どうかしたかね?」
いつもの様に、柔和な…でも、何を考えているか皆目見当のつかない笑顔をカノンへとむける。
カノン自身、シュナイゼルがまた、色々と不満を抱いて、何かを画策しているのだろうと想像は出来ているが…ただ…何を考えているか…までは解らない。
長年、シュナイゼルに仕えているが、シュナイゼルの事はいまだによく解らない。
しかし…解ってしまう事もある。
今のシュナイゼルに…ルルーシュのかけた『ギアス』の影響力はまるでない…と…。
一応、表向きには、『ゼロ』に対して従順な様を見せているが…それは…確実に何か他の事を考えて、次のステップへ進むまでのつなぎとして施している演技にすぎない事を解っていた。
それでも、こうして、悪魔の笑顔を自らの表情としている時…その思惑に横やりを入れようものなら、命がいくつあっても足りない。
それに…シュナイゼルが自我を持っているのであれば、カノンが必要以上に心配する必要はないのだ。
いずれ…シュナイゼルは立ち上がってくれる。
今のこの世界の矛盾は…この半年でカノン自身にも嫌というほど身にしみているからだ。
『悪逆皇帝ルルーシュ』が世界から消えて…全ての『罪』を背負ってこの世界を自ら去った『悪逆皇帝』に全ての責任を押し付けた。
そして…全ては『悪逆皇帝ルルーシュ』の存在が世界に混乱を招き、戦争の結果、貧困や飢餓が生まれたと吹聴し始めた。
少なくとも、あの時に神聖ブリタニア帝国に刃を向けたのは超合衆国や『黒の騎士団』やダモクレスであり、ルルーシュは一度も宣戦布告をしていない。
そして、ルルーシュ皇帝の善行に対して『絶対に裏がある筈だ!』という思い込みで、ルルーシュ一人に『悪』を押し付けた世界…
特に『黒の騎士団』や、合衆国日本と合衆国中華の中心人物たちのルルーシュへの醜いまでの批難は第三者側として見ていても見るに堪えなかった。
―――皇神楽耶…日本の古の流れをくむ姫君だと言うから…少しは冷静な判断をできるかと思えば…結局、あのバカどもに洗脳される程度のお姫さまだったと言う事らしい…
この点に関しては、シュナイゼルもカノンも同意見だった。
このような自分で考える事をしない、ただの木偶の棒たちを率いて、ルルーシュは、ブリタニアを脅かし、世界の半分を掌握していた…
シュナイゼルもカノンも彼の手腕に感嘆の拍手を送る。

 シュナイゼルの頭の中では様々なシミュレーションが行われていた。
とにかく、今のシュナイゼルに残された執着は…『復讐』…
大切な者を奪われた悲しみと…あんな子供に全ての責任を押し付けて、自分たちの罪を認めようともしないもと超合衆国の国家元首たち…それから、『黒の騎士団』…
自分の責任も自分で負えない連中が国家元首になっている国など…世界には邪魔なだけだ。
「まずは…日本…だな…」
シュナイゼルは自分のパソコンを開いて、日本の現在の首相と、その首相を操っている人物のデータを拾い出し、そして…ある細工を施す。
解らないように…でも確実に…日本を陥れて行く為の罠…
ルルーシュを裏切ったくせに、ルルーシュが準備したお膳立てによって、現在の地位を手に入れている扇要と皇神楽耶…
シュナイゼルは絶対にこの二人を許さない。
まずは、現在の日本の経済を支えている皇コンツェルンに…
戦争直後の日本にとって、皇コンツェルンの財力は命綱だ。
決して楽ではないにしろ、この財閥が消えたとたんに日本の経済は立ち行かなくなる。
しかし…中を調べて行くと、恐らくは、シュナイゼルでなければ見落としていた人物からの入金があった。
日本国家への入金だが…振り込まれた翌日には全額が消えている。
日本の財務省の収支報告を見ても…この金額に該当する収入は記載されていない。
かなり巧妙に隠しているが、シュナイゼルはこの入金が誰からのものであるか…すぐに解った。
この世界から姿を消してなお…自分が8年間暮らしたあの国を憂いていたと言う事か…
シュナイゼルはそんなルルーシュの想いを知ると…悲しくなると同時に…嫉妬と悔しさを抱かずにはいられなかった。
日本は…彼を裏切った人間たちが巣食っている国だ…
あんな連中に…恐らく、彼の生前、様々なパソコンソフトの特許を取っていた事は彼を調べた時に知ったが…その特許料を全て、日本に収めていたのだ。
―――ルルーシュ…君は本当に…優しさを向ける場所を間違っているね…。あんな裏切り者達に対してこんな施しをしていては…彼らは調子に乗るだけだよ…きっと、彼らの誰もそのルルーシュの行いに対して『当然のこと』と思ってはいても、『感謝』はしていないよ…
そう思うと、自分の愛したものの慈悲がただ…悲しみへと変わる。
そして…全ての資料が丁度そろった時…シュナイゼルの執務室の扉がノックされた。

―――コンコン…
「どうぞ…」
 相変わらず、感情の見えない表情と声音でそのノックに返事をする。
立っていたのは…『ゼロ』だった。
「シュナイゼル殿下…最近、何やら私の知らぬところで、様々な調べ者をしていらっしゃいますね…」
シュナイゼルはとりあえず、『ギアス』の効果があると見せかける演技をする。
「……」
『ゼロ』に対して、従順に従う…それが、ルルーシュがシュナイゼルにかけた『ギアス』だ。
この仮面の下にあるのがルルーシュの顔であるならば、素直に従えるが…今のこの仮面をかぶっている男は…恐らくはシュナイゼルが最も憎むべき相手…
何度もルルーシュを裏切り、ルルーシュを悲しませ、挙句の果てに…シュナイゼルの目の前でルルーシュを…殺した…
「シュナイゼル殿下…まだ、あの『悪逆皇帝』が消えて間がありません。世界はまだ不安定な状態です。ですから…混乱を煽るような行動はお控えください。不正はその後…じっくり裁けばいい…。今はその時ではない…」
『ゼロ』の仮面をかぶる男がシュナイゼルにそう告げている。
シュナイゼルは、まだばらす時期ではないと…本当は彼が『悪逆皇帝』とルルーシュの事を指した言葉を放ったときには、持っている銃で撃ち殺してやろうかとも考えたが、今、冷静さを失って、本当の目的が果たされないのでは意味がない。
「承知いたしました…『ゼロ』様…」
虫唾が走る程の屈辱ではあるが…
しかし…今は耐える時…シュナイゼルは自分でそう云い聞かせて『ゼロ』に頭を下げる。
『ゼロ』から醸し出されている空気は…恐らく…疑心暗鬼…
恐らく、ルルーシュからシュナイゼルに対しては『ギアス』をかけてあるから大丈夫だと、聞かされているだろう。
しかし、シュナイゼルが『ゼロ』にとって好ましくない行動をとったと判断した時には…『ゼロ』がくぎを刺しに来る。
それは…ルルーシュがあのパレードで『ゼロ』に貫かれた時にシュナイゼルの『ギアス』がとけてしまったのだから…不信感を向けられてもある意味仕方ないだろう。
いずれ…シュナイゼルの手で…葬り去る相手だ。
今は気にする必要などない。
ルルーシュの消えた世界に何の興味もない。
関心はあるかもしれないが…
シュナイゼルが『復讐』する相手として…
『復讐』する相手の事を知らねば『復讐』は成就しない。
『復讐』はその恨みを抱く者の為の正義だ。
―――しかし…『正義』の定義とは何だろうか…。人それぞれ…『正義』の見方も違えば、基準も違う。まして、そこに価値観などが絡んで来てしまえば、地球上に暮らす人間の数だけの『正義』がある事になる。あのバカどもは…そんな事も知らずに自分を『正義』の味方だと思っているのかな…。だとしたら史上最強の、そして、最悪で、はた迷惑なジョークだ…

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 数日後…日本国内の不明瞭な会計が何者かに暴露された。
入金して翌日には消えている金…
どこから出て来たのか解らない金が、入金されて、翌日には…首相である扇要の口座に移されている…
戦後の…まだ、混乱状態から抜け出せない…国民たちは飢えや貧困に苦しんでいるのに…日本国に振り込まれた筈の多額の現金が入金された翌日に、首相の懐に入っている…
実際それは事実だったようだが…
「あの男…あれだけの額の金を…一体何に使っていたのやら…」
どこかの福祉施設に寄付されている訳でもなく、ただ…扇要の個人口座に振り込まれ…その後は…スイス銀行にその金が流れている事を察知した。
シュナイゼルはその事も
―――まぁ、ついでだから…
と、マスコミ業界にリークした。
当然ながら、日本国内は大騒ぎとなった。
今回は扇要だけにとどまったが…次は皇神楽耶…
ブリタニアと日本の会談の時にナナリーについていくのだが…その時に皇神楽耶と会った時…彼女のシュナイゼルを見た時の顔が忘れられなかった。
扇のスキャンダルをリークした事をシュナイゼルはいろんな手段を使って神楽耶に流していた。
あの表情を見ると…彼女にも探られると困る何かがあるらしい。
楽しいゲームが始まった。
そして…やりがいのあるゲーム…
ルルーシュはシュナイゼルに対して『絶対に負けない位置に立ってゲームをする…』と評価した。
確かにその通りだ。
負けてしまっては意味がないからだ。
シュナイゼルはそんな中でこれまでの人生を生きて来たのだから…
だから…ルルーシュとチェスをする時でも、絶対に負けないゲームをしていた。
ルルーシュは勝ちにくるゲームを繰り広げていた。
「あと…3年…一緒にチェスをしていたら…私はルルーシュに負けっぱなしになっていたかも知れないね…。私は勝つためのゲームをした事がないから…」
自嘲気味にそう呟いた。
シュナイゼルからルルーシュを奪った者たちへの…レクイエムを…シュナイゼルが奏で始めた。
今は…日本にいる…ルルーシュを裏切った者たちへのレクイエムの序章に過ぎない。
いずれ、超合衆国に対してもこのレクイエムを送ろう…
そして…この…ブリタニアにも…
反吐が出る様な『正義の味方』たちの顔を見るのもうんざりだ…
彼らの苦痛に…苦悩に歪む顔を…今のシュナイゼルは望んでいる…



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