守りたい者4


 今日も、ルルーシュの所有権(?)を巡って争っている皇女と騎士がいる。
一応、タテマエとしては主従関係なのだが…確かに普段はその言葉がぴったり当てはまる二人なのだが…間にルルーシュが入ると、どうにもならないこの二人…
皇女の名はユーフェミア=リ=ブリタニア…
騎士の名は枢木スザク…
二人は『自分こそがルルーシュの恋人だ!』と、言い張っており、絶対に引かないのだ。
ルルーシュとしても、二人の言い争いにルルーシュが介入すると、さらに話が大きくなり、学園中を巻き込んだ大騒ぎになるので、今となっては既に、二人の突如勃発する『ルルーシュの恋人権』を争っての口論には絶対に口を出さなくなった。
下手にお祭り大好きな生徒会長、ミレイにでも嗅ぎつけられるとろくな事がないのだ。
既に、3回ほど見つかっていて、その度に緊急生徒会主催イベントが開かれる事になるのだ。
簡単に言うと、ユーフェミアとスザク…ルルーシュ奪取に成功するか…と言う賭けを始めるのだ。
そして、参加生徒にベットさせて、勝った生徒には金一封(と言っても、アッシュフォード学園の食堂の食券1000ブリポン分)が贈呈される。
校内放送で流してしまうと、ルルーシュが嫌がって、二人をどこかへ連れて行ってしまうので、見つけた生徒が携帯電話のメールでミレイに報告し、そして、ミレイがルルーシュ、スザク、ユーフェミアを除いた全ての生徒の携帯電話にメールを一斉送信しているのだ。
そして、携帯電話でベットする方を選んで返信する…と言うだけの簡単なシステムなのだが…これまた、学食の食券がかかっているともなっており、なかなかに好評である。
但し、参加費は一口当たり、1000ブリポンかかるが…
それでも、『スザク』『ユーフェミア』『引き分け』の3枠しかないのだが、時々、票が偏ってしまって、大穴が出来てしまい、これまでに一番勝った金額は124000ブリポンにまで上った事があった。
このときは、流石にアッシュフォード学園中の話題となって、結局その生徒は参加生徒に大盤振る舞いをする羽目になったらしく、結局は赤字となってしまったという逸話もあるが…
それでも、こうした賭けが今のアッシュフォード学園ではひそかな楽しみとなっている。
この生徒会長を抑えられる人間など、この学園にいる訳もないので…結局、ルルーシュは起きてしまった事に関しては不問としてしまうようになってしまった。
ただし、事前に察知した時には、二人を無理やり学園の外に連れ出して、学園内の騒ぎが鎮静化するまで3人で租界内をぶらぶらしている…と言う事をしている。

 そして、今日もまた…スザクとユーフェミアの戦いが勃発しようとしていた。
それをいち早く察知したリヴァルがミレイに携帯電話で情報を送った。
この時、ルルーシュは運悪く、リヴァルがミレイにメールした時には席を外してしまっていた。
この二人の元に戻ってきた時には、参加生徒全員がベットし終えた後だった。
「……」
ルルーシュとしては渋い顔をするしかなかった。
はっきり言って、こんな風に見せ者扱いされるのだが、ルルーシュにもスザクにもユーフェミアにも何のメリットもない…と言うよりも、下手にコーネリアにでもばれた時には、後が怖いと言う、リスクの方が高いと言う…そう云う代物だ。
コーネリアはユーフェミアを何よりも、誰よりも愛しているのだ。
そんなユーフェミアがこんな、庶民の学校で庶民の賭けごとの対象にされているなどと知ったら、嘆き、悲しみ、その後は怒りを爆発させるだろう。
流石に、オフィシャルとプライベートをきっちり区別する事の出来るコーネリアはそんな事でアッシュフォード学園に圧力をかけるような事はしないが…ただ…それを止められなかった、その時にルルーシュと、ユーフェミアの騎士、スザクに対してのこっぴどい説教くらいの覚悟はしなければならない。
―――ユフィもコーネリア異母姉上に見つかった時の事を考えて欲しいものだ…。この事に関しては、ユフィがどれだけ異母姉上に甘えて見せたところで、俺とスザクはそれこそ、ひどい目に遭うだろうからな…
そんな風に考えながら、ルルーシュは深いため息をつく。
ミレイもミレイだ。
ルルーシュが皇族で、ユーフェミアも半ば強引にこの学園に通っていると言う事実を知っていながら…
他の生徒たちの知らない事とは云え、もし、コーネリアに露見して、ルルーシュとユーフェミアが学園内でこんなバカげた遊びをしていると知られれば、生徒たちを集めて全校集会でコーネリア節の説教がその日の授業になるくらいの覚悟は必要だ。
どの道、アッシュフォード学園の生徒全員が震えあがるような末路が待っているような気がする。
そして、そんな事を考えながら、今日は『ルルーシュは誰と結婚するか…』という課題(?)でスザクとユーフェミアが言い争っているのだ。

 まだ、高校生なので、皇籍のなくなっているルルーシュが考える必要のない話だ。
むしろ、ユーフェミアの方が重要な問題なのだが…
ナナリーだって、今はブリタニア皇族としての扱いではないし…
大体、ユーフェミアはルルーシュとは腹違いとは云え、兄妹だし、ルルーシュとスザクは男同士だ。
一応、ブリタニアの法律では血の繋がった兄弟の結婚は認められていないが、時代の流れも手伝って、同性同士の結婚は認められている。
ルルーシュとしては、スザクの事は好きなのだが…同性同士の結婚と言われてもピンとこない。
だいたい、結婚とは何の為にするものなのだろうか?
そんな風に思った時…つい…
「なぁ…結婚って何の為にするんだ?別に、恋人同士でもいいじゃないか…」
ルルーシュの零したその一言に…スザクもユーフェミアも怒りをたたえるような形相でルルーシュに詰め寄ってきた。
「何を云っているんだい!ルルーシュ…結婚とは…二人がずっと一緒にいる為の…そして、赤の他人である二人が家族になる為の儀式じゃないか…」
スザクが力説すると、ユーフェミアが続く。
「そうですわ…私は確かにルルーシュとは血の繋がった兄妹ですが…私がユーフェミア=リ=ブリタニアから、ユーフェミア=ヴィ=ブリタニアになれるのですよ!」
ユーフェミアも力いっぱい力説する。
しかしルルーシュはしれっと一言こぼす。
「俺…今、『ヴィ=ブリタニア』じゃなくて、『ランペルージ』だし…」
ルルーシュのその一言にもツッコミを入れられた自覚なくユーフェミアがぱああああっと顔を赤らめる。
「では、私は『ユーフェミア=ランペルージ』になるのですね…なんて素敵…」
夢見ると乙女の様にユーフェミアはあごの下で両手を組んでうっとりしている。
しかし、皇族が一般庶民の元に降嫁するなど…聞いた事がない。
降嫁するにしても、どこかの国の皇族、王族、もしくは国家元首クラスの家かブリタニアの有力貴族の元だ。
そして、何より、生物学的レベルでルルーシュとユーフェミアは血の繋がった兄妹だ。
法律的にこの二人は結婚は認められない。
この場合、『戸籍』としての兄妹ではなく『血縁』としての兄妹の事を指している為、『戸籍』上、両親の再婚によって兄妹となった者たちの結婚は認められている。
逆に、『戸籍』が違っていても、『血縁』のある兄妹であれば、結婚は認められないのだ。
「ユーフェミア様…ブリタニアの法律では、4親等以内での血縁者との結婚は認められていない筈ですが…?法律を変えるにしても、ユーフェミア様が皇帝にならなくては代えられませんし…その頃には、ルルーシュは僕の『嫁』になっていますから…」
勝ち誇ったようにスザクがユーフェミアに言い放つ。
実際に、正論を真正面で行くのであれば、スザクの云っている事の方が正しい。
かと言って、ユーフェミアも黙って引き下がる筈もない。
「なら…シュナイゼル異母兄さまとロイドに頼んで、ルルーシュか私のIDと戸籍を書き換えてしまえばいいだけの話ですわ…。あの二人…そう云う事は得意の様ですし…」

 ユーフェミアのその言葉…さすが皇族と云うべきか…
それとも、自分の持つ者は何でも利用し倒す…と云う、たくましい根性なのか…
流石に一歩も引く気はないようである。
「そこまでして、僕のルルーシュを奪う気ですか!ユーフェミア皇女殿下!」
スザクも頭に血が上って来てしまったのか…ツッコミどころ満載な一言を言い放つ。
とりあえず、先ほどのユーフェミアの発言も含めて、問題発言が多過ぎである…いろんな意味で…。
ルルーシュは元々皇族であった事を隠していると言うのに、ユーフェミアがぶっちゃけてしまっているし、ユーフェミアのたくらみを思いっきりぶっちゃけてしまっていいのか…という感想も生まれてくる。
大体、そんな不正に関わっているともなれば、シュナイゼルの立場も色々と面倒な事になりそうだ。
きっと、父、シャルル=ジ=ブリタニアなら、『俗事は任せる…』とか云ってスルーしてくれそうだが、他の連中はそうもいかないだろう。
スザクの方はと云えば、思いっきり学園内のルルーシュ親衛隊(男女不問)連中を完全に敵に回す発言をしてしまっているし…
このアッシュフォード学園にはルルーシュの事をこよなく愛する有志が集まり、『ルルーシュ親衛隊』を作っているのは、学園の外にもうわさが広がっている程有名で…
時々、他の学校からも『入隊したいのですが…』と問い合わせて来る者もいるくらいだ。
他の学校にまで及んでいるルルーシュの天然フェロモン…
今では、ルルーシュがシンジュクゲットーで『黒の騎士団』を作り、キョウト六家の協力も得られた後、ベイエリアでブリタニア軍と戦った時の『黒の騎士団』の頭数よりもメンバーの数が多いと言う。
とにかく、和泉綾ワールドではルルーシュをゲットする為には非常に壁が厚く、高いのだ。
それでも、和泉綾がスザルラーと云う事が…多少なりともスザクに有利に働いている訳なのだが…それでも、いろんな意味で『萌え♪』を欲しているこの作者のお陰でスザクがすんなりルルーシュをゲット出来る筈もないのだ。
生徒会室ではこの二人の言い争いの行方を見守っている。
そして、殆どの生徒たちはその結果によって1000ブリポンが無駄に散っていくか、大きく化けるかが変わって来るのだ。
ちなみに、基本的にこの二人の言い争いに関してはよく解らないまま終わるので、勝敗の判定をするのはミレイの仕事だ。(解り易い時には良いのだが、そうでない時にはいくつもモニターの連なる中で事細かにチェックしているのだ)

 そして…今回は、結構ユーフェミアが法律ネタを出してきて、体力バカのスザクがそれに応戦していて…皆はそれに驚いていた。
賭けとは別の意味でも、注目されているようである。
ルルーシュ自身は一応、立ち合っているのだが…この二人の無茶苦茶な会話に…どうしたら止められるか…と云う方に頭を働かせているが…
イレギュラーメーカー二人がこうして云い争っていると、ルルーシュとしては計算しにくいし、どうしたものか…と考えてしまう…
と…そこへ…
丁度、昇降口の前でスザクとユーフェミアが言い争っていたのだが、二人の前に1台のリムジンが止まる。
中からは…『戦場の女神』と呼ばれ、ユーフェミアの姉であるコーネリア=リ=ブリタニアが出て来たのだ。
その事にも学園中がびっくりである。
「ユフィ…お前…何をこんなくだらない事をして遊んでいるのだ…。さっさと政庁に戻れ!見張りの者たちに薬を盛って眠らせおって…一体何を考えている!」
「あら…ばれちゃいました?だって…あの人たち…私のルルーシュに対してよこしまな視線を送っているんですもの…許せなくて…」
ユーフェミアは自分の行動の理由をさらっと云いのけた。
ユーフェミアにとって、コーネリアもルルーシュをめぐるライバルなのだ。
愛されている自覚はあるが、コーネリアもルルーシュを大事に思っており、本当なら、自分の手元に置きたいと願っている事を知っているだけにユーフェミアとしては放っておくわけにはいかないのだ。
そして、案の定、ユーフェミアの言葉でコーネリアの顔色が変わって、一緒にきていたギルフォードに命じた。
「ギルフォード…今日、ユフィに眠らされた見張り全員をタンブル島の地下牢へ送れ!生涯幽閉として一生出られないようにしろ!」
誰にも文句を言わせない…そんな口調だ。
ここにも…ルルーシュを守ろうとする人物がいた。
と云うより、ルルーシュはアッシュフォード学園でも、トウキョウ租界の人間の間でもどんな存在なのだと考えてしまう。
しかし、後でお説教を食らう事は解っているが、スザクもユーフェミアも…ここでコーネリアがルルーシュの姿を見た…と云う事実に少し安心した。
少なくとも、ルルーシュを守ってくれる人物が現れた…と云う評価が出来るからだ。
ルルーシュは呆然としたまま、この光景を見ている事しか出来ない。
そして…これから…自分とナナリーの歩むべき道が…変わっていくことを予感していた。
アッシュフォード学園には貴族の子女も通っている。
その中にはいろんな立場の家の子女がいる。
そうなると…ルルーシュの立場は…どうあっても変わって来るものだ。
どの道…こう云う日が来る事は予感していたが…
ルルーシュは真剣な目でコーネリアを見て、恭しく会釈した。

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