夢の世界で…


 白い靄の中…ルルーシュの耳に聞こえてくる声…
「…さん……さん…起きてよ…」
懐かしい…そして…ずっと聞く事が出来なかった…声…
「…シュ…ホント……さん…な…から…」
言葉が…まだ、途切れ途切れにしか聞こえてこない。
「…ルってば…目を開けてよ…」
それらの声に導かれるように…ルルーシュが目をゆっくり開けた。
目の前は…自分の知らない場所で…そして…ふわふわした気分だった。
「ん…お…れ…」
状況の把握もままならず、しっかりと言葉を紡げていない。
それでも…自分の目の前には…誰か、いる気配がする…。
「あ、目を開けました…。ルルーシュ!起きて下さい!」
やっと、はっきりと声と言葉を把握する事が出来た。
そして…自分の顔を覗き込んでいる人物たちの顔を見て、ルルーシュが目を見開いた…
「ユフィ!シャーリー…それに…ロロ?」
そこには…自分の所為で死んでいったはずの人物たちが顔をそろえていた。
ルルーシュの頭の中では、ちょっとしたパニックが起きていた。
「あ…えっと…俺…」
その状態を把握した3人がルルーシュに微笑みかける。
「大丈夫!ルルはまだ死んでいないの…。でも、ルルが元気なさそうだから…会いにきたの…」
シャーリーが、ちょっとだけ切なそうな笑顔を見せながらルルーシュに云う。
「兄さん、僕は…あんな風に兄さん一人に全てを背負わせるために兄さんを助けたんじゃないのに…。本当は…笑っていて欲しくて…」
ロロは、シャーリーと違って本当に泣きそうになりながらルルーシュを見つめている。
「ルルーシュ!全てを自分の所為だって思いすぎですよ?そりゃ…確かに、私たちは死んじゃっていますけれど…ここにいる3人…誰もあなたを怨んでなどいません!」
ユーフェミアがちょっとだけ膨れながら仁王立ちしている。
ユーフェミア、シャーリー、ロロ…この3人は、ルルーシュと関わって、守ろうとしたために、その命を散らせて逝った…
少なくとも、ルルーシュはそう思っている。
でも、この3人のルルーシュへの優しさは一体何だろうと思ってしまう…。
―――俺は…こんなところでも、自分を甘えさせる為の夢を見ているのだろうか?
そんな考えが頭をよぎった時、いきなり、ユーフェミアがパチンとルルーシュの頬を叩いた。
「ルルーシュ!いい加減に、勘違いの罪悪感を抱くのはおやめなさい!」

 ぴしゃりとユーフェミアがルルーシュに叱責する。
ルルーシュは驚いてユーフェミアの方を見る。
「確かに、お姉さまがルルーシュの所為で私が死んだと思っているようですけれど?でも、あの時は不可抗力の事故でしたし、ルルーシュが止めてくれなかったら…私は…」
ユーフェミアが涙ぐみながらルルーシュに云っている。
その言葉にウソはない…ルルーシュは不思議とそんな風に思えてきた。
「それに…ルルーシュもルルーシュです!きちんと、話すべき事を話さないから…こうも話がややこしくなるんですよ?お姉さまなら…ルルーシュが本当の事を云っているか、ウソを云っているかくらい…ちゃんと見抜いてくれます。スザクだって…」
ユーフェミアのその言葉を発する声が少し悲しげに聞こえてくる。
恐らく、ここにいるユーフェミアは全てを知っている。
そして、その上で、ルルーシュを許しているのだ。
「私は…ルルーシュとスザクの仲を引き裂くつもりなんてなかったのに…結果的に…こんな事になってしまって…本当にごめんなさい…」
そう云って、ユーフェミアがルルーシュに謝っている。
ルルーシュとしては、ユーフェミアを殺したのはルルーシュなのだから…それに、不可抗力と云っても、ユーフェミアにギアスをかけたのは…ルルーシュで…
「な…なんで、ユフィが俺に謝るんだ!?悪いのは…」
ルルーシュが慌ててユーフェミアにその謝罪を取り消させようとした時、間にシャーリーが入ってきた。
「ルル!ユーフェミア様の言葉…聞いていなかったの?勘違いの罪悪感が多過ぎ!それに…ルルは自分の信念のもとに、『黒の騎士団』で『ゼロ』をやっていたんじゃないの?」
「兄さん、もっと、肩の力を抜いて…。ユーフェミア様だって、そんな風に兄さんを困らせるつもりでいた訳じゃないんだ…。ただ…本当に謝りたかっただけなんだから…。ユーフェミア様だけじゃない…僕も…シャーリーさんも…」
ロロの言葉にルルーシュは何を言っているのか解らないと云う顔をする。
大体、彼らのひどい事をしたのはルルーシュで…その罰を受けるのは当然で…
だから…『ゼロレクイエム』を…
ユーフェミアやシャーリー、ロロ…他にも『ゼロ』の起こした戦いの為に死んでいった者たちへの…償いの為に…
ルルーシュとしては、さっきから理解できない事ばかり、この3人が云っている。
『撃っていいのは…撃たれる覚悟のある奴だけだ!』
そう云い続けてきて…常に、ルルーシュは『撃たれる』覚悟を持っていた。
それなのに…自分の大切な者たちが…その銃弾によって消えて逝っていた…。
誰も撃っていない…撃たれる覚悟など必要のない者たちが…

 そんな風に困惑しているルルーシュを見て、ユーフェミアがおかしそうに笑いだす。
「ルルーシュも、そんな風に困った顔をするんですね…。いつでも、『何でも知っているんだぞ!』って云う顔をしている印象しかなかったのに…」
それに追随して他の二人も口を開く。
「え?ユーフェミア様にはそうだったんですか?ルルは、恋愛とか、そう云うのはすっごく疎くて…私が告白した時もすっごく困った顔をしていたんですよ?」
シャーリーは『キューピッドの日』の話をし始める。
「あ、シャーリーさん…あの時兄さんと何を話していたんですか?僕の兄さんですよ!」
ロロが不機嫌そうな顔をして、シャーリーに突っかかっている。
「えぇ…教えようかなぁ…どうしようかなぁ…」
シャーリーが楽しそうにロロで遊んでいる。
ユーフェミアもその輪の中で楽しそうにルルーシュの話をしている。
不思議な光景だった。
―――俺は…やはり死んでいるのか?でも…さっき、まだ死んでいないって…。俺に元気がなさそうだから…会いに来たって…
そう思うと、ここは一体どこなのかという疑問が当然ながら、湧いてくる。
目の前でワイワイやっている3人に、ルルーシュが声をかける。
「あの…ここは一体…どこなんだ?」
ルルーシュの言葉に3人が会話をやめて、ルルーシュの方を見る。
そして、3人は優しく微笑みながら説明を始める。
「細かく説明するのは難しいんだけど…夢の世界…。でも、ここで話している私たちは本当で…ルルはホントに生きているの…」
シャーリーが色々考えながら、説明している。
「私たちは死んでいますけれど…魂そのものは私たちのものです。ですから、今私たちの云ったルルーシュへの気持ちは本当なんです…」
ユーフェミアが穏やかに笑いながら説明する。
「ここは…生と死の狭間の世界…と言ったところかなぁ…解り易く云うと…。だから、時間制限はあっても、兄さんがここに来れば、僕たちに会えるって事で…」
ロロが嬉しそうに話している。
ルルーシュの目の前にいるのは…本当にユーフェミア、シャーリー、ロロで…その魂とルルーシュは話しているという事になるのだろうか?
あまりに非科学的過ぎて、どう云っていいか解らないが…目の前で繰り広げられているのでは、その目の前の出来事を信じるしかない。
でも…この3人の話からすると…ルルーシュは死んでいないと云う事になる…。
ルルーシュは自分の中の記憶を掘り起こす。
―――俺は…確かに…スザクの手にかかって…

 そう、ルルーシュは『世界の明日』の為に…『ゼロレクイエム』を… スザクもユーフェミアの仇を討つ事を望んでいた。
そして、あのままでは、世界が争い続けるばかりで、血で血を洗う戦争を繰り広げるだけだと…
それに…ルルーシュは自分の贖罪として、ユーフェミアの『虐殺皇女』の名を払拭しなければならなかった。
ルルーシュは頭の中でいろいろ考えていると、再び大声をかけられた。
「「「いい加減にしなさい!」」」
3人の声がハモッてルルーシュの耳に届く。
3人の方を見ると、何だか怒っているような表情をしている。
「ルルーシュ!あなたは死ぬ事が償いだとでも思っているんじゃないでしょうね!」
「ルル!私たちに申し訳ないと思う気持ちを持っているなら…なんで、生きようとしてくれないのよ!」
「兄さん、僕は、兄さんに生きて欲しかったから…限界を超えた『ギアス』を使ったのに…」
3人の目は、本当に真剣で…その視線をそらす事が出来なかった。
しかし…あの、『悪逆皇帝ルルーシュ』が生きているとなれば…世界は…
「ルルーシュ…心配はいりません…。あちらの世界で、ルルーシュ皇帝は死んだ事になっていますから…」
ユーフェミアがあちらの世界の説明を始めた。
どうやら、ずっと、こちらの世界でルルーシュ達の事を見ていたらしい。
「コーネリア皇女殿下と、あの…ジェレミアさん…だっけ?その二人が、ルルの『遺体』をあそこから運び出していて…今、ルルはブリタニア軍の医療施設のICUで眠っているのよ…」
シャーリーがさらに説明を続ける。
「兄さん、兄さんが死んだって…ナナリーが悲しむだけだよ…。兄さんが、目を閉じた時のナナリーの姿…見る?」
そう云って、ロロが手をかざし、ルルーシュ達の前にホログラフの様な映像を見せる。
それは…『ゼロ』の姿に扮したスザクが…ルルーシュを刺しに行くところで…
その後、パレードカーの玉座からナナリーの元へと滑り落ちて…ナナリーはルルーシュの手を握ってはっとしたような表情を見せて、泣きじゃくっていた。
そして、精一杯の自分の気持ちを伝えている。
目を閉じた後…ルルーシュの耳に届いたナナリーの泣き叫ぶ声に…ルルーシュはギュッと目を瞑った。
3人がそのルルーシュの様子をじっと見つめていた。
ただ…ただ…黙って…

 どのくらいの時間が経っただろうか…
ユーフェミアが声をかける。
「ルルーシュ…今は、今のあなたの意思で、こちらの世界に残るか、あちらの世界へ帰るか、選ぶ事が出来ます。今、あなたの命を救おうと、懸命に動いて下さっている方もいるのです…」
「ルル…生きること…これも…償いだよ?きっと、一瞬で死んじゃうよりも生きて、償い続けて、罪を問われ続ける事の方が…ちゃんとした贖罪だよ…」
「兄さん…あの世界には…まだ兄さんが必要だよ?枢木卿では…『ゼロ』を演じ切れないよ…。兄さん、自分でどんなに凄い人間か、解ってないの?」
シャーリーもロロも…ルルーシュ自身に問いかけている。
―――本当にこのままでいいのか?
と…。
そして、ルルーシュの中でも…自分で自分に問いかけている。
ルルーシュの表情に迷いが生じてきた時…
「ほら…ルルを呼んでいる声がするでしょ?」
どこか…遠くから…聞こえてくる…
『…―しゅ!…目を覚ませ!』
『…様…戻ってきてください!』
『ルルーシュ!』
一人じゃない…多くの人間が…ルルーシュを呼んでいる。
しかも…中には…泣いている者もいる…
自分を…戻ってきてほしいと思っている者が…まだいるのか?
あれだけの事をしたと云うのに…
「ルルーシュ…お姉さまだって…スザクだって…キチンとお話すれば解ってくれます。まぁ、スザクはもう、あなたと共にいた時間で解っていると思いますけれど…。お姉さまだって、頭の悪い方ではありません…」
「ナナちゃんが泣いているのに…。それに…ルルが死んだって、世界は平和になんてならないと思うけどな…私は…」
「兄さん…僕たちの所為でこっちに来るって言うなら…僕は兄さんを…ここから先へは行かせる訳に行かない…」
この先へ続くであろう道の前に3人が立ちはだかっている。
恐らく、力づくで通れば…通れるだろうが…
しかし…彼らは…ルルーシュが生きることを望んでいる…。
生きて、償う事を…
ルルーシュは一旦、きゅっと、目を瞑って、再び顔をあげて、彼らを見る。
その瞳は…優しく輝くアメジストだった。
やや、潤んだように見えているのは…多分、気の所為ではない…
「ありがとう…必ず…お前たちの想いを…あちらの世界で完遂してみせる!」
そうルルーシュが云うと、元の世界へと戻って行った…。

 ルルーシュが横たわっているベッドの周囲には…多くの人物が囲んでいた。
必死で彼の命を救おうとした者たちが…彼の目が開く事を祈っていた。
「…ん…」
ルルーシュの睫毛が動いている。
「ルルーシュ!」
その中でその事に気がついた誰かがルルーシュの名前を呼んだ。
「お…俺は…」
ルルーシュは…こちらの世界へと帰ってきたのだ…。
身体の痛みが…それを教えてくれている。
「あれは…夢…?」
ルルーシュの頭の中には…ユーフェミア、シャーリー、ロロの笑顔が浮かんで来ていた。

 そして…残された者たちは…
「まったく…手のかかる異母兄上ですこと…」
「でも、ユーフェミア様って話をして見ると、ちょっとルルに似ていますね…」
「あ…そうかも知れないですね…」
そこにいた3人たちはルルーシュが帰って行った事を見届けて、再び会話を始めた。
3人が大切に思う存在を…再び苦しみの待つ世界へと追い返してしまった。
でも…多分、今は、それで間違っていない…
だから、3人は思う…
ルルーシュが全てを終えて、こちらの世界に来る時には…必ず、自分たちで迎えに行こう…と…

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