ユーフェミア=リ=ブリタニア…
神聖ブリタニア帝国第3皇女にして、この、アッシュフォード学園に通う、ルルーシュ=ランペルージとナナリー=ランペルージの異母姉妹である。
この、ユーフェミア…とにかく、ルルーシュの事が大好きで…7年間、様々な手を使って探しに探して…やっと、見つけたのだ。
そして、今、ルルーシュと同級生と云う事で、幸せを感じているのだが…
ユーフェミアがこのエリア11に来ている表向きの理由は…このエリアの副総督になったからだ。
本当は、ルルーシュが見つかって、一緒にいられれば良かったのだが、一応、あの大帝国の皇女様である為、ユーフェミアにはやるべき事がある。
それでも、ルルーシュが見つかったという事で、出来る限り、学校へ通うようにしている。
「おはようございます!ルルーシュ…」
そう云いながら、ユーフェミアがルルーシュの姿を見つけると、一目散に駆け寄っていく。
今ではすっかり、ルルーシュはユーフェミア皇女殿下のお気に入り…と云う事になっており、この風景も、この教室内では恒例行事となっている。
事情を知っている者はこの教室には当人たちとスザクだけで…
で、ルルーシュの過去については、まるで小説の様なうわさが飛び交うようになっていた。
例えば…
実は、ルルーシュは普段は運動が苦手なふりをしているが…本当はスザク並みに運動が出来て、過去に、ユーフェミアを山賊から助けた過去があり、その時に二人は将来を誓い合った…
とか、
ルルーシュは失われた国の皇子で、本当はユーフェミアとは将来を誓い合った仲だったのだが…ブリタニアとの戦争で、ルルーシュの祖国は敗れ…ユーフェミアの前から立ち去った…
とか、
かつて、ルルーシュとユーフェミアは身分違いの恋に落ちたのだが…周囲の反対によって、二人は引き離され、ルルーシュはユーフェミアの身の安全を考え、ユーフェミアの前から姿を消し、ユーフェミアはルルーシュを忘れられず、捜し求めて追い続けてきた…
とか…
こんなうわさが流れる様になったのだが…
「ホント…暇人が多いんだな…」
ルルーシュは呆れながら零した。
ユーフェミアはと云えば…
「皆さんは、本当に想像力が豊かですのね…。帝立劇団にこの中の話を持って行って、脚本を書いて頂きましょうか…」
と、嬉しそうに話している。
スザクはと云えば…なんだか面白くない顔をしているのだが…
「本当は、クラスメイト全員、そんな口もきけない相手なのにね…二人とも…」
と、不愉快そうにつぶやく。
「俺の場合はいいんじゃないのか?既に皇位継承権もないし…」
スザクの一言にルルーシュがサラッと返した。
実際に、王宮からルルーシュとナナリーを連れ出して、このエリア11にまで連れてきて、育ててくれた母は、もう、この世の人ではないし…
あの、ブリタニア皇帝も自分の身体にあの男の血が流れていると思うと、吐き気がする。
「ルルーシュ…。でも、お姉さまたちは…ルルーシュもナナリーも皇室に戻す気でいらっしゃるのよ?だから…お姉さまがエリア11の総督に就任されたのですから…」
そう…ユーフェミアがエリア11の副総督となったと同時に、ユーフェミアの同母姉のコーネリアが総督としてエリア11に来たのだ。
ユーフェミアのその一言に、ルルーシュは厳しく、強く、優しかった異母姉を思い出す。
「異母姉上は…お元気か?」
ルルーシュはやや目を細めながらユーフェミアに尋ねた。
「ええ…とても…。ルルーシュにもナナリーにも会いたがっています…」
ユーフェミアは忙しい姉の心中をそのまま話した。
「ルルーシュは…これからどうするつもりなのさ…。いつまでもこのままと云う訳にはいかないだろう?」
スザクがふっと口をはさんだ。
ルルーシュ自身、解ってはいた。
このまま、アッシュフォード家に匿われている状態がいい事ではないという事は…。
それに、このままでは…いつまで経ってもルルーシュの不安は拭い去れない。
今は…完全に守られている立場だから…
自分の力で…自分の身すら守れないから…
ルルーシュが下を向いて、そんな事を考えている。
それに気づいたのか、ユーフェミアもスザクも心配そうにルルーシュを見つめる。
「ねぇ、ルルーシュ…。何でも一人で出来る人なんていないんですよ?私だって、神聖ブリタニア帝国第3皇女と云う肩書がなくなれば…何も残りません。私は…お姉さまの様に強い訳でも、頭がいい訳でもありませんから…」
ユーフェミアはルルーシュの考えを読んだかのようにそう口にする。
「ルルーシュは何でも一人で何とかしようとし過ぎだよ…。ユーフェミア様だってルルーシュの力になりたいとおっしゃって下さっている。それって、ルルーシュがユーフェミア様に言わせているんだよ?君自身が…」
普段からルルーシュの傍にいて、気が気ではないスザクがそう話す。
いつか…ルルーシュが、自分たちの目の届かない所へ行って、とんでもない事をしそうな気がして不安になるのだ。
この後、普通に授業を受けて、帰りの身支度をしている。
相変わらず、ユーフェミアはルルーシュにべったりで…
スザクはこの光景を好ましく思っている訳ではないが、それでも、やはり、彼女が皇族であるという事実は絶大だ。
ルルーシュが日本に来てからずっと、スザクはユーフェミアとは関係なしに、ルルーシュの傍にいて、ルルーシュとナナリーを守ってきた。
しかし、一個人で出来る事など限られている。
確かにスザクは武術とか、実務的にルルーシュを守る事なら、秀でているが、それは、根本解決にはならない。
やはり、ルルーシュの後ろ盾になる人物が必要で…。
今では、ブリタニアの皇族に戻ったところで、実の母はすでにこの世の人ではなく、体の不自由な妹を抱えて…
戻ったら戻ったで、政治の道具として使われるのは目に見えている。
ユーフェミアの騎士となってから、政治的な部分にも目を向けるようになっていて、ブリタニアの皇室もなかなか魑魅魍魎が多い場所であることが窺えた
ユーフェミアがこうして、ルルーシュを好きでいて、ナナリーを好きでいてくれる事によって、ルルーシュに降りかかって来る者が少なくなった事は事実だ。
いくら隠していたって、情報が何よりも価値を持つ時代…
まして、ブリタニアの皇子と皇女の情報となれば、それこそ、世界的VIP並みの権力者の力を持ってしてやっと隠せる程度のもので…
そんな権力を、一高校生に振るったら逆に不自然で勘繰られてしまう。
とにかく、地下社会ではきっと、ルルーシュとナナリーの情報はある程度漏れているだろう。
となると、ブリタニア皇室の中で庶民の出でありながら、ブリタニアの皇帝に見初められて二人も子供を生んだルルーシュ達の母、マリアンヌは、かなり微妙な立場に立たされていた事は容易に想像がつく。
そして、それを恐れる者が出てきても不思議ではない。
ブリタニア皇帝は、ルルーシュ達の母、マリアンヌを、権威を欲した訳でも、家名を欲した訳でも、財力を欲した訳でもなく…ただ、一人の人間として認められたと云う事を意味するのだから…。
少々頭のいい人物であれば、そこの着眼するのは必至で…。
だから…マリアンヌは自分の子供たちに降りかかる災難を恐れたのだろうと思う。
帰り支度を終えると…珍しくルルーシュからユーフェミアに声をかける。
「なぁ…ユフィ…。俺達がここのクラブハウスで暮らしているのは知っているよな?時間があれば…来ないか?ナナリーが…君に会いたがっているんだ…」
学園中の噂になっていたので、ナナリーの耳にもユーフェミアがこの学園に来ている事を知っていた。
普段は殆どわがままを言った事のないナナリーがルルーシュにそれを望んだのだ。
ルルーシュはこれ以上ないほどナナリーを愛している。
目が見えず、足も不自由で…
それでも、決してわがままを言わない。
ルルーシュとしては、少しくらいわがままを言ってくれればいいのに…と思っていた。
そのナナリーがふと…そんな事をルルーシュに云ったのだ。
「ナナリーが?」
ユーフェミアが嬉しそうにルルーシュを見た。
「ああ…。あれから…ナナリーは…俺に…わがままを言わなくなった…。でも、そのナナリーが俺に言ったんだ…。『ユフィ異母姉様に…会いたい…』と…。だから…叶えてやりたくて…」
ルルーシュは俯きながらユーフェミアに云った。
ユーフェミアは花が咲いたように嬉しそうな表情を見せる。
「スザク!お姉さまに連絡して!今日は少し帰りが遅くなりますが、心配はいりませんと…。帰りはスザクが送って下さいね…」
そんなユーフェミアの表情にスザクは少し複雑な心情を顔に出すが、そのユーフェミアの頼みに素直に答えた。
「イエス、ユア・ハイネス…」
そうして、スザクは廊下に出て、携帯電話で政庁のコーネリアと話している。
スザクの声の様子から…結構大変な事になっているのが窺える。
コーネリアにユーフェミアの帰りが遅くなるなどと伝えているのだ。
あの、ユーフェミアを溺愛するコーネリアが早々許可を出す訳もないのだが…
それでも、15分程の押し問答で電話が切れたようだ。
「ふぅ…。午後7時までにはお帰り下さい。それから、クラブハウス以外には絶対に行くなとの厳重なるお達しです。それから…」
スザクがそこまで云うとふと言葉を切った。
「それから?」
ユーフェミアは首をかしげてスザクに尋ねる。
「『ルルーシュとナナリーに…よろしく伝えよ…』との事です。ルルーシュ…早く、シュナイゼル殿下やコーネリア殿下のところへ帰った方がいいんじゃないの?」
コーネリアの言葉には…自分の異母弟妹の事を憂いている様子が窺えたから…コーネリアへの非礼になるかも知れないと思いつつ、スザクはルルーシュに云った。
その言葉にルルーシュは困った笑顔を見せるにとどまったのだが…
3人でクラブハウスに行くと…ナナリーがリビングで折り紙を折っていた。
世話役の篠崎咲世子から教わっているのだ。
「ナナリー!」
ユーフェミアがナナリーの姿を見て、駆け出し、ナナリーを抱き締めた。
「ユフィ異母姉さま…」
ナナリーが驚いたようにユーフェミアを呼んだ。
「ルルーシュに聞いたの…私に会いたいって云ってくれたって…。私もナナリーと会いたかった…ずっと…ずっと…」
そう云いながらユーフェミアはナナリーを抱き締めながら泣きだした。
普段は、ルルーシュやスザクを困らせる発言の多い、この皇女様なのだが…
確かに、アリエスの離宮にいた頃には、とても仲の良かった二人だ。
「ユフィ異母姉さま…本当に?本当にユフィ異母姉さま…なのですね?」
ナナリーもユーフェミアの背中に手をまわしている。
二人とも、よほど会いたいと願っていたのだろう。
そんな二人を見ていて、ルルーシュは無理を言って連れてきて良かったと思う。
コーネリアからの叱責は後で自分が受けようと思う。
もし、逆の立場で、ナナリーがそう云う事を云ってくれば、ルルーシュだってコーネリアと同じ対応をしたに違いないから…
後ろに控えていた咲世子にルルーシュが声をかけた。
「咲世子さん、紅茶を…4人分…お願いします…」
いつになく嬉しそうにしているこの兄妹を見て咲世子も安心したような笑顔を見せる。
「かしこまりました…」
そう云って、咲世子はキッチンへ入って行った。
二人の感動の再会が終わると、ナナリーが気配でルルーシュの方を見た。
「お兄様…ありがとうございます…。ユフィ異母姉さま…に…会わせて下さって…」
その言葉にルルーシュはちょっと困ったような表情をしてナナリーに言った。
「俺は何もしていないよ…。ただ、ユフィに頼んだだけだ…。異母姉上から許可を貰ってくれたのはスザクだ…。その礼はスザクに云ってやってくれ…」
ルルーシュの言葉にスザクがやや驚いたような顔をするが、嬉しそうに笑った。
「否…僕は…」
「スザクさん…ありがとうございます。ユフィ異母姉さまの騎士になられてくれて…こうして、ユフィ異母姉さまに会える機会が出来たのですから…。本当に、ありがとうございます…」
ナナリーが嬉しそうにスザクに礼を言った。
スザクもその言葉を素直に受け取った。
「否…でも、ナナリーが喜んでくれたなら…嬉しいよ…」
その場が和んだところへ紅茶を持って咲世子が戻ってきた。
「皆さん、どうか、お座りになって、紅茶でも…。今日のお菓子はプリンですよ…」
そう云いながらテーブルに並べて行く。
そして、4人のお茶会が始まった。
ユーフェミアはこのお茶会にいつか、コーネリアやシュナイゼル、クロヴィスが顔をそろえられる日が来る事を願わずにはいられなかった。
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