カレンは何も告げられず、ゼロを呼んでくるように言われた。
きっと、特使として出向いてきたシュナイゼルの事だろうとは思うが、何故に、会議室ではなかったのか…少々気になる。
それに、トウキョウ租界の政庁がフレイヤの爆発に包まれ…それを目の当たりにしたルルーシュの事も気になる。
いずれにしても、この先、何かが変わってくる…そんな風に考えている。
ブリタニア軍に捕虜として捕まっていた頃、ルルーシュの妹であるナナリーとよく話をした。
ルルーシュの出自には驚いたが、逆に、彼の統率力は皇族故なのか…と何となく納得してしまった。
98代にも渡る皇家…それだけ長く続いているのであれば、それこそ、DNAのレベルで刻み込まれているのだろうと思ってしまう。
そして、ルルーシュとナナリーが日本へ来た経緯、スザクとの出会いと別れ、ブラックリベリオンでナナリーがブリタニアに連れ戻されるまで、ルルーシュがナナリーを守り続けてきた事…
ギアスの力に関しては、驚愕すべき事実であるが、それでも、ナナリーの言っていたルルーシュは、本当に、妹を愛し守る、良き兄の姿だった。
そして、皇族…まして、捨てられた皇子という立場で、どうあっても警戒心が強くなってしまった、日本での8年間…。
ゼロがスザクに拘った理由が解った気がした。
ルルーシュにとって、本当にかけがえのない存在だった…ナナリーの話で、それがよく解った。
そして、自分の愛する者を守る為になら、自分の心を殺して、全ての業を背負えるほどの強さが備わるのだと…。
ルルーシュは、ナナリーを守る為に、かけがえのない、スザクをも切り捨てていたのだ。
ゼロの事を知るカレンにとって、カレンの知る真実をナナリーに喋る訳にはいかなかったし、ナナリーとの会話の中で、ゼロではなく、ルルーシュを知ったと思う。
ルルーシュはカレンと同じ高校生で、何故、あそこまでブリタニアに対する恨みがあったのか、そして、高校生とは思えないリーダーシップとカリスマ…。
ゼロの正体を知る前も、知ってからも、ゼロに対する尊敬や憧れ、忠誠は多分、変わっていなかったと思う。
確かに、事実を知った時にはショックだったが…。
それでも、ゼロのブリタニアに対する恨みや怒りは本物だった。
黒の騎士団も、ゼロに対して、自分たちと同じ思いを…なんて事まで求めてはいけない気がしている。
黒の騎士団のメンバーだって、個人で思うところは違う。
ただ…共通していたものは…エリア11を日本へ戻す事…。
確かにゼロにとって、それは通過点に過ぎなかったかも知れないが、それでも、それ以上を望むのは黒の騎士団のメンバーの勝手な思いであり、そこまで、ゼロにおんぶにだっこでいいのか…という思いはある。
扇たちに指定された場所にゼロを連れていくと…
黒の騎士団の幹部が、全員、ゼロに対して銃口を向けている…。
「扇さん!一体どういう事です!」
カレンは驚いて扇に対して、怒鳴るように尋ねる。
カレンもこんな事は聞いていなかった。
シュナイゼルが特使として斑鳩に来ている事は知っていたが…一体、何の話がされたのか…
というよりも、何故、ゼロの親衛隊長であるカレンが呼ばれなかったのか…
ゼロのあの状態では恐らく、立ち会えなかっただろう…
その後に扇の言い放った言葉には…ゼロに対する憎しみしか感じられなかった。
―――これは…シュナイゼルの?
カレンの頭の中にそう過った。
ルルーシュの異母兄にして、ブリタニア皇帝の第二皇子、そして、ブリタニア軍の宰相…。
中華連邦で二人のチェスを見た時、これまでに感じた事のない緊迫感をルルーシュから感じた。
ルルーシュにとって、嫌な敵なんだと思う。
そして、今回の事も、ゼロを…引いては、黒の騎士団を無効化する為の措置…そう考えるのが自然だった。
扇も、藤堂も、何故、シュナイゼルの事を怪しまないのかが疑問だった。
しかし、今確実に解るのは…黒の騎士団そのものが、ゼロの敵になっている…という事…。
カレンは、恐らく、今、この場で選択を迫られているのだと思った。
そう思っている時、ゼロは仮面を外し、カレンを『優秀なコマだった…』と笑ったのだ。
確かにゼロの言葉…そう思う。
だけど…ルルーシュの言葉ではない…カレンはふとそんな考えが過ったのだ。
ナナリーに教えて貰った、ルルーシュの姿…。
そして、ゼロという存在…。
ルルーシュは何の為に、黒の騎士団を組織したのか…
それは…ナナリーの為…。
その為に、自分の意志など薙ぎ払って黒の騎士団を導いてきた。
そう、ナナリーがエリア11の総督となった時のルルーシュの状況を見れば、そんなものは一目瞭然だった。
ナナリーを失った今、ルルーシュに残されているものは何もない。
このままだと、この流れの中、ルルーシュは…殺される…。
そう思った時、ゼロの高笑いを演じているルルーシュを守る事を決めた。
理屈じゃなかった。
自分の慕ってきたゼロは、ルルーシュが基本となっている。
ルルーシュがゼロを演じているのだ。
ならば…ルルーシュの本質は…
そう考えた時、カレンの中の迷いが消えた。
カレンが守りたい者…
確かに黒の騎士団には、ゼロと出会う前からの仲間もいる。
そして、兄の事、母の事もある。
しかし、今のこの状況の黒の騎士団では、ゼロを失った時、シュナイゼルの傀儡になる。
そうなったら…黒の騎士団は、確実に捨て駒とされる。
多くの人々が賛同して、組織された、超合衆国ごと…
―――ゼロは…私が守る…
そう思った時、降ってくる銃弾から、ルルーシュを守るように庇っていた。
「カレン?」
扇たちの驚きと、ルルーシュの驚きが同時に声として発せられる。
「ルルーシュ…私は、ゼロの親衛隊隊長よ…。ブリタニアで云うところの専属騎士…ってところなんじゃないの?なら…自分の守るべき主は…命に代えても守るわ!」
「カレン…よせ…。もう…いいんだ…俺は…」
ルルーシュの力ない声が、カレンの耳にも届く。
あの時に似ている…。
ナナリーが総督となって、自分の居場所を見失って、リフレインに手を出しそうになった時のルルーシュに…。
「言ったでしょ?今のあんたはゼロなのよ!私たち…ううん、今は私…ね…。夢を見せた責任があるわ…。最後まで騙して…演じ切って見せなさいよ!」
正直、状況は完全に不利だ。
でも、迷いはなかった。
ゼロを守る…これが、今のカレンの全てだった。
ゼロを守る事が…きっと、カレンの望む未来に繋がる…。
扇たちは、裏切り者扱いをしてはいるが、カレンは、約束を守ってくれたという思いがある。
そう、中華連邦で神虎に捕らえられた紅蓮にゼロは言った。
『必ず助ける!だから、動くな!』
と…。
そして、ルルーシュは約束を守った。
確かに、過去、ルルーシュはギアスを使って残虐な事もしたかも知れない。
でも、今のカレンにあるのは、今ここにいるルルーシュが全てだ。
カレンを助ける為に力を尽くし、そして、約束を守った…。
「カレン!お前…ブリタニアの皇子がゼロだったって云うのに…。ギアスと云う能力を使って、俺達を操っていたかも知れないのに…」
扇たちがカレンに向かって、焦りの声を上げる。
ルルーシュ一人であれば、排斥すればそれでいい…。
ただ、カレンを失って…黒の騎士団の戦力のマイナスを考えた時、扇たちには大きな痛手だった。
「扇さん…ゼロを失って…黒の騎士団がどうなるか…本当に解っていますか?」
銃弾を避けて、しゃがみ込んでいたルルーシュの前に、両手を広げて、カレンが立ちはだかった。
悩みが吹っ切れ、迷いのない目をして…
カレンは以前にも誓っていた。
『私は前に進みます…ゼロ、あなたと共に…』
まだ、ゼロがルルーシュであると知らなかった頃だ。
あの時に、そう誓ったのだ。
どんなに辛い戦いであっても、ゼロを信じると…。
そして、ここまで、ゼロは、本当にキングの役割を果たしてきた。
誰にも頼る事なく…。
―――頼れるコマになれないのであれば…せめて…ゼロを守る盾になる…
「カレン…ゼロのやってきた事を解っているのか…!?ユーフェミアにギアスをかけ、日本人を虐殺させるように命じたのは、ゼロだ!」
その言葉にカレンがはっとするが、それでも、自分の決心を揺るがせないという思いで、ルルーシュの前に立っている。
「知っています…。ゼロが富士で、何をしたかは…。多分、扇さんたちよりも先に知っていた…。でも、私は…ゼロと進むと決めた…。ゼロについていく…。だから…ゼロは…私が守る!」
カレンのその一言に、扇も諦めたのか、再び、銃口をこちらに向けている。
「カレン、よせ!君まで巻き込まれる必要はないだろう!それに…俺にはもう…生きる理由など…」
「甘ったれんな!ルルーシュ…もし、自分が罪人だと自覚があるなら、罪人として最後まで、罪人であり続けなさいよ…。この世には必要なのよ…。悪という因子も…」
思いついて、とってつけたようなセリフだったが、今の状況では、十分だろう。
全ての者が、ルルーシュを…ゼロを悪というのであれば、その悪を守る為に騎士となろう…。
正義の為には、必ず、闇の部分が必要になる。
ルルーシュがその闇の部分になるのであれば、命をかけて、その闇を守ろう…。
もはや理屈ではなかった。
ルルーシュが…ゼロが…カレンにとっての絶対的存在だった。
「カレン…ならば…お前ごと…」
そう云って、一斉に銃弾が降りかかってくると思われた時…
何かがカレンとルルーシュを守った。
「蜃気楼!?一体誰が?」
カレンの驚きの声も更なる銃声でかき消された。
「構わん!蜃気楼ごと撃て!」
藤堂の言葉に一斉に銃弾が降ってきているが、全て、蜃気楼が跳ね返している。
そして、蜃気楼の中から、何かの力の様なものを感じたと思って、気がつくと、紅蓮を安置した格納庫に来ていた。
「え?これって…」
『今は説明している時間がありません。紅月隊長…早く兄さんと一緒に紅蓮に…』
蜃気楼から発せられる声…。
ルルーシュを『兄さん』と呼ぶ人物は一人しかいない。
「解った…。ルルーシュ…」
「俺は…もう…」
まだ、死ぬ事を考えているらしいルルーシュの鳩尾に一発拳を入れて、黙らせた。
「ったく…世話の焼ける…」
そう云って、紅蓮に乗り、ルルーシュを紅蓮の手でコックピットまで移動させた。
『紅月隊長…何があっても、兄さんを守ってください…』
「誰に言ってるのよ…あんた…。私は、ゼロの親衛隊隊長よ!」
『そうでしたね…兄さんを頼みます…』
蜃気楼から声がして、二機のナイトメアが、斑鳩を脱出した。
二機のナイトメアを待ち伏せていたかのように、黒の騎士団のナイトメアが取り囲んでいた。
「ロロって云ったかしら?これだけ数が多いから、手加減なんてしていられない…。だから、あんたはちゃんと避けてよね!」
この状況に、苦笑しながら、カレンが言った。
『出来るだけ、善処しますが…僕では兄さんほど、蜃気楼を乗りこなせないので…』
「解っているわよ!あんなめんどくさいナイトメア、まともに扱えるのはルルーシュしかいないでしょ…」
そんな短い会話で、その会話が終了し、完全なる戦闘モードに入って行った。
「ロロ…そう云えば、C.C.は?」
『僕が一応保護しました。多分、兄さんには必要なので…』
「そう…。じゃあ、お互い、落ちる訳に行かないわね…」
そう云いながらカレンが臨戦態勢に入り、蜃気楼を守るように紅蓮を操っていた。
そして、敵があまりの多い時には、蜃気楼からの絶対保護領域で回避した。
そんな事を繰り返しながら、二人が辿り着いた場所は…神根島…だった。
かつて、ルルーシュの仮面をスザクに壊された場所…。
いつも、苦しい時にここにいる気がする。
でも…黒の騎士団もここまでは追ってきている様子はない。
周囲を見回しながらそう思う。
―――今度の敵は…黒の騎士団…か…。でも…私は…
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