決断…


 ルルーシュがブリタニア皇帝になった。
黒の騎士団だけではなく、世界中が驚くべきニュースとして取り上げた。
世界の1/3を支配する、世界最大の超大国…。
それが、ブリタニア国内では死んだ事になっており、海外では存在すら知られていなかった皇子がいきなり即位した。
しかも、自ら『第98代ブリタニア皇帝、シャルル=ジ=ブリタニアは私が殺した!』と高らかに宣言までして…。
そして、隣に立つのは、ブリタニアの植民地であるエリア11出身の名誉ブリタニア人の枢木スザク…。
新皇帝は彼を『ラウンズを超えるラウンズ、ナイトオブゼロの称号を与える!』と世界に知らしめた。
この衝撃のニュースを受けて、黒の騎士団は勿論、シュナイゼルの率いる軍の内部でも混乱が生じ始めている。
特に、黒の騎士団は、ゼロの正体がルルーシュである事を知っており、彼らが、ゼロを排斥した結果が、こうしたニュースに流れてきているのだ。
ゼロ排斥の中心に立っていた、扇や藤堂も驚きを隠せずにいる。
勿論、ゼロの正体を知る者で、驚かぬ者など誰一人いなかった。
ゼロの正体を知る者たちは、知らぬ者もこの斑鳩内にいる事を解っているので、そうそう、表向きに騒ぎ立てる訳にもいかず…。
そして、中華連邦に渡った日本人たちには、ゼロ戦死と言う情報しか流しておらず、ゼロ排斥劇を知らせていない。
日本を取り戻したところで、ゼロがその命を救う為に妙策を使って、エリア11を脱出させているので、ゼロの排斥劇は決して知られる訳にいかなかったし、そのゼロが、今、ブリタニア皇帝に就任したと知られれば…。
しかも、きっかけが、間接的にかも知れないが、黒の騎士団のゼロ排斥劇から始まっているともなれば、蓬莱島の日本人たちはきっと黙ってはいないだろう。

「くっそ…一体どうなっているんだ!」
 扇が自分の握り締めた拳を目の前のテーブルに力一杯叩きつけた。
世界中のメディアがこのニュースでもちきりだった。
「これから…我々は、ブリタニア帝国を手に入れたゼロ…否、ルルーシュを相手に戦う事になるのかな…」
「シュナイゼルはどう動く!?」
藤堂も、冷静を装ってはいるが、このようなイレギュラーは流石に考えていなかったらしく、眉間に皺を寄せて目を瞑っている。
「扇、シュナイゼルとの約束は一体どうなる?日本は…」
「解らない…。おまけに、あの枢木スザクが、ルルーシュと手を組むなんて…」
あのニュースの後、シュナイゼルの手によって、暫定的に日本は扇たちの手に託された。
しかし、この日本返還はあくまでも、シュナイゼルが確約したものであり、ブリタニア皇帝との確約ではない。
「でも…」
その様子を黙って聞いてたカレンがふっと口を出す。
その一声にその場にいる人間の視線がカレンに集まる。
「なんだ?カレン…」
玉城が落ち着かない様子でカレンに聞き返す。
「ルルーシュは…多分、日本を…戦場にしたいと思っていないと思う…。そりゃ、混乱が起きれば、軍を出すとは思うけれど…」
おずおずとカレンが口を開いた。
カレンの知るルルーシュ…
結局、神根島に行ったときにルルーシュには会えなかった。
聞きたい事があったと云うのに…
そして、何も知らないまま、ニュースでルルーシュが皇帝になった事を知ったのだ。

 ナナリーから聞かされた優しい兄の顔、学園内でのいつも不遜な態度をとっているが、いざと云う時には力になってくれたルルーシュの顔、そして、ゼロとしてのルルーシュの顔…
どれもルルーシュだが、カレンは一体どのルルーシュの顔を見ていたのか…自分の中で問い続けていた。
黒の騎士団員はゼロとしての顔しか知らない。
でも、カレンは、彼らよりもルルーシュの事を知っている。
「なんでそう思うんだよ…。ずっとあいつは裏切ってきたんだぜ?俺たちを…。そして、とどめがブリタニア皇帝かよ…」
玉城が悔しさと怒りを隠せない表情でカレンに訴えてくる。
「確かに…玉城の言う通りだけど…。でも…私は…」
「カレン、まだ、ゼロの事を信じているのか?」
扇が表情を変えてカレンに尋ねた。
「信じるとか…信じないとか言う以前に…ここにいる人たち…多分、ルルーシュの事、何も知らないでしょ?結局、シュナイゼルの言葉だけを信じて…。ゼロが作ったこの組織だって、解散させる事も出来ずにいる…」
「………」
「私たち、ゼロの作った遺産で、こうした黒の騎士団としていられるけれど…ゼロの残したもの、全てを否定して、排除したら…きっと、何も残らない…」
カレンの静かな言葉に、その場の人間は黙り込んでしまう。
ここまでの組織として作り上げたのはゼロ…
超合衆国を提案して、各国をまとめあげたのはゼロ…
エリア11から100万人もの日本人を脱出させたのもゼロ…

 その場に重い沈黙が広がる。
確かにゼロは黒の騎士団をコマとして扱っていたかも知れないが、キングとしての仕事もきちんと果たしていた。
今の黒の騎士団にゼロ程、キングの働きの出来る者がいるだろうか…。
ギアスのあるなしに関わらず、少なくとも、蓬莱島の日本人たちの心を動かしたのはゼロの存在感だ。
「あの時がきっかけで、ルルーシュがブリタニア皇帝になったと云うのなら、彼の能力がそうさせたんだろうし、私たちに、彼の行動を責める事は出来ないと思う…。だって、ゼロを排斥したのは…黒の騎士団なんだから…」
カレンは相変わらず静かに言葉を紡いでいる。
そして、カレンよりも遥かに年上であろう周囲の人間たちは何も言えずにいた。
神根島で何かあったのだろうとは予想は出来る。
しかし何があったのかは、黒の騎士団も、シュナイゼル軍も知らないのだ。
否、神根島のどこにシャルル=ジ=ブリタニア、ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア、枢木スザクがいたのかすら解らずじまいだ。
「私、随分昔に一度だけ…彼に会った事がありました。」
不意に口を開いたのは皇神楽耶だった。
「あの時、彼はブリタニアからの人質として、枢木家にいました。恐らく、藤堂将軍もスザクから話くらいは聞いた事があるのではないですか?」
「……」
藤堂は何も言う事が出来なかった。
あの時、確かに枢木家にはブリタニア皇族の兄妹がいたのだ。
「その時の彼は…何かを必死に守ろうとしていました。私はとても幼かったのですが、あの目はとても印象的で覚えています。スザクとは…凄く仲が良かったようですが…」
神楽耶は淡々と言葉を口にしている。
「あの方は強い方です。あの時も、ただ…妹君を守ろうと…必死に生きていらっしゃいました。その思いが、きっと、黒の騎士団を作り、あなた方には許せないほどの事もしてきたのでしょう…」

 カレンの言葉にも神楽耶の言葉にも、重い何かが圧し掛かっている気がした。
「黒の騎士団は…これからどうしたいのです?私は、合衆国日本の代表ではありますが、必要とあらば、ブリタニアに刃を向ける決断もしましょう。ただ…あなた方の感情だけで、ゼロ様が私たちに置き土産としてくれた日本を戦場にする訳には参りません!」
「日本は…」
扇が慌てて自分たちがシュナイゼルと取り付けた約束だと云いだそうとしていた。
その扇に神楽耶はキッと睨んで扇の言葉を遮った。
「あなたの約束のおかげではありません。ゼロ様が人身御供となられ、私たちに残して下さったものです!あなた方は、まだ、ゼロ様の存在がどれほど大きかったか解らぬのですか!戦争とは何なのか、知らずに戦闘行為を行ってきたのですか!」
神楽耶の叱責に誰も何も言えなくなった。
「扇副司令!あなたはもう、ゼロ様は不要と言い切ったのでしょう?ならば、あなたの力で黒の騎士団…そして、日本を何とかして見せなさい!」
その一言を残し、その部屋を神楽耶は出て行った。
カレンも、神楽耶の後に着いて部屋を後にした。

「神楽耶様!」
 廊下を足早に歩いている神楽耶にカレンが声をかけた。
「カレンさん…」
「すみません…私…ゼロを守れなくて…。ゼロは私が守るって…決めていたのに…」
カレンが深々と神楽耶に頭を下げて謝る。
そんなカレンを複雑な表情で神楽耶が見つめる。
「カレンさん…私たちにはゼロ様と言う存在が大きすぎたのです。だから…ゼロ様は私たちの元から飛び去ったのです。私自身、本当に未熟だったと思います…」
泣きそうな表情を見せながらも、気丈にふるまっている神楽耶にカレンは頭の下がる思いがした。
普段、明るい少女に見える神楽耶ではあるが、やはり、皇家の息女である…と言うところなのか…
「神楽耶様…」
「とにかく、ゼロ様の残してくださった、たくさんの遺産を、私たちは何としても守らなくてはなりません!カレンさん…」
「そう…ですね…」
神楽耶はそんなカレンを見て、その場を離れていった。
カレン自身、今の黒の騎士団に疑問があり、ずっと、ゼロの存在がカレンを支えてきていた。
今が分岐点なのかもしれない…。
「ルルーシュに…会いたい…。そして、きちんと話したい…」
カレンは一人、何かを決断した。
どうなるか解らないが…一度、きちんとルルーシュと会いたかった。
そして、黒の騎士団に包囲された時にカレンに残した言葉の意味、神根島で何があったのか…ほかにもたくさん聞きたい事があった。
そんな思いを抱きつつ、カレンは斑鳩内の自分の部屋に戻っていった。

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