『この剣にルルーシュとナナリーの絶望も込めさせて頂きます!』
『我が名はルルーシュ=ヴィ=ブリタニア…マリアンヌ后妃が長子にして、帝国に捨てられし皇子…』
『ルルーシュ!それは僕の十字架だ!』
『止められるものなら止めてみよ…我が絶望に敵う者がいるのなら…』
神根島で、二人の少年がこれらの思いを共通の敵に向けられている頃…
アヴァロンのシュナイゼルの執務室には、カノンとコーネリアだけが残っていた。
ナイトオブスリーである、ジノ=ヴァいンベルクは全ての武器を奪われ、シュナイゼルの近衛兵たちの監視下に置いている。
「殿下…枢木卿を本気で…」
シュナイゼルの一番の側近であるカノンが問いかける。
「まぁ、暗殺…は、どうだろうね…。確かに枢木卿は強いが…あの皇帝陛下が自分の友人を売り、自分の祖国を売った彼に対して、警戒をしていないとも思えないが…」
「兄上…では何故枢木を?」
シュナイゼルの言葉にコーネリアが反応する。
「ふっ…一応、以前から考えていた事ではあったが、いざやる時には当然、突然そう云う話になる事も想定していなくてはならない…」
落ち着き払って、シュナイゼルは話を進める。
「時間稼ぎは当然必要…。枢木卿が、自ら買って出てくれた事には感謝している…。黒の騎士団も、ルルーシュなき今、取るに足りない…こんな形でカードが揃っている時に、あと一つ足りなかったのが、引き金を引いてくれる者だったのだからね…」
「コーネリア皇女殿下…シュナイゼル殿下は、以前からこの、戦争の止まない状況に心を痛めておいででした。そして、ご自身の、弟君、妹君が亡くなられていく事も…」
「兄上…」
コーネリアにとってみれば、突然の出来事であり、最初は耳を疑っていたが、シュナイゼルの気持ちが本気であると気づいた時、自身の中で、何とか、この現実を受け入れている。
「本当は、ルルーシュも、あんな形で死なせたくはなかったのだがね…」
何か含みのある笑みを浮かべて、シュナイゼルがコーネリアの方を見ながら言葉を口にする。
コーネリアはやや、怪訝な表情を見せるが、すぐに表情を戻し、顔を強張らせる。
「しかし…ルルーシュは…」
「ルルーシュも…父上のあの、危険な研究の犠牲者だよ…。黒の騎士団の方々にも言ったが、私は、弟妹の中で、彼が一番好きだった。そして、一番、末恐ろしかった…」
懐かしそうに、そして、やや寂しげな表情を浮かべる。
元々、底の知れない男ではあるが、何となく、これは、本心なのだろうとコーネリアは思う。
コーネリアにしてみれば、複雑な思いである。
最愛の妹を殺され、虐殺の汚名を着せられた事が頭からこびりついて離れない。
「コーネリア、君にルルーシュを恨むなと言っている訳ではないよ…。彼を愛したのは、私の個人の感情なのだから…。コーネリアがそれに付き合う必要はない…」
相変わらず、優しげに、穏やかに話を続けている。
「まぁ、私が皇帝陛下に対して、不信を抱いたのは…やはり、あの、アリエスの離宮での事件だった…。皇帝陛下は、そのあと、私からルルーシュを取り上げた…」
そう言って、目を閉じ、下を向く。
「兄上…」
「だから、私も君と同じなんだよ…。大切な者を奪われて、疑念を抱き、それが憎しみや反逆の心となった…。君はどうしたい?」
優しい兄の表情を見ていると、正直、どうする事が一番いい事なのか解らなくなってくる。
ユーフェミアを殺したルルーシュ…
先ほどの黒の騎士団側との会談からすると、恐らく、ルルーシュは生きている。
今は、現皇帝である父を倒す為に、神根島にいる…。
そして、この、反乱騒動もルルーシュの仕業だろう…。
あと…シュナイゼルの待っていた引き金を引いた、枢木スザク…。
このアヴァロンには今、黒の騎士団の幹部の者たちも乗っている。
正式な客人として迎えてはいるが、シュナイゼルの頭の中にはそんな事は瑣末な事であった。
「殿下、黒の騎士団はこれからどうなさるおつもりで?」
カノンが、話題を変えようと、黒の騎士団の話題を振る。
「まぁ、ルルーシュがいなくなって、どうやら、あの副司令閣下はゼロを排斥したことを、あの場にいた幹部のみにしか知らせられないらしい…。あの、お若い姫君も色々大変だろう…。それに、ルルーシュのいない黒の騎士団に何か出来るとでも思うのかい?カノンは…」
まるで、黒の騎士団など、もはや敵ではないという口ぶりだ。
「まぁ、確かに…。ただ…テロ集団として動かれると…」
「その時には…また、ニーナのフレイヤが活躍するだろうね…それに…テロ集団がいくら強力な戦術兵器を持っていたとしても、使いこなすのは戦略…。ルルーシュのいない黒の騎士団にそれほどの戦略があるとも思えないがね…」
二人の会話を聞いていたコーネリアだが、状況の把握もままならない状態で、話に入る事は出来ない。
「では、日本を返すと云う、あの扇の話はどうするのですか?」
やっとコーネリアが口を出す。
「まぁ、約束は守るよ…。『日本を返す』と云う約束は…ね…」
意味深にシュナイゼルはコーネリアに答えた。
どうやら、黒の騎士団を放っておくつもりもないらしい。
「今は、一応停戦条約を結んでいる。ただ、終戦では…ないのだから…」
含みのある笑みに、コーネリアはやや背筋が寒くなる。
「私は許す気はないよ…私の大切な者を奪った者…全てを…」
「兄上…」
穏やかな顔ではあるが、その目は…笑ってはいなかった。
ナイトメアの攻撃によってできた穴に落ちて行ったスザク…。
どれほど気を失っていたのだろうか…
「くそっ…俺は…」
ルルーシュが表れて、ナイトメアの攻撃があって、ルルーシュを追いかけようとして、その出来た穴に落ちて行った。
「ルルーシュ…」
空を見上げると、真上で交戦はしていないようだが、遠くで、戦闘をしている音が聞こえる。
ナイトオブワンは反乱がどうとか言っていた…。
シュナイゼルが到着するには早過ぎる。
「とすると…やはりルルーシュが…」
苦しげな表情になってしまう。
なぜ、こんな事になった…。
多分、ルルーシュが望んだことも、こんな戦争ではなく、能力ではなく…ただナナリーを守りたかっただけなのだ…。
ただ、そのナナリーを守るとしても、その敵が強大だった…。
それ故に、彼は大きな力を欲した。
枢木神社でも言っていた。
『ナナリーさえ…』
そのナナリーも…もういない…。
後は、自分の命など、簡単に捨てるだろう。
ルルーシュに残された目的は…恐らく、皇帝を亡き者にする事…
「僕には…『生きろ』と言うギアスをかけておいて…君は…君だけはそうやって死に急ぐのか…」
ぎりっと奥歯を噛み締める。
「そんな事…許さない!君だけ…死ぬなんて…絶対に許さない…」
口の中で呟く。
「なら…一緒に行くか?」
後ろから声をかけられる。
女の声…
振り向くと、黄緑色の長い髪の少女が経っていた。
「君は…C.C.…」
「私の事は…とりあえず解っているようだな…。シャルルからどの程度聞いているかは知らないが…」
「そんな事より…一緒に行くと云うのは…?」
スザクがやや怒気の色を浮かべてC.C.に尋ねる。。
「それが、人にものを尋ねる態度か?まぁいい…。ルルーシュは私の契約者だ。契約不履行のまま死なれても、あの空間に封印されても困る…」
「ルルーシュを…連れ戻せると?」
「私の都合でな…」
C.C.と名乗った少女が淡々とスザクの言葉に返してくる。
「シャルルを封印する為に、ルルーシュは異世界にいる。私はあいつをこちらに連れ戻す…。そこにお前も来るか?と聞いたのがだ…返事がないな…」
そう言って、C.C.が背中を向けて前に歩きだした。
「待て…僕も行く…。連れて行ってくれ…」
「そうか…どうなっても責任は取れないがな…」
「そんなものはいらない…僕は僕の意志で、ルルーシュを連れ戻す…」
そういって、スザクはC.C.を追って行った。
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