ライバル出現?


 ブラックリベリオンの折、ゼロを捕らえた事で、ナイトオブラウンズに昇格した。
何の歯車の所為でこうなったか解らない。
ただ…スザクとルルーシュは敵同士で、スザクはルルーシュを追い、監視役になった。
皇帝にかけられたギアスのお陰で、ルルーシュはただの高校生になった。
皇族でもなく、ゼロでもない…ただの高校生に…。
ブラックリベリオンから1年が経ったある日…突然、ゼロが現れた。
そして、幾度かの戦いを経て、今に至っている。
「おう!スザク…庶民の学校って面白いなぁ…」
機嫌よさそうに同じナイトオブラウンズのジノ=ヴァインベルクが執務室に入ってきた。
「何だジノ…今帰りか?」
何となく機嫌の良くなさそうにスザクがジノに問いかける。
「ああ、それに、あの生徒会の副会長…ホントに綺麗だよなぁ…。なんで男なんだろう…」
何となしに口にしたであろう台詞にスザクはピキッと反応した。
それに気づいているのかいないのか、ジノは更に話を続ける。
「ルルーシュ先輩って…好きな人っているのかなぁ…」
「……」
スザクはジノの台詞に『彼は何も知らないんだから…』と言い聞かせながら怒りを抑えようとしている。
スザクにしてみれば、
―――突然アッシュフォード学園に編入し、通い始めたジノにルルーシュの何が解る!?
という思いなのであろう…。
あの後、1年も会うことも叶わず、ルルーシュの監視に集中しなければならない毎日…。
ナナリーからは
『こちらは大丈夫ですから、学校へ行ってください…』
と言われているが、今の状況の中でルルーシュに会うのは後ろめたいのと、切ないと思う部分が多分にある。

 ブラックリベリオン…神根島で…ゼロの正体がルルーシュであると判明した。
今まで信じてきた…誰よりも愛してきたルルーシュがスザクに嘘をついて、スザクの敵になっていたのだ…。
ショックは大きかった。
下手をすれば、このまま殺されてしまう…そんな嫌な予感を抱えながら、ルルーシュを皇帝の前に引きずり出した。
しかし、そのときには意外にも
『まだ使い道はある…』
と、ルルーシュの記憶を書き換え、ルルーシュの命は救われた。
皇帝がスザクの思いなど知る由もないし、知っていたところで、そんな事を気にしてルルーシュを助けるなど、考えられない。
そして、そのとき、ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアがいなくなり、ただの少年であるルルーシュ=ランペルージだけが残った。
ゼロの出現の時には色々考えて色々予想はしてみたが…確証がなく、それだけが唯一のスザクの救いだった。
任務は果たすが…やはり人間である。
どうしても、ルルーシュが誰かと仲良くしているところを見るのが辛い…。
楽しそうに笑っている顔を見ているのが辛い…。
自分が選んだ道の果ての結果だと言うのに…。
弟役のロロと微笑み合っているのを見たときには…素直に怒りで震えた。

 ジノは相変わらず、嬉しそうに生徒会の(と言うか、ルルーシュの)話をしている。
あの笑顔は…本当は僕だけの…と云う思いが込み上げて来る。
自分が選んだ道の果ての結果…そんな事は解っている。
それに、今のルルーシュは皇帝に記憶を書き換えられていて、スザクの知っているルルーシュではないのだ。
記憶が違っていても、所々で見せる、ルルーシュの本質の部分…。
そして、段々…学校でのルルーシュの話を嬉しそうにしているジノを睨み付けるようになっていた。
その視線にどうやらジノも気づいたらしい。
「お…おい、スザク…目が怖いけど…」
「ジノ…随分ルルーシュと仲がいいみたいだね…」
顔を引きつらせながらジノに迫っていく。
あからさまに『ルルーシュは俺のもんだ!』オーラを全開にしているスザクの姿にジノは目を丸くする。
「スザク…お前、ルルーシュ先輩の何?」
ジノはジノで、結構あっけらかんとスザクに質問する。
どうやら、ジノもルルーシュに対してただならぬ思いを抱いているように見える。
「べ…別に…」
何とかその場を誤魔化そうとして、スザクは言葉を濁した。
「なら、別に、私がルルーシュ先輩と仲良くしたって問題はないだろう?」
「……」
スザクはあからさまに『嫌だ!』と言う眼差しをジノに送っている。
しかし、言葉が出てこない。
今のルルーシュはかつてのルルーシュではなく、皇帝に記憶を書き換えられた、別のルルーシュ…。
ルルーシュがこのまま幸せになれるのなら…スザクとの事の記憶も取り戻さなくてもいい…そう思っていた筈なのに…現実にこうして、目の前であの、笑顔を振り撒かれていると面白くない。

 ジノとしても、スザクの気持ちに気づいたらしく、少し意地の悪い表情を見せた。
「なぁ、スザク…私はルルーシュ先輩が好きだよ…。綺麗で、頭が良くて、それでいて、優しい…。転入したばかりの私とも気兼ねなく話してくれた…」
やや、デフォルメを加えながらスザクに対して自慢話を始めた。
「アーニャに対してもそうだ。なかなか冷たい雰囲気を醸し出してはいるが、実のところはとても優しくて、頼り甲斐がある。私としても、いつまでも彼の傍にいたいよ…」
「!?」
こいつもルルーシュ狙いか…そんな思いがスザクの脳裏を行ったり来たりしている。
いくら記憶がなくなっても、いくら自分の監視ターゲットだとしても…ルルーシュはスザクの愛する人で…失いたくない…かけがえのない存在だ。
それでも、こうしてかつての記憶のないルルーシュが本当にスザクを必要としてくれるのだろうか?
「それに…時々、憂いを帯びた顔で、遠くを見つめているルルーシュ先輩を見ていると、守ってやりたくなるよなぁ…」
「…れ…」
スザクは噛み潰すように言葉を口にする。
「なんだ?スザク…」
ジノは相変わらず能天気な反応を返してくる。
ただ、スザクの姿を見ると、どうやら、ただ事ではないことを察する。
少し、苛め過ぎたか…と思いつつも、ジノは表情を変えない。
「もう黙れ…ジノ…。ルルーシュに何かしたら…俺がお前をぶち殺す!」
完全に目の据わっているスザクを見て、ジノがふっと笑った。

「やっと…お前の本性をちょっとだけ見た気がするよ…」
 ジノは楽しそうにスザクに笑いかける。
「さっきからお前から出ているオーラ…尋常じゃなかったからな…ちょっと意地悪をしてみたくなったんだよ…」
「おまえ!僕をからかったのか?」
スザクはかっとなってジノに掴み掛かった。
「あら…いつものスザクに戻っちゃった…。まぁ、いいか…。面白いものが見れたし…」
「面白い?」
コメカミ青筋を立てながらスザクがジノに問う。
「お前さ…比較的仲のいい私たちとも決して、砕けて話すことはなかっただろう?お前のことも何も知らないし…だから、ちょっと、今日は特別な感動だな…」
「じゃあ…ルルーシュの事は?」
「あ、ルルーシュ先輩のことは本気…。いつか、絶対にあの人を心の底から笑わせてみたい…」
ちょっと遠くを見るようにしてジノが返事をする。
スザクの方はと言えば、やや複雑な表情を消す事が出来ない。
「お前ももたもたしていると、ルルーシュ先輩、私にとられるぞ…!私は本気だからな…」
そんなジノの言葉にスザクは心の中でふっと笑う。
だって、ゼロの正体は彼で…彼は今、本当の記憶がない。
だから、その部分も含めて愛せるのは自分しかいない…スザクは心の底からそう思っている。
「ふん…お前なんかにルルーシュが興味を示すもんか…」
不機嫌な声でジノに対して挑発する。
「学校に来ない奴に言われたくないな…。いつか、絶対に彼の…本当の笑顔を見るんだ…」
天を仰ぎ見るようにジノが口にする。
「お前になんかに、絶対にルルーシュはやらない!ルルーシュは…僕のだから…」 そんな言葉を残して、スザクは執務室から出た。

「ルルーシュは…僕のだから…か…」
 執務室の外に出て、呟く。
今の自分にそんな事を言う資格があるのかさえ良くわからない。
ただ、あるのは、
―――ルルーシュが笑いかけるのは自分だけでいい…
そんな身勝手な思いだけだった…。

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