C.C.を自室に連れてきたはいいが、この先、どうするべきか…。
ゼロがいなくなった黒の騎士団…。
恐らく、カゴシマ租界へ進軍していた一団が合流した時点で、それはそれは揉める事になる。
「さて…どうしたものかしら…」
カレンは今の状況を考える。
今まで、思想も民族も違う超合衆国をまとめ、その超合衆国から派遣されてきた者たちをまとめてきたのはゼロだ。
恐らく、今の状況で、これだけの多民族で、多思想の人々をまとめられるだけのカリスマは黒の騎士団の中にはいない。
否、ゼロの正体にしても、ギアスに関しても、実際にあの仮面を取った素顔を見たのは、あの格納庫でゼロを包囲した連中だけだ。
おまけに、あそこに集まっていたのは、シンジュクゲットーでレジスタンスをしていた扇たちと日本解放戦線の生き残りの藤堂たちだけだ。
ギアスの話に至っては、俄かに聞いて信じられるものではない。
「せめて…C.C.があの時のままだったら…」
ついつい、目の前にいるC.C.を見てしまう。
本当に、目の前のC.C.は普通の少女だ。
「シュナイゼルもどんな説明をしたのかしら…。と云うか、黒の騎士団って、超常現象を信じる人の集団?」
こんな状況じゃなかったら、笑い倒してしまいそうなギャグ話だ。
カレン自身、話を聞いた時は俄かには信じられなかった。
ルルーシュとスザクの神根島でのやり取りを聞いた時だって、そんな不思議な力の存在など信じられなかった。
C.C.に何度も説明されて、やっと…何とか受け入れた状態だった。
「シュナイゼル=エル=ブリタニア…あんな穏やかな顔をして…恐ろしい男…」
カレンは知らず知らずの内に表情が険しくなっている。
「あ…あの…」
まるで、恐る恐ると云った感じで、C.C.がカレンに話しかけてきた。
「何?」
「私に出来る事なら…何でもします…。えっと…出来る事は…」
「ああ、いいわよ…。その場で頼んで、出来ない事は仕方ないって事で…」
あのルルーシュが、どうやって、こんないろんなものに怯え、おどおどしているような少女をここまで手懐けたのか…。
カレンが斑鳩に戻ってきてから驚く事ばかりだ。
「とりあえず、ここにいても、ルルーシュには会えないわね…」
相変わらず独り言を続けている。
今の状況で、学園に戻る訳にもいかないだろうし、あれだけの追撃に遭っていたのだ。
蜃気楼だって、そうそうエナジーフィラーが残っているようにも思えない。
それに、あの状態で連れ出されているのだ。
何も持たずに出て行っている事になる。
ルルーシュの事だから、蜃気楼の中に、いざという時の為の非常袋みたいなものは置いてあるだろう。
そして、何か活動を起こす為の最低限の機器も使えるようにしてある筈だ。
今の斑鳩の騒ぎを見ると、まだ、ゼロは捕まっていない。
「なら…」
事ここに至ってしまっては、ゼロの親衛隊長で、あの場でゼロを庇ったカレンに黒の騎士団に居場所は…ないと考えた方がこの先、選択肢が増えるだろう。
それに、ゼロがいなくなった黒の騎士団があの、ブリタニアの第二皇子シュナイゼルに勝てる訳がない。
それに、あの時、あのフレイヤを撃ったスザクも…。
戦える状態なのかは解らない。
しかし、あの、ナイトオブスリー…あの男だけでも十分にゼロいなくなった黒の騎士団には大きな脅威だ。
これまで、戦力で黒の騎士団に勝るブリタニアの正規軍と何とか対等に渡り合ってきたのは、ゼロのお陰だ。
そう、潜水艦でトウキョウ租界から出て行こうとした時だって、藤堂では敵わなかった。
途中からカレンに通信を送ってきたルルーシュのおかげであの場を切り抜ける事が出来たのだ。
「確かに…ルルーシュは不器用で、説明をきちんと出来なくて…本当は助けを求めたいくせに、何でもかんでも自分で抱え込んじゃって…それじゃ…あの、石頭たちはシュナイゼルの言葉の方が耳に心地いいわよね…」
このままでは、シュナイゼルの思うつぼだ。
それに、今の黒の騎士団に、C.C.の居場所もカレンの居場所もなくなりつつあるような気さえしてきた。
あの状況の中、あそこまで正面切って、彼らに対して異を唱え、ゼロを庇って、玉城に対しては手をあげている。
玉城の事はどうでもいいが、上層部のあの行動に対して、今では誰も何も言えずにいるのだ。
となると、自分からギアスをかけられている事をカミングアウトしてしまっているカレンは下手をすると命を狙われる可能性もある。
「ふっ…私もC.C.と同じか…なら…」
カレンは意を決したように何かの準備を始めた。
「あ…あの…どうしたのですか?」
さっきから黙り込んで、時々独り言を発しているカレンを気にして、C.C.が話しかけてきた。
「ん…ごめん…。ここにいたら、私もあなたもちょっとまずい状況みたいだから、ルルーシュを探す為にもまず、ここを出るわ…」
「ここを出たら、ご主人様に会えますか?」
「解らない…でも、ここにいるよりは、可能性が高くなるわ…ルルーシュに会える…可能性が…」
「はい…ご主人様に会えるなら…私も一緒に行きます。連れて行ってください…」
C.C.がやや不安そうに微笑んで、カレンに頼んだ。
カレンが捕虜となって、いつ、こうなったかは知らないが、ルルーシュはよほどこのC.C.を大切にしていたのだろう…。
一通りに身支度を整えて、C.C.にはカレンの普段着を着せた。
とにかく、誰にも見つかる訳にはいかない。
「C.C.、絶対に声を出しちゃだめよ…。あと、私に何かあったら、このバッグを持って、ここから外に出なさい…。大丈夫…あなたを外に出すまではどうにかなったりしないから…。それに…私もルルーシュを探したいから…」
「はい…解りました。」
そう言葉を交わすと、カレンはC.C.を連れて部屋の外に出た。
まだ、蜃気楼の追撃が続いているのか、このあたりには人がいないらしい…。
「結構、好都合ね…。と云うより、ゼロがいないと、ここまで纏まりがないわけ?黒の騎士団って…」
半ば呆れたようにカレンが呟いた。
少なくとも、先ほどの一件でカレンに対する疑心が生まれてきている筈なのに、カレンの動きを気にしている者がいない。
確かに、監視カメラがあちらこちらにある筈だが、ゼロの部屋からC.C.を連れ出している事はとっくにばれている筈…。
ディートハルトがあの場でゼロを裏切るとは思っていなかったが、しかし、ゼロを庇いだてしたカレンに対する監視が甘過ぎる。
「…まさか…ね…」
ある考えが過ったが、こんなところでうだうだ考えている暇はない。
「紅月隊長…」
後ろから声をかけられる。
この状況で、荷物を持って、C.C.を連れて…と云うのは不自然極まりない。
―――ばれたか…否、見張られていた?
ゆっくり後ろを向くと、ディートハルトが立っていた。
「あんた…」
「紅月隊長…どちらへ?C.C.ですね?隣にいるのは…」
「だから何?どうせ、黒の騎士団には私の居場所なんてない…。なら、私はゼロを探しに行く…」
1対1ならディートハルト相手なら突破できる。
「やはりそうですか…なら…これを…」
そう云って、ディートハルトはカレンに対して何かを投げた。
紅蓮のキーだった。
「?」
「あの場で、私まで排除されていたら、これまでゼロの積み上げてきた物の全てが無駄になります。しかし、あの場で、あなたがゼロを庇って下さった…感謝します…」
「どう云う事?」
ディートハルトのいきなりの裏切りには疑問を持ってはいたが…
「黒の騎士団は、ゼロがいなければ成り立ちません。今のこの状況を見てもそれがはっきり解ります。なら、黒の騎士団には消えて頂いた方がいい…。そして、ゼロの進む道を私は追い続けていきたい…」
「ディートハルト…」
「今、監視モニターには私の仕掛けていたダミーがセットされています。早く行って下さい。そして…ゼロを…」
「解ったわ…でも…紅蓮の整備は?」
「ああ、ラクシャータが楽しそうに見ていましたから…エナジーフィラーにも問題はないでしょう…。もし、エナジーフィラーが必要となったら、この携帯で通信してください。出来るだけ私の方で準備させましょう…」
そう云って、もう一つ携帯電話をカレンに放り投げた。
カレンが驚いた顔をしていると、ディートハルトが楽しそうに笑いながら語り始めた。
「英雄とは、あらゆる困難を乗り越えてこそ英雄…。ゼロは、死んでいなければ、必ず何かのアクションを起こします。恐らく、今は黒の騎士団にいれば、必ずゼロの姿を見る事が出来る。その為にも紅月隊長…ゼロを頼みます…。さぁ、行って下さい…」
「いまいち信用しきれないけれど、今は、あんたのその行動の恩恵を受ける事にするわ…」
「はい、ゼロを…英雄にして下さい…。そうすれば、蜃気楼のパイロットの犠牲も無駄ではなくなります…」
「蜃気楼のパイロットって…あの時、ゼロを助けた?あれも…あなた…」
「ええ…何があったかは知りませんが、蜃気楼の前で沈み込んでいて…ただ、黒の騎士団の動きを知ったら、血相を変えて、蜃気楼に乗り込んでいましたよ…」
「そう…解った…じゃあ、今はあんたを信じるわ…。まぁ、紅蓮なら黒の騎士団の機体でまともにやりあえる機体もパイロットもいないけど…」
そう云って、カレンは、C.C.の手を引いて走り出した。
「紅月隊長…ご武運を…」
「ありがとう…」
格納庫に行くと、本当に誰もいなくなっていた。
ディートハルトが排除したのだろう…。
「C.C.、狭いけど、一緒に乗って…。ここを出たら、フルスピードで飛ぶから、しっかり掴まっていてよ…」
「あ…は…はい…」
そう云いながら、二人で紅蓮のコックピットに乗り込んだ。
「ルルーシュ…あんた一人で死なせたりしない!とりあえず、私の前であんなへたくそな猿芝居をした事を後悔させる為に、まず、あいつを一発ぶん殴る!」
そう云って、ハッチを閉めてキーを挿す。
そして、斑鳩のナイトメアの発進口にあたる壁をライフルでぶち抜いた。
その時、艦内にアラートが鳴り響く。
「さぁ、行くわよ!」
そう一言つぶやいて、紅蓮を発進させ、フルスピードで飛び立った…。
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