リーダー無き戦闘集団


 藤堂たちがゼロを裏切った。
カレンは呆然とその場に立ち尽くす。
ルルーシュがカレンに残した最後の言葉…。
あの時、ルルーシュは死ぬ気だった…。
だから、最後にあの言葉を残した。
あの時、蜃気楼がルルーシュを助ける事はルルーシュにとってもイレギュラーだったのだろう…。
ルルーシュが…カレンに残した遺言…だったのだろう…。
『カレン…君は生きろ…』
ナナリーから聞いたルルーシュ、自分がアッシュフォード学園で見てきたルルーシュ、そして、ゼロとしてのルルーシュ…。
頭の中をぐるぐる駆け巡る…。
「おい、カレン…悪かったな…ケガはないか?」
立ち尽くしているカレンに、後ろから声をかけてきたのは玉城だった。
「……」
カレンは玉城の言葉に返事をする事がない。
ただ、肩を震わせていた。
恐らくは…怒りと驚愕…そして、この黒の騎士団と云う存在への疑問…
「まぁ、追撃しているし、そのうち、捕まるだろうぜ…。これであいつを殺すなり、シュナイゼルに引き渡すなりすれば…」
さっきから、カレンにしてみれば能天気としか言えないような口調で玉城がべらべら喋っている。
「……」
周囲が暗い空気に包まれている時、その空気にそぐわない明るさを見せるのは玉城のいいところではあるが、それは、TPOを選ぶ。
玉城だって、カレンがゼロを尊敬し、ゼロの親衛隊隊長である事を誇りに思っていた事は知っていた筈だ。
「でも…あんな奴でも親友だと思ってたのによぉ…ホント、裏切られたぜ…」
必死になって怒りの爆発を堪えていたカレンがついに後ろにいる玉城に向かって力一杯のビンタを食らわした。

 玉城は一瞬、何が起こったのか理解出来ないと言った表情を浮かべるが、左頬の痛みに気付いて、一気に逆上する。
「いってぇなぁ…何しやがる!」
「…にが……ゆうよ…」
声を震わせてカレンが言葉を発した。
周囲にいたメンバーたちも驚いてその場を見守る事になる。
「ああ?なんだよ…言いたい事があるなら…」
玉城がそう言いかけている時、カレンは玉城の胸倉を掴んだ。
「何が親友よ…!何が裏切られたよ!あんたたち、シュナイゼルから話を聞いて、そのまんま鵜呑みにして…今まで、ゼロの何を見て来たのよ!」
カレンは涙声になりながら玉城に怒鳴りつけた。
多分、この言葉はここにいる全てに対する言葉だ。
「この中で、一人でも、ゼロに確かめようとした人がいたの?シュナイゼルがどんな人物か理解していなかったわけ?」
「え???」
「私は、ゼロの正体を知っていたわ!ギアスの事も…」
その一言にその場が一瞬凍りついた。
「何?」
「確かに疑った事もあった…。でも、私は、ちゃんとルルーシュに会って、ルルーシュと話して…だから、ついていく事を決めた…」
掴んでいた玉城の胸倉を放り出すように放した。
「流石ね…流石、ブリタニアの宰相閣下よ…。考える間も与えず結論を出させるなんて…」
皮肉たっぷりに言葉を発し続ける。
「ふん…奇跡の藤堂もやっぱりただの人間だったって事ね…。あの時に冷静な判断が下せないんじゃ、日本解放戦線だってブリタニアに負け続ける訳よ…」

 カレンの言葉にその場がシーンと静まり返る。
その時に、何人かは、シュナイゼルの計略に嵌められたと思い始める。
しかしそんなときに藤堂が口を挟む。
「しかし…紅月君が捕虜でいる時、ゼロは我々に極秘で何かの研究所で、女子供関係なく虐殺をしている。非武装の研究員全てを抹殺せよとの命令を下して…」
「じゃあ聞くわ!もし、あのトウキョウ租界で爆発したあのフレイヤの開発途中で、そのフレイヤの研究がされている研究所を見つけました!中にいるのは非武装の研究員だけです。さぁ、藤堂さんはどうしますか?」
カレンの言っている事は戦争に置いての正論である。
軍人であれば、そのくらいの心構えが出来ていて当然である。
まして、あのとき、既に、戦争をしていたのだ。
ブリタニアと…。
「……」
「シュナイゼルの自分に都合のいい事実だけを上手に並べられて、そのまま騙されるようなメンバーじゃ、ゼロもおちおち、相談も出来ないわよね…。だって、敵将の策にハマって、満場一致でゼロ排除ですもの…」
「し…しかし…ここにいるヴィレッタも…」
扇が慌てて話に入ってくる。
「多分…黒の騎士団の中でギアスをかけられたのは私だけよ…」
小さく呟いたが…それでも、その場にいるメンバーにはしっかり聞こえたらしく、銃口がカレンに向けられる。
ギアスでカレンが操られているのであれば、カレン自身もゼロの為に何をするか解らない。
「その時のギアスは…シンジュクゲットーで初めてゼロに助けられた翌日よ…。なんで、あの時シンジュクゲットーにいたのかを聞かれただけ…」

 カレンの静かな言葉にその場の空気に戸惑いが生じ始めている。
「ルルーシュのギアスには発動条件がある。相手の目を見ないと、発動しないのよ…」
「じゃあ…俺たちは…」
「ええ、あなたたちの意志で彼について来たって事…。この中で誰もゼロの正体は知らなかったでしょ?」
ぐっと涙を堪えながらカレンが言い放つ。
学園でも、黒の騎士団でも、この黒の騎士団の中で一番近くでゼロを見続けてきたカレンの言葉は彼らには多少は突き刺さったようだった。
しかし、今のカレンはもはや、ルルーシュを黒の騎士団に戻す気はなかった。
ルルーシュなら…生きていても、こんな状況の中、黒の騎士団に帰って来る筈などないから…
でも、こんな薄っぺらい絆の中でルルーシュは戦い続けてきたのだ。
C.C.があんな状態になり、カレンも捕虜となっていて不在…。
そんな中、ルルーシュはどんな思いで黒の騎士団を率いてきたのかと思うと…辛くなる。 「しかし…シュナイゼルは日本を…」
「ブリタニアが日本を独立させてそのままにしておくとでも?まして、相手はシュナイゼルでしょ?あの男の言葉を鵜呑みにしている時点で終わってるんじゃないの?」
どうやら、この場にいる人間の殆どが頭に上った血がすうっと引いたらしい。
誰も何も言い返せなくなっている。
「もう、ゼロは戻らない…。藤堂さんや扇さんが決めたんですもの…。私はとりあえず、従うわ…。ゼロとも…約束したし…」
だんだん小さくなる声の中で、ルルーシュの最後の言葉を思い出す。
『君は生きろ…』
その言葉を思い出すと涙が出てきた。

 やっと、この場に冷静さが取り戻せたらしい。
どの道、もう、ルルーシュは帰っては来ないし、黒の騎士団も、このまま解散となるかも知れない。
超合衆国もこの先、どうしたらいいか…など、トップ不在のこの状況で、何が出来ると云うのか…。
あそこまでの政治的センスと戦略のセンスを持ち合わせた人間など、黒の騎士団の中にはいない。
「とにかく…ルルーシュは…ゼロは…自分の身を挺して黒の騎士団を救ったのよ…。シュナイゼルが糸を引いている事を知っていたから…。後は、上層部の方々のお仕事ね…。私はただの一兵卒ですし…」
その言葉を残すと、カレンはその場を離れた。
そして、ゼロの部屋に向かう。
このままだと、記憶を失っているC.C.が危ない…。
あの様子だと、誰も、C.C.の状況を知らない。
以前のC.C.なら、何とでも出来るだろうが…今の彼女では…。
それに、お荷物になると解っていても、ルルーシュが匿っていたのだ。
何とか助けてやりたかった。
ゼロの部屋の前に来ると、どうやら、まだ、C.C.は連れ出されてはいないようだった。
「C.C.…」
そう呼びかけながらゼロの部屋に入っていく。
「あ…あの…ご主人様は…」
「ごめん…ルルーシュはもう、ここへは戻ってこない…。でも、必ず会わせてあげるから…。だから、私と一緒に来てくれる?」
「……はい…」
C.C.が素直にカレンに従ってくれた。
「とりあえず、私の部屋で匿ってあげる。大丈夫…。あなたには誰にも、指一本触れさせないから…」
そう云いながら、C.C.を 連れて、カレンの自室に入っていった。

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