幼馴染シリーズ 〜第1部〜


First Love 22


 ルルーシュが一通りの検査をして、退院した。
そして、目の前には…ジノがいる。
約束の時間より早めに来たルルーシュだったが…ジノの方も約束の時間よりも早くこの場所に着いたらしい。
「ごめん…待たせたかな?」
カフェの中で、ルルーシュとジノのカップル…かなり目立つのは確かだった。
それでも、二人は特に気にした様子もない。
「いえ…突然お呼び立てして…すみません…」
ルルーシュはジノの姿を確認してから、立ち上がってそう告げた。
「否…君がブリタニアに渡る前に会えて…良かった…。私に事にしても、ユフィの事にしても…申し訳なかった…。それに…」
「ジノの謝る事じゃありません…。悪いのは…浅はかだった私です。あなたの優しさに…甘えていました。だから…ユーフェミアにも、スザクにも…そして、誰よりもあなたに対して…たくさんひどい事をしました…」
ジノが本当にルルーシュを想っていてくれた事を知りながら…ルルーシュはその優しさに甘えたツケだと…ルルーシュは判断する。
「ルルーシュ…私は少し思い上がっていたみたいだ…。確かに…あんな条件を出しておいて…君の気持ちを自分に振り向かせるなんて…今にして思えば…笑ってしまうな…」
自嘲しながらジノがそう告げると、ルルーシュが『違う!』そう云いながら横に首を振った。
そんなルルーシュを見て、ジノ自身が『まいったな…』と言う表情を見せる。
「ルルーシュ…今回は、私の完敗だ…。ナナリー嬢の治療が終わったら…日本へ帰って来るんだろう?」
ジノは明るい声でルルーシュに尋ねる。
今にも泣きそうだったルルーシュはそんなジノの顔を見て驚いたように…黙って頷いた。
すると、ジノは優しい笑顔をルルーシュに向けた。
「なら…私はそれまでに、もっといい男にならなくてはな…。君が私をソデにした事を…後悔する位にね…」
ウィンクしながらルルーシュに宣言する。
ジノの…明るい表情に救われた気がする…。
「ありがとう…ジノ…」
「君が帰って来る時には…必ず教えてくれ…。君に教えた携帯の番号とアドレスは…そのままにしておくから…」
「はい…解りました…」
そうして、ルルーシュとジノは握手をして別れた。
ジノは、ルルーシュの後ろ姿を見送りながら少し寂しげに笑った…
―――ルルーシュ…次に会った時には…小細工などしないで…私の力だけで勝負するよ…。今度こそ…君の心を手に入れる為に…

 その後…ルルーシュは引っ越し準備に忙殺される事になった。
本当はマンションを引き払う事も考えたのだが…母、マリアンヌが東京に来たときに使用するからと…そのままにしておく事となった。
「ルルーシュ…そこまでこちらの荷物を持って行かなくても…全て僕が用意しているのに…」
引っ越しの準備で忙しくしているルルーシュを見てシュナイゼルがそう声をかける。
「そうは言いますけれど…勿体ないですし…。それに、調理器具とかは使い慣れたものを使いたいですから…」
そう云いながら、ルルーシュは手を止めようとしない。
タンスなどの大きな家具までブリタニアに送ろうとしている。
「それに…母様が私たちの使い古しの家具を使うとは思えませんから…」
そう云いながら引っ越しの荷物のチェックをしている。
確かに…マリアンヌはランペルージ家の後妻ではあるが…基本的にランペルージからの援助を受けるのを嫌っているし、マリアンヌ自身、仕事をしており、それ相応の収入があり、自分の稼ぎで二人の娘を養うくらいの事は出来る。
流石にナナリーの治療はランペルージ家の権力、財力を借りる事になったが、ナナリーが元気になれるのであれば、その為に受けるであろう様々な批難や嘲りなどは受け流すつもりでいた。
勿論、娘たちには影響が及ばないだけの働きを見せて…
「ただ…ブリタニアでは日本の電化製品が使えないのが不便ですね…。とりあえず、リサイクルショップで引き取って貰いますね…シュナイゼル義兄さま…」
仮にもランペルージ財閥のお嬢様…
否、ランペルージ財閥に籍を置く前から、マリアンヌの稼ぎであれば、それなりの贅沢も出来ていた筈…
それなのに…この庶民感覚…シュナイゼルとしてはこれはこれで、素晴らしいルルーシュの美点だと思う反面…もう少し、そんな心配をしなくていい生活を送らせてやるべきだった…とも思ってしまう。
「義兄さまの車でも、これだけの荷物は運べませんから…リサイクルショップの方に電話して引き取りに来て貰う事になりますから…出発の前日くらいに来て貰いますね…」
作業をしながらそんな風に話をしている。
大体、シュナイゼルは何をしに来たかと言えば…出発の1ヶ月前ともあって、色々な手配をして、チケットやらパスポートやらの準備をしに来ていたのだ。
で、届にきたら…このありさまだった…と言う訳だ。
「義兄さま…もうすぐ衣類が終わりますから…その後、お昼ごはんの準備しますね…。あるものしかありませんけれど…」
ルルーシュがあっけらかんとそんな事を言っている様を見て、シュナイゼルは…はぁ…とため息をついてしまった。
―――ピーンポーン…
「?こんな時に…誰…?」
ルルーシュは作業の手を止めてインターフォンを手に取った。
そして…その相手が誰だか解ると…
「解った…」
とだけ言って、インターフォンを置いた。
そのルルーシュの様子から…誰が来たのかが解った。
「義兄さま…」
「ああ…行っておいで…。そして…ちゃんと別れを言っておいで…。昼食は…ナナリーが目を覚ましたら、外で何か食べて来るから…」
シュナイゼルの言葉にルルーシュは『すみません』とだけ答えて、出て行った。
そして、玄関の扉の前にはスザクが立っていた。
「ルルーシュ…」

 何だかお互いに色々思うところがある筈なのに…それでも言葉が出てこなくて…
ただ…マンションを出て…二人は黙って歩いていた。
「スザク…」
最初に声をかけたのはルルーシュだった。
記憶が戻ってから…いろいろ考えていたが…どうしてこんな時に思い出すのか…と…何度も思った。
そして、自分自身の気持ちがどこにあったのか…などを考えると、切ないとも思ったが…これはこれで仕方がないとも思った。
「ルルーシュ…随分前に…俺を好きだって言ってくれたよな?」
唐突なスザクの言葉に…ルルーシュは驚いた顔を見せる。
今にして思えば、後悔ばかりの残る告白だった。
「そんな事…覚えていたのか…」
ルルーシュは『過去の話だ』と、そんな表情でスザクを見た。
「俺…やっぱりルルーシュの事…特別だと思うんだけど…でも、ユフィに対する気持ちとお前に対する気持ちは明らかに違う…」
「当たり前だ…。私はお前の幼馴染だ。ユーフェミアへの想いと私に対するそれが同じであってたまるか…!」
「だから…返事が遅くなって済まなかったけれど…。ルルーシュの告白…嬉しかったけれど…ごめん…」
スザクらしいと思う。
このまま放っておけば、それはそれで済んだ話だ。
「ああ…。尤も、お前が私に対して、私がお前に対する気持ちと同じなんて言われても…ある意味笑ってしまうからな…。お前が私を幼馴染としか思っていない事は知っていたし…。でも、ちゃんと…けじめを付けさせてくれて…ありがとう…」
ルルーシュの瞳には、怒りも悲しみも宿ってはいなかった。
一つの…心に引っ掛かった何かがすっぽりと抜け落ちて…やっと風通しが良くなった…そんな感じだった。
「スザク…幸せになれよ?カレンが私をいい女だって云ってくれた事があった…。あのカレンに云われるようないい女なんだぞ?私は…。そんないい女をソデにするんだから…お前は幸せにならなくちゃいけないんだ…。もう、お前を邪魔する存在は消えるしな…」
ルルーシュの言葉に…濁りも淀みも感じない。
何のウソも、虚飾もない…素直な思いなのだろう。
「ああ…お前も…早くいい男を見つけろよ?」
「当たり前だ!私をソデにした事を後悔させてやるから覚悟しておけ!」
そこまで云うと…二人は声を上げて笑いだした。
何がおかしかったのかは…良く解らないが…まるで…昔、二人でふざけ合って笑っていたような…
「なぁ、見送りはいかないからな…。なんだか大笑いしそうだし…」
「ふっ…ばぁか…」
この時、ルルーシュもスザクも…やっと、ただの幼馴染に戻れたような気がした…

 そして、時間はあっという間に過ぎて行った。
「ナナリー…しばらく日本には戻れないけれど…」
「大丈夫です…。この治療がうまくいけば…ロロくんにも…心配をかけなくて済みます…」
ナナリーがふとそんな事を口にした。
ルルーシュはナナリーのその言葉に目を丸くする。
「ナナリー…まさか…ロロと…?」
「あ…いえ…あの…。生徒会室へ通っている内に…その…」
「そうか…だから、あんな急な話で、戸惑っていたけれど、でも…ロロの為に…」
ルルーシュの言葉にナナリーが顔を赤くした。
「お姉さまが…入院された時に…ロロくん、凄く…優しくて…。あ…でも、私の片思いですけれど…」
ナナリーの言葉にルルーシュは少しロロが気の毒だった。
ルルーシュもロロの性格はよく知っていた。
元々、人見知りが激しいし、人の好き嫌いも激しい。
アッシュフォード学園に入ってロロを生徒会に入れたのも、その退陣スキルを考えてのものだった。
いきなり、部活動を始めさせたって、絶対に続かない…なら、生徒会ならルルーシュもスザクもいるから…と思った。
―――ロロも…大人になったんだなぁ…
ルルーシュはついそんな風に思ってしまう。
でも、ルルーシュもロロの事はよく知っていたから…安心できる…そんな風に思っていた。
「なら…ロロの為にも早く元気になって、帰ってこないとな…」
ルルーシュの言葉にナナリーは顔を赤くするが…
それでも、はにかみながら
「はい…お姉さま…」
そう笑って答えた。
―――ナナリーなら…可愛くて、女の子らしいから…私と違って失敗はしないだろうな…。ちゃんと元気になって帰ってくれば…ロロと、笑いあえる…
そんな風に思うと、嬉しくもあり、姉としては…ちょっと寂しくもあった。
そして、駐車場で車のエンジンをかけて待っているシュナイゼルもの元へと向かった。
そして、途中、ロロと出会った。
「ナナリー…」
「ロロくん…」
二人の様子に…ルルーシュはそっとその場を離れた。
そして、ロロの横を通り過ぎる時にロロの耳元でこう告げた。
『ナナリーを…頼む…』
ロロは一瞬驚いた表情を見せるが、笑顔を向けているルルーシュに向かって黙って頷いた。
「ナナリー…10分くらいなら義兄さまに待ってもらうから…」
ナナリーに背を向けたまま右手を上げてエレベーターホールへと向かって行った。

 空港へ着くと…来るなと言っておいたにも拘らず、カレンとシャーリーが待ち伏せていた。
「カレン…シャーリー…見送りはいらないって…」
「うん、ルルはそう云ったけど、私達が来たかったから来ちゃった…」
「別に、あんたの意思を尊重する義務はないわよ…」
本当に口が減らない二人だと思う。
お節介な友達だとも思うし…
でも…
「ありがとう…」
「メールくらいは送ってよね?ナナリーの事…私たちだって気にしているんだから…」
「ああ…解ってる…。休み…日本に帰れたら…一時帰国できるようにするよ…。それまでに、美味しいケーキの店でも探しておいて…」
「まっかせといて!」
二人の友達の明るい声にほっとするが…涙も出そうになる。
「お姉さま…そろそろ時間が…」
後ろから遠慮がちに声をかけられる。
確かに、搭乗手続きが始まっているという放送が流れている。
「そうだな…ナナリー…。二人とも…ありがとう…。二人がいてくれて…ホントに良かった…」
ルルーシュがそう告げた。
「何よ…そんな永遠の別れみたいに…。長期休みの時には帰って来るんでしょ?その時にはちゃんと連絡入れなさいよ?連絡くれなかったら許さないから!」
「解ってる…じゃあ…行くから…」
そう云って、ルルーシュは二人に背を向けた。
そして、搭乗ゲートへと入っていく。
一度も二人の方を振り向かない。
でも、二人は解っていた…ルルーシュが…泣きそうになっているから…振り向けないと云う事を…
「ね、シャーリー…離陸を見送りに行かない?」
「うん…そうだね…」
そう云って、発着の見えるエリアへと向かった。
すると…そこには…
「スザク…」
離陸準備をしている飛行機をじっと見つめている後ろ姿…
二人が来ている事には気づいていないらしい。
「カレン…あっちで見送ろうよ…」
シャーリーがスザクから気が付きにくい場所を指差した。
「そうね…」
スザクの後ろ姿に何を思っているのか…良く解らない…。
恐らく、見送りには来ないと云う約束でもしていたのだろう…。
それでも…耐えきれず…来てしまった…と言うところだろう。
この状況の中、流石に何も言う事が出来なかった。
そうして…二人とも、黙って…ルルーシュの乗っているであろう飛行機の離陸を見つめていた…

『幼馴染シリーズ 〜第1部〜 First Love』 END

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