Epilogue

やっと、身体の癒えたカレンが、黒の騎士団の活動に参加し始めていた。
この間の戦闘で、捕虜となったスザクは相変わらず、黒の騎士団の懲罰用の独房に入ったままだ。
このまま、彼を放置しておくとも思わないが、彼をどうするか、ゼロ自身、困っているのではないかと思っている。
黒の騎士団の中でゼロの正体を知る彼女には、気がかりになっている。
そして、ゼロには内緒で、スザクに会う事にした。
恐らく、後でばれてしまうだろうけれど、一度、きちんと話をしたかった。
ゲットーでも二人で話はしていたが、正直、今の状態では、ルルーシュもスザクも痛々しい。
ルルーシュの、ナナリーを守りたいと云う気持ちも、スザクのユーフェミアの敵を取りたいと云う気持ちも…色々と知るカレンにとっては、凄く痛々しい。
「カレン…」
「C.C.…」
「あの男に会うのか?」
「あなたには関係ないと思うけれど…それとも、ゼロに告げ口でもする?そんなことしなくても、後で絶対にばれるけど?」
「別に、そんな趣味はない…。ただ…奴と話して、何か変わると思っているのか?」
C.C.の言葉に言葉を詰まらせざるを得ない。
実際に、会って、何をしたいのか、自分でもよく解らない。
相手は、ゼロを心底憎んでいる相手だ。
黒の騎士団で、ゼロの親衛隊長のカレンの話など、一体どれだけ聞いてくれるのか、正直、自信がなかった。
「確かに、表の部分じゃ変わらないかもしれない…。でも、私の中で、色々と決着付けられる気がする…。スザクは…私にとっては、クラスメイトだったんだし…」
アッシュフォード学園…あの頃、お互いの正体を知らずに、みんなで笑っていた。
ふざけて、バカな事をして、みんな…笑っていた…。
あの時間に戻れるとは思わない…でも、その思い出を共有する者たちが、こんな悲しい形で戦い続けるのは、切なすぎる。
「まぁ、好きにしろ…。私からは何も言わないさ…」
「C.C.…」

独房の前に来る。
「スザク…カレンだけど…」
そう声をかける。
『別に…逃げる気はないよ…何か用かい?』
「ちょっと…話したくて…中に入ってもいいかしら?」
『どうぞ…』
独房の前に立っていた団員に合図を送って扉を開けさせた。
スザクはベッドに腰かけていた。
「少し…痩せた?」
確かに、ずっと独房に入っていれば、筋肉も落ちるだろう。
少し、スザクが細くなったように見えた。
「体に変調はないよ…。運動不足なだけだ…」
カレンの言葉に、以前の学園でのスザクの様にスザクが返してきた。
カレンは少しだけ、ほっとしたような表情を見せて、独房においてある椅子に腰かけた。
「ねぇ、スザク…ルルーシュの事…恨んでいるの?」
「ルルーシュは…僕の主を殺した…。主を殺されたなら、その主の仇を取るのは当たり前だろう?僕は、ユーフェミア様の騎士なんだから…」
スザクらしい…でも、カレンにとっては、悲しい一言が返ってきた。
「君だって、僕にゼロを殺されたら、僕を恨むだろう?仇を取ろうとするだろう?」
「……」
スザクの一言にカレンは俯いた。
確かに、ゼロが…ルルーシュが殺されたら、その相手が誰であろうと、全力で探し出して、全力で殺そうとするだろう。
仇を討つ為に…
「でも、あの時の事は…ゲットーでも話したでしょう?」
「それでも…僕には…許せないんだ…。なんで、なんで、そこまで追い詰められるまで…ルルーシュは一人で…」
スザクが言葉を詰まらせる。

「え?」
スザクの一言にカレンは驚いた表情を隠せなかった。
「ユーフェミア様を殺した事も許せないけれど…ルルーシュは、そんな状況に、陥っても、誰にも、何も言わなかった…」
「スザク…あなた…」
「確かに、ユーフェミア様を殺した事は、絶対に許されない事だし、許す気もない。ただ、ルルーシュが、何の理由もなく、あの、ユーフェミア様を自分の手にかけるなんて事…出来る筈がないんだ…」
断言するかのように、スザクが言葉を絞り出す。
カレンはスザクの言葉に目を丸くする事しか出来ない。
「僕は…知りたい事があるんだ…」
「知りたい事?」
「ああ…。これは…ルルーシュに聞くしかないんだ…」
俯いて、本当に小さな声で、スザクは自分に言い聞かせるように、呟いた。
知りたい事がある…。
ルルーシュに聞かなければ、きっと、知りえない事…。
ルルーシュに聞いても、教えてくれるかどうか…解らないけれど…。
でも、知らなくてはならない事だと、自分の中の何かが訴えている。
「カレン…頼みがある…」
決心したように、スザクが言葉を紡ぎだす。
「何?出来る事ならしてあげるけれど…」
「別に、ここから出せとか言わないよ…。ゼロに…ルルーシュに会わせて欲しいんだ…」
カレンは、驚いたように、スザクを見る。
「会って…どうするつもり?」
「別に…カレンが警戒するようなことはないよ…。武器もないし…」
やや、困ったような笑いを含ませて、スザクが言う。
それでも、カレンは信用出来ないらしい。
「スザクの場合、武器がなくても、ゼロを殺せるだけのものはあるし…。何の拘束もなしに…とは行かないわよ…。私と違って…」
「ああ、そんなに心配なら、ちゃんと拘束してくれていい。そうだな…君なら、一緒にいてくれて構わない…。他の人は、流石に困るだろう?ゼロの正体を知っている人でないと…」
「一応…頼んでみる…」
その一言を残して、カレンは、スザクの入れられている独房から出て行った。

ゼロの執務室の前…
「あの…よろしいでしょうか?」
カレンは一度深呼吸をして、彼の執務室に入る。
「なんだ?」
「あの…枢木スザクに…会いました…」
「ああ、そうらしいな…」
特に変わった様子のないゼロの口調だった。
ゼロに内緒でスザクに会った事を咎める気はなさそうだ。
「あの…お願いがあります。枢木スザクに…会って頂けないでしょうか?もちろん、彼を拘束した上で、私も同伴します。」
聞き入れて貰えるかどうか解らないが…。
とりあえず、頼んでみなければ、何とも出来ない。
「…いいだろう…。後で、君とそれについて、話し合おう…」
意外にもゼロの返答はその一言だった。
周囲にいた、ディートハルトなどは、『反対です!』と云う表情をむき出しにしているが、ゼロはそんなディートハルトらを無視した。
「はい、ありがとうございます。」
あとで、ディートハルトや扇に、いろいろ言われるだろうが、ここは仕方ない。
彼らにも内緒で、勝手に捕虜に会って、ゼロにその捕虜と会えと言ってるのだから…。
いずれにしても、ゼロとしてであれ、ルルーシュとしてであれ、スザクと、話が出来れば…何かが変わってくれるかもしれない…。
そんな期待をもってしまう。
ルルーシュも、スザクも、苦しいんだと思う。
お互いの事を何も理解できぬままに、敵同士として、戦わなくてはならないのだから…。
「ゼロ、ゼロの事は…私が、命に代えても守ります…」
その一言を残して、その場を去った。
スザクに、この事を報告する為に…

再び、スザクのいる独房に足を踏み入れた。
「スザク、近いうちに…ゼロに会えるわ…。ちゃんと、了承も貰ったわ。一応、手錠程度の拘束はさせてもらうけれど…。それに、私も同伴するわ…」
「そうか…拘束に関しては構わないよ。僕が、無理を言っているんだ…。むしろ、その程度の拘束で、君以外に同伴がいないんだろう?かなり寛大な措置じゃないか?」
確かに、捕虜に対して、組織のトップが直接会うなんて言う事は、まずあり得ない。
まして、スザクのような相手であれば、尚更だ。
それが、カレンの同伴と軽い拘束程度で会わせて貰えると云うのは、捕虜としては破格の対応だろう。
「多分、カメラも盗聴器も入らないわ…」
「と云うか、この場もそんなものないじゃないか…。無防備にも程があるって言いたいところだけれど?」
「まぁ、元々、捕虜の為の独房じゃないから…。それでも、扉の外にはいつでも、見張りは着いているわよ?」
「それはごく当然だろう…」
会話の内容はともかく、雰囲気が和んでいる感じがする。
それを二人とも自覚している。
お互いに、敵同士だけれど…でも、ブリタニアと日本の関係を変えたいと思う気持ちは…恐らく同じだった…。
手法が違うだけで…。
もし、彼らが、同じ場所で、同じ仲間として戦っていたら…きっと、大きな力になっていただろう…。
「カレン…ありがとう…。いろいろ、世話をかけて、ごめん…」
「いいのよ…。多分、私には、これくらいしか、ルルーシュにしてあげられる事がないから…」
ちょっと寂しげにスザクの顔を見て微笑んだ。
「ルルーシュは…やっぱり、ずっと苦しんでいたんだね…ずっと…」
スザクはその一言をつぶやいて、それ以上、言葉を発しなかった。
色々思うところがあるのだろう…。
「じゃあ、また…。今度は、ゼロと一緒に来るから…」
カレンのその言葉に、スザクはこくっと頷いて返事を返した。

ゼロと会う日…スザクの独房にはテーブルと椅子が用意された。
スザクを独房から出さない…ディートハルト達の条件だった。
下手に、独房から出して、ラクシャータが直していたランスロットで逃げ出されても困る。
そして、スザクへの拘束と、同伴者を増やす事を進言されたが、ゼロは断固として聞き入れなかった。
「カレンがいれば、大丈夫だ!」
その一点張りで自分の考えを押し通したのだ。
カレンとゼロがスザクの独房にはいる。
そして、独房に施錠され、3人だけの空間となった。
「ゼロ…仮面を取ってくれないか?ここなら、黒の騎士団の団員にもみられる事はないだろう?」
「……」
「ゼロ、僕は、素の君と話をしたい…」
素のゼロ…ルルーシュの事だ。
「解った…」
そう云って、ゼロが仮面を外す。
そこには、スザクの幼馴染で、親友で、スザクの愛するべき女性の命を奪った…ルルーシュの顔があった。
「ルルーシュ…」
椅子に拘束されたまま、スザクはルルーシュの顔を見つめる。
「スザク…」
「聞きたい事がある…」
短い言葉で単刀直入に本題に入っていく。
「なんだ?」
ルルーシュも短い言葉で返す。
本当に、必要なこと以外は話さない…そんな感じだ。
「君は…僕に、ギアスをかけたね?『生きろ!』と…」
「……」
ストレートな言葉に、ルルーシュも声を失う。
ギアスの事を知っているのであれば、ギアスの事を教えた奴がスザクにかけられたギアスの内容も話したのだろう。
「僕には、『生きろ』とギアスをかけたのに…ユフィには…なんで…」
スザクはまっすぐにルルーシュの目を見て質問する。
ルルーシュは、そのまっすぐな瞳を見ていられなくなり、顔を背けた。
「……それが…黒の騎士団にとって…最善の策だったからだ…」
多分、スザクなら見破ってしまうだろう、ウソ…。
それでも、ルルーシュはすべてを一人で抱えようとしているがゆえに、そんな、すぐにばれるウソをついている。
「もう…ウソをつくな…。ユフィとは仲のいい異母兄妹だったんだろう?カレンも、ユフィを殺せと命じた時の君は…泣いていたと言っていた…」
「!?カレン?」
カレンは下を向く事しか出来なかった。
ゲットーでのスザクとの会話で、そんな事を話していたのだ。

スザクはそんなルルーシュの様子に、少し苛立ったように声を荒げる。
「ルルーシュ…なんで、そんな風に一人で抱え込もうとする…。僕たちは…友達じゃなかったのか?」
真剣で、怒っていて、そして…悲しそうな目…。
ルルーシュはただ、下を向く事しか出来なかった。
「ルルーシュ…僕はギアスとはどんなものかはよく知らない…。でも、君の事は…多分、君よりもよく知っている…」
「……スザク…」
「カレンだって、ずっと君の事を心配しているんだ…。だから、僕に会いに来た。多分、君にその事を咎められることを覚悟してね…」
「カレン…」
ルルーシュがカレンの方を向くと、カレンはただ、俯いていた。
肩を震わせて…。
「僕たちは、あの時にあった事を聞く権利がある筈だ…。ルルーシュ…君にも話す義務がある…違うか?」
スザクのその言葉に、ルルーシュは覚悟を決めて、左の瞳にはめられているコンタクトレンズを外した。
ギアスの暴走を示す、赤い瞳がそこにはあった。
「俺のギアスは暴走した。ユフィと話をしている最中に…。今思えば、その前から前兆のようなものはあった…」
ルルーシュは、ぽつぽつとあの時あった事を話し始めた。
辛そうで…子供が、怖くて震えているかのように見えた。
「俺は…自分から望んで、この能力を得た。そのリスクも知っていた。それでも…ナナリーを守り、スザクを、軍隊から離れさせたかった…」
そこまで言うと、ルルーシュはそのまま俯いて、言葉を発しなくなった。
普段のゼロからは想像もできないような…そんなルルーシュの姿だった。
「もう…苦しまないでよ…ルルーシュ…。一人で苦しむから…カレンが心配するし、僕だって…」
「スザク…」
「僕は、ユフィを殺したその能力が許せない…。でも、本当の事を知って、その上で、自分の気持ちをきちんと、整理したかった。ありがとう…話してくれて…」
「スザク…どうするつもり?脱走するとか考えているなら…今…ここで…」
カレンが身構えようとした時、ルルーシュが制止した。
「スザク…お前は決して、軍隊からは離れる気はないのだろう?」
「ああ…ナナリーもいるし…」
お互いに強い意志を持っての意思確認…。
「ルルーシュ…僕はやっぱり、中から変えていくよ…。君は…外から、硬い殻を破ってくれ…」
「!?」
「僕には、政庁に守らなくてはならない存在がいるんだ…。だから、僕はここにはいられない。でも、君が外から…僕は中から、硬く厚い壁を壊していけば…時間は半分で済むんじゃないのか?」
スザクらしい…単純な計算だ。
「ふっ…本当に、単純なやつだな…」
「君が考えすぎなんだよ…」
「解った…お前を信じるよ…」
そう云って、ルルーシュはスザクの拘束を解いて、右手を差し出す。
スザクも、右手を差し出し、ルルーシュの右手をしっかり握った。
「…スザク…ルルーシュを裏切ったりしたら…私が許さないから…」
涙声になったカレンがそう呟く。
「解ってる…今度こそ、僕たちは、間違ってはいけないんだ…」
「ああ…」
ここに、二人の誓いが示された。
それを成就させるためには気の遠くなるような長い時間がかかる。
しかし、昔、二人が交わした言葉…
『俺達二人が力を合わせたら出来ない事なんてないんじゃないか?』
スザクの言葉…。
「スザク…ありがとう…」

その後、ルルーシュは黒の騎士団として、スザクはブリタニア軍人として、ブリタニアと日本との間にある厚く、堅い壁を壊していく事になる…。
二人の望んだ世界の為に…
END


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