私立アッシュフォード学園…紅月カレンがルルーシュ=ランペルージと出会った場所…。ゼロとしての彼と出会ったのはもっと前の話だった。
新宿ゲットーでカレンたちが危機に陥った時に彼の力で、切り抜けた。
最初は、ゼロとルルーシュが同一人物かと疑っていた。
しかし、彼の様々な画策ではぐらかされた。
そして…彼女が彼の正体を知ったのは…
ショックがなかったとは言わない…。
確かに疑った事もあった。
でも、ルルーシュは、カレンの恋人なのに…共に闘いながら、カレンにさえ打ち明けてはくれなかった事に…。
ルルーシュと出会ったのは、アッシュフォード学園に入学して、たまたま、学校へ行った時に、声をかけられた。
恐らく、新宿ゲットーでの闘いの事で、ゼロとして、聞きたかった事があったのだろう。
そして、カレンもルルーシュに確かめたかった…『あなたは、昨日のゼロなの?』と…。
結局、なんとなくはぐらかされ、恐らく、あの時にギアスを使われたのだろう。
あの時の記憶が曖昧になっていた。
そして、神根島で、スザクとゼロが対峙していた時、スザクの放った銃弾によって、ゼロの仮面は壊され、その下にはルルーシュの顔が額から血を流して存在していた。
「な…なんで…?」
その時のカレンの素直な気持ちだった。
驚愕と…失望にも似た思い…。
ゼロを尊敬している。
ルルーシュを愛している。
だけど…
そして、あの時から1年が経とうとしている。
多くの黒の騎士団がブリタニア軍に拘束され、わずかに残ったカレンを含めた黒の騎士団…。
ゼロがいなくなり、多くの有能な幹部たちがブリタニアに捕らえられ、ほぼ全滅の状態だった。
ラクシャータやディートハルトもどこにいるのか分からない。
無事でいるとは思うが、今の状態では連絡を取るどころか探すことさえ難しいと云う状況だった頃、C.C.が現れた。
いつもゼロの傍にいて、ゼロと共に行動していた。
ゼロの正体を知っている…カレンの直感がそう判断した。
そして、ゼロ自身、C.C.を信頼していた。ゼロに対する憧れ、尊敬の念の強いカレンにとっては、個人的感情としてはあまりいいとは言えない相手だった。
それでも、あの時、C.C.が現れてくれた事に感謝した。
ゼロの…ルルーシュの行方を捜す道標になるかもしれないと…。
「カレン…久しぶりだな…」
「…C.C.……あんた、今までどこに…」
やや、震えの含まれた声でその髪の長い少女…でも、自分よりも遥かにゼロに近い存在だった。
カレンは震える声で彼女に問いかける。
C.C.は、くすっとカレンの心情を見透かしたように笑った。
しかし、その笑みも一瞬で消え、目が険しくなる。
「カレン、今、黒の騎士団で動ける者はいるか?」
「え…?」
唐突な質問にカレンが戸惑いの色を隠せない。
「卜部さんの他に…あと、10人前後…」
呆然と答えた。本当に壊滅状態になってしまっていた黒の騎士団…。
あの時の闘いはブラックリベリオンと呼ばれ、今でも、租界ではゼロや藤堂や扇たちのパネルが大きく公開されている。
「そうか…さて…どうしたものかな…」
C.C.が顎に指をあてて考える。
「使えるナイトメアは?」
「えっと、私の紅蓮弐式と無頼と月下が数機…」
「そうか…なら、ゼロを…迎えに行く…」
C.C.があまりにあっさりと云い放つ。
「な…何を言っているの?ルルーシュ…ゼロは…」
カレンのその一言に今度はC.C.の眉が少し動く。
だが、それなら話が早いとさらに話を続ける。
「お前は…ゼロの正体を知ったのか…。ならば、話が早い。ルルーシュは…生きている…」
「え?」
確か、あの時、スザクに仮面を吹っ飛ばされ、その後は、スザクがゼロ…いや、ルルーシュの鳩尾に一発拳を叩きいれ、連れ去っていった。
その時のカレンは、ただただ呆然として、その場を見守ることしかできなかった。
「カレン、今回だけは見逃す…。だけど…次に黒の騎士団として現れた時には…」
普段の彼の言葉とは全く違う何か…それは恐らく憎しみと怒り…を湛えた声で、カレンに向かって放つ。
そして、仮面の取れたゼロ…そして、カレンの恋人であるルルーシュを肩に担いでその場から静かに去って行った。
「ルルーシュは今、ルルーシュ=ランペルージとしてアッシュフォード学園にいる。ただ…ゼロではない…」
「どういう事?」
カレンの眉がつりあがる。
どう云う事なのか解らないと云う表情で声色も低くなる。
「ルルーシュはギアスを封じられた。あいつの父親に封じられた…」
「え?父親って…ブリタニア皇帝…」
「そう…あいつは今、ギアスを失っている。そして、ギアスの事、自分が、ブリタニアの皇子である事、そして、ルルーシュがゼロである事の記憶を消されている。」
「それじゃあ、連れ戻しても何もできないじゃない…」
努めて冷静を装うが、到底、短い時間で自分の中で理解することは出来なかった。
「大丈夫…それらは私がちゃんと、ルルーシュに戻してやる。だから、残っている黒の騎士団を集めて、ルルーシュを連れ戻してほしい…」
「C.C.…あんた…何者…」
「そんな事より、ルルーシュを連れ戻すのか、連れ戻さないのか?」
C.C.が少し語尾を強めてカレンに問いかける。
確かに、今のこの状態ではカレンたちだけでは藤堂たちを助け出すことは出来ない。
そして、カレンたちもいずれ、見つかったら、カレンは間違いなく処刑だろう。
黒の騎士団のエースパイロット…紅蓮弐式を操縦していたその本人なのだから…
「わかった…明日までに卜部さんたちと話をして、みんなをここに集める。」
「急げよ…時間はない。タイミングを逃したら…接触の機会はなくなる…」
C.C.の言葉にカレンは黙って頷いた。
今の彼女たちが動き出すためには、それしかないからだ…
そして…カレンはゼロに…ルルーシュに会いたかった…。
あの時、動けなかった自分を責めた。
スザクの言葉に混乱し、突きつけられた事実に混乱し、動けなかった自分が情けなくて、後悔が渦巻いて…。
生きているなら…。
あの時のスザク、ルルーシュを連れ去って…恐らく、ブリタニア皇帝に差し出したのだろう。
あの時の彼の眼は…氷のように冷たく、そして…悲しく、憎しみを湛えていた。
何に対して悲しんでいて、何に対して憎しみを抱いているのかが解らなかったが、普段の人当たりの良いスザクではなかった事は確かだ。
だからこそ、ゼロ…ルルーシュが生きている事を知った時、顔には出さなかったが、安堵故に足から力が抜けそうになった。
―――ルルーシュが生きている…
それだけでその場で崩れ落ちそうなほど嬉しかった。
恐らく、目の前のC.C.には気づかれている。
でも、そんな事はどうでもよかった。
「おい、カレン、喜ぶのはルルーシュをゼロとして取り戻してからだ…」
「わ…解ってるわよ…。でも…ルルーシュはちゃんと生きていた…。今は、それだけでも…」
「ただ…奪還するのもかなり難しい事を忘れるなよ?恐らく、私にこの情報が流れてきて、しかも、接触できる状況があると云うのは、ルルーシュがブリタニア軍にとって、エサである可能性が高い…」
「……エサ?」
怪訝な顔をしてC.C.を見ると、目を伏せて頷いた。
「ああ、ブリタニア軍は私を探しているのだ…。記憶もギアスも封じられたあいつを元に戻せるのは私だけだ。となると、私とあいつは必ず接触する。まぁ、囮だな…あいつは…」
「ブリタニアがあんたを?」
「ああ、私があいつと出会ったのも、私がブリタニア軍に捕獲されて逃げ出し、その時にルルーシュと出会った。で、その時に私があいつにギアスを与えた…」
ふぅっとC.C.が息を吐いた。
「お前が毒ガスと思ってブリタニアから奪ったものがあっただろう?」
初めて、シンジュクでゼロの指揮でブリタニアと対峙した時の事だ…。
カレンは呆然としながら頷く。
「あれは、毒ガスじゃなくて、私だったんだ。あの大きな入れ物は、私を捕獲、移送するためのものだった。クロヴィスが極秘裏に…皇帝の目をも欺いて自分の配下に研究、管理させていた…」
C.C.の途方もない話にカレンはただ、ただ、何も言葉が出てこなかった。
「ま、まともなやつじゃないとは思っていたけど…本当にルルーシュを取り戻せるのね?」
C.C.を睨みつけて吐き捨てる様に問う。
胡散臭い話だし、信じていいのかが解らない。
返事は、きっと、耳障りにいいものに決まっているが、それでも尋ねずにはいられない。
ただ…C.C.は何を考えているかよく解らない女であるが、重要な事でうそをつく事はない。
まして、ギアスが契約によってルルーシュに与えられていたのなら、C.C.にとってもルルーシュは重要な人物だ。
「私一人では無理だが…お前たちが力を貸してくれれば…或いは…」
「わかった。あんたの言葉を信じる。こうなったら、騙されたって結局は同じ…。このまま動かなければ、何も結果が出ないもの…」
半ば、決死の覚悟…と云った感じで、カレンが力強く頷いた。
このままでは藤堂たちが殺されるし、カレンだって、いつ、見つかって公開処刑になるか解ったものじゃない。
カレンには生きる理由がある。
兄、ナオトの敵を射ち、母を救い出すこと…。
ゲットーで蔓延しているリフレインと云うドラッグに侵され、植物状態になってしまっているカレンの母…。
今のカレンにとって、唯一の家族だ。
その日の夜、卜部たちが集まった。
「時間がないから、話は手短にする。」
「で…どうするの?」
「トウキョウ租界のバベルタワーでゼロに出会える。」
「そんな情報…一体どこで…」
卜部が声を裏返して問う。
今さっき、ゼロが17歳の高校生であった事や、ルルーシュ=ランペルージと云う名前である事…を聞いて、驚きが隠せない状態で更なるC.C.の言葉に言葉を荒げる。
「そんな事より…私がこうして簡単にお前たちと顔を合わせる事が出来た事、飛行船を手に入れられ、トウキョウ租界に入り込める状況が出来ると云うのは、恐らく、ブリタニアの罠である事も承知していて欲しい…。私を捕まえるための罠である事を…」
「それでも、そこまでの危険を冒してもやる価値はあると思う…」
「ただ…命がけだ…下手すれば、俺達も全滅するだろう…」
「しかし、このまま、こうしていても、何もできません…卜部さん…」
「このままでは、捕まった藤堂さんたちも…」
「解っている…鬼が出るか、蛇が出るか…」
卜部がくつくつと笑いながら云う。
「そう、このままこうしていても、日本は解放されないし、地獄も終わらない…」
「じゃあ…」
カレンが言いかける。
「ああ、動こう…ゼロが生きているのであれば…ゼロはわれらの希望となる…」
「決行は1週間後…非合法のカジノでルルーシュがチェスの手合いを申し込まれている。恐らく、ブリタニアの機密情報局が動いてくる。そして、その後には、東京の政庁も…」
「つまり、ゼロを救いだせなければ、私たちはブリタニアに肉片にされると云う訳ね…」
まだ、17歳の少女と思えないような低い声で、そう云った現場を慣れきっている口調でカレンが吐き捨てる。
「どうせ、このままでいても、潜伏生活は変わらないし、見つかれば私は確実に処刑だもの…私はやるわ…」
カレン自身は自分の立場をよく解っていた。
その言葉に、その場にいる者たちが黙って頷く。
C.C.はその様子に何を思うのか、表情には表さない。
ただ、口元にやや、笑みを浮かべて目を伏せる。
―――ルルーシュ…待っていろ…。必ず、連れ戻す…
頭の中で誰に送る訳でもない思いを誰かに伝える。
C.C.の契約者…ルルーシュを黒の騎士団に…そして、彼女の元に取り戻すための小さな布石が整った。
「カレン…頼む…」
C.C.がカレンに頭を下げる。
「なによ…気持ち悪いわね…。別に、あんたの為にするんじゃないわ…。私の為にやるのよ…」
カレンはC.C.をキッと睨んで答える。
「それでいい…。ルルーシュを…頼む…」
C.C.はふっと笑って、その一言を残して、部屋を出て行った。
そしてカレンは…カーテンの外の町を見下ろす。
明日からは、ルルーシュが現れるであろうカジノバーに潜り込む。
イレヴンと云う事で、嫌な扱いを受けるだろう。
それでも…
―――ルルーシュ…あなたに会いたい…。そして…ゼロ…あなたにも…
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