遺されし者たち |
躊躇いの心、真実の空 |
無垢な魂 |
後悔と出来る事 |
愛しき『鬼』様 |
『悪』は消えた…では、今、理不尽に流される涙の訳は? |
冷たさの中にある愛… |
優しさの中にある罠… |
黒い翼の天使 |
嘘 |
戦場の女神 |
リアルな日々 |
自ら手放した者の価値を知った時… |
少女の思い… |
罪とは… |
世界 |
遺されし者たち
戦いの後には、魂が召される者と、大地に遺される者がいる。
魂が天に召されて救われる者、大地に大きな悔いを遺し召される者、そして、その者達の中には…その屍に罵声が飛ばされし者もいる…
それは、そこから大地を統べる者の都合の為か…大地に遺りしすべての者の為か…
少なくとも世界の為に自ら『悪魔』の名を戴いた少年達の為にその尊き魂を悼む事を、今は赦されない…
一度は世界が彼等を『悪の化身』と蔑んだ。
そうした…何も考えぬ一辺倒の危うさ、脆さ、恐ろしさも気付かずに…
何も考えぬ怠惰な人間に…静かに忍び寄る…怠惰と責任逃れの代償…
そして、再び、『悪魔』の名を自ら戴いてくれる優しい誰かの出現を信じている…
嗚呼…何とも愚かしき人間達…
ここまで愚かしいと滑稽を通り越し、憐れである。
『悪魔』の名を自ら戴くそんな慈悲深い稀有な少年がそんなに頻繁に現れてたまるものか!
『ヒト』とは自ら出来ぬ事を求める生き物…
それを他者に求め、押し付けるから罪深い…
その罪深さを知ったからこそ…彼等はその罪の大きさに気付き、自らに『罪』と『罰』という名の重しを自らに結わえて、時代の大河にその身を投げた。
その意味を…今の世界の統治者達は理解っているのだろうか?
理解っていて…何故、皆の考えを一つの方向へ向けるのだろう…
そんな行為がどれほど危険な事か…誰も気付いていない訳でもあるまい…
現実には、彼等がすべての『悪』を背負ってくれたと云うのに…未だに、リアルな『悪』の存在を必要としている…
傍観者としては…生き遺りし者達の方か『悪』だ。
『悪魔』と評した少年達にすべてを用意された…見せ掛けの『正義』達…
神はまだ、『人間』達の安息を許してはくれないらしい…
同じ時代に…大地に産み落とされた二人の神の御子達…
彼等の魂は、いずれ…誰も知らぬメシアとして…現れる…
慈悲深い神の御子たち…どんな存在として扱われても…やはり彼等は人間を愛している。
遺されし者達の知らぬ…現実が…ここに一つ…隠されている…
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一つの共通の『何か』を目指すとき…人の心は目的だけを見据えて一つになれる。
その時には、信じられないほどに団結し心を合わせる。
しかし、『心』の結び付きのない、『目的』だけを共有する団結は…酷く脆い…
目指した『目的』の先にあるものがそれぞれ違えているから…
世界は一度、『悪逆皇帝』の排除の為…一つになった。
シャルル皇帝とて、非道と云う点では、ルルーシュ皇帝に負けていない。
ならば、何故、シャルル皇帝の時には一つになれなかったのか…
ルルーシュ皇帝に力がなかったからか?
否、それは違う。
ルルーシュ皇帝はたった2ヶ月で世界の憎しみをすべて自らに向けた、稀代の皇帝…
ならば…何が、世界を動かした?
その理由を理解する者であれば、その、類い稀なる資質に驚愕する…
『黒の騎士団』を造り、世界を驚愕させた『ゼロ』と同一人物だと…知るのだから…
あんな、茶番劇に騙された世界…
あれほどの強い暗示にかかってしまったのは…『ギアス』の力故か、彼自身の『ヒト』としての能力か…
今、世界を束ねる者達が共通して持つのは…自らを『正義』として…存在せねばならぬ事への…躊躇い…
どれほど言い訳してみてもお膳立てされた『正義』を振りかざさねばならぬ今の自らが背負わねばならぬ今の真実の空…
すべてを投げ出したい衝動に耐え切れず、逃げ出した者もいる。
時代の変革の時、お膳立てされた新しい時代に…誰が執着出来ようか…
お膳立てされたという事は現在の統治者達にとっては…本物の新しい時代ではないのだ。
自分達が『悪』とした者に準備された…新しい世界…
その価値を認めて享受するか…認められずに再び破壊するか…
あの時の真実を知る者すべてが抱える苦悩と葛藤…
この葛藤を知った慈悲深い悪魔は今、何を思う…?
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多くの犠牲の下、築き上げられた心優しき魔王の願った…『優しい世界』
そして…魔王の消えた『世界』に、また、無垢な魂が…この大地に舞い降りる。
その『魂』は…真っ白で、脆く、壊れやすい…
かつての世界であったなら…その無垢で無防備な魂は…簡単に潰され、吹き飛ばされていたかも知れない…
もしくは、生きる為にその魂を、意に沿わぬ色に染め、削り乍ら生きねばならなかった。
誰もが…そんな世界に哀しき涙を流し続けた…
『この子が大人になる時には…』そんな、アテのない願いと希望に縋っていた。
誰もが望みながら…誰もが望むだけだった。
そんな時代に生まれた稀代の皇帝、ルルーシュ…
彼は世界中の誰よりも『優しい世界』を望んだ。
実の妹の理解さえ、拒み乍ら…
誰よりも『生きる』事を望んでいたにも関わらず、彼は『優しい世界』の為にその身を惜しむ事なく、世界に差し出した。
無垢な魂が、傷つけられぬよう…潰されぬよう…
だから、彼を『悪魔』と呼んだ彼の妹は…『優しい世界』を全身全霊で守り抜く…
彼女の心の片隅では…誰よりも純粋に『世界の明日』を望んだ愛する兄が無垢な魂で帰って来る事を願っていた。
いつも兄に守られていたから…今度は自分が兄を守るのだと…
今度こそ…あんな哀しい嘘のないよう…あんな辛い愛が生まれぬよう…
今度は自分が兄から受けた無限大の愛情を…無垢な魂の兄に返す…彼女を強く支えている思いと願い…
だから、彼女は空を見る度に思う…
―――早く私のもとへ…
と…
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あの日から…ずっと心から消えない…
そして、探し続けている…
『後悔』…
後になって悔やむ事…
あの時…何故、自分で従うと…ついて行くと…そう決めた人物を簡単に裏切れた?
彼は、約束通り…日本人を導いた…
自分を助けてくれた…
彼を支えるものが何もなかったのに…
自分の事を二の次にして…
何故、もっと冷静に物事の判断が出来なかった?
普通に考えれば、小学生だって気がつく…愚かしい裏切り…
その話しを持って来たのは敵の大将…
裏付けの証言をしたのは彼を監視していた敵の軍人…
あの時、あの場にいた自分達の副司令の女…
普通に考えれば、どちらを疑うべきかは…一目瞭然…
自分の愚かしさに涙が出そうだ。
でも、何の疑いもなく敵の言葉を鵜呑みに出来た自分に後悔の涙を流す資格はない…
誰よりも、彼に救われていた自分…
それを最も愚かしい裏切りを…彼に与えた…
そんな自分だから…共に『罪』を背負わせて貰えなかったのか…
彼を守る為の存在だった筈…
でも、実際に守られていたのは…
今、自分に何が出来る?
ずっと…彼に導かれていたから…自分のすべき事さえ、解らない…
情けない…
愚かな自分…
もはや罵倒する者さえ…存在しない…
辛い…つらい…ツライ…
これが自分に与えられた『罰』なのか?
どうすれば…償えるのだろうか?
きっと…誰にも解らない…
そんな…甘ったれた事など…赦される筈もないのだから。
償いとはそれを施せば赦される者にのみ、与えられるものだから。
自分は赦されない…
赦されてはならない…
自分のした事は絶対に赦せないから…
だから…生きている限り自分は自分を赦さない!
たとえ、彼自身が『赦してやれ』と自分に命じても…
今、自分に出来る事はそれくらいしかないから…
こんな自分を見たら、彼はなんて思うだろう…?
でも、自分が自分を赦してしまったら…彼への思いが嘘になってしまいそうで…怖いから…
彼に生かされたこの命…
彼がいないと…こんなに辛い…
でも、これは自分への『罰』だから…
でも、許されるなら…彼を想い続けても…いいですか…?
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私はかつて、『鬼』と出会いました。
その『鬼』は…まだ、子供の姿をしておりましたが…桐原の云う『人の世に恨みを持ち、人を攫う』ような、ただ恐ろししいだけの者ではありませんでした。
あの時には…私自身を変えて下さった…
スザクの優しい言葉も嬉しかったけれど…私には『鬼』様の言葉の方が重く、大切なものとなりました。
貴方のお顔を拝見した時…すぐに解りました…
というより…最後の確認が終わったという気分でした。
私の誰よりも愛しき我が『鬼』様…
きっと…貴方様は覚えてはおられぬのでしょう…
8年前のあの出会いを…
私は…貴方様に着いては行けぬ身…
個人の感情で動いてはならぬ身…
本当は、貴方様と共に…
貴方様が教えて下さった、自らの生まれの責務…
その教えを守らぬ訳には参りません。
だから…私も『鬼』と、なりました。
全ての私情を捨て…貴方様の望むがまま私は…
貴方様がお選びになったのは…スザクでした。
私情を捨て去らねばならぬ身でありながら…私はスザクに嫉妬致しましたわ…
ずっとお傍にいて、お仕えしてきた私に『共に罪を背負え』とは言っては下さらなかった…
貴方様にとっては…共にあるのは…スザクだけでしたのね…
私の自分への絶望とスザクへの嫉妬心…
醜い私の心を諌める為…誰よりもお慕いする貴方様を…『悪逆皇帝』と呼びました。
貴方様の本当は優しく慈悲深い御心を知り乍ら…
私は貴方様から及第点は頂けたのでしょうか?
貴方様の望んだ世界の為に、お役に立てたのでしょうか?
新しい日本の首相には、扇を指名致しましたわ。
これなら、桐原のように陰から世界を動かす事が出来ますもの…
私はこれから貴方様の後を継ぎ『鬼』になりますわ。
貴方様のように誰にも本心を悟らせず、『鬼』になりきりますわ…
それを一人でやり切る事…私の生涯全てをかけて…
でも…私にとって…『鬼』の名は何よりの栄喜…
その栄喜に、恥じぬよう…私は…
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『黒の騎士団』で『ゼロ』の親友と豪語していた男…
その男は今、バーのオーナーとなっている。
普段は真面目な話をすることもほとんどない。
これは…『黒の騎士団』にいた頃から変わらない。
時々、馬鹿な失言をして、失笑を買う事もしばしばだ。
ただ、自分が『親友』と呼び続けたその少年と敵同士となった時…誰よりもショックを受けたのは…彼に惚れていた女達ではなく…彼だったのかも知れない。
馬鹿で考えると云う事をしない分、他の『馬鹿ではない』連中より受け止め方はストレートだ。
彼は彼なりに本気でその少年を『親友』だと思っていたし、仮面の下の素顔を見た時…何がショックだったかと云えば…何も言って貰えなかった事だった。
他の奴らは少年を裏切り者で極悪非道な卑怯者とした。
難しい事は考えられなかったし、解らなかった。
でも彼は『自分達は戦争をしている。犠牲の出ない戦争なんてあるのか?』と考えた。
軍隊なら捨て駒になる作戦はある。
ブリタニア軍の枢木スザクだって『黒の騎士団』との戦いの中でそういう作戦行動に出ている。
あの時、あの少年は『これは戦争だ!』と彼等を叱責した。
こうしてみると…あの時の『黒の騎士団』の中で『戦争』という言葉の意味を知っていた者はいなかったのではないか?
閉店後のカウンターに…グラスが一つ置かれている。
そして、彼の手にも同じ色の液体が揺れている。
あの少年の印象的な瞳をイメージした…彼のオリジナルカクテル…
置かれているグラスの淵に自分の持つグラスで『カチン』と軽い音を立てる。
彼の中では少年まだ『親友』らしい…
否、今度こそ本当の『親友』だと云う。
彼は時々、こうして少年と酒を酌み交わす。
未だに消えぬ、争いとそれに巻き込まれていく人々…
彼はあまり使わないその頭で必死に考える。
あの少年が…自分の『親友』がすべての憎しみを持ち去ったのに…
なのに何故、人々は争う?
その争いの責任まで…『親友』に押し付ける?
―――もうやめてくれ!
彼は心の底で叫んでいる。
でもムダに頭のよかった少年は…また、とんでもない作戦を残しているのかも知れない。
否、あの少年の事だ…また、あの時の様に偉そうな態度で
『日本人よ!私は帰ってきた!』
とか言い乍ら、ひょっこり帰って来るような気がして…
「ごめんな…ゼロ…オレ、バカでごめんな…でも帰ってきたらオレ様のカクテル…飲んでくれよな…」
誰に言ってる訳でもない…
でも『あいつは聞いている…』と思ってしまう。
世界は…まだ、迷子の状態だ。
そんな事を思い乍ら…今夜も『二人』で酒を飲み交わす…
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あれから…時間が経てば経つ程…思い知らされる彼の…他人への…思いやり…
優しくて、慈悲深くそして…残酷で…
あの時…着いて行っていたら…何かが…変わったのか?
ずっと…一番近くで彼を見続けていたのに…
結局…裏切った…
いろいろな『If』が頭を過ぎって…本当は…悔やむ事さえ、おこがましい…
彼が、どれほど優しいか…慈悲深いか…世界中に大声で…伝えて廻りたい。
みんな…知らないから…
だから…当たり前だと思い過ぎている。
彼の遺した『ヒト』に対しての…宝物を…
何も…出来なかった…
彼と共に歩む事も…あんな哀しいだけの優しさを止めることも…
結局…自分は、あの魔女にも、あの幼馴染にも…敵わなかった…
否、捨て駒としては…あんなブリタニアの軍人にさえ…
あんなの…優しさだと…慈悲だと…思わなければ…知らなければ…どれほど楽だろう…
こんなに心を削られる…『罰』もあったのか…
彼女の中で、涙がでそうになる…
こんな事なら特攻を命じられた方がずっとマシだ。
それでも…世界には『知る』者が必要だ。
彼は…その役目を自分に与えてくれたのだろうか?
『無知』からの争いを避けるため…『忘却』からの驕りをさせないために…
一見、何でも出来そうで、でも…妙なところが抜けていて…
冷たいように振る舞って見せて…でも、冷徹になりきれなくて…
凄い『ヒト』だった。
『黒の騎士団』の中で一番『人間』の力をも超越していた彼…その存在感に、誰もが魅了された。
本当に…『神』か『悪魔』の化身のように…
でも…彼は誰よりも…『ヒト』だった…
後になって気付く…
彼の優しさはいつも…その冷たく見えるその瞳の奥に隠されている。
ナリタの時も、ユーフェミアの『特区日本』の宣言の時も、100万人の日本人を脱出させた時も…
彼には隠しても隠し切れない…周囲への優しさがあった。
残酷だと思う…
『罪』は彼だけにある訳じゃないのに…
もし…生まれ変わったら…きっと彼だと解る。
冷たさの中に隠し切れない優しさを持つ…
彼女は決意する…
あの魔女にも、幼馴染にも…負けない為に…一番先に彼を見つけ出す…
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結局…あれは何だったのだろうかと思う。
一人の…たった一人の生涯の主を見つけた。
自分は変わった人間だ。
昔から自覚はあった。
それを認めた上で、主の為に何でもしてきた。
自分の主は…ある時を堺に…変わってしまった…
元々何かに対する執着の薄い方だったが…ある、大切な宝を失ってから…我が主のすべてに対する執着が…消えた…
自分の命にさえ…執着さえ持たなかった為…決して負ける事はなかった…
勝つ事も、しなくなっていた。
絶対に負けない位置に立ち…相手が折れるのを待つ…
真意を悟られなければ…絶対に勝てる。
真意を悟られてしまえば執着を持たぬ主はあっさり負けを受け入れる。
云うなれば…両刃の剣…
しかし、世の中に彼の戦略に敵うものはいなかった…
だから、自分は、安心していられた…
9年前…主の執着をねこそぎ奪い去ったあの皇子が…『ゼロ』として…主の前に姿を表す迄は…
何も言えなかった…
自分の命にさえ執着を持たない主が…自分の執着の為に戦う彼に敵う筈がない…
それは…自分の持つ力ではなく…思いの強さが違い過ぎる…
たとえ…戦闘では勝てるかもしれないが、目的を果たすという意味では…勝てない…
主は…結局…負け、彼等の創り出す世界の支柱の一本となった。
嘲ってしまった…
あんなに脆く崩れ去るとは…
そしてその『悪魔』は主に『ゼロに仕えよ…』と云う…『ギアス』をかけた。
これで主は…『ゼロ』が…主を必要な駒としている限り自分の命を守れる方法で…これからの世界を支えて行く…
『ゼロ』…否、『ルルーシュ殿下』…貴方は優しい罠を遺した。
それは…あまりに優しくて…それでいて…残酷…
主は…優しい顔をして…優しい罠など…仕掛けない…
『ゼロ』は違った。
見えるところは冷たくて…でも、周りは優しさでコーティングされた…優しく、残酷な罠…
世界もろとも…その罠にかかり…取り込まれて行った…
自分のしてきた事を考えてしまう…
人々はきっと気付かない…彼の優しさと慈悲深さ…
気づかぬから…笑っていられる。
何故、もっと早く帰って来てくれなかったのか…
そうしていてくれれば…主も『ギアス』に頼る事なく…『生きて』くれたのに…
つい、そんな風に考えてしまう…
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常に…変わっているとか、時には変態とまで言われて避けられた事もある…
でも、そんな…上辺だけの言葉なんてどうでもいい。
必要なのは…言葉を発している人間…そのものなのだから…
彼は…どういう訳か…そういう中身を見分けるのが得意だった。
日頃…変人扱いされていると便利だった。
変わっている…その称号だけで信じた道を歩く事が出来たし、見た目の華やかさだけに心奪われているバカどもを笑う事もできた。
だから…彼等を見て、知って…迷わず着いて行く事を決めた。
一番の助手も本質はこの男と変わらないらしく、迷わず、その少年達に着いてきた。
この男の束ねるキャメロットからの離脱者もはっきり言って結構いた。
そんな奴にこの男は何の頓着も見せなかった。
着いてきたのは…自分と同じ『変わり者』の称号を持ち乍ら…中身の本質を見極める事が出来る…科学者として当たり前に持つ能力の持ち主…
『意外と僕と同じアナのムジナかいるじゃない…』
その男はそんな風に思った。
やがて…世界が生まれ変わる為の聖戦が始まった。
彼の崇高なオーラに魅了された。
黒い翼に隠された…これまで仕えてきたブリタニアにこれほど気高く、崇高で誇り高いオーラを持った者がいただろうか…
自分のデヴァイサーがあんな世間知らずのお姫様に惚れ込んでしまった時にはどうしようかとも思ったが…
これから…始まる聖戦…
世界のどれだけの人間が…この黒い翼を持つ天使に気付くだろう…
きっと…あまりいない。
黒い翼だから悪魔と決め付けて…彼等を貶るだろう。
そんな世界が彼等の望む世界だとも思えないが…
でも…その後世界がバカなマネをすれば…今度は自分がやる。
この男は本当にこの黒い翼の天使たちに心を奪われた。
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世の中にはいろいろな嘘がある。
優しい嘘、残酷な嘘、辛い嘘、切ない嘘…
『嘘はいけない事』誰もが理屈抜きに教えられる。
しかし、世の中に『必要悪』という言葉があるように、『嘘』にも『必要な嘘』があるという事を知る者は多くない。
『ヒト』は何故それほどまで『嘘』を『非』とするのか…
その『嘘』によって救われる者がいたとしても…
すべての『嘘』を肯定するわけではない。
でも、それは他も同じ事…
『優しさ』とて、使い方を間違えれば『悪』なのだから…
世界は…彼等の『壮大』で『完璧』なそして、『優しく』『切ない』『嘘』によって救われた。
それを…知る者は…本当に少ない。
『嘘』は『嘘』である必要があるから『嘘』なのだ。
今は、彼等の『嘘』に気付いていても…知らぬふりをしなくてはならない。
その『嘘』を知らない者たちの為に…
ある男が『枢木神社』に立っていた。
あれから10年…今でも彼等の『嘘』によって主のいない神社となっている。
しかし、時々、誰かが訪れて、手が加えられている様子が伺える。
ここは…かつて、この男の愛弟子が暮らしていた場所…
その愛弟子は、愛弟子の親友と共に…『世界』に壮大で慈悲深い『嘘』を残した。
彼等の『嘘』は…『世界』を変えた。
古きものを躊躇いなく排除した。
『今の世界』は彼等の『嘘』によって創られた。
『君は…本当にこれで満足なのか…自分をそこまで追い詰めるには君はまだ…若すぎる…』
男はそう思う。
自分が彼に伝授した事は間違っていなかったのだろうか…
ここに来る度に悩んでしまう。
尋ねたところで答えのアテもない。
男がぐるりと『枢木神社』を見て回っていると…人の気配がした。
気配を頼りにその人物を探り当てた。
それは…かつて、共に戦った…
彼女はやや涙目になって神社を見ていた。
『紅月くん…』
『お…お久しぶりです…藤堂さん…』
10年振りの再会…
二度と会わないと思っていた。
彼等の『嘘』を知る者…
これは…罪と呼ぶべきか…
この『嘘』のお陰で…『世界』は今のところ、笑っている。
これは…『彼等』が遺してくれた『罪』への『罰』なのか…
男の頭の中でそんな思いが過ぎって行った…
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あの戦いの後、すべてを失った気がする…
欲しかったのは…こんなハリボテの見せ掛けの『平和』などではなかった…
世界から『軍事力』による解決法がなくなった。
愛する異母弟が命を投げ売って作り上げた…『話し合いによる解決を模索する優しい世界』…
その『世界』に生きてみて…『話し合い』が決して『平和的』な解決法だとはとても思えなくなる…
言葉で相手の弱みに付け込み…あの戦いで…『黒の騎士団』の主要幹部を務めた人物の国に傾倒した…今の国際社会…
母国の代表となった異母妹は難しい立場に追いやられていた。
彼等は何故、そこまで彼女を恐れるのか…
理由は簡単な事だった。
『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアの妹』だから…
そんな世界を見て…異母弟に叱責し怒鳴り付けたくなる。
『こんな世界が本当にお前の望んだ世界か!?』
と…
『世界を話し合いという一つのテーブルに着く』
確かに戦争を望まない人々にとってはこの上なく魅力的な言葉だ。
しかし…
『それは…話し合いに参加する人間のレベルがシュナイゼル異母兄さまやお前くらいの人間が集まれば…の話しだ!こんな連中では…』
彼女は世界会議に出席した後の異母妹を見る度に思う。
ただ、戦いが血で血を洗う戦いから、腹の探り合う戦いになっただけだ。
言葉の傷は目に見えないから誰もが躊躇がない。
国に資源や経済力の揃っている国にどうしても発言権が偏る。
そして…力を持った国が横暴になり始める。
今はまだ…異母弟の遺した『ゼロ』が無言の圧力によって混乱状態からは何とか押さえているが…いつまでその効力が維持できるのか…
今の『ゼロ』は奇跡の伝説を創った『ゼロ』ではない。
確かに今の『ゼロ』に命を救われた者達が集まっているが…敵に敵の都合のいい情報だけで自分達のリーダーを裏切り殺そうとした連中だ…
奴らがいつ裏切ってもおかしくはない。
だから…彼女は思う。
愛する異母弟や妹の悲願を…壊そうとする者はすべて…彼女の敵であると…
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お兄様…やっと…私もお兄様の元へと逝く事が出来ます。
私もお兄様と同じように多くの、大きな『罪』を背負っています。
本当ならあの時…死ぬべきだったのは…お兄様ではなく…私の方でした。
お兄様はあの時の『世界』には必要な方だった…
それなのに…私はお兄様の事をずっと見ていたのに…お兄様の…あんな…自己犠牲は充分に考えられた筈なのに…
私はお兄様を止める事が出来なかった…
きっと…あの時、私やユフィ異母姉さまが目指していた『世界』にはお兄様の『優しさ』が必要でしたのに…
あの後…私は知りました。
お兄様が『世界』に施した『優しさ』の大きさと限りなく深い『慈悲』を…
それに…お兄様が私に遺して下さった私への思いと願い…
私はお兄様の妹で幸福でした。
私は大きな『罪』を犯しました。
だから…この『世界』でお兄様との約束を果たしてから…お兄様の元へ逝こう…そう決めていました。
私もお兄様も、ユフィ異母姉さまと同じところへは逝けないでしょうから…
私は…お兄様が一緒にいて下されば…本当に…それだけで良かったのです。
スザクさん…本当にごめんなさい…
でも…今まで…有難うございました。
貴方の存在は心強かった…
あの…秘密基地で私の手をぎゅっと握っていて下さった温もり…今でも忘れていません。
温かくて、力強くて…
本当は…心からお兄様を愛して下さっていたのでしょう?
私…スザクさんの事が好きだったんです。
スザクさんはお兄様と同じくらい優しかったから…最期に一つだけ…我が儘を許して下さい。
ずっと…そう呼びたかった…
でも、私一人の我が儘で…『世界』の為の『ゼロ』を失ってはお兄様に申し訳なかったから…
でも…不思議ですね…
あの時から…貴方が変わった様子がない…
何かの魔法にかかっているみたいに…
でも、私があちらへ逝ったら…お兄様も…あの時の美しいお兄様なのでしょうか?
もう…時間切れみたいです。
『やっと…お兄様の元へ…胸を張って逝く事が…出来ます。スザクさん…今まで…有難うございました。早く…自由に…』
有難う…長い間…私の傍らに立っていて下さって…
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『ゼロ・レクイエム』によって…世界は本物の『ゼロ』を失った。
『ゼロ』の正体を知り、間近で見てきた者たちは…改めて知る。
彼の偉大さを…
つまらない感情で…そして…間近で彼を見続けながら…理解出来なかった…
彼、本人がいなくなり…一国をその肩に背負う重みを知る。
彼があの細い肩に背負っていたのは…世界の半分…
『黒の騎士団』の『ゼロ』としても、『神聖ブリタニア帝国』の『皇帝』としても…
否、彼が常に背負っていたのは『全世界』の『運命』だった…
その真実を悟ったのは…愚かにも…
どんな手を使っても…どれほど願っても…戻らぬ事を悟った時…
今、自分の肩にあるのは日本の行く末…
この小さな島国の未来…
彼と比べると、小さなものだと思う…
でも、今の日本は…
経済的には破綻に近い状態…
ルルーシュ皇帝の直轄領として、現在の世界の国々が羨むインフラが整備されて…戦後処理の厄介な荷物を背負わずに済んだと云うのに…
経済危機から端を発して、国内の失業者の増大、国のトップの汚職の露呈…
それが原因となった国内の治安の悪化…
『新生・黒の騎士団』と称してテロ活動を始める者もいる。
今の日本国の首相は…
こんな状態となって…初めて思う…
『日本を助けてくれ… 』
ムシのいい話しだと思う…
あの時…共に彼を追い出した仲間たちからは侮蔑と怒りを向けられるだろう…
しかし…それが自分の力量…
あんな思いをして…取り戻した…日本…
こんな筈ではなかった…
あの時…自分は彼に何と云った?
今、自分のしている事は…彼より無能で…惨い…
失って初めて知る。
自分の力量と捨てた者の大きさを…
またも鳴り響く…テロ発生のアラート…
すくっと立ち上がり、モニターを見つめながら状況報告を受ける。
そして…命令を下す。
『一人残らず殲滅せよ!邪魔をする者は女も子供も非武装も関係ない!皆殺しにして構わん!』
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仮面の英雄に尽力し、結果的に、その少女の思いが紛いものと…あの時に証明されてしまった。
結局、感情に流され、彼を裏切り者として、世界から…追い出した。
自分の愚かさを知った時、守るべき国は…
無能者の手に落ちた。
何が彼らの根拠のない自信に繋がったのか…
見ていて…あまりに目に余る愚行の数々…
全てを『ルルーシュ皇帝』個人の責任にして、世界が騙されてくれる時期はとうに過ぎている。
日本…一体…誰の為に存在せねばならぬ国であるのか…
彼らは忘れ去った。
日本は日本人の国でありヤツラのメンツの為に存在している訳ではない…
日本の…古しえの家の姫として生まれた。
だから…日本を守りたかった…
そして…気高き王を戴きながら…
自ら手放した…
愚かな…裏切り…
それ故に、無能者に、愛する者が命懸けで守った、この国を託さなければならなくなった…
許されるなら…自らが立ちたかった…
あんな愚か者に託さねばならなかった事が悔やまれる。
あの時の…王の言葉を覚えている者が…日本を担っている者達の中でいるのだろうか…
『撃っていいのは…撃たれる覚悟のある奴だけだ…』
高い矜持を持つ言葉…
『今の私に何が…』
そこまで口にして言葉を飲み込み、目を閉じる。
自分は…あの様な神に愛された王とは違う…
『あの方は…いつもお一人で…全てを抱えておられた…。でも、最後に選ばれたのは…選ばざるを得なかったのは…』
上にたつ者として、嫉妬など…あってはならぬと思ってきた中で自分のよく知る男に並々ならぬ嫉妬心を抱いた…
最も大きな策には…自分を傍に置いては貰えなかった…
王の情けの下…一番安全な囚人として守られていた…
情けない…
今もまた、間違った道を歩んでいる…
なら…
『死なばもろとも…』
彼女は口にする…
これが世界が望んだ…独裁者を否定した世界…
それを得た後の日本が選んだ道…
日本人達の嘆きが聞こえる。
『『ゼロ』の大きさを知る事なく来た者達の行く末を見せて頂きましょう…。その為に…この私の命と矜持を代償と致しましょう…』
くつりと口の中で笑い…呟いた…
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人は皆、生きている限り…罪を犯しながら生きている。
その罪を裁くのもまた、人だ。
つまり、人の世の罪とは…そこに生きる人の価値観で定められる。
世界はその時の世界の価値観で彼らを排除した訳ではなかった。
恐らく…排除された…二人の『ゼロ』の幼い価値観で…あの時の世界は動いた。
だから、今になって、分析すると…
本当に…世界全てが飲み込まれていた。
それは…現在の価値観で大人達が語る結果的分析だ。
その中には、現在、世界の有力者達の滑稽さを語る者もいる。
完全に脚本を準備され、舞台をセッティングされ、彼らが…世界が『悪』と呼んだ少年達によって与えられた権力と名誉…
その滑稽な真実に気付いた者とそうでない者との間に差が生じ始めている。
そして…『悪』のレッテルを背負った少年達が消えた後の世界の価値観で『悪』とされる者が現れる。
その覚悟のある者とない者…
あまりに解りやすい。
自らの『罪』を認めて改める事の出来る人物はどんな時代にも支持される。
口で云う程容易い事ではないが…
人とは身勝手な者で、それを求めてしまうのだ。
それに気付いて、為そうとする者…気付かず、責任を認めない者…気付いていて、認める勇気を持てない者…
様々だ。
それでも世界は動いている。
世界に人が生きる限り上に立つ者が…どんな人であれ、動いて行くのだ。
纏まらない世界は争い始める。
民主主義と云う両刃の剣を使いこなせる者のいない世界では邪魔とさえ思えてくる魔法…
いずれ、人々が二人の少年達の呪縛から解き放たれるまで…
世界はさ迷う…
自らの意志で欲しい物を手にさせられて背負わされた…世界に残された『業』…『罪』なのかもしれない…
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世界の全てを見定めながら生きている者は…この世界に生きている者でも数少ない…
理由は様々だ…が、一番の理由はそこまで思い当たる者が少ない。
そして、そこまで思いが至ったとしても…そんな事が出来る人間など…この世界に極僅かしかいない…
そして…そんな事を出来る人間は…基本的に有能であるが、自身が有能で稀有な存在であると…気付かぬ者もいるし、愚か者達の為にひた隠しにする者もいる。
しかし、それが戦略の為、政略の為であればいい…
それに気付く事さえ出来ない者が、為政者となった時…
その国は…
不安定な世界を一つに纏め上げようとした…少年達の思いは…覚悟は…
世界は再び混沌とし始めている。
今はもう…我が身を生け贄に捧げてくれる…慈悲深い悪魔はいない…
世界が排除したのだから…
結果への反省ではなく、後悔と誰かへの責任追及しか出来ない者達の愚かな混沌…
変革の為ではない…
どうしたらいいか…考えられないから起きた…Chaos…
『ゼロ』を愛し、Chaosを望んだ…長髪のジャーナリストの歓喜に満ちた笑い声が世界に響いているようだ…
神の創り上げるChaosは美しい…
愚か者の創り上げるChaosは滑稽だ…
どちらにしても…世界は…あの少年達が消えて数年後には…再び…争いが争いを呼ぶ世界となった…
世界にはまだ、『神』が必要だった…
光の『神』であれ、闇の『神』であれ…
世界が殺した『神』の存在の大きさを思い知った世界は…
またもバラバラになった。
皮肉なものだ…
話し合い…民主主義…
そんなものが通用するのは…安定している世界だけだ…
Chaosが支配する世界で必要となるのは…
力で力を捩伏せられる…
大きな独裁者の力であると云うのに…
あの時の世界は状況判断も出来ず…順序を誤り…再び血と涙に満ちた世界へと変貌していったのだ…
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