大河の雫 |
無知の贖罪 |
震える心 |
流れ行く時代と訪れし終わりの瞬間(とき) |
そして…始まり… |
ICHIRENTAKUSHO |
約束の時 |
幸福になる覚悟 |
見守る為の継承者 |
再会 |
魔女の願い… |
見送る時…の訪れ… |
NEGAI |
真実を見つめると云う事… |
互いを知る者は互いだけ… |
生まれ変わり? |
再会U |
大河の雫
時間は流れて行く…
人が望んでも、望まなくても…
どんなに偉くても、どんなに裕福でも…
どんな生まれでも、どんな運命でも…
ただの人間でも、『コード』を持つ者でも…
時間と云う大河の中で、生きとし生ける者全てがその小さな雫として存在している。
そして、その大河は時に人をその濁流に飲み込む。
ルルーシュやスザクが、その存在として生きた時代もまた、そんな、濁流の暴れ回っていた時代だった。
その時、『ヒト』は濁流に飲み込まれ乍ら、小さな雫を結集させ、その大河の濁流に抗った。
そんな中で、濁流に飲み込まれて散った者も数知れない。
それだけ大きな…荒れ狂う大河に抗うのだ。
中には大きな悲しみも生んだ。
その悲劇に耐え兼ねて、自らの身をもって濁流を止めた少年達…
残された者達は彼等を『悪の権化』として、流れの緩やかになったその大河に大きな、重い『罪と罰』と云う名の重りを括り付けて…投げ捨てた。
彼等の偉業の崇高さ、尊さを知らぬ人々は、今、幸福そうに笑っている。
時代の生んだ稀代の少年達の価値も知らぬまま…
知らぬから、人々は同じ過ちを繰り返し、時間の大河は、稀代の全てを背負うべき、時代の子供をこの地に遣わす。
神は何故愚かな人に、救世主となるべき我が子を、この大地に遣わすのだろう…
神の子に刃を向ける愚かな人間に…『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』も『枢木スザク』も与えてはならなかった。
人はその尊さも知らぬまま、神の御子を悪魔と呼ぶ。
神の慈悲にさえ気付かぬ愚かな人間たち…
そうして、失いしものの大きさに気付かぬ人間は…やがて…同じ涙を流す…
いつか…やがていつかは…と、そんな甘い希望に…神はいつまで縋っていてくれるだろう…
愚かな人間には、神の子であるルルーシュとスザクの存在は…大き過ぎて、眩し過ぎたのだろうか…
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神聖ブリタニア帝国第99代皇帝ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアは世界の『悪』をすべてその、折れそうな、細い身体に一身に背負い、人々の前から姿を消した。
世界の大多数の人間は、声の大きな者の言葉を鵜呑みにして、その事実に歓喜した。
その、『無知』なまま、考える事も許さない、その声に付き従って行く事の危うさに気付く事もなく…
敢えて云うなれば、それが人々に残されし『罪への贖罪』か…?
事実をその目で知り乍ら…自分の色を持たぬ愚か者達の世界…
世界を変える為に屍と変わり果てた者達の尊き魂の救いは何処にあるのだろう…
世界を憂いて、世界を壊そうと必死に抗い続けた魂は…今…何を思う…?
抗い続けた果てに待っていたのは…目に見える勝者への賛美と、敗者への罵声…
彼等はただ…自分の信じた道を進んだだけ…
しかも、現在の勝者とされる者達の勝利も…世界が『悪』として否定した敗者の用意したもの…
なんと皮肉な事か…
敗者にお膳立てされた勝利…そして…『正義』の称号…
ハリボテの『正義』という名の入れ物の中で…『悪』に準備された勝者の称号…
中身のない『正義』も『大義名分』も…意味を失うのは時間の問題…
彼等は気付いているだろうか?
彼等にも『罪』への『贖罪』が残されている事を…
世界に残された彼等には『無知』であった事の『贖罪』も残っている。
抗い続けた世界は…彼等が『悪魔』と評した少年達の手で破壊された。
その偉業の意味に辿り着く迄は…真に望む明日は来ないだろう…
『願い』とは…叶える為にやらねばならない事がある。
これ迄すべてをたった二人の少年悪魔達に押し付けてきた…世界の大人達…
世界の何処かに…二人の少年悪魔達の涙の向こうの真実に…気付けた者がいたならば…
あの悪魔と称された少年の世界に遺した『ギアス』の価値、意味が…無駄にならずに済むのかもしれない…
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『ゼロ・レクイエム』を決意した。
それによって…『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』と『枢木スザク』はこの世界から…その名を消す。
ただ消えるだけならいい…
世界の再構築を考えた時…余計なものがあっては新しく創り上げる事が出来ない。
まず、古いものを壊さねばならない。
それには、大きな抵抗があるだろうし、壊すのに大きな負担を伴う事もあるだろう…
恨みも買うだろうし、哀しみも生まれるだろう…
それでも、彼等に悩む時間はない。
Cの世界で彼等は知ったから…
世界は…人々は…『明日』を望んでいる事を…
その為に儀式が必要で、その為の生け贄が必要だった。
彼等はそれさえも彼等の意思で、誰にも知らせずに買って出た。
そして、彼等は『世界』から姿を消した。
自ら決めた事とは言え、自ら『悪』として存在せねばならない。
自分で…望まない、ある意味無意味な犠牲を作る。
自らを『悪』であると強調する為に…
彼等が愛した者達の為にも…成し遂げなくてはならなかった。
そして、世界を一つにする為に…
既に罪人だと云うのに自ら『悪魔』になるとなった時、震えた。
『ヒト』でありたいと願う心が邪魔をした。
共に『悪』となるパートナーにも、見せてはならない弱音だった。
『ヒトのココロ』とは厄介なものだ。
しかし、それがあるから…何かを望み、何かに抗う事が出来るのだ。
感情とは…両刃の剣だ。
そもそも、彼等が『悪』を演じてでも世界を変えたいと思ったのも…『ヒトのココロ』なのだが…
『ヒト』は…『ヒト』であればこそ『善』も『悪』も演じられる。
それは出来るかも知れないが、一つ演じきる度に『ココロ』は震える。
それは…自らがまだ『ヒト』であると云う証…
自分は…最後まで…この『震える心』を持っていられるか…
今日もまた…自らの行為によって泣いている者達の…叫びが…『悪魔』の耳にも届けられる…
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その名も存在も世界から消えてなお、彼等には『業』が残されている。
『ギアス』に触れたその代償は、考えているよりも遥かに重い。
彼等が命懸けで施した『ゼロ・レクイエム』…
彼等が世界にかけた魔法もやがて、解けていく…
彼等がかけた魔法も…絶対でも、完璧でもない…
時間の流れとともにその効力は薄れて行く…
『神』の力も、『悪魔』の力も、決して
万能ではない。
それに…『ヒト』はぬるま湯に慣れると…そのぬるま湯がどれ程の血が流されて創り上げられたかを忘れていく…
忘却は罪である。
その忘却により…『ヒト』は再び血と涙を流す。
有史以来…『ヒト』は『忘却』という『罪』に対して大き過ぎる『罰』を受け続けている。
どれほど『忘れてはならない』歴史を重ね続けても、『ヒト』は忘れ、失う。
『忘却』という『罪深さ』を知っているのに…
そして…二人の少年が自ら『悪魔』を演じて創られた『明日のある世界』が崩壊の時を迎えようとしている…
この『世界』の創造者である『悪魔』達は今…自らが創り上げた『世界』の終焉を目の当たりにしている…
その様を目の当たりにして…彼等は一体…何を思う…?
あの時は…皆に拍手喝采で迎えられた『世界』は…既に老成し、瀕死の状態…
もはや、手の施しようもない程腐っている。
すべてのものは必ず成長し、やがて衰える。
彼等は…その覚悟が足りなかったのか…その崩れ去って行く彼等が創った『世界』の崩壊に涙した…
これから先もこうして『世界の終わり』から『世界の始まり』に繋がって行くこの大地を見続けて行く…
『コード』を背負った時に課せられた彼等の『業』
そして、『コード』を手にして『ゼロ・レクイエム』を成した時に覚悟をしていた筈だった…
あれから数百年…彼等の創った『世界』がその役割を終える。
彼等がそれを必要とした『世界』とあらゆる事が異なってしまった『世界』…
今は…この『世界』ではダメだと云う事は解っている。
だからこそ…『世界』の『創造者』として終焉を見届けたい…
帰りたいなどとは言わない。
このままでは、『世界』は荒れ果ててしまい…更に多くの哀しみに埋め尽くされる…
それならば…『最期まで見届けてやる…』
今の彼等に出来るのはそれだけだから…
複雑な気持ちを抱え乍ら…『世界』のそれを見つめ続けて行く…
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父を、完全にこの世から消し去った…
たとえ…憎んでいた父であったにしても…実の父をこの世から完全に排除した。
ずっと…敬愛していた母の真の姿に絶望して、彼女も一緒に消し去った。
憎んでいても…絶望しても…親を排除するという事…
辛くないと云えば…嘘になる。
しかし…その少年に…立ち止まる権利も、悩んでいる資格も…もう、なかった。
自分の所為で、命を落としていった者たちのそれを無駄にしない為にも…
だから、少年は決意する。
『世界を壊し、世界を創る』
と…
そして…その少年は…幼馴染で親友だった…今は少年の命を狙う…その場にいたもう一人の少年と取引した。
『世界の破壊に力を貸して欲しい…代わりにお前が…俺を討て!お前の手でお前の憎しみを断ち切れ!』
少年は目の前のもう一人の少年と約束した。
世界は彼の盤上で彼を『悪鬼』とさせられる事になる。
すべては…『ギアス』を受け取って、少年が『魔王』になったときから…否、生まれ落ちたときから決まっていた。
彼は稀代の『悪魔』になると…
そして、稀代の『悪魔』となった少年は…『世界の明日』を創ろうと…動き出す…
傍にいた、もう一人の少年は…その姿に驚愕する。
自分もまた、『親殺し』の罪を背負っていた。
その『罪』の『罰』を求めて『死』を望んでいた彼にとって…自らを『悪魔』とした彼の生き様は尊敬に値した。
自分が犯した『罪』の犠牲者たちの為に『罰』を受けていたからだ…
まだ世界には彼が必要だ…そう、悟った時には、既に『ゼロ・レクイエム』は…始まっていた…
遅かった…
気付くのが…遅かった…
まだ、世界には彼が必要なのに…
彼のカウントダウンが…始まっていた…
0カウントとなったとき…彼はこの世界の者ではなくなる…
そして…自分も…
彼の存在を消さねばならないのなら…自分も彼と共にありたい…
あの、『罪』を犯してから初めて思う…
ルールを破っても…彼と共にありたいと…
そう思った時…少年は立ち上がり、彼の『共犯者』の元へと足を向ける。
自分の…望む…『罰』の為に…
彼女は少年の表情を見て
『やはり…来たな…』と笑った。
そして、少年の軍人らしい、ごつごつとした手を取った。
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『ゼロ・レクイエム』が『悪魔』の手で発動された。
戻る事の許されぬ覇道…
失敗も許されない…
それは…ある意味『悪魔』の一人よがりな…悪の善意…
それをする事で…『悪魔』の大切な者達が『後悔』と『懺悔』の涙を流す…
何も知らぬ者達は…心優しき『悪魔』を『悪魔』と呼び、彼等が『世界』から消えた事に歓喜し、『悪魔』を貶るだろう…
何も知らない方が確かに幸福だろう…
何も知らぬまま笑っていられるのだから…
全てを知る者達は…知るが故に…時に血の涙を流す。
しかし知る者がいなければ…同じ過ちが繰り返される。
誰かが…辛くとも…知らねばならない…
たとえ、大切な者達が血の涙を流そうとも…
それが『悪魔』達が自ら決めた『罰』の一つだから…
しかし…本当に『ヒト』が求めたものは…ただ一つの『悪』にすべての『罪』を押し付ける事ではない筈だ…
自らの責任において成し遂げなくては…本当の彼等の世界にはならないのだから…
だから『悪魔』は『ヒトのココロ』を持ったまま『悪魔』となったのか?
何故、そのようにして出来た『世界』に意味を持たせる事は出来ぬと気づかぬか?
『悪魔』達は…『コード』を持ち、これから先、何も出来ぬまま、永遠に『ヒトの愚かしさ』を見続ける。
『悪魔』は『ヒト』と一蓮托生であると誓った。
何も出来ぬ代わりに『ヒト』犯した過ちも自らの『業』として受け入れる。
『悪魔』…『ヒト』よりも『ヒト』をよく知る…見た目は年若い少年達…
しかし、多くの涙を知り…残酷な程、優しいココロを持つ。
いつか…『悪魔』は自らの『罪』を許せる、自らにも与えられる…『真の優しさ』を手に入れたならば…
『悪魔』が誰よりも強く望んだ『世界』が…出来るのだろうか…
すべてを包み込む…そんな『世界』が…
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ダモクレスの中の庭園で…悪魔になる決意をしたその少年は、最愛の妹と…最後の再会をする。
8年ぶりに…彼女の瞳を見た。
それは…感動の再会になる事はない…解っていた。
驚き乍ら…その裏で永遠の別れとなる前に…瞳を開いた彼女の顔を見る事が出来た事に、『悪魔なのに…』そう思い乍らも…神に感謝した。
そして彼女の決意…
『ダモクレスは憎しみの象徴となります…。すべての憎しみはここに集めるんです。みんなで明日を迎える為に…』
それを聞いて、少年は思う…
『もう…思い残す事はない…。後は彼女が引き継いでくれる…』
と…
すべての迷いは消え去り、最後の『ギアス』をかけた…
彼女は激しく抵抗した。
少年は彼女の、その気持ちの強さに驚かされる。
ずっと…何も出来ない…少年がいてやらなくてはならないと思っていたが…彼女は立派に成長していた。
やがて、彼女の抵抗も虚しく『ギアス』にかかり、ダモクレスの鍵は少年の手に渡る。
受け取る時決して届かない、その想いを伝える。
『これで俺は俺の道を進む事が出来る…有難う…ナナリー…愛している…』
届かぬと解っていても伝えたかった。
兄として、最後の我が儘だった…
少年が立ち上がったとき…彼女が我に返った。
自分の手から、ダモクレスの鍵が消え…目の前にいる兄の手に渡っていた。
『ギアス』によって作られた彼女の笑顔が少年の見た最後の、最愛の妹の微笑みとなった。
覚悟は出来ていた筈だった。
けれども…やはり、現実に、その場に身を置くと…辛い…悲しい…そして最愛の妹に申し訳ないと…そう、思ってしまう。
その後、少年は心を凍てつかせた。
すべての『憎しみ』を少年に向けさせる為に…
孤独の中、脇目も振らなかった。
近くに控えていた二人がそんな少年を止める言葉も聞かなかった。
そして…約束の日…
予定通り…今後の世界の守りの要となる『ゼロ』が少年を貫いた。
『ゼロ』の仕業か神の悪戯か…少年は、最愛の妹の前に滑り落ちた。
そして、彼女が少年の手に触れて…恐らく…ほんの数秒後…彼女の手が少年の胸に縋り付いてきた。
『愛しています!お兄様!』
そんな叫びが聞こえたような気がした。
そんな筈はないと思い乍ら…
幻聴でも嬉しかった。
―――傍にはいられないけれど…僕は…ナナリーと…
頭の中で笑っていた幼馴染と妹の姿が過ぎって行く…
目を閉じて少年は動かなくなった。
少年のその顔は何かを達成し、更にご褒美を貰った幼子の様だった…
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少年が『コード』を継承し、自らが悪魔になると決めた。
どのみち、『コード』からは逃げられないし、逃げるつもりもなかった。
少年は『生きる』事を望んだが…それは、一人の人間…としてだ。
『コード』から逃げる事が出来ないのなら…最大限利用するだけだ。
愛していた…異母妹の事を利用した時の様に…
もう…後戻りは出来ないから…
鎮魂歌は…もう…その音色を奏で始めているのだから…
もう…二度と笑う事もないだろう…
自分は、もう、自分の為に笑ってはいけないのだから…
『悪魔』になる…それは…結果的に何を生み出そうとも、自ら…大きな『罪』を犯し、罪人(とがぴと)となる事だから…
そんな少年を見ていた少年の『共犯者』
彼女は少年に尋ねる。
『幸福になる覚悟はあるのか?』
と…
少年はその言葉の意味が解らないという顔をする。
『共犯者』は言葉を続ける。
『罪があるからと…自分の幸福を拒むのはただの自己満足だ。本気で償いたいのなら、『罪』を抱えたまま『幸福』になる事だ…』
その言葉に少年ははっとしたように『共犯者』の顔を見た。
自らがすべて…『幸福』から遮断してしまえば…免罪符が出来てしまう。
やがて、その免罪符に甘える事も出来てしまう。
『罪』を償うなら周囲の批難を浴びても笑い続けなくてはならない。
それによって…自らは『ゼロ・レクイエム』を忘れない…
『罪』に対して、最大限の『罰』…
ならば…
少年の表情を見て『共犯者』はふっと笑ってこう告げた。
『待っていろ…お前が『罰』を受け易いようにいずれ…いいものをやるから…』
不敵に笑う『共犯者』
何をするつもりなのか…
それから2年後…それが届けられた。
目の前には…
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ナイトオブゼロ…それが…今日までの自分に与えられた自分の称号…
ダモクレスとの決戦で…『枢木スザク』はこの世から…姿も名前も消す…
今の自分の主…幼馴染で、最愛の人物で、かつては殺したい程憎んで…でも憎み切れず、時代に翻弄され、お互い…この世界から消える…
しかし、彼等は、この世界の行く末を見守る為…その命だけは、この世界に存在し続ける。
自分は…まだいい…
肉体の限界が来れば…それで終わる。
しかし、最愛のEmperorは…永遠に…
自分との『罪』の大きさの違いなんて…解らない。
彼はたくさんの人々の命を殺めた。
でも、それは自分も同じ事で…
二人は戦争のさなかに、人を殺め続けてきた。
何故、自分と彼は同じ『罪』を持つ者として同じ『罰』を与えられない?
彼の方が遥かに…重い…『永遠』という名の『罰』…
自分には『コード』はない…
だから…同じ大きさの『罰』は…
『お前は『罰』が欲しいのか?』
背後から声をかけられた。
振り返ると…『コード』を持つ、もう一人の人物が立っていた。
『これは契約…お前の望むものを与える代わりに一つだけ私の願いを叶えて貰う。契約すれば、人の世に生きながら『人』とは違う理で生きる事になる…』
彼女は至って落ち着いて自分に語りかけてくる…
『僕と…契約…してくれるの?』
皆まで言わせずに言葉を遮った。
彼女は…柔らかな…でも、どこか切なげに黙って笑顔を見せた。
半信半疑の自分に…しばしの沈黙の後…彼女が続ける。
『お前にその『覚悟』があるのなら…。あいつを見守る覚悟…お前にはあるか?すべての『負』を背負おうとしている…あいつを…』
そう尋ねられた。
そんな答え…決まっている。
彼と同じだけの『罰』が得られるなら…何でも構わない。
彼の残酷過ぎる優しさは…辛過ぎる…
だから…彼に解らせる為にも…
力強く頷く。
『結ぶよ…その契約…。2年…2年で君の元へいく…』
そう答えて彼女に手を伸ばす。
彼女も差し出された手を取った。
辺りに不思議な光が放たれ…やがて…納まる。
『これで…契約だ…。決して違えるな!』
彼女の強い言葉に自分もはっきり意志を示す。
『僕は…決して彼から離れない…今度こそ…』
ここに…一つの契約が交わされた…
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彼等は、もう二度と…彼等を知る者には会わない…会えないと思っていた。
否、会ってはならないと…
しかし、何の運命の悪戯か…
はたまた、神の気紛れか…
二度と会わない筈の同志…もしくは宿敵と再会した…
二人の存在は既に『ヒト』ではなく、世界にとっては…『悪の存在』…
彼女にとっては…再会すべき相手ではなくなっている。
自分達の存在に気付かれたとき…全員の心臓が大きく音を立てた。
3人それぞれ、違う思いを抱く。
かつて、『ゼロ』の親衛隊隊長をしていたにも関わらず、彼を裏切った女は…驚愕を隠せなかった。
そして…様々な『後悔』と『懺悔の念』が頭の中を駆け巡る…
死んだとされた二人の少年達があの頃と全く変わらぬ姿を見て…まるで幽霊でも見ているかのような顔だ。
そんな彼女を見て二人の『少年』は苦笑いを浮かべた。
確かに無理もない話だが…
『少年』達は彼女の姿を見て、時の流れを感じた。
彼等に肉体の老化はない。
だから自分達を見て、時の流れは感じにくい。
それでも精神的には、成長を余儀なくされていた。
二人は今、『世界』の為の『ゼロ』…
『世界』を壊した後、彼等の存在なしに成し得なかった。
彼女は…彼等の存在に気づいていた。
流石、自分が護っていた存在と護る為に戦った相手の事は望まなくとも、解ってしまう。
彼女は彼等に話し掛けようとするが…彼等は黙って彼女の横を通り過ぎた。
あれから10年の時が経っている。
彼等は忘れていないのか…彼女が自分が着いて行くと決めた相手を簡単に裏切った事を…
彼女は振り返って彼等の後ろ姿を見送った。
見送り乍ら、呟いた。
『ごめんなさい…でも…ありがとう…』
涙目になっていた。
何を意味するものなのか…解らない。
でも、彼等の姿に嬉しさを感じるが、直後、様々な後悔が頭を過ぎって行く。
彼等の姿が見えなくなっても…彼女は彼等の向かった先を見送っていた。
そして呟いた。
『今度はきちんと笑っていて…私を怨んでいていいから…憎んでいていいから…』
彼女の今の一番の『願い』だった…
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彼女の『共犯者』が『コード』を継承して半年…
彼女が密かに新たな『契約』を結んで半年とちょっと…
『世界』は、結局、ダモクレスとの戦いの時に、神聖ブリタニア帝国の当時の皇帝に捕らえられた者達によって動かされている。
まだ…反体制という組織が出来る程、世の中の安定は見られない。
ただ、所々で不満が噴出し始めている事は確かで…
その度に彼女の『共犯者』の名前が使われ、彼女の今の『契約者』が収めに行っている。
何とも皮肉な話しだと…笑ってしまう。
自分達が『悪』と定めた者の名を…自分達が『裏切った存在』の姿を借りねば、あの時、捕らえられた者達は『世界』を治められない。
これが皮肉でなければ、つまらないギャグドラマだ。
すべての『悪』を押し付けた相手はたったの18歳であった。
それなのに…今、でも生き残っている為政者達は問答無用でその少年を『悪』として…刃を向けた。
そんな連中に『話し合いという一つのテーブル』になど着けるものか…彼女はそう考える。
しかし、彼女が『共犯者』に指摘せずとも…結果が芽を出し始めている。
あの時から…世界は彼女の『共犯者』を『絶対の悪』と見なさなくてはならなくなった。
こんな…誰かに『悪』を押し付けねば維持できない『世界』に『明日』など来る訳がない。
彼女は心の中で滑稽な話しだと笑う。
しかし『共犯者』殿は彼等を信じているらしい。
彼等は…戦争の悲しさ、苦しさを知るからと…
『戦争』という言葉の意味も知らぬまま武器を手にとった連中に、誰かの為に政治など出来る筈がない。
それでも…信じたいのなら…絶望した時には…きちんと泣いてから…笑って欲しい…そう願わずにはいられなかった…
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覚悟…していた筈だった…
彼のそれまでの行動の源…『罪』を背負う理由となった…
彼女は…一人で『自分の罪』も『兄の罪』も…そして、受け継いだ使命と責任を果たした。
彼女は公人で…世界で彼女の顔と名前を知らぬ者はいない。
そんな彼女が…その責務と寿命を全うし、息を引き取ったとのニュースが流れた。
『悪逆皇帝の妹』という肩書があったものの…彼女の政治手腕は流石ブリタニアの皇女…と言ったところか…
最初の内はいろいろ言われたが、そんな雑音を吹き飛ばすだけの力はあったのだ。
そして…全世界に惜しまれつつ…その波乱に満ちた人生の幕を閉じた。
その時の様子を…ずっと彼女の傍らで見ていた『ゼロ』が、彼女の兄であった男に報告する。
『やっと…お兄様の元へ…胸を張って逝く事が…出来ます。スザクさん…今まで…有難うございました。早く…自由に…』
あの『ゼロ・レクイエム』の後…彼女は、決してその名を呼ばなかった。
でも…最期に一度だけ…そんな思いからだろう…
彼女ははっきりとその名を呼んだ。
その話しを聞いて、あれから姿の変わらぬ彼女の兄が声をあげて泣いた。
『最後の最後まで…嘘をついた…。済まない!済まない…ナナリー』
これは…彼等の『罪』に対する『罰』…
覚悟はしていた筈なのに…
本当は涙を流す資格もないかも知れない…
彼女は最後まで…兄を慕い、愛し、その思いを継承した。
彼女の中で…兄の存在が大きくなり過ぎていた。
結局、息を引き取るその瞬間まで…彼女は兄を想い続けていた。
国の代表であったとしても…人並みに誰かを愛し、結ばれ、子を宿し育てる…それくらいは許されても良かった筈なのに…
彼女の兄は『罪』を背負い、死ぬ事が許されない。
でも…だからこそ…これから先…永遠に…彼女の周りに花を絶やさずに見守れる。
彼女は花が好きだったから…
兄はただ…黙って涙を流していた。
かつて、『皇帝』と呼ばれていた頃からの自らの『騎士』に見守られ乍ら…
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互いの過去を知る最後の人物がこの世から去って数百年…
スザクがふと何かを思い出したようだ…
『今日は七夕だ…』
久しく忘れていた祭の名だ…
『ああ…織姫と彦星が恋にかまけて自らの責務を放棄した罰として年に一度、7月7日にしか会えなくなったという…』
ルルーシュの答えに少し、スザクは苦笑するが、間違っていないからスルーしておく事にした。
『でも…彼等も僕たちみたいに人の心に存在し続ける限り永遠だ。だとすると…あんまり罰になってない気がするね…』
スザクの言葉にルルーシュは目を丸くする。
『その伝説が『ヒト』の手によって作られていると云う事だ…時間の基準が『ヒト』の体感時間たがらな…』
ルルーシュらしい言葉だ…
そして…ルルーシュは言葉を続ける。
『俺達の…あの頃の様な……。あっちの方が…遥かに地獄だったよ…』
切なげにルルーシュが目を伏せる…
ルルーシュの言葉に…スザクも切なくなる。
あれから『ヒト』であれば一つの時代を作り上げてなお、余る時間を生きているが…
今もなお…鮮明に思い出される二人の地獄と罪…
スザクは何かを思い付いて立ち上がる。
恐らく、スザクが面白がって買ってきたであろう、子供用の七夕セット…
時間とともに形は変えているが、まだ残る…短冊に願い事を書くと云う習慣…
スザクは短冊を一枚出して何かを書いている。
『書けた!』
そうして差し出された短冊には…
『僕たちは絶対に離れません! Suzaku Lelouch』
と書かれていた。
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あの、『ゼロ・レクイエム』の後、全ての国が独立国家となった訳ではなかった。
と云うのも、他国を武力介入して、力で押さえ付けて来たのは何もブリタニアだけではなかったのだから…
あの広大な中華連邦だって多くの小数民族国家を数多く支配してきた。
大宦官達の私欲の為の政治、外交が『ゼロ』の手により、白日の下に曝された。
だから、人々は放棄して、中華連邦は事実上消えたのだが、独立した小数民族国家は独立後の痛みはまだ、続いている。
しかし、壊し、創ると云う事はそう云う事だ。
今でも、『ゼロ』として存在している、見た目が数年前から変わらなくなっている、少年達が…切ない思いを抱えながら…見つめている。
しかし、これは、『ルルーシュ皇帝』が世界を敵に回した時、人々の望んだ世界だ。
独裁者の支配しない世界なのだから…
扇要が首相となった日本…
『帝国』の名を持ち続けながら国の形をかえ、ナナリーが皇帝となったブリタニア…
世界一の国土を有していたが、分裂し、都周辺のみを支配下として、3ヶ国の中で一番狭い国土を治めている天子…
完全に命運が別れている。
同じ目的があったからこそ協力体制を取れた『超合衆国』は、すっかりバラバラになった。
自力復興を余儀なくされて、右往左往する。
元々、ブリタニアとの戦いだったのだが、戦後、同盟を結んでいたナナリーとシュナイゼルがブリタニアの支配者となり、同じ名を持ちながり全く違う国となった。
だから、『超合衆国』側は先勝国側に立ちながら戦後保障を請求する相手が消えたのだ。
その辺りは流石、シュナイゼルの手腕だろう。
『ゼロ』に『ブリタニアを守れ!』と云う命を完璧にこなしたのだ。
理屈が通っていたから本音はどうあれ、『超合衆国』のメンバーもぐうの音も出なかった。
これが…変革だと…解っているが…それでも、辛い…
もし、あの時、全ての罪を背負い、世界を背負うと決めていたら…結果は違っていただろうか…
自らに罰を下して世界を壊す事にばかり頭を向けた…元皇帝…
皇帝を貫き、世界を解放し、無理矢理独立を強制した現『ゼロ』…
彼らはこれから変わる為に血を流し続ける世界を見つめ続ける義務と責任を負う。
それは…自分達が考えた自らへの『罰』はただの自己満足に過ぎないと思える程、無力感と後悔を重ねる事となる…
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あれから…数十年と云う月日が経った。
彼らを直接知る人は…みんな…自然の摂理に従って…この世から去って行った…
流石に…覚悟をしていたし…『ゼロ・レクイエム』の後は個人的に誰かと接していたのは…死ねまで『ゼロ』の後見をしていた、ジェレミアとアーニャだけだ。
直接…接する事が出来ないにしても…自分の事を知っていると云う事実を持っていると云う事は相当精神的に安定させるものなのだと実感する。
気分的には
『自分達たけが…取り残されている…』
そんな感じだった。
それなりの時間を生きて、様々な経験を重ねてきたが…
二人の中に溢れたのは未知なる不安…だった。
それに気付いてから暫く…二人は何かを求めるかのように…
互いを貪った。
多分…あったのは経験した事のない『恐怖』と、互いしかいなくなったと云う『喪失感』…
もし、普通の人間だったら…たった一回の交わりで、黒い髪の『ゼロ』は、命を落としていた…もう一人の『ゼロ』からのソレだった…
実際に…『ゼロ・レクイエム』の後、一度も発動させる事のなかった『コード』が何度も発動した。
実際に『抱き殺して』いた訳だが…
やがて、二人が正気に戻った時…
二人は黙って涙を流していた。
忘れた筈のもの…
でも…どこかで…覚えていた…
その時…
二人は気付いた…
自分達の中にまだ『人としての喜怒哀楽』がある事を…
皮肉と云うべきか…
それが人間だった証拠だと云うべきか…
暫く何も出来なかったがやがて、二人は立ち上がり、前を向いた。
自分達が決めた事…
それに…一人じゃない…
心が通じ合っている…目の前の存在がいる。
その事に気がついて…互いを見つめ合い…
強い抱擁と口づけを交わし合う…
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あの…『ゼロ・レクイエム』は、この世界で『伝説』と云うカテゴリーに入っている。
『コード』を継承してから知った事…
『コード』の継承者は…継承前に関わった人間の魂を見分ける事が出来る。
誰が説明してくれたわけでも、何かの記録があった訳でもない…
ただ…自分の中の『コード』がそう…訴えている。
そして…それは…真実であると…自分の中の何かが教えている。
これまで…流石に全く人と関わらずに生きる事は不可能だ。
それゆえに、彼らの知る魂の生まれ変わりと何度となく出会ってきた。
当然だが、解るのは自分達だけだ。
生まれ変わった魂は彼らに気づく事はない。
それでも、二人は気付く。
生まれ変わった魂が幸せであればいい…
でも、やはり、全ての願いが聞き届けられる訳ではない。
否、寧ろ、そんな願いさえ、届かない事が多いのが現実だ。
それでも、彼らは見守る事しか出来ない。
『コード』は魔の呪いであると同時に『神の能力』になりうる能力だ。
普通に生きる魂に触れてはならないのだ。
一時の感情で触れたりすれば…その魂は…
彼らはその経験者でもあるのだ…
解っている…
それでも、二人は一度…禁忌を犯した。
自分達がよく知る魂が今にも消え入りそうな声で…泣いていたから…
自分達がかつて、不幸にしてしまった…魂の一つ…
彼らは小さなその魂を腕に抱いた。
『罰は…受ける…。だから…この小さなたった一つの魂くらい…救わせてくれ…』
涙ながらの懇願だった…
その腕に抱かれた魂がふわっと笑った時…涙が溢れて…止まらなかった…
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かつて…彼らを決定的に引き裂く原因となった魂と…再会した…
あれから人間であれば…幾代もの世代交代を重ねる月日を生きてきた二人にとって…
複雑だと…云わざるを得ない…
悪魔達が…『悪魔』として歩み始める第一歩のきっかけ…
笑っていた…幸せそうに…微笑んでいた…
争いとか、憎しみとか、奪い合いとか…全く関係のない…環境の中で…
優しさに満ち溢れた笑顔を…自分達に向けた…
その魂が幸せであること自体は彼らの望んだ事…
しかし…その魂を取り巻く環境が…その笑顔をいつ…涙で汚す事になるだろう…
世界はまだ…彼女らの望んだ『優しい世界』ではない…
世界のどこかで理不尽な涙がながれ、流さなくていい血が流されている…
彼らの戦いは…まだ終わってはいない…
『優しい世界』とは
…考えれば考える程…解らない…
誰かにとっては『優しい世界』でも、他の誰かには『優しい世界』ではないかもしれない…
彼らはそんな場面を数え切れない程…見続けて来た…
そのたびに繰り返す自問自答…
『全ての者に対して『優しい世界』なんて…本当に出来るのだろうか…』
答えの出ないまま…その魂を見つめている…
何が正しくて…何が間違っているのか…
長い間生きて見守っている彼らだが…未だに答えは見つからない…
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