君の誕生日…なのに…

※『僕たちの学園生活』設定です。
ルルーシュは世界的企業の社長の息子。異母兄弟がたくさんいるが、彼に近しい異母兄弟たちはルルーシュを溺愛しています。
また、同居人のスザクに、最強な彼女なカレンもいて、ハチャメチャです。

 枢木スザク…17歳…
彼は今、非常に悩んでいた。
もうすぐ、スザクの愛するルルーシュの誕生日なのだ。
しかし、ルルーシュの誕生日当日、彼と一緒に過ごせる確率は…
彼を溺愛する、彼の血縁者たちが絶対に邪魔をしてくれる。
それに、学園に行けば、カレンと云う、学園公認のルルーシュの彼女をはじめ、そんな彼女がいても、一向に減っていかない、男女問わないルルーシュの親衛隊たち…。
そして、そんな親衛隊たちよりも遥かに手ごわいのが…生徒会…
生徒会長のミレイ=アッシュフォードに捕まったら最後…ルルーシュはその日のうちに帰して貰えるかどうかさえ怪しい…
ミレイ会長自身、ルルーシュが好きな事を知ってはいるが…それだけではなく、彼女のお祭り好きが何よりも恐ろしい。
もうすぐクリスマスなのだから…諦めてくれればいいのに…とも思うのだが…阿野会長に至っては、毎日イベント開催しても足りないのだ。
そんな人にルルーシュを奪取される訳にはいかないのだ…。
そして、普段はろくに使わない頭を必死になって使った…。
そう、ルルーシュの誕生日に何としてもルルーシュを独占するために!
幸い、ルルーシュと同居している事と、ルルーシュの妹、ナナリーにその気持ちがばれていて、ナナリーからは、
『私、スザクさんを応援していますから…』
と云う、ルルーシュが溺愛している妹からの力強い言葉を貰っているのだ。
とりあえず、誕生日当日はルルーシュは学校へは行かせない…。
ルルーシュを学校へ行かせなければ、カレンも、ルルーシュの親衛隊も、生徒会も怖くない!
ただ、学校の外でも、ルルーシュの異母兄弟やあの、親バカな父親が待ち伏せているに違いない…。
そこで、彼らには絶対に見つからないところを地図を開いてポイントを探す。
とにかく、人通りの多いところへ入って、人ごみに紛れ込めれば、かなり見つかりにくくなる筈だ…。
ならば…と、細かいところまでチェックして、二人でお祝いできそうな店を探したのだ。
そして…スザクは部活と共にアルバイトも必死にこなしたのだ。
ルルーシュと二人で、ルルーシュの誕生日を祝う為に…
そうして、目標金額がたまった時…スザクは…風邪をひいた…
普段は、ルルーシュに『体力バカ』と揶揄される程の体力の持ち主だと云うのに…
でも、まだ、誕生日前日…頑張れば…明日までに治る…
そう思いつつ、スザクは祈りつつ、布団の中で眠った。

 そして、ルルーシュの誕生日当日…
「38度3分…。スザク…病院へ行くぞ…」
「へ…平気だって…それより…ルルーシュ…僕…君の誕生日に…」
そこまで云いかけるとルルーシュが呆れたようにスザクに怒鳴りつけた。
「お前は馬鹿か!この熱…インフルエンザの可能性だってあるんだ!これに着替えて…タクシー呼ぶから…。あと、マスク…」
そう云って、ルルーシュはてきぱきとスザクの衣装ケースからスザクの衣服を取り出し、スザクのベッドまで持ってきた。
「いいか…俺の誕生日なんて、来年も再来年もある!来年はこんな風邪をひかないように気をつけろ!」
そう云って、ルルーシュはスザクの部屋を出て行き、電話をかけてタクシーを呼んでいる。
そして、冷蔵庫から、ペットボトルのドリンクを取り出して、スザクのところへ持ってきた。
「おい…少し水分を摂っておいた方がいいかもしれない…飲めるか?」
「ルルーシュが口移ししてくれるなら…」
スザクが力の入らない声でそう答えると、
「まぁ、まだ冗談を言えるだけの余力はあるなら、大丈夫だな…。一応キャップは緩めてあるから…」
そう云って、ルルーシュは自分も出かける支度を始めた。
そして、ナナリーには
「スザクがいるときは、出来るだけ廊下には出るなよ?もしインフルエンザだったら大変だから…」
と告げた。
ナナリーもスザクの事が心配らしいのだが、今のナナリーでは何もできない。
しかし、心の中では、
―――スザクさん、せっかくのチャンスですから…少し元気が出たら、頑張ってくださいね!
などと考えている、よく勘の働く妹を発揮していた。
ナナリーはどこでそんな事を覚えてきたのかは知らないが、どうも、このテの話が好きらしい…。
と云うか、実の兄とその親友をくっつけようとしているように見えるのは…
確かに、女性と間違えそうなほど美しい兄に、それを守るようにいつも一緒にいる…しかも、体を鍛えていて、頼りになる兄の親友…
妄想の世界に憧れる年ごろの女の子には、美味しいシチュエーションと言えるのだが…

 どうやらタクシーが到着したようで、ルルーシュがスザクに肩を貸して、玄関を出て行く。
やはり、高熱が出ていて、歩くのは辛いらしい。
「ごめん…ルルーシュ…」
スザクが力なく謝る。
ルルーシュが何を謝っているんだ?と云う顔でこう返した。
「スザクが謝ることじゃないし…。それに、今年はインフルエンザの流行が早いって言っていたな…。お前、どうせ、予防接種を受けていないんだろう?」
「…うん…」
スザクが申し訳なさそうに頷いた。
ルルーシュはやれやれと言った顔でスザクにこう云ってやる。
「来年は、一緒に予防接種を受けに行こう…。ブリタニアグループの関連病院でなら、俺やナナリーの名前で受けさせて貰えるから…」
ルルーシュの言葉にスザクは
「いっしょに…?」
と、舌足らずな口調で返してきた。
大分身体が辛いのかも知れないとルルーシュは考える。
タクシーまで辿りついて、スザクを先に後部座席に乗せて、シートベルトを締めてやる。
そして、行き先を告げる。
「アッシュフォード病院へ…インフルエンザの可能性があるんです。急いで頂けますか?」
そう云うと、運転手も心配そうに頷いて車を走らせた。
外は、かなり寒く、そして、風邪やインフルエンザが流行り始めている事もあり、見かける人たちは殆どがマスクをしている。
出勤時間と云う事もあり、道はかなり混雑している。
スザクがせき込み始めていた。
「スザク!」
運転手の方も、こう云った患者を運ぶ事が増えてきたのか、心配そうにルルーシュ達の方に目をやった。
「お客さん…裏道を行きましょうか?少々遠まわりですが…時間的には短いと思いますよ…」
その言葉にルルーシュは
「お願いします…。出来るだけ早く…」
ルルーシュのスザクに対する心配の仕方が半端ではないので、運転手も気になったらしい。
『遠回りになるが』と云うことわりまで入れている。
やはり、動かした事で、少し、負担がかかってしまったようだ。
普段、病気をする事のないスザクなので、ちょっと、具合悪くても、辛いだろう。
ルルーシュは、何でこんな事になるまで気づいてやれなかったのかと…後悔に似た感情も芽生えてくるが…今はそんな事は言ってはいられない。
それに、今、そんな事を考えたところで、スザクの具合がよくなる訳じゃないのだ。
ルルーシュの方に寄り掛かって来るスザクの身体を支えてやる。
上着越しでも、発熱しているのがよく解る。
そして、熱発の為、寒気を感じているのか、がたがたと震えている。

「スザク…寒いのか?」
 ルルーシュが尋ねると、スザクは素直にこくんと頷いた。
「運転手さん、もう少し、車内の温度をあげて貰えますか?」
まだ、15分はかかるだろう距離の場所だ。
ルルーシュは運転手にそう頼むと、運転手は車内温度を上げるスイッチを押してくれた。
「スザク…もう少しで病院だからな…」
そして、ルルーシュの心配と二人を乗せたタクシーが病院に着いた。
料金を払い、ルルーシュは病院の車いすを取りに行った。
このままではスザクは歩くのは辛いだろうと云う配慮からだ。
「スザク…車いすに移るぞ…」
そう云って、スザクに肩を貸して、動かそうとすると、非力なルルーシュを見かねて、運転手が手伝ってくれた。
「すみません…ありがとうございます…」
ルルーシュが運転手に壮麗を云いながら頭を下げた。
「いえいえ…早く、お友達を病院の中へ…」
そうニッコリ笑って、見送ってくれた。
その運転手の見送りを受けつつ、ルルーシュはスザクの乗った車いすを押していく。
病院の中は、インフルエンザや風の患者でいっぱいだ。
受付に行き、出かける前に電話をしておいてよかったと思う。
そうして、受付を済ませると、内科の待ちあいに行く…。
やはりというべきか、マスクをした老若男女がずらっと並んでいる。
「時間…かかるかもしれないな…」
ルルーシュが一言呟いた。
スザクの方を見ると、さらに熱が上がったらしく、本当に辛そうな表情をしている。
「スザク…車いすじゃ、辛いか?必要なら…待っている時間、横になれるようにして貰うか?」
「い…いいよ…。ほかに…かんじゃ…さん…いるし…」
無理しているのがよく解る。
「なら、何か飲むか?さっき、俺が持って行った、スポーツドリンク、全然飲んでいなかったから…。一応持ってきているが…」
「あり…が…と…。少し…もらう…」
ルルーシュはペットボトルを開けてストローをさしてスザクの口元へ持って行ってやる。
ルルーシュの心配そうな顔を見ながら、スザクは自分自身が情けなくなった。
せめて…ルルーシュの誕生日が終わってからにしてくれればいいのに…と…。
おまけに、ルルーシュをこんなインフルエンザ患者でいっぱいのところに付き添わせてしまった。
スザクは体力バカだからいいが、ルルーシュはそうもいかない…とスザクは思っていた。
しかし、実際に風邪をひいてしまったのはスザクなので、どうしようもない…。
でも、そんな中でも、不謹慎だとは思うのだが…
こうして、ルルーシュの誕生日に…ルルーシュを独り占めできた…と云う部分では喜んでいた。

 やっと呼ばれた診察室…。
結果はインフルエンザ…。
「とりあえず、看病した後は、看病した人がしっかりうがい、手洗いして、あと、彼の使ったものに関してはしっかり消毒するなり、捨てたものに関しては、袋などできっちりと別々で回収して、飛沫感染に気をつけてください。脱水症状も見られますから、処置室で点滴を打って行ってください。あとは…」
医師の話など、基本的にはスザクには聞こえておらず、ルルーシュが全て聞いていた。
そして、薬が処方されるとの事で、ルルーシュはスザクを処置室へ連れて行った後、受付の方で会計と近所の薬局への処方箋のファックスを済ませて、スザクのいる処置室へ向かった。
ルルーシュが戻ると、スザクは点滴を打ちながら眠っていた。
袖をまくられて、見えているスザクの腕は…ルルーシュのそれとは比べ物にならない程筋肉がある。
ルルーシュ自身、運動が苦手だし、はっきり言って、17歳の平均的な男子よりも体の線が細いのは…解っていたが…。
「顔だけ見ていると…ホント、ガキだよな…」
ルルーシュはそんな風に呟いた。
そして、それから、スザクの点滴が終わるまで付き添っていた。
点滴が終わると、スザクを起こす。
「少しは、体、楽になったか?」
「まぁ…さっきよりは…。でも、頭、くらくらするし、身体の節々も痛い…」
子供みたいな口調だが、さっきのようにろれつが回っていないような状態ではない。
「さ、帰ろう…。車いすに移るぞ…」
そう云って、スザクに上着を着せて、肩を貸して、車いすに移動させた。
そして、車いすを押しながら、近くのナースに礼を言って、病院の外へ行き、タクシーに乗り込んだ。
「ごめん…ルルーシュ…。本当は…誕生日のお祝い…したかったのに…」
スザクが申し訳なさそうにルルーシュに云う。
「何を言っているんだ…。俺の誕生日は来年もあるだろ?さっきも言ったのに…」
クスッと笑いながらルルーシュはスザクに云った。
途中、先ほど処方箋をファックスした薬局によって、薬を受け取り、ルルーシュの自宅マンションに帰っていくと…
「スザク!あんた、インフルエンザになった挙句にルルーシュに看病させているんですって!?」
「スザクくん?私のルルーシュにインフルエンザを移したらどう責任を取るつもりだったのかな?」
「わしのルルーシュに…貴様!何をしておる!」
仮にも病人に対しての態度ではない、ルルーシュを溺愛しているキャラクターの面々たち…
「カレン、父さん、シュナイゼル異母兄さん!今日は帰って下さい!スザクは病人なんです!」
ルルーシュの絶対零度の視線に、そこにいた全員が凍りつき…すごすごと帰って行った。
「やれやれ…」
そうして、スザクを部屋へ連れて行き、着替えさせて、寝かせた。
「僕…治ったら、みんなから袋叩きだね…」
あんまりシャレにならない一言である。
それでも、今の幸せを噛み締めていると云った感じだ。
「くだらない事言っていないで…。携帯、枕もとに置いておくから…何かあったら、俺の携帯を鳴らせ…」
そう云って、ルルーシュは部屋を出て行った。
「ルルーシュ…ごめん…ありがとう…それと…Happy Birthday…」
ルルーシュの後ろ姿に…そう呟いた。



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