こんな…誕生日…

※今回の設定は『騎士皇子シリーズ』です。
ルルーシュが皇子で、スザクがルルーシュの専属騎士です。

 今年も、秋があっさりと過ぎ去り、冬の入り口にさしかかって来る。
その季節の変わり目を感じると…枢木卿はある事を意識するようになる。
枢木卿の主である、ルルーシュ皇子の誕生日…。
去年は、ルルーシュ皇子の異母兄弟たちがアリエスの離宮に集まってきて、ルルーシュ皇子の妹、ナナリー皇女、二人の母君と一緒にバースデーパーティを開いた。
今年は…何だか解らないが、ルルーシュ皇子の異母兄弟たちは、公務が重なり、当日にはお祝いが出来ないという…。
だから、ルルーシュ皇子の誕生日の2日前に、集まるという。
枢木卿としては、チャンスだと思う部分も無きにしも非ず…で…。
ルルーシュ皇子の騎士となってから…ルルーシュ皇子と一緒にいる事が楽しくて、嬉しくて仕方がない状況であったり、なかったり…
ここ最近では、ルルーシュ皇子が異母妹君であるユーフェミア皇女と仲良く話しているところを見ると、何だか、嫌な気持ちになるのだ。
これが…枢木卿のルルーシュ皇子に対する独占欲であると…今はまだ、本人は気づいていないのだが…
ルルーシュ皇子の妹君、ナナリー皇女は、女の子故か、自分の兄君とその騎士のなんだか、じれったい関係に最近では、少々イライラする事もある…。
ナナリー皇女は、流石に自分の兄君の事なので、
―――あのお兄様では仕方ありませんね…
と、思いながら、枢木卿に対しては…
―――あの、超鈍感さんのお兄様の騎士をやるなら、もうちょっとしっかりして頂かないと…。いえ、これからは、私があのお二人を何とかしなくては…
などと、妙な考えを持ち始めており、ナナリー皇女自身はルルーシュの誕生日には特に予定はなかったのだが、同じく、まだ、公務を引き受ける立場ではない、異母姉、ユーフェミア皇女と一策を講じたのだ。
つまり、ルルーシュ皇子の誕生日には、母君をアリエスの離宮から…と云うか、アリエスの離宮に詰めている給仕係や執事たちに迄、
『お兄様のお誕生日にはアリエスの離宮には立ち入り禁止』
と云う事にしてしまったのだ。
勿論、ルルーシュ皇子と枢木卿には内緒で…
そんな事とはつゆ知らず、ルルーシュ皇子も、枢木卿も、12月5日にはアリエスの離宮に二人っきりにさせられた。
その状況を見て、ナナリー皇女の態度を見て、大体の事を把握した枢木卿ではあったが、ルルーシュ皇子は、なんでこうなったのかがよく解らない状態にいた。
おまけに…急に寒くなった事も手伝って、ルルーシュ皇子はその日に限って風邪をひいてしまったのだ…。

 枢木卿は二人きりにされてしまったアリエスの離宮のルルーシュ皇子の部屋で熱を出しているルルーシュ皇子の傍らで、看病していた。
「殿下…お加減は…?」
相変わらず、枢木卿はルルーシュ皇子が二人きりの時にそう云った態度をとると無視する事を解っていて、最初だけは…と、毎度毎度の儀式の様になってしまった様に、『殿下』と呼んだ。
しかし、今日はルルーシュ皇子も熱を出していて、周囲の事がよく解らずにいるのか…
「だ…大…丈夫…だ…」
と答える。
いつもの反応とは違うルルーシュ皇子に枢木卿も焦ってしまう。
恐らく、余程具合が悪いのだろう…
枢木卿が流石にこのままにしておいてはまずいと思い、立ち上がろうとすると、ルルーシュ皇子が枢木卿の上着の裾を握っていた。
「ス…ザク…どこへ…行く…」
力なくルルーシュ皇子が枢木卿に尋ねている。
「医師を呼んできます…このままでは…」
相変わらず騎士の態度でルルーシュ皇子に接してしまった枢木卿にルルーシュ皇子が弱々しい目つきで枢木卿を睨んでいる。
「なんで…そんな…けい…ご…使っている…」
熱で相当辛いのか、いつもなら、力強い叱責をするのに、今はとぎれとぎれに言葉を放っている状態だ。
「自分は…殿下の…」
「ルルーシュだ!」
枢木卿が言いかけた時、力の入っていない声ではあったが、きっぱりとルルーシュ皇子が言い切った。
先ほどは、本当に頭がぼやけていただけだったらしい。
しかし、逆に云えば、そんな事も気づかないないほど弱っているという事でもある。
「ルルーシュ…お医者さんを呼んでくるから…待ってて…」
枢木卿がいつものようにルルーシュ皇子に話す。
しかし、ルルーシュ皇子はさっきから枢木卿の上着の裾を放そうとしない。
「いらない…僕の傍から…離れるな…」
声に力の入らない状態で、ルルーシュ皇子が枢木卿に命じている。
このままにしておいてもいいとは思えないが…でも…
「解ったよ…。ルルーシュ…」
そう云って、ルルーシュ皇子が横になっているベッドの傍らのいすに腰掛ける。
ルルーシュ皇子のベッドは皇族だけあって、とても広く大きなものなのだが…
枢木卿の傍にいたいからと…ルルーシュ皇子はベッドの隅っこで寝ているのだ。

 そんなルルーシュ皇子を見て、枢木卿はほっと溜息をつく。
「ねぇ、ルルーシュ、俺は傍にいるから…こんな隅っこで寝ていないで…」
そう云って、ルルーシュ皇子の身体をベッドの中央に動かそうとすると、ルルーシュ皇子が首を振って嫌がった。
「いやだ…スザクの傍が…いい…」
まるで子供の様な言い分だが…それでも、アリエスの離宮には今は、ルルーシュ皇子と枢木卿の二人だけ…
流石に心細いのかも知れない。
「ルルーシュ…俺はここにいる…。だから…少し眠って?」
枢木卿がそう云うと、ルルーシュ皇子が目を潤ませて枢木卿を見ている。
「眠っている間に…どこにも行かない?」
普段は、シュナイゼル皇子の片腕とも言われる程の働きをしているのに…やっぱり、普段はとても無理をしているのだと、枢木卿は思う。
そんなルルーシュ皇子に、枢木卿が優しく微笑んだ。
「ああ…行かないよ…。だから…安心して…。心配なら…俺の手を握っていればいい…」
そう云って、枢木卿はベッドのふちに腰かけて、右手を差し出した。
そうして、ルルーシュ皇子の左手をぎゅっと握ってやる。
まるで子供のようになっているルルーシュ皇子に優しくそう云ってやると、やっと、ルルーシュ皇子は安心したのか、安心したように眠り始めた。
そんなルルーシュ皇子の寝顔を見ながら…枢木卿は複雑な表情を隠せなかった。
本当なら、枢木卿と同じ年…。
日本にいれば、まだまだ普通に高校生をしている年頃だ。
それが…こんな大帝国の中枢の一角を担うなどと云う…重い荷を背負わされていて…。
今のルルーシュ皇子は、確かに熱を出しているものの、年相応の寝顔で眠っている。
いつも…公務をこなす時には…とても枢木卿と同じ年には思えないような表情をしているのに…。
ルルーシュ皇子は確かに頭もよくて、これまで周囲の大人たちが舌を巻くほどの働きをしている。
しかし、ルルーシュ皇子がいくら有能であったとしても、ルルーシュ皇子はまだ17歳なのだ。 ルルーシュ皇子の異母姉君であるコーネリア皇女に言ったら、きっと、きつく叱責されるだろうが…。
『庶民には庶民としての務め、貴族には貴族としての務め、皇族には皇族としての務めがある!皇族がその務めを果たさずして何とする!』
と…。
しかし、確かにその通りだと、理屈では解っていても、若いのに有能過ぎたルルーシュ皇子の事が心配になってしまうのだ。

 枢木卿はあれから数時間…ルルーシュ皇子が再び目を覚ますまで、ルルーシュ皇子との約束通り、そこにいた。
「ん…」
少しだけ、顔色が落ち着いてきている。
枢木卿がほっとして、ルルーシュ皇子に声をかけた。
「ルルーシュ…大丈夫か?」
「スザク…ずっと…こうしていてくれたのか?」
ルルーシュ皇子は枢木卿がぞっと傍にいたと解った。
枢木卿の握っていた手の部分だけ…枢木卿と同じ温度になっていたから…
「約束…しただろう?」
ルルーシュ皇子は枢木卿の『約束』と云う言葉に目を丸くした。
他の者なら、『約束』と云う言葉ではなく、『ご命令』と云う言葉を使っただろうから…
ルルーシュ皇子が枢木卿の手を放すように促すと、枢木卿はベッドから降りた。
「何か…飲むかい?大分、汗をかいているから、水分を摂った方がいいんだけど…それに、体が楽になっているなら、着替えもした方がいい…」
そう云って、枢木卿はルルーシュ皇子の世話を焼き始めた。
先ほどよりは熱が下がっていて…頭もはっきりしているようだ。
ただ、高熱を出していたおかげで、相当関節が痛んでいるようだが…
「身体の…節々が…痛い…」
「相当熱出していたからな…熱が下がれば楽になるよ…。まだ、微熱あるみたいだけど…さっきよりは楽になった?」
枢木卿がルルーシュ皇子の着替えと身体を拭く為のタオルを準備している。
枢木卿の言葉にルルーシュ皇子はこくんと頷いて見せると、枢木卿は安心したように微笑んだ。
「じゃあ、身体を拭いて、着替えよう…。その後、何か、飲み物を持ってくるから…と云うか、何か食べられそうなものはない?」
そう云いながら、ルルーシュ皇子の身体をゆっくり起こしてやる。
そうして、ルルーシュ皇子がパジャマを脱いでいくと枢木卿はタオルを渡した。
そして、ルルーシュ皇子の方を見ると、何となくいたたまれなくなって…
「ルルーシュ…俺、何か飲み物取って来るから…着替えていて…」
そう云って、ルルーシュ皇子の返事も聞かずにルルーシュ皇子の部屋を出た。
そして、ドアの外で…
「危ないなぁ…。なんで今、アリエスの離宮…俺とルルーシュだけなんだよ…」
そう呟きながら口を押さえて真っ赤になっている。
そうして、二度三度と深呼吸して、離宮内の廊下を歩いて行って、厨房へと向かった。
厨房へ着くと…ルルーシュ皇子が風邪を引いている事を知ったこの計画の首謀者の誰かが準備をしたと思われる、プリンなどが用意されていた。
枢木卿はそれらを見て、複雑な気分になるのだが…
「今回はありがたく頂戴いたします…」
そう呟いて、トレイに、いくつか準備されたプリンやら飲み物やらを乗せてルルーシュ皇子の部屋へ向かった。

 そして、ルルーシュ皇子の部屋に入ると、ルルーシュ皇子はすっかり着替え終わっていた。
その様子に枢木卿はほっとした。
あのまま、あの着替えのシーンを見ていたら…と思うと、『自分は騎士失格なのかもしれない…』と真剣に悩んでしまう。
枢木卿は持ってきたトレイをサイドテーブルに置いた。
「ルルーシュ…プリンなら食べられる?」
そう尋ねると、ルルーシュ皇子は少しだけ嬉しそうに頷いて見せた。
プリンはルルーシュ皇子の好物である。
そして、トレイの上のプリンを一つ、スプーンと一緒に渡そうとしたが…ルルーシュ皇子の手は、まだちゃんと力が入らないようで、カタカタ震えている。
枢木卿はそのプリンとスプーンを自分の手にとって、ひと匙救いあげる。
「ルルーシュ…口を開けて…」
枢木卿のその行動にルルーシュは驚いた顔をするが…でも、さっきの様子では自分で食べるのもしんどいのは解る。
だから…素直に口を開けた。
冷たくて甘い感覚に…ルルーシュ皇子がほっとしたような表情を見せる。
これを食べる事が出来れば、少しは体力がつくし、食欲が出てくれば回復してくる。
「はい、もう一口…」
そう云って、枢木卿は再びスプーンにプリンを乗せて、ルルーシュ皇子に食べさせる。 本当は、今日はルルーシュ皇子の誕生日で…妹君のナナリー皇女が気を利かせてくれたと云うのに…
まぁ、ルルーシュ皇子が風邪をひいてしまったのでは仕方ないのだけれど…。
でも、こんな風に、素直なルルーシュ皇子を見ているのも悪くないな…とも思うし、こんな日に風邪をひいたと云うのは…普段、ほとんど休む事もなく公務を続けているルルーシュ皇子への最高のプレゼントなのかも知れないと思った。
本当は…枢木卿自身、ルルーシュ皇子にいろいろしてあげたい事とか、あった筈だったのに…
それでも、あんな風にぐっすり眠ってくれていた事は悪い事じゃない…そんな風に思える。 最後の一口を食べさせた時…枢木卿は、今日一日…ずっと云えなかった言葉を口にした。
「ルルーシュ…誕生日、おめでとう…」
枢木卿はそう云いながら、小さな包みを渡した。
ルルーシュ皇子はその言葉と枢木卿に手渡された堤に驚いた表情を見せる。
「風邪引いちゃって…ちゃんとお祝いできなくてごめん…。俺が、もっとちゃんとルルーシュの事を見ていれば…こんな事にはならなかったのにな…」
そう云って、ルルーシュ皇子を見ると、ルルーシュ皇子はフルフルと首を横に振っている。
「そんな事…ない…。スザク…ありがとう…僕の誕生日…傍にいてくれて…」
まだ頭がふらついている状態だが…ルルーシュ皇子ははっきりとそう枢木卿に云った。
「来年の誕生日には…ちゃんとお祝いしような…」
そう云って、枢木卿は右手の小指を立ててルルーシュ皇子に差し出した。



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