※設定は、『幼馴染シリーズ』です。
ルルーシュは女体化しており、ナナリーは身体の弱いルルーシュの妹です。
スザクはルルーシュの幼馴染で、この話の段階ではまだ、ルルーシュの母親はランペルージとの再婚はしていません。
12月に入って間もなく…ルルーシュは誕生した。
12月と云うのは、大人の世界では1年の内で最も忙しい時期と云う事で…ルルーシュ自身、あまり自分の誕生日が特別なものであると云う自覚はない。
ただ…妹のナナリーの誕生日には…母が忙しくて、家にいなくても、子供なりに出来る事で祝ってはいたが…。
それに、幼馴染のスザクの誕生日の時には、スザクの母にお呼ばれしてスザクの家族と一緒にスザクの誕生日を祝っていた。
確かに子供心に寂しい思いがなかったとは言わないが…いつも、聞きわけが良いルルーシュは『自分の誕生日が12月だから仕方ない…』と自分に言い聞かせいている内に、自分の誕生日に頓着しなくなっていた。
しかし、ある時、ルルーシュのそんな状況を変える出来事が起きた。
幼馴染のスザクがいきなり、その日にルルーシュとナナリーを迎えにきた。
「俺んちで母さんが、ルルーシュの誕生日会をやろうって言ってるんだ…」
スザクのその一言にルルーシュは目を丸くした。
実の母でさえ、忙しくて、しかも、クリスマスにも近いし、年末年始とは色々と物入りとなって忙しい。
だから、ルルーシュはいつも、
『クリスマスと一緒でいい…』
と言っていた。
実際にその方が母も助かるだろうし、誕生日なんて、自分がこの世に生まれたと云うだけで、普段とは変わらない日だ。
それに、実際にはうるう年などがあって、実際には、365×年齢+うるう年の数の日数生きている計算になる。
つまり、実際には毎年来る筈のその日が正確な誕生日じゃない…ルルーシュはそんな事を考えていた。
ルルーシュの考え方はともかく、ルルーシュは自分の誕生日に対して、非常にクールだった。
学校のクラスの誕生日会だって、12月の場合は、クリスマス会と一緒になり、結局プレゼントはクリスマスと一緒…と云う事も多くあったし、いちいち期待して絶望するより、最初から諦めていた方が気が楽だったからだ。
それに、忙しい時期にそんな事で周囲の手を煩わせるのも申し訳ないと考えるような、子供らしくない子供だった。
しかし…10歳の誕生日の日…突然スザクがルルーシュとナナリーを迎えに来た。
この頃にはルルーシュは、子供なりに家の事をしていた。
そして、スザクがルルーシュを迎えに来たのは、ルルーシュが夕食の準備を始めようとしていた頃だった。
「おい!ルルーシュ…今から俺んちに行くぞ!」
「はぁ?私はこれから、夕食の準備をするんだ…。いきなり何なんだ?」
いきなりのスザクの言葉にルルーシュは驚いて聞き返す。
しかしスザクはそんなルルーシュの言葉を聞いていないかのように、ルルーシュの手を引っ張った。
「いいから…ナナリーと一緒に俺んちに来ればいい…」
そう云って、スザクがナナリーの方を見た。
「私も…?」
「ああ…。夕飯は俺んちで食えばいいじゃん…だから…早く…」
ルルーシュとナナリーは顔を見合わせるが…ナナリーが何かに気がついたようで、スザクの方を見た。
「スザクさん…もしかして…」
「ああ…。だから、母さんが二人を呼んで来いって…」
ナナリーとスザクには解る話らしいが、ルルーシュには突然のスザクの母親の招待が何なのか、さっぱり解らなかった。
ルルーシュが一人、不機嫌そうな顔をしていると…
「お姉さま…一緒に行きましょう?」
ナナリーがにこにこしてルルーシュに云っている。
ルルーシュは『なんでまた、こんな突然…』と云った顔をしている。
そんな姉にナナリーはふっとため息をついた。
―――お姉さまは…本当に覚えていらっしゃらないのか…それとも…遠慮してらっしゃるのでしょうか…
ナナリーはそんな事を思う。
「スザクさん、行きます…。お姉さまも…早く…」
そう云って、スザクがルルーシュの右手をナナリーが左手を引っ張った。
「お…おい…二人とも引っ張るな!」
まだ、訳が解らないと云った表情でルルーシュは二人についていく。
そんなルルーシュを見ながら、二人は、『やれやれ…』と思ってしまうが…これまでの経緯を考えた時…ある意味仕方ないのかも知れない…。
ルルーシュはスザクの誕生日もナナリーの誕生日も忘れた事はない。
それは…周囲の環境もとりあえず、ルルーシュの誕生日の様に、自己主張したら迷惑になってしまう時期でもないから…と云う事もあった。
しかし、二人は、スザクとナナリーの誕生日が大人たちが1年で一番忙しい時期に誕生日だったとしても、彼女だけは彼らの誕生日を忘れたりしない…そんな風に思えた。
だから…今回はこんな事を考えたのかも知れない。
この事にスザクが思いついたのは、3週間ほど前だった。
ナナリーの誕生日が過ぎて、少々時間が経った頃だった。
何故か解らないが、変な事を思い出した。
―――そう云えば…ルルーシュの誕生日っていつだっけ?
と…。
これまで、ルルーシュはスザクの誕生日には必ずプレゼントを用意していた。
勿論、10歳にも満たない女の子が用意するものだから、それなりのものと云えばそれなりのものだったが…
それでも、そんなルルーシュの気持ちが嬉しかったし、スザクの誕生日の日にルルーシュやナナリーも一緒に食事をするのは楽しかった。
ナナリーの誕生日の時も、ルルーシュの母親が帰ってこなくても、ルルーシュが準備して、ナナリーのお祝いをしていた。
しかし…ルルーシュの誕生日をいつであったか…思い出す事も出来ないくらい、ルルーシュの誕生日に関しては何もしていなかった。
そこで、スザクは自分の母親に聞いてみたのだ。
『母さん、ルルーシュの誕生日っていつだか知ってる?』
スザクのそんな言葉にスザクの母親は驚いたようだが…。
それでも、息子がそんな風に幼馴染の女の子の誕生日を機にかけられるようになった事に喜びを覚えたのだ。
『ルルーシュちゃんの誕生日は…確か…12月5日…じゃなかったかしら…。12月って『師走』って言われるだけあって、忙しい時期だし、クリスマスと一緒にされちゃう子も多いみたいねぇ…』
そんな母親の言葉にスザクはなんとなく、時期の違いだけでそんな風に自分の誕生日さえも祝って貰えない不条理さを子供ながらに覚えたのだ。
ルルーシュはスザクにとって、大切な幼馴染で…自慢の幼馴染だった。
『なぁ…母さん…ルルーシュの誕生日…うちで祝ってやれないの?どうせ…ルルーシュのお母さん、今年も帰ってこれないんだろう?』
スザクがそう云うと、スザクの母親が、ニコッと笑って、頷いた。
『そうね…ルルーシュちゃん、スザクの誕生日はいつもちゃんとお祝いしてくれるものね…』
母親のそんな言葉にスザクは心を弾ませた。
スザクはルルーシュに対して、いつも、『何かをやって貰っている…』と云う意識が強かったから…
ルルーシュに、いつも、『ありがとう』と言っていても、ルルーシュに云って貰えた事など…本当に全部を思い出せる程しかない。
例えば…ナナリーが倒れた時に、ナナリーをおぶって帰った時とか…
だから…ルルーシュ自身に何かをして、『ありがとう』と言って欲しいと…何だかよく解らないが、そんな風に考えたのだ。
そして、母親がそんなスザクの提案に快く頷いてくれた事にほっとした。
それからは…ルルーシュに驚いて貰う為に、全て内緒にしていた。
だから…ナナリーにも何も言わずに事を進めていた。
まぁ、事を進めていたと言っても、スザクは自分が母親に頼んだ事をルルーシュに云わなかっただけ…なのだが…。
それでも、スザクには珍しく、普段買っていたマンガを我慢して、お小遣いからルルーシュへのプレゼントを買ったのだ。
ルルーシュは、よく本を読んでいた。
スザクのマンガと違って、字ばっかりの本を…。
スザクにはそんなルルーシュが凄く大人に見えたもので…一度聞いた事があった。
『ルルーシュはなんでそんなに字ばっかりの本を読んでいるんだ?』
そう尋ねたスザクにルルーシュはびっくりしたようにスザクを見るが、すぐにスザクの質問に答える。
『マンガは…すぐに読み終えてしまうだろう?でも…活字なら1冊を読むのに時間がかかるから、時間をつぶすにはマンガよりも活字の方がいい…』
その答えにスザクは…
『なぁ…ルルーシュ…』
またまた、スザクがルルーシュに何かを聞きたそうにしている。
ルルーシュは再びスザクの方を見ると…
『何だ?』
『カツジ…って…なんだ?』
スザクのこんな基本中の基本の質問に…ルルーシュは珍しくその場でずっこける。
確かにスザクは考える前に身体が動かすタイプではあったが…。
『活字ってのは…こうして、印刷された字の事だ…。まぁ、お前が云っていた字ばっかりの本の事だ…』
ルルーシュが答えると、スザクは感心したようにルルーシュを見つめた。
『やっぱり…ルルーシュってすっごいなぁ…』
本気で云っていた。>
そんなとき…スザクが思いついたプレゼントは…
「何か…本を買えばいいのかなぁ…」
などと考えたのだが…
一言に本と言っても…色々あり過ぎて、何だかよく解らない。
ルルーシュがいつも読んでいたのは…片手で持てるような…いわゆる、『文庫本』と呼ばれる類の本らしい…
そこで…書店の『文庫本』のコーナーに行ってみると…
その場で挫折しそうな程の数の文庫本がすらりと並んでいた。
背表紙を見ていても読めない漢字もたくさんあるし、読めても、何だかよく解らないタイトルもいっぱいで…。
中には、英語のタイトルがついてるものさえある。
そのまま…スザクは書店を後にした…。
そこで、スザクは、本当はルルーシュにばれる事を恐れて、ナナリーにも黙っていようと思ったが、背に腹は代えられないと思って、ナナリーに相談する事にした。
そのお陰で、ルルーシュが好みそうな本を買う事が出来た。
あの姉妹、とても仲が良く、ナナリー自身もルルーシュの事をよく知っているようで…スザクは心底助かったと思った。
ただ…スザクの貯めていたお小遣いでは足りなくて…そこもナナリーに協力して貰う事となったのだが…。
そして…ルルーシュの誕生日当日…。
案の定というべきか、何と云うべきか…
ルルーシュはすっかり自分の誕生日を忘れていたのか、それとも、興味もないのか…
スザクがルルーシュとナナリーを迎えに行った時には、普通に夕食の準備をしようとしていた。
今、スザクとナナリーでルルーシュの手を引っ張って、同じマンションのスザクの家の部屋へと向かっている。
玄関のインターフォンを押して…母親に玄関を開けて貰う。
そして…ルルーシュは…スザクの家のリビングを見て…呆然とした。
「あ…あの…これは…」
ルルーシュが戸惑っていると、中にいたスザクの両親と、今、ルルーシュと一緒に入ってきたスザクとナナリーがパンッとクラッカーを鳴らした。
「「「「Happy Birthday!Lelouch!」」」」
ルルーシュがその光景を呆然と見ている…。
自分の誕生日を忘れていた事もさることながら…自分の知らない間に、このような準備をされていた事への驚きと、嬉しさ…
「ごめんな…今まで…ルルーシュは俺の誕生日を忘れた事なかったのに…気づいてやれなくて…」
スザクがそうルルーシュに謝る。
「な…ん…で…」
これまで、ルルーシュは自分の誕生日に無頓着だった。
と云うよりも、こんな時期に何かをして貰う事に気が引けていた。
だから…何も言わなかったし、ずっと忘れる事にしていた…。
でも…こうして、誰かが、自分の誕生日を覚えていてくれる事が…嬉しい…
こうして、自分の誕生日を祝ってくれる事が…嬉しい…
そんな風に思うと…なんだか不思議な気分だった。
嬉しくて…幸せを感じた。
「お姉さま…いつも、して貰ってばかりで…でも…今年からは…私もお姉さまのお誕生日…お祝いさせてください…」
ナナリーが微笑みながら、プレゼントの包みを渡した。
「スザクさんと一緒に買ったんです。お姉さま…本がお好きだから…」
ナナリーの手から受け取って、スザクの方を見ると…スザクが照れくさそうに顔をそむけた。
ルルーシュは…そんな二人に…一言…
「ありがとう…」
その一言を口にした時…涙が零れてきた…
あれから…3年が経った、ルルーシュの誕生日…。
去年までは、スザクの家でお祝いをしていたのだが…今年は…そうもいかない…。
ナナリーは、流行り始めたインフルエンザにかかり、入院を余儀なくされて、今は、病院にいる。
法定伝染病である為、面会もままならないのだ。
今年は…一人で誕生日を迎えた…。
「以前に戻っただけ…」
ルルーシュは一人呟いた。
3年前に貰った、スザクとナナリーからのプレゼント…
今でも大事に持ち続けている。
嬉しかった…
『Happy Birthday』と言う言葉…
窓の外を見ると…やや季節的に早い雪が舞っている。
『Happy Birthday!Lelouch!』
ルルーシュは窓の外を見ながら…一人、呟いた…
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