ルルーシュ…君は覚えているかい?
8年前…日本とブリタニアが戦争を始める、少し前に…君は、僕にどんな宝石や高価な品物よりも、僕にとって、大切なものをくれた事…。
今の僕と君は…敵同士…。
君がゼロで、僕はブリタニア皇帝のナイトオブセブン…。
多分、どちらかが死ぬまで…戦い続ける事になるのかな…。
本当は、君となんて…否、誰とも戦いたくなんてないのに…。
もし、今日の僕の誕生日…君が何かをくれるのだとしたら…僕は…君と、素直に話せる僕と君の時間が欲しい…。
それは…今の僕たちにとっては、どんな宝を貰うよりも難しい事なのかも知れない…。
僕は…君とちゃんと話したい…。
幼い頃のように…。
って、そう云えば、あの頃も、僕ら、自分の事なんて、殆ど話した事なんてないな…。
子供の頃は、それで、相手の事が解った気でいた。
でも、実際にこうしてみると、僕はルルーシュ、君の事を何も知らない。
そして、君も何も話さない。
あの時だって、君がブリタニアの皇子として、ブリタニアでどんな目に遭っていたかを教えてくれたのは、ナナリーだった。
君は、決して、僕に弱いところを見せてはくれない…。
いつも、一人で抱え込んでしまって…。
僕も、父、枢木ゲンブを殺してから、時間が停まってしまった。
そう、父の形見の懐中時計の様に…。
一度、動き始めたかと思われた時間も、ブラックリベリオンの終結時、ユフィの死と、君がゼロであったと判明した時に停まってしまった。
ルルーシュ、君の時間も、あの時から動いていないんじゃないのかい?
僕は、君が、ゼロとして行動していると気付き始めた時、その事を自分の中で無視した。
結果が…今の状態だ…。
でも、もし、あの時、ルルーシュが僕を黒の騎士団に入るように誘ってくれた時に、ゼロがルルーシュだと解っていたら…僕はどうしたんだろう…。
最初に、ゼロから、黒の騎士団に入るように言われたのは、まだ、ユーフェミア皇女殿下と出会う前だ。
ずっと、彼女だけが僕を理解してくれているのだと思っていた。
でも、今、こうしてみると、本当の意味で、僕を理解してくれていたのは、君だったと思える。
だからこそ、式根島のゲフィオンディスターバーでランスロットを止められ、ブリタニアの基地本部から無数のミサイルが飛ん出来た時、君が僕にかけたギアスは『仲間になれ』ではなく、『生きろ』だったんだろう…。
僕が、常に、『死』と云う罰を求めていたから…。
マオとか云う、ナナリーを誘拐したあの変な男に僕が心を抉られた時、君は、僕に言ってくれた。
『そうか…お前だけの秘密じゃないんだな…。桐原…とか言ったっけ?あのお爺さん…。枢木ゲンブ日本国首相は徹底抗戦を唱えるタカ派を押さえる為に自らの死をもって諌めた…。物語は必要だからな…日本にも、ブリタニアにも…』
僕の過去の罪を知った時にも、君は…そう言ってくれた。
父を殺してからの僕は…とにかく、『死』と云う罰が欲しくて…でも、自ら死を選ぶ事も出来なくて…。
そう…僕の初めての友達…ルルーシュに、もう一度…会いたかったから…。
PPP…
執務室のブザーが鳴った。
「どうぞ…」
僕はインターフォンに向かって廊下で僕の応対を待っている政庁職員を促す。
「枢木卿…何か…お届けものですが…。アッシュフォード学園からの様です。」
「?そうか…。ありがとう…。そこのテーブルの置いておいてくれ…」
事務的なやり取りを済ませると、職員はすぐに執務室を出て行った。
僕がナンバーズである事から、僕に対していい感情を持っていないものが多いのは解っている。
名誉ブリタニア人にとっては、希望の星、ブリタニア人にとっては、同胞をも売り払って地位を得る、卑怯者、ナンバーズにとっては、ゼロを売り、同胞を売り払った売国奴…立場が変わると評価が多少なりとも違ってはくるけれど、僕に対していい感情を持つ人は多くないだろう。
まぁ、僕の場合、子供の頃からそんな感じだったし、そんな中でやっと出来た友達が…この地位を得る為に皇帝陛下に売り渡した、ゼロ…ルルーシュだった。
ルルーシュと別れた後、僕は、桐原家や皇家を転々としていたが、結局は、その生活に耐えられず、黙って、出て行った。
そう、まだ、12歳の頃だった。
しかし、ナンバーズの未成年の子供が一人で生きていけるほどブリタニア統治下の日本は甘くはなかった。
必死になって、勉強して、名誉ブリタニア人の申請をして、軍隊に入った。
もしかしたら、生きているかも知れないルルーシュに会えればそれでいい…あの時はそう考えるしかなかった。
そして…僕は、名誉ブリタニア人のブリタニア軍人として…あの、テロ現場で…ルルーシュと再会した。
僕は…嬉しかった。
本当に嬉しかった。
本当に生きていてくれた…アッシュフォード学園の制服を着ていたからちゃんと学校に通える立場で生きていてくれたんだ…。
その時の僕はもう…首相の息子でもなければ、名誉ブリタニア人として、捨て駒のように使われる立場の軍人だった。
それでも、ルルーシュ、君に会えた事が嬉しくて、でも、こんな姿の自分を見られる事が切なくて…でもそれ以上に嬉しくて…。
でも、ルルーシュは変わっていた。
いや、それを言うなら僕も同じだろうな…。
日本とブリタニアの戦争で…僕らは変わってしまった。
それでも、ルルーシュとは一番の友達でいられる…ずっとずっと、ルルーシュは僕の一番大切な友達だと…そう思っていた。
なのに…
『信じたくは…なかったよ…』
ゼロの仮面の下にあった君の顔…。
左目が血のように赤く染まっていた。
僕は、あの時、誰か、知らない人の顔を見ているような気がしていた。
ルルーシュのあの表情…僕の知らない顔だった。
僕の知っているルルーシュは…もっと、優しい目をしていた。
人を殺すなんて事…出来るような奴じゃなかった…。
僕は…結局、君に対して何も出来なかったのか…。
君と、ナナリーを守りたかったのに…。
僕がどれほど頑張ってきていても、結局君は、戦いのただなかに身を投じる事を選ばなくてはならなかった…。
ルルーシュのブリタニアでの立場は解っていた。
死んだ事になっていた事も…。
ルルーシュは…結局、そう云うところは何も変わっていなかったんだ…。
自分たちの居場所を作る為に…修羅の道を選ばざるを得なかったと云うのか…。
僕だって、確かに人の事は言えない…。
僕だって…軍隊に入った時には生きる為だった。
もう一度、君に会いたかったから…。
そして、軍隊に入って、今まで見えなかったものがたくさん見え始めて…何とか変えたい…そう願うようになった。
ルルーシュは…軍人になった僕を見て、ショックを受けていたね。
でも、僕は、君たちを守りたかったんだよ?
生きていると解ってから…僕は、特派に引き抜かれて、ランスロットで戦場を駆けた。
君たちを守りたい…そう思っていた筈なのに…。
君の誘いのまま…僕が君の黒の騎士団に入っていたら…僕は君と一緒にいられたのだろうか?
不必要な犠牲をたくさん出しながらの、君の行動には、僕はどうしても賛同出来ない。
僕は…みんなに認められる方法で世界を変えていきたいから…
。
その為にはランスロットに乗って、認めてもらえば、ブリタニア軍の中でも認めて貰える。
自分の能力を認めてもらえれば、発言力のある地位だって貰えるかも知れない。
ナイトオブラウンズは非国籍…。
ナンバーズの僕でもなれる。
僕がラウンズになれば…君たちを守れる力が手に入る。
そう思っていたのに…。
皮肉な話だとは思うけれど、守りたいと思っていた君を皇帝陛下に売って、僕は今の地位を手に入れた。
これじゃあ、僕もゼロと変わらないな…。
結果を求めて、手段に対して目を向けない…。
僕が力を手に入れれば、君を守る事が出来る。
ナナリーも、守る事が出来る。
君が慈しんだナナリーも、君自身も守れると…そう思った。
今の状況では、僕のそんな思いを伝える事は出来ない。
でも、僕は、すべてが終わった時、もしかしたら君は僕を憎むだけかも知れないけれど、きちんと君と話をするよ…。
先ほどの包み…。
片手に収まるほどの小さな包みだ。
アッシュフォード学園…差出人は…ルルーシュだ…。
包みを開けると…中には金色の懐中時計が入っていた。
しかし、この懐中時計は動いていない。
どうやら意図的に止めてあるようだ。
そして、小さなカードが入っている。
ブリタニア語で書かれた丁寧な文字…
『お前の時間が…早く動き出すように…』
そう一言書かれていた。
僕の時間はブラックリベリオン終結後、止まったままだ。
あの、形見の懐中時計の様に…。
ルルーシュはあの懐中時計の事を知っている。
僕の時間が動き始めた時、この懐中時計の針を動かし始める時…。
僕の時間は…いつ動かし始める事が出来るのか分からない。
「ルルーシュ…君は…」
ふと、懐中時計の彫刻を見た。
「!!」
あの夏の日…君がくれた僕への誕生日プレゼント…。
あの時、深夜、枢木神社に呼び出された。
呼び出したのは、ルルーシュだ。
ルルーシュは僕よりも体力がなくて、こんな時間まで起きているのは辛いだろうと思えるような時間だ。
そう、日付が変わるか、変わらないかくらいの…。
「ルルーシュ…」
「あ、スザク…」
僕はルルーシュの姿を見つけて、声をかけた。
「こんな時間に…なんだよ…」
「一緒についてきてくれ…」
そう一言言って、ルルーシュは林の中を歩きだした。
小高い山の上の神社…。
僕の勝手知ったる場所だった。
だけど、こんな時間に歩くのは初めてだ。
「ここだ…」
そういって、藪を抜け出し、小さな川の流れている川辺に来た。
周辺は草が生い茂っている。
でも、ルルーシュの視線の先には…一体いつ、こんな場所を見つけ出したのかは知らないが…蛍が無数に飛んでいた。
「あ、日付が変わったな…。誕生日、おめでとう…スザク…」
「……」
「ごめん、僕にはこんな事くらいしか出来なくて…。でも、君が、10年前の今日、この地に生まれてきてくれたんだろう?だから…僕は、もし、神様と云う存在があったなら…心から、その事を感謝したい…」
「ルルーシュ…お前…」
僕はその時…何よりも素晴らしい宝物を手に入れた気がした。
いや、実際に僕にとって、宝物なのだろう。
今でも忘れられない、僕の輝く宝物の思い出…。
今、さっき届いた懐中時計には蛍が彫刻されていた。
草むらの中を飛び交う蛍たちの彫刻…。
ルルーシュは覚えていたんだ…。
僕はルルーシュのこのプレゼントをぎゅっと握りしめる。
多分、明日になれば、また、君と闘わなくてはならない、ナイトオブセブンの僕…。
でも、今だけ…今だけは…あの夏に戻っていいかな…。
君が、僕にくれた宝物と一緒に、僕は思い出に浸りたい…。
PPP…
無粋にもまた、執務室のブザーが鳴る。
僕は涙が出そうになっていたのを必死に堪えた。
「どうぞ…」
そう答えると、そこにいたのはナナリーだった…。
「スザクさん、お誕生日、おめでとうございます。」
「ナナリー…覚えていてくれたのかい?」
「はい。きっと、このエリア11のどこかにいらっしゃるお兄様も、覚えいますよ。あの…大した物ではないのですが…受取って頂けますか?」
そう云いながら、ナナリーはボクに小さな包みを渡してくれた。
「ありがとう…ナナリー…。そうだな…ルルーシュは…きっと、覚えていてくれているよ。」
「スザクさん、お兄様の行方…まだ解りませんか?」
「……」
言葉が詰まる。
そう、ナナリーには嘘をついているのだ。
でも、ゼロの事を知らない方が、ナナリーは苦しまないだろうし、ルルーシュだってナナリーに知られたくはないだろう。
「すみません…スザクさんはいろいろとお忙しいのに…私の事ばかり…」
僕の沈黙に何か勘違いしたらしく、ナナリーが慌てて僕に謝る。
「いや、僕の方こそ済まない…力になれていなくて…」
「いえ、スザクさん、いろいろ無理をお願いしてしまってすみません。でも、私は、お兄様に…」
「わかっているよ…。一刻も早く、探し出すから…」
その一言にナナリーが安堵の表情を見せた。
僕自身はちょっと胸にチクリと刺さるものがあったが…。
「じゃあ、お仕事の邪魔をしてしまってすみません。私、戻ります。」
その一言を残して、ナナリーは出て行った。
ナナリーのくれた包みを解くと…ロケットのペンダントが入っていた。
ロケットを開くと、そこには幼い頃の僕たち3人が写っている写真がはめ込まれていた。
「ありがとう…ルルーシュ…ナナリー…」
この兄妹の小さなプレゼントに僕の心が温かくなるのを感じた。
僕は…力を手に入れて…必ず、君たちを守る…。
その為に、僕は、あの時、君から憎まれる手段さえも厭わなかったのだから…。
だから…君たちのこのプレゼントに誓う…。
僕は、絶対に君たちを守る。
たとえ、その事で、君たちに憎まれても構わない…。
僕は、君たちが安心して生きていける世界を、手に入れて見せる。
その時に…君たちにきちんと話そう…。
憎まれていたとしても、きちんと話をさせて貰う…。
だから…その時までは…
Happy Birthday to Suzaku…and Please you are Happiness with Lelouch and Nunnally...
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