prologue


 ここは私立アッシュフォード学園。いつでも、にぎやかな声がこだまする。
「ルルーシュ…また、生徒会をさぼる気?」
さっきから、甲高い声を張り上げているのは、ミレイ=アッシュフォード…この、アッシュフォード学園の理事長の孫娘で、生徒会長である。
「会長…いつも、俺ばっかりが働いてるでしょう…正直、勘弁してくださいよ…」
全力でミレイから逃げ回っている。目の前の角にスザクが立っていた。
「スザク…ちょうど良かった…助けてくれ…」
「ん?どうしたの?」
いつものように天然ボケで答える親友にいらいらしながら、追いかけられている事実を説明しようと思った時、後ろからミレイのどなり声に近い声が聞こえてくる。
「枢木スザク…ルルーシュを捕まえてくれたら、剣道部の来期の予算、5割増しにしてあげるわ…」
「な…会長、卑怯です!金でスザクを釣るなんて…」
そんな抗議をしているルルーシュにスザクはごめん…と云いながらとりあえず、はがいじめにする。
「ごめん、ルルーシュ…うちの部、予算が足りないんだよ…」
「貴様、友達を売って部の予算をアップするのか…」
「そうだ…」
ジタバタ暴れるが、もともと、腕力に自信のないルルーシュがスザクのバカ力にかなうはずもない。
「その答え、気に入った!なら、生徒会長、ミレイ=アッシュフォードが命じるわ!これからは、君は、ルルーシュの捕獲係よ!」
「イエス、ユア・マジェスティ!」
この学園では、ミレイが絶対だ。結局、スザクに引きずられるように生徒会室に連行されるルルーシュ=ランペルージ。
スザクとこの学園で女子生徒の人気を二分する、美貌と頭脳を持ち合わせている。

「で、会長、ルルーシュに何をさせるんですか?書類仕事ならいつもやっているから、ここまで嫌がることってないでしょう?」
 生徒会室に連行され、スザクがミレイに尋ねる。
「ああ、美術部に頼まれてねぇ…ルルーシュをヌードモデルで借りたいんだって…」
あっけらかんとミレイが答える。
「え?じゃあ、ルルーシュが逃げていたのって…」
「そ、それが嫌で逃げ回っていたの…」
スザクに半ば組伏せられている状態のルルーシュを見ると、物凄い目でにらんでいる。
「スぅザぁクぅ(怒)」
「ご…ごめん…知らなかったから…」
しゅんとうなだれてスザクはルルーシュを解放し、素直に謝る。
そして、ミレイに対して、いきなり、土下座をして大声で叫んだ。
「お願いです!ルルーシュを許してやってください。どうか、他の人に美術部のモデルを…」
「そうは言ってもねぇ…もう、そこで、美術部の部長さんが待ってるのよ…」
と、ミレイが指をさした方を見ると、美術部部長の皇神楽耶がにこにこして立っている。
「ミレイ会長、スザク、ありがとうございます。じゃあ、連れて行ってもいいですね?」
神楽耶がそう云うと、わらわらと男子美術部員が入ってきた。そして、男子4人でルルーシュを持ち上げ、運び出そうとする。
「さぁ、みなさん、ランペルージ君が逃げ出さないようにしてくださいね。では、失礼…」
神楽耶が言いかけた時、スザクがわなわなと拳を震わせて
「ちょぉぉぉぉっと待ったぁ…」
スザクの凄い形相に一同驚いて動きが止まる。
「ルルーシュをそんな、神楽耶…じゃなくて…美術部の慰み者になんてできない!」
そう云いながら、ルルーシュを連行しようとしている美術部員にめがけて突進する。
当然ながら、無我夢中のスザクの体当たりに勝てる人間はこのアッシュフォード学園にはいない。ルルーシュの身体がふわりと舞い上がり、ぽすっと、スザクの差し出した腕のすっぽり埋まる。
「ごめん、ルルーシュ…知らなかったとはいえ、君を部費の為に売ろうとした愚かな僕を許してくれ…」
そう云うと、ルルーシュを姫抱きしたまま、生徒会室からダッシュで逃げだす。
と云うか、慰み者って何だ?
スザク…ちゃんと言葉の意味を解って言っているのか?

「ここまでくれば…」
 流石に身長に対してアンバランスに軽いルルーシュではあるが、それでも、高校生の男子だ。
それを抱えて美術部員の追跡を振り切るのにはそれなりに体力を使うし、疲れもする。
スザクとて、人間離れしている体力を持ち合わせているが、サイボーグではない。
疲れるときは疲れる。今は、息を切らせて、体育館の壁に寄り掛かって息を整えている。
「スザク…お前があの時、見逃してくれていれば、こんな騒ぎにはならなかったんだ…。さっき、クルーミー先生とアスプルンド先生が呆れて見ていたぞ…」
「ごめん…だって、知らなかったから…」
しゅんとなって、スザクが謝る。
「それに…慰み者ってなんだ…」
ルルーシュがコメカミにいくつかの青筋を立ててスザクに尋ねる。
「だ…だって…ヌードモデルなんて…僕だって、最近、ルルーシュのオールヌードなんて見ていないのに…」 殆どギャグのような泣き顔を見せながらルルーシュに訴える。 その前に趣旨が変わってる。
ルルーシュはと云えば…
「お前なぁ…男が男のヌードを見て何が楽しいんだ…。最近、お前の帰りが遅いから俺が先に風呂に入ってるだけだろうが…」
「だって…ルルーシュって、凄く綺麗だから…。ルルーシュのお父さんがルルーシュに執着するの、解るよ…」
ぼそぼそと口ごもりながら云う。そこにスザクの耳元でルルーシュが
「お前は一体何がしたいんだ…。おまえ、その考えを改めないと、変態へ一直線だぞ!俺に変態の友達はいらない!」
と大声で叫ぶ。
スザクの耳元で、大声で怒鳴るものだから、スザクの頭の中で、キーンという、音と云うか、耳鳴りと云うか、鳴り響く。
「そんなぁ…。僕はルルーシュに…あんなこととか、こんなこととか…あまつさえ、そんなこととか…」
ルルーシュは頭が痛くなってきて、携帯電話のアドレスから選びだした番号に電話をかける。
『もしもし?ルルーシュ…大丈夫?』
「ああ、カレン、今はスザクにほぼ拉致されている状態で、一応、美術部からは逃げだせた。だけど、どうにもここから動けなくてな…」
ルルーシュが今、電話をかけている相手はカレン=シュタットフェルト…ルルーシュの恋人だ。
女ではあるが、ルルーシュよりも遥かに腕っ節は強いし、運動能力も高い。
『じゃあ、今はどこ?いつもの体育館の裏の小屋?』
「ああ、だから、悪いけど、俺とスザクのカバン、取ってきてくれないか?」
『わかった。スザクのはどうでもいいけど、ルルーシュのは持ってくわ…』
「いや、美術部に生贄に出されそうになったのを一応助けてもらったから、スザクの分も頼む…」
『仕方ないわね。ちゃんとじっとしていてね…』
それだけ話すと、電話が切れた。
「カレンに頼んだのか?」
「ああ、何か問題でも?」
「……」
スザクにとって、カレンは天敵だ。
女ではあるものの、学園内で唯一スザクと互角に運動で勝負できる生徒だ。
それに、スザクの愛するルルーシュの公認の彼女だ。
多分、誰に頼んだとしても、スザクはむっとしただろう。
しかし、ルルーシュはスザクの気持ちなど気が付きもせずに無邪気にスザクに笑いかける。
「…頭いいくせに…鈍感なやつ…」
ぼそっと口の中で呟く。
「ん?何か言ったか?」
ルルーシュ自身はスザクがふざけて言っているとしか思っていない。
幼馴染で、勝手知ったる相手だ。
スザクが女子に人気があるのも知っているし、ルルーシュにもカレンと云う恋人がいる。
「ルルーシュ、カバン…持ってきたわよ…。ついでに、そこにいる変態の分も…」
「ああ、すまない、カレン。スザク、俺、帰るから、後で、多分、ミレイ会長にこってり絞られると思うけど、頼むな…」
ひらひらと手を振ってそこから立ち上がってカレンと帰っていく。
「ル…ルルーシュぅ…」

 ルルーシュはカレンと家路を歩いている。
「すまないな、毎度毎度…」
「別に…でも、大変ね…。ルルーシュほど綺麗だと確かに、美術部がルルーシュをモデルにして絵を描きたいって云うのは解るけどね…」
「冗談じゃない!人気とか、外見でいえば、スザクの方が適任だろう…。いつも笑っているし、女はたくましい男が好きなんだろ?」
ルルーシュにルルーシュの外見が男女問わず、好まれている自覚はない。
単純に、会長が頼まれて、コマがないから自分に回ってくると思っている。
「はぁ…自覚がないと、この先、男女問わずに襲われるわよ…」
半ば呆れ顔でカレンがため息をつく。
そこへ…キキィと車のブレーキ音が聞こえた。
ルルーシュはその音に一気に顔が青ざめる。
「やぁ、ルルーシュ…久しぶりだね…。いつも、僕のマンションに遊びに来てくれって言っているのに…」
「…兄さん…お願いだから、そんな派手な車をいきなり停めて俺に話しかけないでくださいよ…」
今日は厄日だ…そんな思いで、声の主に答える。
「ルルーシュ…そんな呼び方はやめてくれ…。昔のように『シュナイゼルお兄ちゃん』と呼んでくれていいのだよ…」
「兄さん、それは、ナナリーやユフィに頼んでください…」
この、コント兄弟…一応、カレンは何度か目にしている。
ルルーシュの父親をはじめ、どうやら、ルルーシュの血縁者はどうしようもなく、ルルーシュを溺愛しているらしい。
ルルーシュの父親は世界的企業の社長を務めており、正妻の子供をはじめ、お妾さんの子供もたくさんいる。
ちなみに、ルルーシュは妾腹だ。
「昨日はクロヴィス兄さんが来て、まとわりついて行ったんですよ。たまには、カレンと静かに家に帰らせてくださいよ…」
「私はもう慣れたけどね…」
横からカレンが口をはさむ。
「ば…バカ!いらない事を云うんじゃない!」
「カレン君、君はいい子だね。きっといい奥さんになれるよ…」
「ありがとうございます。シュナイゼルさん。今日は帰ったらルルーシュは予定がないらしいですから、下校の時だけ、私にルルーシュを貸していただけませんか?」
ニッコリ笑ってシュナイゼルに頼む。
「ああ、わかった。じゃあ、ルルーシュ、君のマンションに行っているからね。」
「ちょ…ちょっと待ってください!そんな派手な車で乗り付けないで…」
言い終わる前にシュナイゼルはアクセルを踏んで去って行った。
「ふぅ…相変わらずねぇ…ルルーシュのお兄さんって…というか、家族…」
「ああ…ほかにやる事はないのか…あいつらは…」
心底うんざりした顔で独り言のように呟く。
「でも、いいじゃない…。愛されているなら…。憎まれているよりは…」
少し、カレンが切なそうにルルーシュに云う。
カレンの家は決して明るい家族とは言えない環境にあった。
カレンも妾腹で、しかも、母が病弱で入院中。
今は、父親の自宅で父親の正妻と暮らしている。
「カレン…ごめん…」
ルルーシュはそう云いながら、カレンの肩を引き寄せる。
「ううん…ルルーシュの隣にいられるし…時々、邪魔が割り込んでくるけど、それでも、今は、私だけのルルーシュだもの…」
カレンの身の上も、ルルーシュの身の上もいろいろな意味で複雑だ。
それでも、二人は惹かれあって、(半ば、カレンが強引に抑えつけているのだが)学園でも公認の仲になっている。

 ルルーシュとカレンはそのまままっすぐに家に帰る。
ルルーシュとしてはかなり気が重いのだが、カレンの今の家庭環境を考えた時、あまりひっぱりまわす訳にもいかない。
カレンをカレンの父親の自宅の前まで送ると、自分も、自宅マンションに向かう。
「ルルーシュ…」
後ろから声をかけられる。スザクだ…。
「ルルーシュ、僕を置いて帰っちゃって…ミレイ会長が…」
うぐえぐと泣くスザクがそこにいた。
「ご…ごめん、スザク…」
「ルルーシュ…それでね…会長がね…」
また、無茶な要求を出したようだ。
「明日、ルルーシュと僕のツーショットで美術部へ行けって…うぐ…えぐ…」
「な…なにぃ…スザク、何、会長に言い含められているんだ…」
多分、皇神楽耶がミレイに言い寄ったのだろう。そろそろ、美術の展覧会の時期だ。
「神楽耶が…今度は、服は着ていてもいいけど、神楽耶の考えた服で、僕とルルーシュの恰好も神楽耶が決めるって…」
嫌な予感がした。
あの、オタク部長…何を考えているのか…と、想像するだけで背筋に震えを感じた。
ちなみに、神楽耶とスザクはいとこ同士だ。
「あの、皇先輩がまともな格好したモデルを作る訳がないだろう…スザクは何で、そんな皇先輩に弱いんだよ…」
「だって…神楽耶が怒ると怖いんだもん…」
小さな子供が言い訳しているみたいだ。
スザクはこれでも、黒帯なのだ。なのに、なんであんな女が怖いのか…とは思うが、ルルーシュ自身、彼女に勝てる気がしない。
スザクの頭をぽんぽん叩きながら、
―――ま、仕方ないな…
と、一言だけスザクに言ってやる。
その直後、スザクの表情がぱぁっと花開いた。
「そんな事より、今日、お前が俺のうちに来ると、大変だぞ…シュナイゼルが来ているからな…」
「へぇ、そうなんだ…じゃあ、僕も行く…」
実は、スザクとシュナイゼルを引き合わせて困るのはスザクではなく、ルルーシュの方なのだ。
やれやれと頭を抱えながら、ルルーシュはスザクを伴って、家へ帰っていく。

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