Never give up!


 ここ何日間か、スザクの元気がない。
多分、学園内の生徒の殆どがこんなスザクを見て目を丸くしているに違いない…と思う程だ。
現在、なんだかよく解らないけれど、落ち込んでしまっている枢木スザクと云う生徒は…
とにかく、元気だし、人当たりがいいので誰からも好かれるタイプ…
そして、その運動能力から恐らく、この学園内では結構な有名人だ。
現在高等部2年なのだけれど、1年の入学当時から運動部からの勧誘がひっきりなしに来るほどだ。
どの部に入ったとしても、色んな意味で問題が生じる…と、当時の、運動部の部長たちから追い掛け回されているスザクを見て、ルルーシュが判断したのだ。
因みにルルーシュは、表向きにはスザクの親友…一般の生徒には非公開なのだけれど、(書き手の趣味と話しの都合上で)両想いのカップルだったりする。
ルルーシュは…とにかくその、男としても女としても美形の類に数えられる程の美貌の持ち主で…おまけにやたらといい頭の持ち主であり、口を開かせれば、誰も反論できない程の弁舌の才の持ち主で…
となると、文化系の部活からの勧誘が引く手数多であった。
スザクは運動能力が人外のものを持ち合わせているから、逃げ回るにしても、追いかけて来る連中を捲くことは出来た。
ルルーシュの場合、最初はその無駄にいい頭を使って逃げ回っていたのだけれど…
相手も文化系の部活で、頭を使うのが得意な連中である。
ルルーシュほど優秀な頭を持ち合わせていないにしても、段々、ルルーシュの手持ちのコマを減らして行くこととなり…
最初の内はミレイ=アッシュフォードの『生徒会に入ればいいじゃない…』との申し出を断り続けていたけれど…
結局、これだけ毎日追い掛け回されるとなると、実際に、『生徒会』の所属してしまった方が建設的であると考えたのである。
そして、まず、生徒会に所属したのはルルーシュだった。
しかし…
ルルーシュのこの考えは甘かったと云うしかなかった。
と云うのも、この生徒会長であるミレイ=アッシュフォードのお祭り好きに…
その場の思いつきだけで開かれるイベントの数々…
ブレーンとして働かされ、体力に自信がないのに、男子の数が少ないと云うことで荷物運びをさせられ…
恐らく、文化系の部活の連中に追い掛け回されていた頃と変わらないくらいに過酷な毎日であった。
特に放課後…
そんな時、枢木スザクが同じような境遇にいることを知り…
ルルーシュはスザクに声をかけたのだ。
『毎日大変そうだな…。生徒会に入れば、他の部の部長たちも手を出すことが出来なくなる。一応、かけ持ちは可能だけれど、本人にその気がないと云うことになれば、お前は生徒会所属として、こんな風に追い掛け回される生活は終わる…』
そんな風に、ちょっと荷物持ちから逃げ出したくなって、スザクに声をかけた。
それが…ルルーシュとスザクが仲良くなるきっかけとなり…
現在に至る…。
因みに、スザクの体力バカのお陰で生徒会のイベント開催の時の荷物搬入などにかかる時間が半減したと云う…。

 余談は長くなったが、そんなルルーシュとスザク…
まぁ、学園内でこの二人の仲がいいと云うことは結構有名だし、あっち方面の話しが大好きな女子などはキャアキャア云っているのだけれど…
因みに、『オタク・二次創作部』や『マンガ部』では、この二人をネタにして、同人誌を作った際…夏と冬に開かれる、オタクの為の祭典では行列が出来て、販売開始1時間でSold Out!(この時は部数が少なかったので、その次からは増刷したそうだ)と云うほどの盛況ぶりだったとか…
勿論、本人たちにはそんなことは知らされていない。
知らないところで、同人誌になっていると云うのはどうなんだろうと云うのは…二次創作作家たちにとってあまり突っ込まれたくないと云うことで…あえて、考えないことにする。
そんな中、その片割れが落ち込んでしまっているのだ。
これはこれでネタになるのだけれど、これはごく一部の人間であり、スザクが落ち込んでいると云うことは、ルルーシュも、そちらが心配になってしまう…と云う構図が出来上がる。
何故、落ち込んでいるのかは…今のところ報道部が総出で調査しているのだけれど…
それでも、中々尻尾を掴ませないらしく…
そんなことが続いていて既に1週間が経とうとしている。
ルルーシュもいい加減、スザクのことが心配になって来て…笑顔が減っていると云う話しが学園中に広まっているが…
しかし、ルルーシュは元々ツンデレ…
スザクが落ち込んでいなくても、あまり笑顔を見せると云うことはない…と云う事実は、この時は全校生徒がわざとスルーしている。
ミレイも解っていて放置する理由は…たった一つ…
『面白そうだから…』
面白ければ何でもいいと云うことで、生徒会業務が滞ることとなっても楽しい方を選ぶのだ。
尤も、この時、ミレイが溜め込んだ生徒会業務は後で全て、ルルーシュが頑張ることになるので、実際にはミレイにとっては、あまり痛くもかゆくもないと云うことだ。
ぶっちゃけ、こんな生活から抜け出したいと思っているのもルルーシュのこの上ない本音なのだと云えるのだろうが…
それにしても…
スザクの落ち込んでいる原因は何なのか…
ルルーシュはどうしても、スザクに甘いので、無意識にバカップルを演じて、生徒会メンバーたちに色々と複雑な気持ちを抱かせることとなるのだが…
現在も、自分が使っているパソコンを…スザクが自分の目に届くところに移動させて業務続行中なのだが…
一応、スザクがあからさまに落ち込んでいるので、生徒会メンバーたちも気を使って、いつも程好き放題にスザクを使うと云うことをしていないのだけれど…
それでも、ルルーシュの目から見ても、第三者から見ても、このメンバーの中で一番力の必要な仕事を一番こなしている。
―――こう云う時…あんまり体力バカだと大変だな…。でも、こうして動いていれば、多少なりと気が紛れるのだろうか…
と、今でも『云いたくなれば自分から云うさ…』と、一応気にして入るのだけれど、敢えて直接聞くと云う行為に移っていないルルーシュが思う。

 やがて、生徒会業務も終わって、帰路につく。
何となくスザクの様子が心配で、ルルーシュはスザクと早めに生徒会を後にした。
流石に、こんな状態のスザクを一人で帰すのも心配だし、ルルーシュだって、気にしているだろうし、ルルーシュを怒らせてストを起こされて困るのは、生徒会だから…と云うことで、今日はさっさと二人が帰って行くのを認めた。
因みにそれぞれがどこまで深読みしているかは知らないが、生徒会の中ではこの二人、公認のカップルである。
「会長〜〜〜、スザク君…箱の仕分け…メチャクチャになってるんですけどぉ〜〜〜」
スザクが運んで来た段ボール箱の山を見ながら、シャーリーが涙目になってミレイに訴える。
結構重たい箱をスザクに運ばせているので…これをきちんと仕分けしないで置かれてあるとなると…
―――リヴァルじゃ…あんまりアテにならないなぁ…これだけの数あると…
スザクが入るまでは出来るだけ運ぶ荷物を減らそうと云う努力をしていたのだけれど…
スザクが入ってからは
『このくらい大丈夫ですよ!』
と、明るく笑って云うものだから…
ついつい、イベントの際に色々な大道具を用意するようになってしまったのだけれど…
勿論、そんな時にはスザクがこんな風に落ち込んでしまって使いものにならないと云う想定は全くしていない。
ルルーシュには
『スザクだって病気になったり、怪我をしたりすることもあるんですから…。あんまり無茶ぶりな事を考えないで下さいね?』
などと云われていたことが…好みを持って知ることとなったわけだ。
スザクだって人間だ。
精神的に、肉体的にきついことはいくらでもあるだろう事は容易に予想出来ることなのだけれど…
その辺りは、普段の明るいスザクを見ていると…つい忘れてしまう…。
「とりあえず…なんとか私たちだけで置き換えないと…」
「ええ?これを?スザクの奴、3段重ねにして帰って行ったぞ…」
高さ80cm、縦120cm、横65cmで…
重さは約10kgはあろうかと云う箱が…ズラリと、3段重ねで、仕分けされていない状態で整列しているのだ。
「ニーナ!何かこう云ったものを運ぶ機械…ないかしら…」
流石に、物品置き場にズラリと並んでいる箱の群れを見て…ミレイがニーナに尋ねる。
「ガニメデ…動くけど…」
ここで、こうもトンチンカンな返事をするニーナの言葉に…その場にいた全員が脱力する。
「ニーナ…ガニメデ動かせるの、スザクと、かなり腕は落ちるけどルルーシュしかいないのよ?」
この場にいない二人しか動かせない代物なのに…
と云う想いがその場の空気を支配した。
「あ…そっか…」
「リヴァル!あんた、操縦しなさい!」
ミレイが強行突破しようとリヴァルに命令すると…それを全力で止めにかかったのは、ニーナだった。
「ミレイちゃん!お願い!ガニメデを壊さないで!」
泣きそうになって、ニーナがミレイに縋りつく。
元々この提案をいたのはニーナだったと云うことは完全にスルーであるが…
「仕方ない…。出来るところまでやりましょ?ここまでスザクに頼り過ぎていたところはあるし…」
カレンの一言で、大きなため息の後、のろのろとその場にいたメンバーたちが動き始めたのだ。

 帰路についている、ルルーシュとスザクだったけれど…
スザクは落ち込んだまま、声を出す事無く…
ルルーシュもどうしたらいいか解らないと云った状態で黙ったままだ。
この状態が続くのは…流石にしんどい…
「なぁ…スザク…。お前…どうしたんだ?」
本当はスザクが話すまで、黙っていようかと思ったのだけれど…
それでも、こうも沈黙と続けられてしまうのは、正直、ルルーシュとしてもかなり辛いのだ。
結局、根負けしてルルーシュが口を開いた。
スザクがこんな落ち込んでいる状態になって、そろそろ1週間が経とうとしている。
「あ…うん…ごめん…」
スザクの返事にルルーシュは『こいつ、ちゃんと俺の話しを聞いているのか?』と云う気分になるが…人間、落ち込んでいる時などこんなものだ…と、思い、ルルーシュはスザクに対して、心配していると云う表情を仮面で隠した。
暫く、沈黙が続くが…
「あの…さ…ルルーシュ…」
今度はスザクの方から声をかけて来た。
やっと何かを話す気になったらしい。
「なんだ?」
なんでもないと云う表情でルルーシュはスザクを見た。
きっと、ここまで沈黙を続けていたも自体は変わらないとやっと、判断したらしい。
1週間もこんな顔をして悩んでいて…その後一人で何とかできるような代物でもない…と云うのがルルーシュの判断だったからだ。
「僕ね…今度、従妹と…暮らすことになったんだ…」
「従妹?お前…引っ越すのか?」
流石に深読みしたルルーシュが驚いて聞き返す。
しかし、スザクは横に首を振った。
そのことだけで、一旦はルルーシュもほっとするのだけれど…
「ううん…。その従妹が、僕んちに来るんだ…。なんでも、両親は仕事の関係でアマゾンの奥地に3年ほど行かなくちゃいけないんだって…」
スザクのその一言に…
ルルーシュの中では色々と突っ込んで聞いてみたいと思うことが出て来る。
―――アマゾンって…あのアマゾンか?ネット書店のアマゾンじゃなくて?
とか、
―――一体どんな仕事をしている両親なんだ?
とか、
―――しかも、奥地とか云っているぞ…
とか…
まぁ、その先の話しを聞いてみないと解らないことだし、きっと、今ルルーシュが頭の中で考えたことは、ぶっちゃけどうでもいい事…の様に考えられるのだけれど…
「従妹…別に…従妹ならいいじゃないか…。仕事の関係で赤の他人が来るわけじゃないんだろ?」
ルルーシュがそんな風に尋ねると…
スザクの目からは滝の様な涙が流れて来た。
流石にルルーシュはそんなスザクを見てギョッとする。
「お…おい…。俺…そんなに酷いことを云ったのか?」
尋常ではないスザクの泣き方に流石のルルーシュも慌てる。
しかし…スザクはその後暫く、『違うんだ…ごめん…ルルーシュ…』と繰り返しながら小一時間ほど泣いていた。
ルルーシュとしては、何がそんなにスザクを泣かせているのだろうか…と思ってしまうが…。
従妹…別に、そんなに泣くような相手ではないだろうに…と云うのがルルーシュの認識なのだけれど…

 そして、やっと、スザクの状態が落ち着いて来たようで…
「従妹って云うのは…俺は良く知らないんだけど…。差し障りがなければ…話しくらい聞くぞ?」
「ありがと…ルルーシュ…」
ぐしぐしと涙を拭きながら、スザクがルルーシュに礼を云う。
人間、こんなに泣ける程涙があったのかと思える程、スザクは泣いていたのだ。
そして、突然、スザクの表情が変わる。
目の周り、と云うか、既に顔全体が泣いていたせいで真っ赤になっているのだけれど…
「あ…あれが従妹だなんて…僕は…僕は…」
スザクがなんだか、錯乱状態の様に話し始める。
過去の話しが主だったけれど…時折、気持ちが興奮していて、同じ話をしていることもあったけれど…
それでも、話すことで少しは気持ちが楽になると云うこともあるわけで…
だから、とりあえずスザクの気のすむまで話をさせてやろうと決めたわけなのだけれど…
要訳すると…
その従妹…幼い頃から中々のおてんば(と云ったらまたスザクは泣くかもしれない。そんなに甘いものじゃないと…。しかし、どんな表現をしたらいいか解らないのでおてんばと云うことにした)で、やたらと、スザクをおもちゃに…と云うには少々過激な事をしていたらしい…。
例えば、夏休みになるとスザクの家に来ては、ごろごろして漫画を読むかネットに書き込む生活で、部屋はすぐにぐっちゃぐちゃで『妻の生活を守るのは夫の務めでしょ!』とか云って、アイスを買いに行かせるわ、夏休みの宿題は全部スザクに押し付けるわ…
怒ると泣くし、あと蹴るし…
そのくらいで済むかと思えば…
ある年の正月…羽子板の羽を取って欲しいと頼まれ…スザクは快く引き受けて、木に昇った時…
『引っかかりましたわね!おにいさま…ほぉ〜〜〜〜ほほほ…おほほ〜〜〜…』
と云われた直後…水風船がバンバン飛んで来たとか…
中に石とか混じっていたとか…
金ダライに重りを入れて落とすとか、鉄アレイを落とすとか…
スザクを木に縛り付けてスズメバチの巣に石を投げたとか…
そこまで聞いて…ルルーシュは思わず身震いしてしまった。
―――そりゃ…そんな従妹と同居となれば…落ち込みもするし、命の危険も感じるよな…
と…
それがどのくらい以前の話なのかは解らないけれど…
「でも…昔の話しだろ?今ではもう少し大人になって落ち着いているんじゃ…」
ルルーシュが慰めのつもりで云ったのだけれど…
でも、それは全然慰めになっておらず…
「否…今では命の危険すら感じる…。僕…ルルーシュと一度もあんな事とか、こんな事とか、あまつさえそんな事もしないで、あの世に逝きたくない…」
途中…妙な言葉を聞いたような気がしたが、その辺りはスルーしてやるのが優しさと云うものだろうと、ルルーシュは判断する。
このスザクに命の危険すら感じさせるような従妹とは…一体どんな従妹なのだろうか…と、少々好奇心を持ってしまうが…命が大切ならやめておけ…と本能が云っている。
「スザク…明日、休みだし…俺のうちに、泊まりに来るか?」
涙目になっているスザクに思わずそう声をかけてしまった。
それを聞いたスザクは…
余程嬉しいのか、更にルルーシュに抱きついてわんわん泣きだしてしまった。
そんなスザクを見ていて…
―――ホントに苦労しているんだな…こいつも…
と思わずにはいられないルルーシュであった。

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