カッコ悪く、カッコよく行こう!


 ×月×日 晴天なり
今日も…アッシュフォード学園では…ある騒動でちょっとした騒ぎが起きている…
生徒会のあるクラブハウスは…今日も平和に生徒会業務をこなしているのだが…
ただ…ここには、生徒会副会長のルルーシュランペルージと風紀委員の枢木スザクの姿がない。
と云うのも…
「今日もあの二人…やってんですかぁ?」
これは、スザクが転校してくる前からのルルーシュの友人、リヴァル=カルデモンドの談。
「と云うか、いつまでルルの体力が持つのかしら…」
枢木スザクが現れるまでルルーシュに片想いをしていたのだが…枢木スザクの体力バカぶりと天然ぶりを見て、『ルルの事は好きだけど…ここでしゃしゃり出たら命が危ない…』と云う賢い判断を下し、スザクがルルーシュを諦める事を待つという選択肢を選んだシャーリー=フェネットの談。
「と云うか…良く続くわねぇ…」
すっかり呆れかえって、第三者的にしか見ていないカレン=シュタットフェルトの談。
「早いところ…鬼ごっこを終わらせて、スザクに機材運びをして貰いたいんだけど…」
最初からあまり興味を示していないニーナ=アインシュタインの談。
「あそこまでしているのに…ルルーシュがガードを張らない相手って初めて見たわ…」
生徒会長、ミレイ=アッシュフォードも流石に驚いていると思われる、彼女の談。
枢木スザク…ひと月ほど前にこの、アッシュフォード学園に転校してきた。
どうやら、現在騒ぎの渦中にあるルルーシュランペルージの幼馴染だと云うのだが…
確かに…幼馴染である事は事実らしい。
枢木スザクが転校生として紹介されて、二人は再会を喜び合っていた。
あの、クールビューティーなルルーシュが心の底からの笑顔を見せたのだ…
基本的に表情を崩さない…と云うよりも、無愛想な彼のあれ程ほころんだ顔を見るのは、ルルーシュがこよなく愛している妹、ナナリーに対しての表情を見る時以外にはない。
それこそ、普段のルルーシュとは別人のような笑顔を見せた。
その後…そのルルーシュの笑顔に悶絶した担任とクラスメイトが倒れていた。
その時のルルーシュとスザクの会話は…
『ルルーシュ…やっと見つけた…』
『本当に久しぶりだ…』
『ルルーシュ…僕は君を探しだして、僕のところに攫う為だけに生きて来たんだ…』
『そ…そうか…って…何を云っている!?攫うって…』
『言葉の通りだよ…。父さんと約束したんだ…。僕が20歳になるまでにルルーシュを攫って、あの枢木の家に連れて帰れば…僕とルルーシュの結婚を認めてくれるって…』
『なんだ…それは…。お前…何をトチ狂った事を云っている!』
『別にトチ狂ってなんていないよ…?』
『俺は男だ!日本の法律では同姓の結婚は…』
『ああ、ちょっと待ってて…(携帯電話を取り出し)あ、父さん?ルルーシュ見つけたから、法律改正よろしくね?あ、大丈夫…見つけたんだから、ちゃんと連れて帰るから…(携帯切って)これで大丈夫…。今国会中に法律変わるよ?』
そう云う問題じゃない…その時のルルーシュの素直な気持ちだった…

 で、その日以来、休み時間や放課後になるとルルーシュを追い掛け回すスザクの姿を見るようになる。
最初の内はルルーシュのファンクラブのメンバーたちが相当スザクに対して敵意を抱いていたようだが…
しかし、彼の体力バカぶり、で、嘘八百な笑顔を振りまくと云う方法で切り抜けた。
確かに、スザクの嘘八百な笑顔の洗脳にかかっている時間はそれほど長い訳ではないが…でも、その笑顔を見るたびに、その笑顔を見た者たちは全て…その真っ黒な笑顔で堕ちて行く…
ふと気付くと…目の前のスザクはいなくなっている。
そんな事を一つ肝の間続けている内に、ルルーシュのファンクラブのメンバーたちも
―――あいつに逆らうと…なんだかとんでもない事が起きる様な気がする…
と、嘘八百な笑顔を見ている内に悟るようになった。
流石…日本国の首相の息子…
人心を操る事には長けていると云う事か…(違)
で、ルルーシュは自分を取り巻いていた砦をすっかりと失って、現在では体力バカなスザクとサシで鬼ごっこをしている。
ちょっと前に、隠れると云う術を覚えたらしいが…
それも最近では通用しなくなった…
理由を聞くと…
『ああ、アッシュフォード学園の中だったら、とりあえず、匂いで解るから…』
その、スザクの一言に…アッシュフォード学園全体が引いた…
そして、そんな人間離れした奴を相手にしたら命がいくつあっても足りないと的確な判断を下し、傍観する道を選んでいる。
そんな、バケモノなスザクに対してたったひとり屈していないのは…当事者であるルルーシュランペルージ一人だった。
ナナリーは中等部で、学校の時間にはルルーシュを助けに来る事が出来ないし、ナナリーは中等部の女子寮、ルルーシュは高等部の男子寮で暮らしているので、ナナリーが高等部のクラブハウスに遊びに来ない限り、ルルーシュと顔を合わせる事もない。
ナナリーは流石にスザクの所業に眉をひそめているが…
ナナリーもスザクの幼馴染である。
スザクの事をよく理解している。
それに、兄妹では結婚できない現実も理解していた…
そんなとき、ナナリーが下した決断は…
―――お兄様の為に、立派な小姑になって差し上げます!スザクさん!覚悟して下さいね…
と云う事だった。
現在は、ナナリーも傍観者として見ている訳だが…
いずれ、どうやって、小姑として、スザクを苛める…じゃなくて、躾直すかを今から模索中なのだ。
彼がその気になって思い込んだら…止める手立てはないのだ。
そんなときは、別の方法を考える。
ナナリーからルルーシュの愛情が離れて行く事は絶対にあり得ない。
その自信があるからこそ…高みの見物を決め込めるのだろう。
しかし、それも、先の先を見越して確実にスザクを仕留める為のもの…
―――今は…せいぜいお兄様を追い掛け回すといいです…お兄様は私のお兄様ですもの…。絶対にあきらめて頂きますから…
最早…躾直すとか云うレベルの話ではなくなっている。
将来的に排除すると云う、そんなところだろう…

 しかし、スザクの周囲にはまだまだ敵がいる。
と云うのも…
「ルルーシュ…」
隠れているルルーシュに声をかけてきたのは…
「ユフィ…」
そう…ルルーシュが自分で自覚している『初恋』のお相手である。
彼女は実は、半分だけだがルルーシュと血の繋がった異母妹なのだが…
ルルーシュの事が好きで…また、肝心な時に邪魔ものが現れて正直、イライラスイッチが入っちゃっているのだが…
それでもルルーシュの前では優しい少女を演じ続けなくてはならない。
「大丈夫ですか?ルルーシュ…。まったく…体力のないルルーシュをこんなに毎日追い掛け回すなんて…」
こうして、ユーフェミアも点数稼ぎに勤しんでいる。
ナナリーと違って同じ高等部に所属している為、こうした形でルルーシュの傍で点数稼ぎを出来る。
つまり、この状況の中で、なんとしてもルルーシュのポイントを上げておかなくてはならない。
国に帰れば、ライバルはいっぱい…
だから、こっそりユーフェミアは日本に渡り、勝手にアッシュフォード学園の生徒になっているのだが…
勿論、アッシュフォード学園理事長には(半ば脅迫に近い)お願いをして、入学させてもらい、国にも口止めしている。
『よろしいですわよね?ルルーシュやナナリーが良くて、私がダメなんて事…ありませんよね?』
と…そのピンクのお姫様の雰囲気が一転する程の変わり身で脅しをかけた…じゃなくて、お願いして、現在、アッシュフォード学園の生徒をやっている。
理事長がこくこくと頷くと…すぐに『慈愛の姫』の顔に戻る。
『まぁ…有難う御座います…。このご恩は一生忘れませんわ…。お約束さえ守って頂ければ…』
さりげなく最後のひと押しでくぎを刺している辺りが策士と云うべきかなんというべきか…
―――お母様…私をあんな変態ロールそっくりに産まないで下さってありがとうございます…
などと考える今日この頃な彼女であるが…
結構傍迷惑な御一家である事は確かだ。
それに…ルルーシュ一人の為にこれほどの情熱を燃やす輩がこれほどいると云う事は…ひょっとして、ここが日本でよかったのかもしれないと思ってしまう理事長が…たまに理事長室の窓の外を憂いのある顔で見つめている事があるとか、ないとか…
まぁ、そんな話はともかく…
「ルルーシュ…こんな風に追い掛け回す枢木スザク…許せないですわ…。私が皇族権限を全力で駆使して…あの男を私の騎士に任じて、ルルーシュに近づけないように…」
ユーフェミアの目が本気だと解ると…ルルーシュは全力でユーフェミアを止めようとする。
「ちょっと待て…ユフィ…。俺は…友達がいないから…。スザクしか…友達と呼べる人がいないんだ…。だから…」
そんな風に寂しげに、申し訳なさそうに訴えられてしまうとユーフェミアとしても『萌え♪』…じゃなくて、少し切ない様な気持ちになってしまう…
「ルルーシュ…私では…私ではダメなんですか?私は…ルルーシュの事…大好きですのに…。あんな野蛮人にルルーシュを渡したら…ルルーシュは壊されちゃいます…」
ルルーシュは目の前の異母妹の発言に…目が点になる。

 もう一度、気を取り戻して、ユーフェミアを見ると、至って本気の表情だ。
「ユフィ…スザクは確かに体力バカではあるけれど…別に野蛮人では…」
ルルーシュがそこまで云ったとき、ユーフェミアの表情が変わった。
「ルルーシュ?私の言葉を聞いて…あなたは…あの野蛮人の方を持つのですか?ルルーシュ…小さい頃にお約束して下さったではありませんか…。私が高校卒業したら、私をルルーシュのお嫁さんにして下さると…」
ユーフェミアの言葉に…ルルーシュは記憶をほじくり返す。
―――そう云えば…ナナリーとどちらが俺のお嫁さんになるか云い争いをした時に…取っ組み合いのけんかになって…片やあの閃光のマリアンヌの娘、片やコーネリアの妹…それはそれは凄い喧嘩になり…
思い出して、背筋が寒くなった。
そう…何故かルルーシュは母親の運動神経は遺伝してくれなかったようだが…ナナリーにはしっかりと遺伝していたようで…
そして、ユーフェミアも今では『戦場の女神』と呼ばれるコーネリアの妹だ。
最近、国家間の戦争はないが…局地的にテロ活動が起きている。
そんな中、ユーフェミアの姉であるコーネリアは自分の親衛隊と軍を引き連れて鎮圧に行っては、大暴れして…いつ頃からか…『戦場の女神』と呼ばれるようになった。
戦いが終わって、絶対に治安が悪い筈のその場所を『私をそこらの女と一緒にするな…』の一言で護衛も着けずにふらふらと歩いて…で、襲ってきた連中を片っ端からぶちのめして、本陣にいる自分の親衛隊たちに回収させに行っていると云う…
幼いとはいえ、そんな凄い人々の血縁である妹のナナリーと異母妹のユーフェミア…
取っ組み合いのけんかになった時は…それはそれは、子供とは思えないマリアンヌなどは『まぁ…お二人とも…将来は立派な軍人さんになれますわね…』などと目を細めて云っていた。
『私…ナナリーに勝ったら、ルルーシュの専任騎士になってルルーシュのお嫁さんにして頂けるんです!ルルーシュがお約束して下さいましたの!』
ファイティングポーズをとりながら…マリアンヌにご報告する。
実際には、『慈愛の姫』の脅迫に遭っていたのだが…
しかし、マリアンヌもこう云う時がノリが良くて…
『まぁ、ユーフェミア皇女殿下がルルーシュの?光栄なことですわ…。是非とも勝って、『ヘタレ』息子をお願いしますわ…』
などと云ってのけた時、そこに異議申し立てをしたのは…ルルーシュではなく…
『お母様!あなたの娘はこの私ですよ!お兄様のお嫁さんになるのは私です!』
そんなナナリーに対してマリアンヌは…
『まぁ、ナナリーもなの?二人とも…『ダメンズウォーカー』なのかしら…』
と首をかしげて見せた。
―――こ…この宮殿の女って…怖すぎる…
ルルーシュは齢6歳にして、女の恐ろしさを知った。
そして…恐怖に涙しながら…
『ぼ…僕は…女の人よりも!男の人と一緒にいたいです!』
などと宣言してしまった…
それによって、ブリタニア宮殿の中は大騒ぎとなった…
そして、老若男女関係なく、ルルーシュを付け狙う事となった訳なのだが…

 で、時間は戻って、アッシュフォード学園…
現在、ルルーシュに女の恐ろしさを教えた女の一人、ユーフェミアがルルーシュの目の前にいる。
そして、匂いを嗅ぎつけてルルーシュの傍に近付いて来ているスザク…
完全に気配を消しているスザクに…二人とも反応が遅れた。
「ルルーシュ!捕まえた!」
ルルーシュの背後から抱きついて…ルルーシュを確保したのは枢木スザク…
そして、スザクが肩にルルーシュを担いだ。
「まぁ!枢木スザク!ルルーシュを私に返しなさい!ルルーシュのお嫁さんになるのは私なのです!」
ユーフェミアがスザクに対して怒りの視線を向けるが、この辺りはスザクはしっかりスルーしている。
ただ、ユーフェミアをけん制する為にスザクも自分の周囲半径1mくらいの範囲にシールドを張った。
「何をそんな昔の話…。ルルーシュはもう僕のものなんです!これで、僕がルルーシュを枢木家に連れて行く事が成功すれば…父は、速やかに日本国の法律を変えてくれます。男性同士の結婚が認められるのです!」
スザクの言葉に、ユーフェミアも黙ってなどいられる筈がない。
「何を云っているのです!私は既にルルーシュの母君にも認められているのです!」
「は?兄妹で結婚なんて…ナンセンスですよ!」
「自分自身の勝手な欲望の為だけに法律を変えさせようとしている輩に云われたくありませんわ!」
スザクの肩の上ではルルーシュが手足をばたばたさせて暴れているが…
スザクにしてみれば、少し大きめの猫が肩の上で暴れている…と云う程度にしか感じていないのだから、どうしようもない…
「お…俺は…男とも、妹とも結婚なんてしないぞ!」
ルルーシュが必死になって叫んでみるが…
既に自分の煩悩に走りまくっている二人にそんな声は届かない。
「何を云っているんだい?僕とルルーシュの為に法律まで変えようっていうのに…。大丈夫だよ…。法律が改正されたらちゃんと御両親に御挨拶に行くからさ…」
「改悪だろうが!」
「まぁ…ルルーシュが全力でいやがっていますわ…。枢木スザク!ルルーシュを愛しているなら、ルルーシュの為に私にルルーシュを引き渡しなさい!」
「ユーフェミア皇女殿下こそ…ルルーシュの為に本国にお戻りください!僕たちの明るい未来の為に…」
「何を云うのです!マリアンヌ様があなたなんて認める訳がありませんわ!」
「どっちも認めないぞ!誰より、俺が認めないぞ!」
「ルルーシュの意思はもうここでは関係ないよ?」
「そうですわ…。『コードギアス』の世界では『強いもの』が絶対なのです…。恨むなら、ルルーシュの非力設定を恨みなさい!」
どうやら…ルルーシュの意思は完全無視…となっている状態…
そして、二人はルルーシュの意思など完全無視で云い争いを続け、スザクの肩の上でがっちり腰を抑えつけられているルルーシュは暴れても身動きとれずに…ただ…二人のいい争いが終わるのを待つ事しか出来なかったのである…

おわる…

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