君の心に…伝えたい…


 珍しく、ジェレミアのオレンジ畑にルルーシュ、ジェレミア、アーニャ、そして、一番いない確率の高い…と云うか、ここにいる事の方が珍しいスザクが揃っていた。
「少しは…お前もここに来られるようになってきたな…」
ルルーシュがスザクにそう言葉をかける。
「まぁ…まだまだ問題は山積みっぽいけれど、これ以上『ゼロ』がしゃしゃり出ていい事じゃないし…。それに、『人』はこれ以上…『ゼロ』の存在に寄り掛かってはいけないと思う…。このままじゃ、結局、精神的に『ゼロ』に支配される事になるんだから…」
「そうだな…自由を手にしてその対価は彼らが払うべき物…だからな…」
ルルーシュが皇帝を名乗ったことで、『独裁者』の排除に目的がすり替わっていた…『黒の騎士団』や『超合衆国』の目的…
でも、実際には『独裁者』の排除は彼らの目的を果たすための手段であり、目的ではなかった筈だ。
元々、思考も価値観も…言葉さえ違えた国同士がただ、『ブリタニアの打倒』を掲げて手を組み、挙兵した。
あの時には『ゼロ』と云う柱があったから…そして、集った者たちは『ゼロ』の偉業を知っていたから…だからこそ、『ゼロ』に全面的に頼り、寄り掛かっていた事は否めなかった。
しかし、『黒の騎士団』と『超合衆国』はあくまでも契約によって結ばれていた絆…
『超合衆国』は『ブリタニアの脅威』から国を守る、『ブリタニアの支配』から国を取り戻すと云う目的の下、手を結び、『黒の騎士団』と契約をしたのだ。
それが…いつの間にか、『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』と云う、『独裁者』を倒す事が目的となっていた…
それが…一体何を意味するのか…あの中で解っていたのは恐らく…ルルーシュの異母兄である、シュナイゼル=エル=ブリタニアだけだっただろう…
だからこそ、あんな形で彼らを煽ったのだ。
ルルーシュとしては、その部分はやや計算外だったが…
しかし、その事に気づいた時に…今はスザクに『コード』を渡した魔女が…苦笑した…
『お前たちがそこまで面倒見てやる必要はない…。出した結果の責任は…出した者たちがとるものだ…。それに、そんな事も解らず、お前たちに教えて貰わねばならんような連中ならまたすぐにお前たちが忌み嫌った時代へと傾いて行くぞ…』
と…
『目的』と『手段』…
この言葉の意味と、そのポジションを考えないで進んでしまった結果…結局、ルルーシュとスザクの考えていた…そして、恐らく、ユーフェミアやナナリーの考えていた『優しい世界』が残される事はなかった。
そもそも、こうして冷静に考える時間が出来た時…彼らが思う事…
―――『優しい世界』とはなんだ…?誰にとって『優しい世界』となればいい?ナナリーを…ユーフェミアを…ただ愛し、守っていればよかった頃なら…答えは簡単だ…。しかし…今となっては…

 久しぶりに…ルルーシュの部屋にスザクがいる…
アッシュフォード学園にいた頃も…あまりなかった…
あれから10年…その間、スザクがここに訪れる事が出来たのは…ほんの僅かだ。
そして、ここにいられる時間も…僅か…だった…
様々な形で、『世界』が精神的に『ゼロ』に依存していると悟った時…ルルーシュもスザクも頭を痛めた。
本当は…彼らの望んだ世界とは…『民主主義』…
自らの頭で考え、自らの手で作り上げ、その結果はやはり、自分たちで背負うと云うもの…
成功しても、失敗しても…
つまり、責任の全てを誰かに任せるのではなく、自分たちで背負うと云う事だ…
しかし…
あの時、『黒の騎士団』にも『超合衆国』にもそれだけの事を考え、背負えるだけの人物がいたかどうかを考えた時…
おまけに、シュナイゼルも彼らに対しては、全ての責任を『ルルーシュ皇帝』もしくは『ゼロ』に押し付ける形でそそのかしたようで…最後のあの戦いでも…
―――彼らは…自分たちの持つ『罪』と背負うべき責任を自覚している者はいなかった…
恐らく、シュナイゼル自身が、彼らを捨て駒として利用する事を考えていたからそうなったのであろう。
あの、日本の代表である皇神楽耶でさえ、『神聖ブリタニア帝国』の『植民エリア』を『ルルーシュ皇帝』が解放した時、あの行動の裏には、確実に何かある…と云う思考しか働かなかった。
それはそれで『ゼロ・レクイエム』のプランの変更をしなくてすんだので、良かったと云えば良かったのだが…
しかし、良かったのはその時だけ…
結局、責任の全てを、『罪』の全てを『悪逆皇帝』と呼んだ『ルルーシュ皇帝』に押し付けた結果、現在ではあの時でさえも、『同じ目的』があったからこそ結ばれていた絆が…あっさりと切れた…
これは…ルルーシュとの戦いに勝つ事が『目的』になってしまった事によって起きた結果だ。
ただ…勝つ事だけを『目的』としてしまった場合、戦いが終わった後、確実に争いが起きるものだ。
それが、戦争に発展するか、国際摩擦で様々な不利益を被るか、国交断絶となるか…その時々によって変わってくるが…
あの時のルルーシュにとって、『ブリタニアを倒す事』は、『ナナリーを守るため』の『手段』であり、『目的』はあくまで『ナナリーを守る』事だった。
本来、彼らもそうだったはずだ…
『戦い』は『手段』であり、『目的』ではなかった筈なのに…
ただ、その『手段』がこんなんであればある程、それは、『目的』と思い込んでしまう事が多い。
大学受験に合格した後、気が抜けて5月病になるのはそのいい例だ。
『手段』と『目的』を履き違えた時…それが…世界各国のトップであった時…
世界はまた…争いの渦に巻き込まれる。
そこに、殺人兵器が介在しているか、いないかは別にして…
世界はまた…混沌の渦へと巻き込まれていく気配を…外に出る事のなくなったルルーシュにもひしひし感じるようになってきた。

 そんな事を考えているルルーシュの隣で、スザクがなんとなく複雑な表情を見せている。
確かに…あの『黒の騎士団』も『ゼロ』もナナリーの為だった…
C.C.から『コード』を継承する時に、僅かに垣間見た…
C.C.とルルーシュの…会話の記憶…
『ナナリーの為の『黒の騎士団』!ナナリーの為の『ゼロ』なんだ!』
ルルーシュは…常にその戦いが自分の求める物をその手に掴む為の手段であった事を示す…そんな言葉…
あれは…スザクがルルーシュを捕らえて…1年を超えた頃…
『ゼロ』が復活した事を世界に知らしめた後…
あの時…スザクは少し切なかった…
―――結局、ルルーシュは…ナナリーの為…。そして…僕自身も君がナナリーを守るための道具だった…と云う事…だったのかな…
『コード』を継承した後、暫く、そんな事を思う度に切なかった。
スザクにとって、確かにユーフェミアは特別な存在だった…
しかし、それ以上に…あそこまで『ゼロ』にこだわった理由…
それは恐らく…
『ゼロ』がルルーシュであったから…
多分…それが本当なのだ…
そして、今、スザクが飛びまわっている『世界』…
それは…結局、身勝手な『人』の意思によって、様々な思惑が飛び交い、中でどろどろとした物が渦巻いている。
それは…『人』が『人』であるが故の『業』とでも言うべきか…
やはり、『人』はそれぞれに違った『願い』を持つ…
ルルーシュが叶えた…世界の『願い』は…本当に大雑把なものであって…
広い意味での『願い』であって…
底から更に奥深く…『人々』はそれぞれの『願い』を持つ。
確かに…考えてみれば当たり前だ。
『人』とは、『頭脳』とは別に『感情』を持つ。
その『感情』は『人』に『願い』を抱かせる…
それは、大きなものあり、小さなものあり、物理的に見えるものであったり、目に見えないものであったり…様々だ…
そして、『人』とはその自分が抱く『願い』の為に何かを頑張る事が出来る…
その『願い』が『目的』でそれを叶えるための『過程』が『手段』であると云う事…
あの戦いの中で…どれ程の人たちがそれを承知していただろうか…
あの時の『世界』は…漠然と…『ルルーシュ皇帝』さえ『排除』すれば…それぞれの『願い』が叶うと考えていたのかもしれない…
それは、『目的』を果たすための『手段』の一つで、それを果たした後、更に彼らが施さねばならない『手段』が数多くあった…
確かに、あの時の『世界』にとって、『ルルーシュ皇帝』と云う存在は大きなものだったかもしれない。
『黒の騎士団』を率いていた『ゼロ』がいなくなり、『世界』は驚愕と共に、不安を抱える事になった。
ただ…『黒の騎士団』はそれまで敵としていたシュナイゼルと組んだ…
それも…彼らが望む者の為の『手段』であった。
恐らく、それは『黒の騎士団』も承知していただろう。
そこまでは…
ただ…『ルルーシュ皇帝』の出現と、彼に対しての敵対の意思表示により…彼らの前に、『目的』を遂げるための更なる、『手段』が生まれ、その『手段』の中で、途中過程の『目的』が出来た…
それが…大きな存在であったが故に…
彼らにとって…それは…最大の『目的』となってしまっていた…

 その事が、現在の『世界』の状況の大きな要因となっている事は確かだ…
しかし、あの時、どのような手段を取ったとしても、確実に、不安要素は残ったし、『人』が『人』である限り、確実に『争い』の種は宿し続けている。
それは、『人』の持つ、『感情』や『価値観』などによって生み出される。
それらを失くしてしまったらそれは、『人』ではなくなると云う事…
ルルーシュは、『人』の持つ『感情』…『心』とは…大きな力の源であると知った…
あの戦いの中で…
そして、自分自身も、『目的』の為に、『ゼロ・レクイエム』を世界に施した。
今となっては、あれが正しかったのか、間違っていたのかなんて解らない…
否、今はまだ…解らない…と云った方が正しいだろう。
きっと、その評価は、歴史が決めてくれる。
未来の人間が、それらを評価する事になる。
それは、きっと、時代によって様々な解釈がされて、その時代にとって都合のいい歴史として描かれる事だろう。
その時に、ルルーシュは…スザクは…ナナリーは…どのように描かれるのだろうか…
ルルーシュは…これまで、あれは、自分が望む世界を創り上げるための『手段』として考えてきた。
ずっと…そう考えてきた…
しかし、いざ、立ち止まって考えてみると…
良く解らない事がたくさん出て来る。
ルルーシュは…あの時『世界』から排除された。
スザクも…
シュナイゼルは『ゼロ』の『ギアス』によって、既に自分の意思を持たない者となった…
きっと、あの戦いのさなかで、あの戦いが『手段』であると承知していた者が、既に、それを世界に伝えるための術を失くしている。
もし、あの後、生まれてきた争いの渦中にいる者たちに、その事を教えてやれば…何かが…変わるのだろうか…
しかし、それは人に教えられて、納得できるような事じゃない。
自分の頭で考え、自分で導き出した答えでなくては意味をなさないのだ。
だとするなら…
「意味のない…事か…」
ルルーシュが小さく呟いた。
『世界』に対して、まだまだ『未練』を残している。
つくづく、自分自身の意思の脆弱さを思い知らされる…
これから先、『永遠』と云う時間を…この自分がはじき出された『世界』を見届けながら歩いて行かねばならないと云うのに…
「ルルーシュ?」
隣にいたスザクが…ルルーシュの小さな呟きに反応した。
スザクの顔を見ると…心配そうにルルーシュの顔を見つめていた。
スザクも…色々悩んでいる事は解る。
それは…まだ、彼らが若い証拠…と云う事か…
「あ、否…何でもない…」
ルルーシュは静かに答えた。
スザクもそれ以上聞こうとはしない…
ただ…ルルーシュが色々考えていて…その考えている事が…解ってしまう事が苦しい…とは思うが…
スザクも恐らく、ルルーシュと同じ思いだからだろう…
「そっか…。云って楽になれる事があるなら…話してよ…。僕たちは…あの時…『言葉』が足りなくて…あんな事になったんだ…。だったら、同じ過ちを繰り返したくない…」

 スザクのその言葉に…ルルーシュは苦笑する。
「お前だって…何も云わないじゃないか…。それに、考えている事は恐らく一緒だ…」
「そっか…。まぁ、そうだろうね…。二人揃うと…どうしても…思い出すから…ね…。でも、僕はもうちょっと考えている事があるんだ…。凄く『我儘』な事…なんだけど…」
スザクがそう云いながら、ルルーシュから目を逸らして、窓の外を見た。
スザクが『我儘』を云う事なんて…珍しい…
シンジュクゲットーで再会した後、スザクの『我儘』なんて…恐らく聞いた事がない…
「『我儘』…?」
ルルーシュがオウム返しに聞き返す。
そんなルルーシュの声に…スザクは自嘲気味に笑った。
「うん…なんだかね…こうして、二人でいると、どうしても『我儘』を云いたくなるんだ…。本当は…そんな事を望んじゃいけないのに…」
確かに…あの時…ルルーシュはスザクに云った…
『お前は…英雄になるんだ…。『皇帝ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』から世界を救った救世主として…』
『これは…お前にとっても罰だ…。枢木スザクとして生きる事は…もうない…。人並みの幸せも…全て世界の為に捧げて貰う…永遠に…』
あの時…既に『枢木スザク』は死んでいる筈なのに…
でも、今もこうして、『枢木スザク』の存在を知り、彼を『スザク』と呼ぶ者たちがいる…
それは…確かにそれまでと比べて非常に数は少ないし、会える事も少ない…
でも…ここでは確実に『枢木スザク』として存在できるのだ。
それは…ルルーシュがあの時に云った言葉に…背いている気がするし、ルルーシュ自身もここでは『ルルーシュ』として存在している。
それ故に…ここは居心地がいいのだろう。
だから…『我儘』を云いたくなる…
「云うだけなら…その言葉を聞いてやる…。それを叶えては…やれないと思うが…」
ルルーシュがそう答えると…スザクが『ルルーシュらしいな…』と思いながら苦笑する。
「ううん…やっぱりいい…。せめて、今の『世界』がもう少し、僕たちの望んだ形になるまでは…」
「僕たち?それは、お前の望んだ形だ…。俺とお前の望んだ世界の形は似ているが…多分、違うものだ…」
ルルーシュにぴしゃりと云われてしまうと…少し寂しさを覚える。
確かに…その通りだ…
納得できてしまうけれど…云われるとやっぱり寂しい…
―――そうだね…。僕と君は…確かに一蓮托生だったけれど…でも、別の人間で…見ているものも、望むものも…違っていて当然だ…。それが…『世界』の望んだ『明日』であり、『民主主義』だ…
ルルーシュにそんな言葉を告げられる度に…スザクは自分の中にある『我儘』が大きくなっていくような気がしている。
ルルーシュに伝えたい思い…
スザクの中にははっきりと、しっかりと存在している。
今は…それを伝える事さえできないのが…かなり辛いと思う…
伝えて…どうなる訳でもないと思うけれど…
それでも、募って行くその思いは…少しは、解放されて…楽になるのか…それとも、ルルーシュを苦しめる結果となって…自分も苦しむ事になるのか…
―――ごめん…ユフィ…僕はやっぱり…あの時の君の…『私を好きになりなさい!』と云う命令…聞けないみたいだ…。やっぱり…僕は…君の『騎士』失格だ…
窓の外の…晴れた空を見て…そんな風に思っていた…

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