ルルーシュ達の予想を裏切らず…『黒の騎士団』は…解る人だけに解る『ゼロ』の『ニセモノ』を担ぎ出した。
確かに…『黒の騎士団』が支持を得た大きな要因は…『ゼロ』の存在だ。
ブリタニアの正規軍を翻弄するその奇策と大胆さ…そして彼自身が持つカリスマがあってこそ、『ゼロ』の存在だ。
そして、『ゼロ』がいたからこそ、イレヴンをはじめ、ブリタニア人ですら、『黒の騎士団』に対して一目置くのだ。
現在…『ゼロ』の正体であるルルーシュは…
ここにいるのだ…
ルルーシュは結局、『黒の騎士団』を離れ、スザクとユーフェミアと共にいる。
そして、スザクとユーフェミアも完全に『ブリタニア』から離れてしまっている。
―――これは…一体どう判断すればいい…?
ユーフェミアはともかく、ランスロットや特派までこちらに連れ出してしまったスザクは…もし、捕まれば、死刑は免れないだろう。
少数精鋭…
『黒の騎士団』よりも更に、それを求められる事になる。
彼らは…その辺りの事をきちんと承知しているのか…ルルーシュの中では甚だ疑問だ。
「ルルーシュ?」
考え事をしている時に声をかけてきたのは…
「ユフィ…」
あれ程慕っていた姉、コーネリアの下から離れてここにいる…ルルーシュの異母妹…ユーフェミア…
「心配ごとですか?」
ユーフェミアがルルーシュに声をかけてきた。
この異母妹に関しても…このままにしておいていい訳がないと…思うのだが…
しかし、ルルーシュは既に『黒の騎士団』には戻れないし、戻る気もない。
カレンにばれた時点で…そして、あの時のカレンの表情を見て…彼女は既に、『ゼロ』の親衛隊ではなく、『ルルーシュ』に失望し、そして、敵とみなした顔をしていたから…
それに、あらたな『ゼロ』が現れたと云う事は、『黒の騎士団』で、既に『ゼロ』の正体が『ルルーシュ?ランペルージ』否、『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』であるとばれたと云う事だ。
それを考えれば…
彼らの取った行動は至極当然だろう。
『黒の騎士団』はルルーシュの『ゼロ』によって、世界に名を知られる事となった。
そして…最早、そのままじっと隠れていたとしても、ブリタニア軍に殲滅されるのは確実だ。
あれだけの騒ぎを起こしている。
あれだけの被害を出している。
あれだけの脅威を与えている。
だとするならば…日本国内の『反ブリタニア勢力』そして、『シンジュクゲットー』を中心に活動していたと云う事となれば、的を絞り易い。
下手をすると、『ゼロ』がいなくなったと云う事実が『ブリタニア軍』に知れる事となったら…それこそ、『キング』を失った状態…
『ブリタニア軍』もそんなチャンスを棒に振るような間抜けではないだろう。
ともなれば…『黒の騎士団』も…そう黙って殲滅されるとも考えにくい…
あれだけの奇跡を起こしたと云う自負はある…確実に…
だからこそ…彼らは何としても…自分たちの存在を示そうと画策するだろう…
見た目は確かに…『ゼロ』によく似せている。
ただ…
「あいつは…本当に『ゼロ』足り得るのか?まだ…動きは見せていないようだが…」
時々ある、『黒の騎士団』と『ブリタニア軍』との小競り合い…
恐らく、『エリア11』の総督であるコーネリアも何か違和感を覚えて、少し、様子を見る形を取っている様にも見える。
いずれにしても、『黒の騎士団』が『日本』を解放すると云う目的であるのなら、コーネリアと交渉する事は考えにくい…
と云うよりも、コーネリアがそんな交渉に乗ってくるとも思えない。
だとするなら…『黒の騎士団』…そして、彼らに協力することを決めた『キョウト六家』は『ブリタニア』と戦い続ける事になる。
恐らく、彼らの納得いくだけの結果が出るまで…
「ルルーシュ…ロイドさんが色々と調べたみたいだけど…。あの、『ニセ・ゼロ』…結構やるみたい…。多少、ルルーシュとはやり方が違うみたいだけど…」
「ああ、データを見ていたが…ただ…ここにはまだ、コーネリアどころか…コーネリアの騎士たちさえ出てきていないんだ…。何とも言えない…」
スザクの言葉にルルーシュはそう返した。
確かに…ルルーシュだって、コーネリアが相手でなければ、それほど苦労しなくてすんだと思うのだが…
しかし、ルルーシュが殺したクロヴィスの後の『エリア11』の総督は…コーネリアとなった。
コーネリアは現在では世界各地で武勲を立てている、女だてらに前線で指揮を執り、自ら敵を打つ、猛将であると恐れられているのだ。
「確かに…。総督も…何か違和感があったのかな…。確かに…ルルーシュとは何となくやり方が違うよね…」
ルルーシュの言葉にスザクもそう返す。
ルルーシュはとにかく、綿密に何パターンもの可能性を考えて、その先の先を読み、あらゆる可能性の中から、その場に適した策を施して行く。
それこそ、敵、味方関係なく、度肝を抜く様な…
しかし…現在の『ゼロ』は…なんとなく…そう云った感じではないのだ。
確かに…頭が悪い人間ではないと思うが…
着眼点は鋭いが…
それでも…
「スザクの野生の勘…的なものも感じるな…。それに…『黒の騎士団』の連中よりも遥かに冷静だ…」
「と云うよりも…客観的に今の『エリア11』や『日本』、『ブリタニア』を見ている感じがするね…。『イレヴン』って云われただけで頭に血が上っちゃうカレンとは明らかに違うよ…」
「それに…ナイトメアの操縦も出来ているな…。多分、お前と互角か?」
見ているデータの中から分析するが…
その一言で、スザクはちょっとカチンと来たらしい。
「云ってくれるね…。ルルーシュの目からはそう見えるんだ…」
「機体スペックを合わせた時には…という条件付きだが…」
「まぁ、確かに、僕とは違うタイプのパイロットみたいだけど…サシで戦ったら…どうなるかな…」
スザクもまんざらではない様な感じに云うが…
ただ、これは、ルルーシュ達にとっても戦いだ。
今のところは、『黒の騎士団』と『ブリタニア』が睨みあっていてくれるから、こうして第三者的に見ていられるのだが…
しかし、実際に、彼らの矛先がこちらに向いた時には…良くて三つ巴、悪ければ、双方から攻撃を受ける事になるのだ。
そんな事を話している時に…
『ルルーシュ…スザク…。ロイド先生が来て欲しいって…』
この部屋の通信に、ミレイから事情を聞いて、ついてきたニーナか告げる。
「ロイドさんが?一体なんだろ…」
アインシュタイン家は元々、アッシュフォード家とは深いつながりのある家で、アッシュフォード学園でもミレイにべったりで…ロイドとの出会いで、少しは外に出るようになり…
そして、ルルーシュの正体を知って…ニーナも、半分は恐る恐るだったが…ユーフェミアの存在で、協力的になった。
ニーナにとって、ユーフェミアは憧れの存在…と云うのも通り越している。
最早、慕っているとか云うレベルではなく、崇拝に近い…
そのユーフェミアに
『私は…大切な異母兄妹を守りたいのです!』
と云われて、スザクともそれほど気負いなく話せるようになったらしい。
ロイドの呼びだされた部屋まで行くと…
「ロイド…どうした?」
ルルーシュが部屋に入りながら尋ねる。
「なんだか…『黒の騎士団』が…面白い事になっているみたいですよぉ?」
ロイドは相変わらずの口調で、そんな事を云うが…
実際に笑えるような面白い事であった例はない。
「何があったんです?」
ロイドも様々なメカニックの研究を続けながら…
そう云った外の情報を得ているようだ。
ルルーシュにどこかのジャーナリストが撮影したであろう写真が掲載されている新聞を渡した。
―――そう云えば…ここ最近、一般紙しか見ていなかったな…
そう思いながらロイドの手渡してきた新聞を受け取った。
そして…その中には…
「あれ?意外と早かったね…」
「と云うか…これの情報ソース…ディートハルト…だな…」
そこに書かれていたのは…
―――『黒の騎士団』…『ゼロ』を巡って分裂か!?
という見出しだ…
中身も…
「これまでの作戦について…中でもめている模様…。一般人に出た被害について、中でもめていたようだが…ここに来てそれが表面化したと思われる…」
「なんだ…これは…」
記事をそのままストレートに受け取ろうと云う程単純な頭の作りではないが…
それでも、この記事に隠されている何かを知りたい。
相当マニアックな…一般人の目には触れない情報媒体であるこの新聞…
ロイドも、ロイドだから手に入った代物だ。
「ま、その言葉の通りだったら…面白いところですよねぇ…?『黒の騎士団』って…」
大体、これまでに出てきた一般人の被害者と云うのは、殆どがルルーシュが建てた策に寄って出た結果だ。
今の『ゼロ』が責められるいわれはないだろうし、そんな事くらい『黒の騎士団』なら解っている筈なのだが…
「これをストレートに受け取る程、スザクだって単細胞じゃない…」
その一言にスザクは少しムッとするが、本当の事だし、今はそんなことで云い争っている時ではないので、とりあえず、受け流すと云う選択肢を選ぶ。
「この新聞だから…『ブリタニア』側からってのも考えにくいしね…。桐原さん…なのかな…こんな事を考えるのは…」
スザクの一言にその場にいた人間の視線はスザクに集中する。
「桐原が『黒の騎士団』に直接介入してきたと云うのか?奴にはまだ、他に支援しているレジスタンスグループがあった筈だが…。確かに…俺が去る頃には『黒の騎士団』に対して大きな比重を注いでいたようだが…」
「あのおじいさんの考えている事は、僕も解らないよ…。と云うか、ルルーシュだって、直接会っているんでしょう?あれだけの支援を受け取るために…」
「まぁ…な…」
直接会った時…正直、あまり、深入りしたくないと云う気持ちはあった。
フィフティ・フィフティな協力関係でなくてはならないと思った。
『黒の騎士団』はルルーシュにとって、ナナリーを守るための道具だし、『日本解放』はナナリーを守るための手段でしかなかったのだから…
恐らく、あの桐原と云う男にもルルーシュ同様に思惑はあっただろう事は解る。
扇要の様に、『他にやる奴がいないから…』と云う理由で、何かをしようと自分から能動的に動く様な人材ではなかった。
余計な事を云わないから…余計な事を考えないから…
だから、『ゼロ』の副指令とした訳なのだが…
これで、ディートハルトの様に頭の回転が速く、ズバズバと口に出すような奴では、ルルーシュの作り上げる組織は成り立たない。
基本的に、ルルーシュの組織のまとめ方は、自分が脳細胞で、彼らは神経であり、手足であると云う方法だ。
扇の場合、彼がトップに立っていた頃は、ルルーシュと違った形でのチームのまとめ方をしていたようだが…
しかし、あの状態では、結局、『ブリタニア軍』に対して何のダメージを与える事も出来ないと考えた。
シンジュクゲットーで活動していたときだって、シンジュクとは…元々、『日本国』だった頃の『首都』の中でも大きく拓かれた地域だった。
だからこそ、そこに住んでいた人間の数も多い。
だからこそ、戦争の時には徹底的に破壊された。
『トウキョウ租界』建設の際、その建設の区域から外れたところはゲットーとされて…そして、元々そこに住んでいた人間たちの中には、軍人崩れの者、『日本解放』を唱える識者などが集まっていると云う事になる。
それ故に…『トウキョウ租界』の目と鼻の先で、頻繁にテロ活動が繰り返されていた。
完全にその国の住人を何とかしようと思うなら…そこに、その国の住人の意思がなかったとしても…
その人々を捕らえ、どこかの未開拓地にでも押し込めればいい…
完全に丸腰にして、完全管理の下…
余程力に自信があるのか…そこまで頭が回らないのか…
尤も、『ブリタニア』側がそう云った状態だったとしても、ルルーシュと出会う前の扇たちにはそこまで踏み込めるだけのものはなかったし、ルルーシュがいなくなった時点で、それに気付く者がいるとすれば…
「頭は悪くはないであろう、『ニセ・ゼロ』と、桐原泰三…か…」
ルルーシュがぼそりとそんな事を呟く。
「とりあえず、様子を見ようよ…。せっかく、あっちはあっちの方でお互いに集中していてくれるんだから…。今の内に…出来る事ならこちらの戦力を増強したいし…」
スザクの言葉に…
確かに、今のところ情報が不十分だから、出来る事を全力で取り組んで行く事が大切だと思う。
『黒の騎士団』と『ブリタニア軍』が手を組むと云う選択肢を考えているにしても、そこまで話が煮詰まるまでに相当な時間がかかる。
時間がかかり過ぎて、逆に交渉決裂する可能性の方が高い。
そんな交渉が出来るのであれば、恐らく、彼らのテロ活動などとっくに終わっている。
そう…交渉するなら、恐らく、現在の総督であるコーネリアよりも前総督であるクロヴィスの方が譲歩を引き出せる可能性が高いのだから…
「そうだな…。とりあえず、現在のところ、スザクのランスロットだけが…」
ルルーシュがそこまで云うと…
「ちょっと待って下さい…。ルルーシュ殿下…ユーフェミア皇女殿下とこれからは、シミュレーターで訓練して頂きたいんですよねぇ…」
ロイドがそんな事を云い始める。
「え?どう云う事だ?」
「えっとですねぇ…。本当はシュナ云える殿下の御命令で開発していた機体があるんですよぉ…。その機体、複座式で…一人が操縦、一人が前線での指揮を執る…つまり、指揮官機…ってことなんですけどぉ…』
ロイドの言葉に…ルルーシュは驚いた表情を見せる。
そして、その次には…
「待て!ユフィをナイトメアに…」
そこまで云いかけた時、恐ろしいタイミングのよさとも云えるが…ユーフェミアが部屋の中に入って来た。
「待って下さい!ルルーシュ…。私がお願いしたのです!私も…ルルーシュの役に立ちたいのです!スザクばかりが…ルルーシュを守っているみたいで…癪だったんですもの…」
ユーフェミアの言葉に…ルルーシュは唖然とするが、すぐに我に返る。
「ユフィ!君は何を云っているのか…」
ルルーシュの言葉を最後まで続けさせないとばかりにユーフェミアがまた、ルルーシュの言葉を遮った。
ルルーシュに語らせてしまうと、ユーフェミアは口ではルルーシュに勝てないと…そう判断出来ていたから…
「解っています…。でも…守りたい者の為には…仕方のない事です…。ルルーシュ…私はまだ…昔のあなたとの約束を覚えているのですよ…?」
「約束…?」
ルルーシュの頭の中に『?』が飛び交う。
「はい…大人になったら…ルルーシュのお嫁さんにして貰うと…」
にこりと笑って語るユーフェミアに、ムッとした表情を見せるスザク…
そして、その二人の怖いオーラに…怯えた表情を見せるニーナに、面白そうに眺めているロイド…
呆れかえっているルルーシュ…
「ユフィ…君はまだ…そんな事を…」
「何を云っているんですか…ルルーシュ…。ルルーシュが死んだと聞かされた時…私が最初に考えたのは…あなたの仇を必ず取ると…。でも…生きていると知った時には…絶対に守って見せると…」
目の前に立つ、その、少女は…ただの少女ではない…
世間知らずの皇女様ではない…
守りたい者の為に…何かをしたいと願う…何かをしようとする…そんな一人の『女』の顔だった…
ルルーシュはその顔を見て…ユーフェミアと会えずにいた8年…
それはとても、とても、長い時間であった事を知ったのだった…
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