秋の風


 日本の秋…
収穫の秋、食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋…
日本人は本当に季節を楽しむ事に長けた民族だと思う。
『コード』を継承して、一体何度目の『秋』だろうか…
『コード』を継承して、姿形の変わらなくなったルルーシュとスザク…
一所に留まって生活出来るのは、せいぜい数年…
人とは歳をとり、次第に姿を変えて行く生き物だから…10年以上姿を変えずに生活していれば、どれ程人との関わりを絶って生活をしていても彼らの姿を見る人たちはいるし、姿の変わらない人間が傍にいて、自分よりも年上だった人間がいつの間にか、外見だけとはいえ、年下に見えるようになって行けば…おかしいと思われるのは致し方ない事で…
まぁ、『おかしい』と思われているだけならいいが、世間を騒がせるような事になっては厄介だ。
C.C.が経験してきた様な迷信などによって人間が振り回されるような時代ではないにしても、実際にそれを目撃され、変に嗅ぎ回られるのは困るし、そこから様々な騒ぎに発展する事もある。
特に、世間が平和になると、人々は身近の自分に降りかからない程度の『事件』や『不思議な出来事』を望むようになる。
戦争でもしていれば、そんな事を構っていられるだけの余裕はないのだが…
だから、ルルーシュもスザクも、自分たちが数年に一度、引っ越して歩く生活が続いている事は、『戦争が起きていない』と云う意味で、『世界は平和』であると判断出来る。
数年に一度、全く環境の違う地に引っ越して行くと云うのは…寂しいと思わない訳でもない。
特に、気に入ってしまった地を離れる時には…切なくなる事もある。 それは、ルルーシュも、スザクも、同じであった。 『コード』を継承した者に課せられる…『業』とも云うべきか…
それでも…二人は『コード』を受け入れると決めた…。
ルルーシュの『コード継承』は…イレギュラー…
スザクの『コード継承』は…自ら決めた道…
確かに言葉だけ聞けば、大きく違う…
だが、『ギアス』を受け取った時には、あらゆる可能性を考えるべきだ。
あれ程の『能力』なのだから…
そして、それを受け取る時に、『これは契約…』と云われている。
それを承知で『ギアス』を手にしたし、その後の運命も受け入れてきた…
『コード継承』は…その延長線上にある…
ルルーシュはそう考える。
スザクの方は、自ら考え、そして、止めようとしたC.C.の言葉を振り切って、『ギアス』の契約をした。
そして、その『契約条件』を満たして…『コード』を継承した…
どちらも…どこまで知っていたかの違いはあるが…ただ、平たんな道のりでないと云う覚悟くらいはしていた。
否、寧ろ、色々知ってから『コード継承』したスザクの方が色々な恐怖は付きまとっていたかもしれない…。
かつては…スザク自身が否定してきた存在…
でも…その結果…ルルーシュがどうなって云ったかを知っているから… それでも…スザク自身…―――ルルーシュに云ったら…『バカにするな!』と怒られそうだが…―――あれ以上…ルルーシュを孤独にしたくなかった…

 日本の秋…ルルーシュもスザクも、この季節が好きだ。
ルルーシュがこの世界の人間として存在していた頃は…色々な意味で日本の式と云うものを楽しめていたとは云えない。
皮肉な事に…ルルーシュがこの世界から抹殺されて…本当に限られた存在にしか、ルルーシュのその存在を知る事が許されず、知らせる事も許されない状態となった時…初めて…日本の四季を素直に感じる事が出来るようになった。
ルルーシュがその存在を世界から抹殺されるための場所に選んだのは…日本だった…
確かに、周囲の人間がルルーシュが皇帝に即位して唯一の騎士と定めた枢木スザクが日本人であったと云う事を認識していた事もあるだろう。
しかし、本当は…そんな者は口実に過ぎない。
ルルーシュは…確かに落ち着いた生活をしてこられた訳じゃないが…スザクと出会ったこの、日本と云う国が好きだった…。
スザクの祖国を…多分、愛していたのだろう…
ルルーシュがルルーシュとして存在していた時に、日本の四季をきちんと感じる事が出来たのは…枢木家に預けられ、スザクと、ナナリーと一緒にいる時だけだったのかもしれない。
常に暗殺に怯え、いつ、ブリタニアに帰国させられ、外交の為のカードとして切り捨てられるか解らない状態…。
初めて人質となった日本…そして、その身柄を預かっていた枢木家は…確かに、当時のブリタニアとしては、カードとして送り込んだルルーシュとナナリーだったが…彼ら個人としては…日本で暮らしていた月日の中で、一番穏やかに過ごしていたのかもしれないと思う。
その時に…ルルーシュは移り変わる日本の四季に驚き…そして、その四季の変化を…愛するきっかけとなったのかもしれない。
ただ…ルルーシュにとっては…『ルルーシュ』としての存在では…最初で最後だったのかもしれない…
心から笑いながら…季節の変化を見て、驚き、感激したのは…
確かに、あの当時の日本とブリタニアの両国間の摩擦は誰が見ても一触即発の様な状態だったけれど…
でも、ルルーシュもナナリーも、『人質』と云う立場ではあったけれど…スザクと一緒にいる時間は…『子供』として、笑う事が出来ていた…。
少なくとも、周囲から見た時には…そう云う風に見えた。
あの時に戻りたい…そんな事は思わないけれど…
あの時はあの時で、かなり大変だったし、ルルーシュにとっても、ナナリーにとっても、笑える場所と云ったら、スザクの傍だけだったから…
スザクに云われた事があった…
『お前…全然笑ってなかったぞ…』
そう…スザクにそう云われるまで…アリエスの離宮で母が殺され、日本へ送られて…ずっと…ルルーシュは笑う事が出来ずにいた…
その時…ナナリーを笑わせていたスザクに複雑な気持ちを抱き、そして…その後…声を出して笑う事が出来るようになった…
そして…周囲を見渡す事が出来るようになっていた…
日本には…様々に姿を変えて行く季節があり…スザクはその季節の楽しみ方を教えてくれた…ルルーシュはそう思っている。

 あれから…何回目の『ゼロ・レクイエム』が成功した日を迎えているだろうか…
人々は、それは、歴史の中の出来事として受け止めている。
しかし、ルルーシュとスザクにとっては、少しずつ記憶の中から薄れていっているとしても…決して、忘れる事が出来ない出来事だ…
お互いがそれに抱く気持ちは…多分違うだろうが…
ルルーシュは…『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』として、『ルルーシュ?ランペルージ』としての最期を…許されるなら…日本の地で…そう思っていた…
様々な謀略や侮蔑や軽蔑の嵐の中にいた…ブリタニアでなど…冗談ではなかった。
きっと…『黒の騎士団』が日本で誕生した事もあり、その地を『ルルーシュ皇帝』として侵略しても誰もおかしいとは思わないだろうし、その地で『ルルーシュ皇帝』に刃を向けた者たちの処刑場を準備していたとしても見せしめとしては悪くない。
日本の地で生まれた…ブリタニアの皇族までもが全力で潰しにかかった…ブリタニアにとっては『テロリスト』…ブリタニアに支配されていた者たちにとっては『義勇軍』だったのだから…
でも…本当の事を云えば…どうせ、『ルルーシュ=ヴィ=ブリアニア』が消えるなら…日本がいい…その気持ちは自然に湧いてきた。
本当に…本当に…ごく自然に…当たり前の様に…
スザクにその提案をした時には…ちょっと複雑そうな顔をされたが…
ジェレミアも同様だった…
この二人にとって、色々思うところのある場所だからだ…
でも、これほど『ゼロ・レクイエム』にふさわしい場所もないと云えた…。
ルルーシュの思いはどうあれ、物理的にも、心情的にも…
もう…数百年単位で生きている彼らにとっては…遠い昔の記憶…
そして、この世界に生まれ、生き、死んでいく存在たちにとっては、遠い歴史の話…
ルルーシュにしてみれば、客観的にみれば…『ゼロ』として存在して…そして、確かにコマとして利用していた部分は否定しないが…彼らだって、『ゼロ』を利用していた。
自分たちで出来ないから…他の誰か…―――この場合、リーダーとしての『ゼロ』だったが…―――に頼って、その能力によって、世界に名を馳せる『義勇軍』となっていた訳なのだが…
それでも、最終的にはあの、シュナイゼルの口車に乗せられていたとはいえ、目の前にちらつかされた弱い心を揺さぶる情報に踊らされ…これまで彼らも利用していた筈の立場である事を忘れ…銃口を向けられている。
『黒の騎士団』から始まって、ブリタニアに対抗出来る基礎作りをした『ゼロ』が『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』であったからと…シュナイゼルと扇たち幹部のやり取りの詳細も知らないまま、『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』を『悪逆皇帝』と呼び放った皇の姫君も…日本の代表だった…
こうして並べてみると…客観的にみれば、ルルーシュにとっては、様々な『負の連鎖』を生み出している地でもあるように見えるのだが…
それでも…ルルーシュは日本が好きだった…
それは…もしかすると…スザクの影響なのかもしれない…。
もし、あのまま裏切られて、そのまま、『Cの世界』に封印されている状態だったなら…こんな風に考える事は出来なかったかもしれない…

 今、ルルーシュとスザクは…出会った場所にいた…。
『枢木神社』であった場所…
枢木家を継ぐ者がいなくなり、最終的に唯一残された日本国の『キョウト六家』の『皇家』がその場所を受け継いだ。
『枢木神社』のあった場所には…あの当時、神楽耶が立てた祠が建てられている。
小さな…小さな祠だった…
死ぬまで…神楽耶はその、神楽耶が建てた祠の意味を誰にも話さなかった…
『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』が…かつて、人質として日本に送られた事を知っていた者は少ない。
もし、それが、もっと広く知れ渡っていたら、『ゼロ・レクイエム』は一体どうなっていただろうか…
と云うより、『黒の騎士団』の裏切りも…あんな形で実行される事もなかったかもしれない。
ただ、幹部クラスの中でも『ゼロ』に対して不信感を持っていた者たちはいた。
『ゼロ』が使えるコマであるからと…命を助けた…『日本解放戦線』のメンバーたち…
藤堂鏡志郎と四聖剣たち…
助けたカメに…裏切られた…とでも云えば、なかなかのブラックジョークになる。
ただ…現実にはその通りなのだ…
藤堂が『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』の名前を知らない筈がない…
シュナイゼルに、『ゼロ』の正体をばらされた時…逆に…何故ルルーシュが『ゼロ』にならなければならなかったのか…どんな手を使ってでも『勝たねば』ならなかったのか…その為に、施してきた…まだ子供だと云えるような年齢で全てを背負い、受け止めてきた『業』…
全てが合点のいく話となり、軍人でありながら、中途半端に『博愛主義』的な事を考えていた連中の方が…あの時の状況を把握していなかったし、これから先も見えていなかった…と云えるのだ。
それでも…ルルーシュは、その事に気づいていながら…決して、それに対して、自分の中でだけでも藤堂を責める事をしなかったし、『戦争』に身を投じている人間に対して意識の足りなさを嘆く事もなかった。
ただ…静かにその事実と真実を受け止めていた。
その為に失われた命に対しても…彼らを責める事なく…自分自身の『罪』として、自分の中に封じ込めた。
だから…今でもときどき…あの場所に行く…
既に、あの場所には何もなくなってしまっているけれど…それでも、ふっと、一人で出かけて行き、その小さな体を埋めた場所に…花を添えに行く…
スザクはスザクで…あの式典のあった場所に…これまたときどき、足を向ける。
ルルーシュも行く事があるのだが…スザクほどではない。
そして、二人揃って、あの式典会場のあった場所に行く事はない…
あの場所は…流石に多くの日本人が『虐殺』された場所として、完全にブリタニアから独立した時点で、首相となった扇が平和記念公園を作った…
そこには、数百年経った今も…資料館と、その時に殺められた人々の名を刻んだ石碑が立っている。
そして、これは、『虐殺』を被った側の作ったものとしては珍しく、日本人の作った資料エリアとブリタニア人の作った資料エリアがあった。
そこで、両国間の言い分を見比べる事が出来る。
そして、何故、あの時…歴史に残る様な『虐殺』が起きたのかを検証している。(流石に『ギアス』の事を資料として並べる訳にはいかないので、現在も研究者たちの中で様々な憶測だけが流れている)

 これだけ長く生きていると云うのに…どうしても、あの時の数年は…二人とも忘れられず…特に、二人で話し合う事も滅多にないが…それでもお互いが、節目節目で気にかけている事が解る。
そして、9月28日に関しては…二人が一緒に過ごす事はない。
未だに…複雑なのだろう…。
自分を殺させたスザクに顔を合わせにくいのかもしれない。
自分が殺してしまったルルーシュに顔を合わせにくいのかもしれない。
あの時…そうするしかなかったと…思っていた…
あれが最良だと…
しかし、こうして、時間を経て行くと…あの『ゼロ・レクイエム』の大きさを思い知る。
あのときの『虐殺』…
時間と共に歴史は捻じ曲げられていく…
それは、自然にそうなって行く事もあるし、時の権力者によってそうなって行く事もある。
現在では、あの時の『虐殺』さえ、『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』のした事となっている。
調べれば、その時の『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』は皇帝ではないし、日本国内でその名を知る人の方が少なかった…。
それでも、時間が経てば、歴史の見方も解釈の仕方も変わっていく。
変わっていく内に、歴史が変わっていく…
長い目で見れば…ルルーシュの考えた『ゼロ・レクイエム』はしっかりと成功している。
流石に、あの当時、『虐殺』されてしまった遺族たちは、『ルルーシュ皇帝』がどれほど悪逆非道な行為をしていても…『虐殺』を命じた皇女を忘れはしなかったし、恨み続けていた…
あの当時のパソコンデータをもとに、『史実』を書き綴っている本もあるが…今となっては、何が『史実』で何が『作られた歴史』なのか…解り難い事は事実だ。
そもそも、あの当時のデータだって、書いている人間の考え方によって解釈の違う資料を出しているのだ…
人に寄って云っている事が正反対の場合もある。
そして、残されている物的証拠も、時間が経つにつれて減っていくし、『歴史的物的証拠』だと云っても、本物なのかどうかさえ怪しくなってきている。
全ては…『歴史』が証明するとは云うが…
時間の流れの中で…過去に生きてきた人々が創った礎によって…現在が作られている。
それが、その世界に生きている人間にとって、『幸せな世界』であるか『そうでない世界』であるか…それはやはり、一人一人が決めて行く事で…
結局、残されている歴史書と云うのは、あまり当てにならない…と云う事だ。
きっと、その繰り返しで…人々はこの世界を生き続けているのだろう。
自然の摂理によって生まれ、生き、死んでいく…
それは…多分、現在のルルーシュとスザクにとっては…非情に羨ましいとも云えるのかもしれない。
二人は既に誰とも『ギアス』の契約をしないと決めていたし、C.C.と違って、二人はまだ、『ルルーシュ』と云う存在が、『スザク』と云う存在がいる。
彼女の様に孤独の中を逃げ回っている訳じゃない…
ルルーシュは…晴れている秋の空を見て…考えている。
『ゼロ・レクイエム』があった季節だからなのか…夏の空から…秋風吹く季節が来たと思った時…つい、そんな事を考えるくせがついてしまった…。
あの日も…よく晴れた空だった…。
これを考える時の気持ちは…切ないのだろうか…悲しいのだろうか…懐かしいと思えているのだろうか…
複雑な思いが…渦巻いているのだった…

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