一年前の今日…
世界が歓喜に沸いた…
少なくとも…テレビで伝えられる『世界の人々』は全身で喜びを表していた。
あの時のインパクトの所為か…
あれが『世界の意思』の全てとなった…
表に出て来ない『意思』は…
全て…抹殺されている…『今の世界』…
それが正しいとか…間違っているとか…
それは解らない。
きっと、正解もないし、不正解もない…
『世界』は…今、『世界の代表』達が推し進めている方に進んでいる。
軍事力に頼らず…『話し合いと云う一つのテーブル』によって物事を決める世界…
下々の者には…何がどう動いて行っているのか解らない…
ただ…今のこの世界には…ナイトメアなどと云う、恐ろしい兵器が闊歩する世界ではなくなり、『フレイヤ』と云う大量破壊兵器に怯える世界でもなくなっている。
でも…それは…確かに戦争がない世界かもしれないけれど…全ての人々が笑える世界ではないと…人々は薄々感じ始めていた。
戦争をしたい訳じゃない…
でも、人々の意思を一部の人間が勝手に決めて、勝手に進んで行く世界に気づき始めた時…
それでも…人々は今の世界を『優しい世界』と呼べるだろうか…
解らない…
現に、あの時、『ゼロ』に倒された『ルルーシュ皇帝』に対して恩義を感じていた者もいる。
『黒の騎士団』によって自分の家族を殺された者もいる。
そんな様々な思いを抱える世界に対して…執政者の出来る事など限られている。
確かに世界は、『神聖ブリタニア帝国』と云う、軍事国家から『軍力による支配』の恐怖からは解放されたかもしれない。
しかし、国力は…やはり強い。
国力が強いと云う事は、『世界の代表』が集まる国際会議の中でも、国家元首が自覚していてもしていなくても、影響力がある。
そして、『世界を開放する為の挙兵』したとされる『黒の騎士団』と『ゼロ』の名前も…
この国際会議には大小様々な国家が国の代表を送り出している。
国土の広い国、狭い国、技術力の高い国、低い国、経済的に豊かな国、貧しい国、資源に恵まれている国、恵まれていない国、宗教に縛られている国、縛られていない国…
すぐに思いつくだけでもこれだけの違いが複雑に入り組んでいる国際社会の中で…
世界が一つに…
声高に叫んでみてはいるものの…
それを声高に叫んでいる者さえ、譲れないものを幾つも持つ…
それは…叫んでいる者にとって大切なものであっても、他の者もそうであるかは別問題だ。
そして…中には、その存在を認められない者もいる事実と…
彼らは漸く解り始めている。
何が正しいのか、何が間違っているのか…
そんなものは誰にも解らない事…
ただ…解る事もある…
自分にとって譲れないものがある。
他人にとって譲れないものがある。
どこで妥協の線引きが出来るのか…
お互いに譲れないものであればある程…妥協できない…
それが、生きる為の糧であれば…なおさらのこと…
生きて行く為に必要なのは物理的なものばかりじゃない。
人とは…自分の心を支えられなければ…生きていけない…
それを…一体誰が『正義』であると…『悪』であると…『許されるもの』であると…『許されないもの』であると…決められると云うのか…
それを否定された時…人は…自身を守る為に…戦おうとする…
それさえも…『世界』は『悪』と云い続ける事が…出来るのだろうか…
あれから1年…
僕は…今も彼との約束を…守るために『生きて』いる。
たった一つを除いては…
お互いに…世界からはじき出された存在となって…自分たちの『罪』に対する『罰』を受けている…。
それが…たとえ自己満足だったとしても…それがなければ…きっと僕たちは…耐えられなかった。
僕は…彼は…大きな『罪』を背負っているから…
彼は…僕に気づかせてくれた…
『死』が最大の『罰』ではない事を…
彼が…世界に対して牙をむいた時の葛藤…苦悩…
あの時、一体誰が気づいたのだろうか…
誰もが彼の一挙手一投足に歓喜した時期もあった。
仮面を外した後の彼は…その時とは正反対の立場に立った…
彼が欲しいと願ったのは…世界からの賞賛でも、周囲からの理解でもなく…
自分の大切なものを守りたい…そんな誰もが持つ、ささやかな願いだった…。
彼には…たった一つだけ生きる糧になる程の大切な存在があった。
そのたった一つの為に…彼は何もかも捨て去った。
勿論、彼だって人間なのだから…
迷っただろう。
悩んだだろう。
立ち止まっただろう。
たくさんの涙を流しただろう。
でも…あの時は…僕を含めて、誰も彼のそんな弱さも人間らしさも気づこうともしなかった。
『正義の味方』として存在していた時も、『悪の象徴』として存在していた時も…
名前が変わり、向けられる感情が『称賛』であるか、『憎悪』であるかの違いはあるものの…彼の苦悩そのものは変わらない。
そして…彼はその苦悩に対して、誰かの理解を求める事をしなかった。
それを求めた時、彼の『正義の味方』の名も『悪の象徴』の名も影響力がなくなるとよく理解していた。
人々は…本当に解り易いものに飛びつく。
あの、『シュナイゼル軍』と『黒の騎士団』の連合軍と『ブリタニア正規軍』との戦い…
どちらが凄惨な武器を持っていたかと尋ねたら…正直返答に困るに違いない。
あの、『フレイヤ』と云う、大量破壊兵器を使ったのは、『シュナイゼル軍』…
現在の日本のトウキョウ租界に対して最初に『フレイヤ』を使用したのは『シュナイゼル軍』…
そして、あの戦闘で…『フレイヤ』のスイッチを押し続けたのは…現在のブリタニアの代表であるナナリー=ヴィ=ブリタニア…
その事実を意図的に隠蔽している様子はないものの…現在の世界でそれについて言及する者はいない。
ただ…『ルルーシュ皇帝』が『ダモクレス』を制圧し、最後の『フレイヤ』を撃った事実だけは強調されているけれど…
それは…やはり、現在の世界情勢の中で、必要な措置だと…思うしかない…
だって…僕は今…『ゼロ』として…世界を見守らなくてはいけないから…
『ゼロ』と云う『英雄』…
本当に重い名前だと思う…
彼は…その名前を…自らに課してきた…
本当は戦争をしたかった訳じゃない筈…
人を殺したかったわけじゃない筈…
血を分けた異母兄や異母妹を殺したかったわけじゃない筈…
聞けば…彼らは…彼にとっては…数少ない…近しい異母兄妹だったと云うのだから…
あの時…きっと、彼の『死』を世界に晒した事で…世界は、夜明けを見出したのかもしれない…
確かに…混沌とし続けた時代だった…
僕は…彼の父である、『シャルル皇帝』の思いを知ったし、彼の異母兄である『シュナイゼル』の思いも知った。
彼らは彼らなりのビジョンで…世界を憂いていた…
そして、自らの持つ力を駆使して、その世界に対して抗い続けてきたのかもしれないと思う。
彼も…あの世界の中で、その世界の流れに対して抗い続けた一人だ。
誰の理解も求めず、求める事を許さず、どんな犠牲も全ては自分が背負って…
今も、『世界』は…本当の意味での、彼の流した血の涙を…知らない…。
彼はきっとこう言うだろう…
『知る必要はない…』
と…
あっさり云い捨てるだろう。
時々思うのは…『ゼロ・レクイエム』は本当に…『世界』の『人々』から、憎しみを消し去ったのだろうか…?
君は…あのさなかに…気づいていたのかな?
君が施した政策の中で…その政策に心から感謝している人がいた事を…
君が…『正義の味方』の『象徴』としようとした『黒の騎士団』に対して…恨みを持つ者がいた事を…
君が…思っている程、『ゼロ』の存在は…『世界』から『称賛』されていた訳じゃない事を…
僕は今…『ゼロ』の仮面を被っていると…それがよく解る。
確かに…『ルルーシュ皇帝』のやり方に賛同できなかった人もたくさんいる…。
でも、それと同じくらい、『ルルーシュ皇帝』のやり方に賛同している人もたくさんいる…。
この1年…世界を見てきて…それは実感するよ…。
ニーナの様に…『ゼロ』に対して大きな憎しみを持つ人は…必ずいる…。
『黒の騎士団』に、家族を殺められた人々は…今でも『黒の騎士団』に対して憎しみを持っている。
あれは…戦争だった…
そうと解っていても…解っているけれど…納得できない…。
否、それまでそう云った現実を知らなかったものにとっては…あれは…酷く衝撃的なもので…目の前で撃ち殺されて行く人々を目の当たりにして…
それを忘れるなんて…出来る筈がない…
知っていたのかな?
『黒の騎士団』の中で…『ブリタニア人』と云う理由だけで、『ゼロ』の名前を使って、学生に銃を向けた奴がいた事…
僕は…その男の顔を見ている。
僕のランスロットがゲフィオンディスターバーによって動けなくなった時…
アッシュフォード学園の生徒たちは…彼らに銃を突きつけられていた…。
僕が出て来なければ…彼らを撃つと云っていた…
正直、僕は今でも『黒の騎士団』の存在はただのテロリストだと思っているよ…。
それでも…君は…そんな連中を利用しなければならない程…追い詰められていたんだね…
今にして思うと…僕自身も…相当浅はかだったし、考えなしだった…。
この1年で…一体何が変わったのかな…
僕は…どう報告すればいいのかな…
正直…解らないよ…。
君は…大まかな事はきっと、見ているのだろうけれど…
それでも、細かい部分…全体から見たら些細な部分は…きっと君は見る事が出来ないから…
今でも『世界』には…様々な憎しみの火種はある。
現在のブリタニアの代表に対しても、日本の代表に対しても、中華連邦の代表に対しても…
知っている人は知っている…
見ている人は見ている…
全ての人々が…彼の事を、表面部分だけで見ていた訳じゃない…
確かに、解り易い方に、多くの人々は飛び付く。
勧善懲悪…
きっと、人々の求めているところはそこなんだと思う…
自分は間違っていない…
自分が正しい…
そう思う事で人々は安心できる。
自分が『悪』とされる事を…怖がっている。
彼は…ずっと仮面を被り続けた。
理解を求める事なく…目的の為に…
それで、『正義の味方』の名前を戴く事が出来た彼らは…
自分たちは正しいと…信じている。
その信じる心があるだけで、人は安心できるのだろうか…
その正しいと思えるようにするための…彼の血の涙を流す、葛藤と苦悩は…決して…彼らに届く事はないのだろうか…
あれから1年…
平和の日とされた…9月28日…
それは…『悪逆皇帝ルルーシュ』が『英雄ゼロ』に倒された日だから…
平和?
平和って何?
確かに…銃声で目が覚めてしまうような…そんな戦場は…今のところ世界にはない…
でも、それは…本当の意味で、そんな争いがなくなったのか?
そう聞かれれば…僕はきっと…『No』と答えるだろう。
だって…解らないもの…
今、本当に人々が、血で血を洗う戦争に嫌気がさして戦争をやめようと思って、武器を取らないのか、ただ…今の状態ではそれだけの力がないから…武器を取らないだけなのか…
根本的に…彼らは、『世界』の全てを受け入れているとは…云い難い…
戦後処理…
『ギアス』の名前を出す事が出来なかったから…ブリタニア軍兵士は『ルルーシュ皇帝』に脅迫されて、無理矢理兵役につかされていた事になった。
しかし、困ったのは彼の『ギアス』によって、彼らは『奴隷』として存在していたから…『彼』が目の前から消えても…『彼』を絶対の存在としていた事…
あの戦いに置いて…きちんと『ギアス』をかけた兵士たちがこの世界から消えていなかったから…
戦後処理とは…そう云った事まで言及され、罪を追及して行く…
それは…『戦勝国』となった国々が…自分たちの正当性を高めなければならない。
戦争の間にどれ程非人道的な作戦を施していても…その作戦を施さなければならなかった理由づけが必要だから…
戦争をすれば…大小関係なく…犠牲はつきもの…
それを理解できていなかった者たちもいた…
武器を取ったからには、取っただけの理由があるのだ。
それが何であれ、『犠牲を払ってでも守らなくてはならない…取り返さなくてはならない大切なもの』と云う事になる。
あれから1年が経ったけれど…
未だに…『明日』が解らない…
尤も…解らないから『明日』なのかもしれない。
結局…あの時の『世界』は『悪逆皇帝ルルーシュ』を倒す事が目的になっていた…
恐らくそれは…目的ではなく、自分たちの守りたいものを守るための…取り戻したい物を取り戻すための…手段の筈だったのに…
今日も…自分のすべきことを終えて…世界にいくつか点在している、僕の眠る場所に辿りついた。
彼は本当に用意周到で…
流石に今日は…様々な式典があって、分刻みでスケジュールが組まれていた。
何故…僕がそんなお祭り騒ぎに参加しなくてはならないのか…
ほとほと、世界の首脳の『お花畑』みたいな思考には…困ったものだ。
僕は…そんな式典のシンボルの為に存在している訳じゃない。
でも、その式典のシンボルとして存在する事も…存在意義なのか…
世界の…日の当らない場所では…今でも、現在の『世界の価値観』と『自分たちの価値観』のギャップに苦しんでいる地域もある。
『悪逆皇帝』に対して…『感謝』の念を抱いている民族などは…まるで、かつての日本の『隠れキリシタン』の様だ…
そして、相変わらず、貧困の続く地域もある。
あの戦争に向けられていたエネルギーは…確かに表向きには貧困などに向けられている。
しかし、その中で必ず善意だけで動いていない輩も当然いる。
それが人間…
全ての人々が、我欲を持たずに、『他人に優しくできる』なんて…そんなのは夢物語だと思い知らされる。
生きるために、ルールを破らなくてはならない人もいる。
誰かを守るために、ルールを破らなくてはならない人がいる。
そうと解っていても、ルールを破った者を逮捕せねばならない人がいる。
結局…その繰り返しだ…
ねぇ…ルルーシュ…
今の世界は…彼女たちの望んだ…『優しい世界』なのかな…
それとも…まだ、夜明け前の暗い空の下…なのかな…
なんて漠然とした言葉なんだろう…『優しい世界』って…
誰かにとって『優しい世界』なら…もしかしたら、誰かの『優しさ』にと云う名の『犠牲』の元に成り立っているかもしれない…
誰かの、大きな苦痛の下に成り立っている『優しい世界』なんて…
きっと…『Cの世界』から…この世界を見ている彼女たちは…何を思うのかな…
シャーリーとロロは…きっと泣いて怒っているね…
ユフィは…きっと『私が望んだのは…こんな世界じゃない!』って泣いているね…
君の御両親は…君の自己犠牲の精神に…何を思う…?
君が望んだ…『明日』…
でも…具体的な事は何も言わなかったね…
当然か…それは…この『世界』に生きる人々がかじ取りするものだから…
きっと…『明日』も、その『明日』の『明日』の為に…何かをしようとするね…。
さぁ…今日も夜が更けてきたよ…
明日もまた…『ゼロ』として…世界を見て行かなくちゃ…
だから…
今夜はお休みなさい…
明日は…おはよう…
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