ルルーシュは…現在ほとほと困っていた…
自分の趣味で星を見るようになったが…最初の内は一人で見ていた筈なのだが…
いつの間にか…付属品が付くようになっていた…
「いい加減…ついてくるの…やめてくれないか…?」
ルルーシュは必死に込み上げて来るイライラモードを必死に抑えている。
そもそも、自分の趣味と云うものは…出来るなら人に邪魔されずに楽しみたい…そう思うのがルルーシュの性格なのだが…
「え?邪魔していないでしょ?僕…。それに…僕、ルルーシュにべた惚れだし…。それに今日は差し入れまで持ってきたんだよ?ルルーシュ…好きでしょ?『シェ・アスプルンド』の1日限定30個のなめらかプリン…」
そう云いながら、ルルーシュの好きなプリンの入った箱をひょいと自分の目線に持ち上げるのは…同じクラスの枢木スザク…
運動能力は男子顔負け…実は女子のファンがいっぱいついているとか云う…
―――そんな奴に付きまとわれたら…俺の方にそのファンたちの怒りの矛先が向いてくる事は目に見えているじゃないか!その時点でお前が俺に付きまとうのは迷惑以外の何物でもないんだよ!
と、心の中で目の前の同級生に悪態づく。
しかし、ここで怒鳴りつけられないのは…恐らく、妹にも呆れられてしまう…『女に対して強く出られない』性格の所為だろう…
「だからって!仮にもお前は女だろうが!こんな夜遅くに外を出歩くのはどうかと思うぞ!」
『仮にも』とつけてしまう辺りは、ルルーシュ自身、彼女に対して運動神経では絶対敵わないのでせめてもの皮肉だ。
「大丈夫だって…。僕、絶対にルルーシュより強いし…。それに、僕よりルルーシュの方が絶対に襲われる可能性が高いって!」
何を云ってもめげない…
と云うよりも、真意の通じない相手と云うのはこれほどまでに厄介なものなのだろうか…
それに…今のスザクの言葉は…心の中でこっそりとぐさっと刺さってきた。
―――どうせ…俺は弱いよ…
心の中で呟いてしまう…
そんな自分が妙に悲しい…
「そんな襲われる程、俺は金を持っていないし…高価なものも身につけていない…。この天体望遠鏡だって…相当自分の使いやすいように改造しているからな…。リサイクルショップに持って行ったって売れやしないさ…」
『やれやれ』と云った表情でルルーシュが答えると…
今度はスザクの方が『やれやれ』と云った顔をする。
「これだから…自覚のない人は危ないんだよね…。ルルーシュってさぁ…自分がどれだけ世間的に『萌え♪』を誘う外見をしているか…解ってないでしょ…」
このスザクの言葉に相当カチンときた。
「おまえ…俺をバカにしているのか…」
普段はあまり見せない…他人に対して、自分の事を云われてムカつくという事…
「とんでもない…僕は心配しているだけだよ…。僕の大好きなルルーシュが、どこの馬の骨かも解らない様な『野郎』どもにあんな事とか、こんな事とか、あまつさえそんな事までされちゃうなんて…想像するだけで身の毛もよだっちゃうよ…」
「お前の考えている事の方が身の毛がよだつわ!」
昨今の女どもと云うのは…なんだか妙な事に頭を働かせるらしい…
ルルーシュはその一言を残してすたすたと歩き出す。
天体観測をするという事は…周囲が暗い場所まで行かなければならない。
となると…帰る時には真っ暗な中を帰って行く事になる。
そうなると、ルルーシュはスザクを彼女の家まで送って行かなくてはならないという事になる。
確かに明日は休日だから、ルルーシュも遠出して天体観測をしようと考えたのだが…
「ね、ルルーシュ…今日は何を見るの?」
この目の前の少女がどれ程天体に関して知識を持っているのかは知らないが…
ルルーシュが天体観測をしようと出て来ると、確実に彼女が出て来るところを見ると…
―――天文年鑑でも見ているのか…
みごとにルルーシュが天体観測をしようと云う日に出くわしている。
今日にいたっては…
―――超プレミアの…『シェ・アスプルンド』の限定プリン付きで…
そもそも、ルルーシュの好物が『プリン』であると…一体どこでばれたのだか…
基本的に自分のプロフィールは学校内で調べられる最低限の事しかクラスメイトには知られていない筈だ。
それに…いつの間にかスザクが付いてくるようになってしまったが…
それまでは、ルルーシュが天体観測や天文学が好きである事は誰も知らなかった筈だ…
「おい…枢木…」
ルルーシュが疑問に思っている事を尋ねようとして…スザクに声をかける。
「枢木なんて…云いにくいでしょ?『スザク』って呼んでよ…」
ルルーシュの機嫌などお構いなし…
と云うか…ルルーシュの都合など一切眼中にないという感じだ…
「あのなぁ…俺は云いにくいとかそんな事はどうでもいいんだ!なんで、俺が天体望遠鏡を持って出かけようとするといつもお前が付いてくるようになっているんだ!」
普段、あまり…と云うよりもこんなルルーシュは学校ではそんな顔を見せた事などない…
それなのに…
ルルーシュは今、スザクに怒鳴りつけているのだ…
そんなルルーシュを見てスザクは素早く携帯電話を出して…
―――カシャッ!
怯む事なく、今のルルーシュの…スザクを怒鳴りつけている顔を写メに撮っていた。
「やったぁ…♪ルルーシュのレア写メゲット…♪」
―――こいつ…本気でぶっ飛ばしてやろうか…
無邪気に笑っているスザクに対してルルーシュはとにかく…苦々しい顔をするしかない。
大体、ルルーシュの腕力で殴ったとしても、こいつに限って言えば、
―――絶対に…何のダメージも受けないような気がする…
元々無駄な事に労力を使わない主義のルルーシュだ…
脱力した段階でへなへなとその場に座り込む。
「あ、ルルーシュ…大丈夫?」
―――疲れさせているのはお前だ…
そう思うのだが…何を云っても無駄…腕に物を云わせようとしてもルルーシュでは通用しないのは火を見るよりも明らかだし…
それに、こんな運動バカな女でも女は女だ…
―――女に暴力をふるうなんて…
ルルーシュには小さい頃から可愛がっている妹がいる所為か、女に対して強い態度に出る事が出来ない。
だから…ここでも脱力してその場にへなへなと座り込んでしまったのだ…
しかし…
いつもなら、無視し続ければ相手の方が根を上げてどこかへ行ってしまうのに…
―――こいつは…無視し続けて、追っ払っても…絶対めげないな…
こう言う、ポジティブに動けるところはルルーシュとしては見習ってもいいかもしれない…などと思ってみるが…
それでも、自分のキャラクターでそんな事が出来るとも思えない。
常に、3つ以上の可能性を考えてからしか行動に移せないのだから…
そう云う意味では、目の前にいる枢木スザクは見事に自分とは正反対に見える。
確かに…
ルルーシュはペーパーテストなら…それこそ全国模試で1位を取るような秀才…
スザクは1年の時から様々なスポーツ大会で全国優勝できる程のスポーツ万能少女…
性格は…
ルルーシュはとにかく人付き合いが下手で…目立つ存在らしいので、じろじろ見られる事はあるが…特定の友達もいないし、欲しいと思っていない…
スザクはとにかく人当たりが良く、常に人の輪の中にいて…そして、色々な人間から好かれているが…ここだけはルルーシュと同じらしく…特定の親しい友人がいない。
「ね…このプリン食べよ?折角苦労してゲットしてきたんだから…」
スザクはここまで丁寧に持っていたプリンの入った箱をルルーシュに見せる。
その時のスザクの顔は…相変わらず、人好きする…明るい笑顔になっている。
「まったく…」
ルルーシュはそう云いながらも…なんとなく、ここ最近、天体観測の時にはこの同級生がいる事がほぼ当たり前になっている事に気が付いた。
そして、ふっと笑いながらスザクの差し出してきたプリンを受け取る。
「あ、笑った…」
スザクがルルーシュの表情に嬉しそうにそう言うと…
ルルーシュははっとして、顔を背ける。
―――普段は絶対に自分の表情を無意識の内に変える事なんてないのに…
ルルーシュは顔を背けながらそんな事を思う。
きっと…顔が赤くなっている…
周囲が暗くてよかったと思ってしまえる程…なんだか恥ずかしい気がした。
「やった…♪また、僕しか見た事ないルルーシュを見れた…」
スザクのその声は…本当にうれしそうに言っているのが解る。
プラスチックのスプーンの入った袋を破りながら…
とにかく冷静さを取り戻す。
なんだか、スザクに振り回されてばかりの様な気がする。
「なぁ…お前、どうして俺が天体観測に来るたびに…まるで待ち伏せているかのように一緒にいるんだ?」
少しだけ気分が落ち着いて…
プリンを口に入れながらそう尋ねる。
実際問題、こうも正確に待ち伏せていると怖いくらいだ…
「えへへ…秘密…♪」
そんな事云ってはぐらかされる。
ルルーシュの方はスザクの事に興味や関心がなかった所為もあって、スザクの事は殆ど何も知らない。
でも…スザクの方はルルーシュの事をよく知っているらしい…
多分、これは興味関心を持つ者と持たない者の差なのだろうが…
それにしたって…
「なんで、俺がプリン…好きな事を知っている?」
どうせ答えて貰えないと思うのだが…
一応聞いてみる。
「それも…秘密…♪」
予想出来ていたから大して腹も立たない。
「ただ…一つ教えてあげられるのは…ルルーシュは…自覚なさ過ぎ…。学校で、ルルーシュのお近づきになりたい人…いっぱいいるんだよ?僕だって…その一人だったんだけど…。あ、でも、僕がこんな風にルルーシュと話しているってばれたら…女子に怒られちゃうかな…また…」
なんだか気になる言葉を聞いた気がする。
「また?」
ルルーシュがその言葉事理を捕まえて聞き返すが…
「あ、別に何でもない!」
顔の前で両手を振って『聞かなかった事にして?』と云うオーラを出しながらスザクが笑っている。
まぁ、よく解らないし、聞いても決して答えてくれないだろう事は解るから…
だから…ひょっとしたら一番こたえて貰える可能性の高い質問をしてみる。
「これ…『シェ・アスプルンド』のプレミアプリンだろ?どうやって手に入れたんだ?しかも二つも…」
ルルーシュとスザクは同じプリンを食べているのだ。
1日限定30個…
少なくとも、学校が終わった後で並んで買いに行ったところで、買える代物じゃない。
と云うか、朝一に並んだって一人1個までしか買えない代物だ…
「ああ…それね…。ちょっとだけ…ツテがあるの…。その方法は教えてあげられないけど…」
にこっとわらって結局、肝心な部分は一切解らず終いの答えが返ってきた。
何となく予想が出来ていたけれど…
それでも…
―――こいつばかりが俺の事を知っているのも…なんだか癪に触るな…
そんな事を思い始めていた…
それが…一体どうしてそう思うのか…この時のルルーシュにはよく解らなかった…
結局、その日の天体観測は何もできないまま…
でも、ただ、二人で腰をおろしてプリンを食べながら瞬く星を…眺めていた…
それから数日後…
スザクの云っていた『また』の答えを目撃する事になった…
それは…本当に偶然だった…
ルルーシュが所属している生徒会の関係で図書室へと向かっている時だった。
図書室へ行く途中、校舎と校舎の間に、人目に付きにくい部分がある。
普段ならあまり気にもせずに通り過ぎるのだが…
スザクと数人の女生徒(恐らく上級生)がそこにいた…
と云うか、そこでスザクがその女生徒達に囲まれていた。
多分、目に入ったのが…いつもルルーシュに纏わりついてくる時のスザクの顔ではなかったからだろう…
不条理を目の前いしてその相手に対して睨みつけているような表情だ。
「枢木…?」
ルルーシュは普通ではないその様子にその現場へと向かった。
幸い、渡り廊下からすぐに行ける場所だ…
『あんた…ルルーシュ君に纏わりついて…。ファンクラブの中でもみんな、ちゃんと決まりを守っているってのに!』
『そうよ…ルルーシュ君の機嫌取りの為にプリンまで用意して…ルルーシュ君の天体観測に付きまとって…』
上級生の女生徒たちの声だ。>
そう言えば…この間の天体観測をした時…妙な事を云っていた…
『別に…先輩方だって僕と同じ事をすればいいじゃないですか…。僕はファンクラブに入ってないし…僕は…僕の持っている情報ソースから得たルルーシュのプロフィールです…。それをどう使おうと先輩たちにとやかく言われる筋合いはありません!』
スザクがそこまで云うと、女生徒の一人がスザクの肩を掴んで校舎の壁に強くたたきつけた。
『い…た…』
かなり強く打ちつけたのか…スザクが顔をしかめる。
―――女のやる事は…俺にはついて行けん…
そう思いながら、渡り廊下からその場所まで歩いて行く。
そして、その足音に気付いた女生徒たちが振りかえる。
「先輩方…一体何をしているんですか?」
ルルーシュとしては、なんでこんな行動に出ているのかよく解らない…
しかし…身体が勝手に動いた…
「あ…ルルーシュ君…。だって…この子…」
一瞬にして顔色を変えた女生徒たちが何かを云おうとしているが…
ルルーシュはすぐにその言葉を遮った。
「申し訳ありません…。彼女に対しては俺が色々無理を云っているんですよ…。先輩方が彼女に何か文句があるなら…俺に云って下さい…」
そこまで云うと、スザクを取り囲んでいた女生徒たちがスザクに一瞥をして…暗い色をしているルルーシュの目を見るのを怯えているかのように逃げて行った…
さっき、強く打ちつけた肩が痛むのか、スザクは肩を手で押さえている。
「大丈夫か?」
「なんで?なんで…ルルーシュが…。それに…こんなところでルルーシュが僕を助けたら…」
今、この状況を信じられないと云う顔でスザクがルルーシュを見ている。
「何度も…こんな事があったのか?俺が…ちゃんと、無視していなかったから…。お前の事…追っ払ってやれなかったから…」
ルルーシュが真剣な目でスザクに尋ねて来る。
「そ…そんな事は…別に…。僕が自分で好きでやっていただけだし…。ルルーシュにちょっかい出したら…あのくらいは当たり前だし…。僕が…一方的に…」
そこまで云った時、ルルーシュが下を向いているスザクの頭をポンポンとたたいた。
「ごめんな…。俺が…ちゃんとお前を遠ざけて来なかったから…。でも…俺自身、ちゃんと追っ払えなかったんだ…。何故か解らないけど…」
ルルーシュのその言葉にスザクがピクリと反応する。
「ねぇ…ルルーシュ…それって…告白されてるように聞こえるんだけど…。僕…単純だから…そう受け取っちゃうよ…?」
スザクの言葉に…ルルーシュがはっとする…
「え?あ…イヤ…えっと…その…」
また、この学校ではスザクしか見ていないルルーシュの姿を晒している。
「ありがと…ルルーシュ…」
スザクが顔をあげて嬉しそうに笑うと…ルルーシュの顔は真っ赤になっていた…
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