ルルーシュ本人を無視して、スザクはルルーシュに大告白をかまし、ロイドは心の中で、らしくもなくちょっぴり感動してしまい、それを聞いてシュナイゼルが怒り心頭…
はっきり言って、第三者としては遠くから眺めている分にはいいが、近くに行って巻き添えを食うのはごめんだ…と云う感覚だ。
その空気を醸し出しているのは…ルルーシュの異母兄、シュナイゼルなのだが…
シュナイゼルの登場に、ロイドは、『何が起きるかなぁ〜〜〜♪』と云う表情を見せているし、スザクとしては、シュナイゼルがいきなり現れたかと思うと、突然『絶対に許さん!貴様などに…私の大切なルルーシュを嫁にやるなど…絶対に許さん!』などと云っているのを聞いて…ちょっと驚いている。
まぁ、ルルーシュがこちらの世界に迷い込んできた経緯を聞いた限りで分析してみると、恐らく、この目の前の金髪男性からも逃げていた事は何となく理解できる。
そこまで考えた時、スザクはキッとシュナイゼルを睨みつける。
もし、ルルーシュをそんな風に逃亡生活に追い込む程ルルーシュを苦しめている相手であるのなら絶対に許せない…
「あなたが…ルルーシュを追いかけまわして…ルルーシュを苦しめていたのですか…」
スザクは怒りを抑えながらも、その声は低く、その背中にはその怒りのオーラが見えるようだった。
ロイドの方は多少、スザクの誤解があると云う事を承知しているが、面白そうだからと放置を決定する。
そして、シュナイゼルもそんなスザクを見て、その腹黒さを全開にしてうっすらとイヤらしい笑みを浮かべる。
「ほぅ?私にそんな口をきくのかい?君は…」
何せ相手は皇子様なのだ…
この世界で通用しないにしても…
ロイドはその辺りを心の中で突っ込みながら…様子を見守っている。
どちらにも助け船を出す気はないようだが…
ここで乱闘されると眠っているルルーシュに被害が及ぶと思い、そっと、ルルーシュの眠るバスケットをこの二人から遠ざけた。
ルルーシュは今のところぐっすり眠っているようで、多少の事なら目を醒ます事はないだろうと判断した。
ここにセシルがいれば…面白そうと云う理由だけで眺めているだけのロイドを諭し、スザクとシュナイゼルを宥める事も出来ただろうが…(なにせ、ルルーシュは体調を崩して眠っているのだから)
そのセシルはロイドのお気に入りのプリンを買いに街に出てしまっている。
頭に血が上ったスザクとシュナイゼルに…現在、この部屋で愛おしいルルーシュが眠っている事に気づくのは…一体いつの事となるのだろうか…
そんな心配も過るのだが…
当のルルーシュがぐっすり眠っているし、この二人が大暴れして物が飛んでこない事が保証されていれば、とりあえず、多少声を荒げたところで影響はないだろうが…
スザクとシュナイゼルが睨みあったまま、ロイドにとってはとりあえず、自分の命の為にルルーシュを守ればいいという形になるのだが…
それでも、二人ともルルーシュの事を気遣っているのか、妙な癇癪を起こす感じでもない。
しかし…静かなる嵐の予感を思わせる。
ロイドとしては…お気に入りの部下であるスザクが壊されなければいい…と云うのと、シュナイゼルが変に切れてしまわなければいい…と云う程度の気持ちしかないのだが…
単純に退屈だと思っていた矢先に突然、シュナイゼルの一番のお気に入りのルルーシュがこの世界に迷い込んできた事を知り…これで退屈をしなくて済むと、ちょっと不謹慎だと思わない訳でもないのだが…
思ってしまっていた。
それに、ルルーシュと一緒にいる時にスザクのテストパイロットとしての成績があまりに優秀になるので…これは一石二鳥…と云う感覚も無きにしも非ずだった。
それに…スザクの先ほどの超真剣な告白を聞いてしまったら…
―――僕はこちらで心おきなく研究に没頭する為にセシル君と契約しちゃったんだけどねぇ…。確かに、セシル君は頼りになるし、有能だし…
スザクの真剣なまなざしと告白にちょっぴり、セシルに対して、自分自身は軽い気持ちでい続けていたのかもしれないと…反省もしてみたり…
しかし…この二人が睨みあっているのを見て…自分の膝の上にルルーシュの眠るバスケットを抱えている状態なのだが…
その眠っているルルーシュを見て、
―――確かに…国に帰ったら、大変でしょうねぇ…。こちらにいたらいたで、大変そうですけれど…それでもスザク君なら大切にしてくれるでしょうし…。それに、殿下がこちらにいてくれるとスザク君のパイロットとしての成績が超優秀だし…手放したくないんですよねぇ…。スザク君が頑張ってくれたら…殿下はこちらにいて下さいねぇ〜〜〜
と、心の中で思っている。
ただ、交渉術だとか、人の弱みに付け込ませるだとか、そう云う事をさせた場合、シュナイゼルの右に出る者をロイドは知らない。
ただ…スザクの場合、シュナイゼルほどすれていない分、直球で来る可能性もあるし、直球と変化球…
パワーだけでいえば、きっと、ストレートに行った方がいいのだが…
それでも、あのヒトクセもフタクセもある様なシュナイゼル相手にどれ程ストレート勝負で通用するのか…
色々考えてみるものの…
結局、どれだけ考えてみたところで、そんなものの答えが頭の中でいくら考えたところで解る訳がない。
それは解っているのだが…
それでも、想像と云うのは偉大なもので…自分の興味のある事、面白いと思う事に関してはついつい、のめり込んでしまうのだ。
ロイドはそんな二人をワクワクしながら見ている…
ただ、やっぱりルルーシュの事も気になるので、時折、つまりそうな息を整える為にルルーシュの姿を見ていやされる…
何とも意味不明ともとれる行動なのだが…
それでも、そうやって、常人には理解できない事をするのがマッドサイエンティストとしてあるべき姿なのだから仕方ない…(ホントかよ)
先に口を開いたのは…スザクだった…
ロイドからルルーシュの事を聞いて、色々と云いたい事はたくさんあった。
確かにルルーシュは可愛いけれど…傍にいて欲しいけれど…独占したいけれど…
だからと云って、自分の欲の為だけにルルーシュを追いかけまわして、どこだか解らない場所に落ちてしまうような穴に飛び込ませてしまった事は許せない…
今回はたまたま、この世界で、拾ったのがスザクだったからよかったようなものの…(これは少々スザクの自己満足やらいい訳が含まれていると思われるが)
もし、危ないおじさん(どんなおじさんですか?)とか、動物実験を趣味としているマッドサイエンティスト(ロイドもマッドサイエンティストだけどね)とか、そんな連中に攫われていたら今頃ルルーシュは…
そう考えると、どんどん怖い想像にはまって行きそうになる。
実際にスザクだってルルーシュを自分の部屋から一歩も外に出さないで、一日中だって愛でていたいという程度の願望は持っている。
それでも、今のところは人間としての理性が働いているのでそれを実行しないだけだ。
時々、ルルーシュに対して変な気持ちになるけれど、それはそれは、涙ぐましい程の努力でスザクは抑え込んでいるのだ。
しかし、目の前にいるシュナイゼルと云う男は…(ルルーシュを一人占めにしたいと思う気持ちだけは理解できるが)自分の欲望の為に逃げ惑うルルーシュを追いかけ回していたと云うのだ…(ちょっと違う気もするが)
―――そんな奴に…ルルーシュは絶対に渡さない…
気分はすっかり悪のラスボスからお姫様も守り救い出す正義の王子さまの気分だ…
そう、スザクにとって、ルルーシュは既に『プリンセス』と云うカテゴリーになっているのだ。(本人が聞いたら烈火のごとく怒りだし、猫の姿でスザクの顔をバリ掻く様な気がするが)
しかし、間違ってはならないのは…健康な『黒猫』に『メス』はいない。(地球上では…)
そんな真実はスザクにとってはどうでもいい事らしいのだが…
それでも、女の子扱いされる事を非常に嫌うルルーシュの為に一応フォローを入れておく。
まぁ、猫帝国でその論理が成り立つかは知らないが、スザクが一目惚れしちゃったルルーシュは生物学的に『♂』である。(一応確認の為に…)
「シュナイゼルさん…でしたよね…。ルルーシュを追いかけまわして…異世界に続く穴に飛び込ませるほど追いつめたと云うのは本当ですか…」
スザクの目は怒りで暗い色になっている。
心の中では>
―――ルルーシュ…こんな黒い僕を見ないでくれ…
と云う思いもあったりなかったりするのだが…
そんなスザクに対してシュナイゼルは…
「失敬な事を云うね…君は…。私たちの暮らす世界では欲しいものは力で手に入れる…。ルルーシュが逃げると云うのであれば、ルルーシュを手に入れたければその試練を乗り越えられたものだけが手にする資格を持つ…そう云う事なのだよ…」
余裕綽々にスザクの問いに対してシュナイゼルが答えた。
確かに…自然の動物の世界ではそれが当り前なのかもしれないが…
でも、彼らはただの猫ではないのだ…
人間としての理性や知恵を持ち合わせた存在で…
理性を持っているのなら…大切な存在であるのなら…ルルーシュが涙目になって逃げ惑う姿(←相当飛躍が入り始めている)を見て、心は痛まないのか…
スザクの中ではそんな思いが過るのだ。
「ルルーシュが…泣いていても…苦しんでいても…あなたはそんな事をなさるんですか…」
スザクの声がやや震えている様にも聞こえる。
スザクが怒りで声を震わせるところなど、ロイドは見た事がない。
―――こりゃぁ…本物かなぁ…
と、この二人の争いには全く関係のない事を考えている訳なのだが…
それでも、この二人からは『ルルーシュは渡さんぞ!』オーラが遠慮なしに放出されている。
これが、妙なバトルアニメだったら、その凄まじいオーラでルルーシュが目を醒ましてしまうのではないかと思う程だ…
一応、確認はしてみるが…時々、体勢を変えようとして首を動かしたり、時々耳がピクリと動いたりする程度で…今のところは目覚める様子はない。
「何を云うんだい?君は…。猫帝国は弱肉強食…。自分の欲しいものは自分の力で手に入れる…。しかし…ルルーシュは優しい子だからね…。どうしてもそんな事が出来ないから…だから、そんな争いの毎日から解放しようと…私がルルーシュを救い出すべく、ルルーシュが泣いていても心を鬼にして追いかけ回していたのだよ!」
シュナイゼルが力いっぱい熱弁をふるっている。
しかし、ロイドは知っている。
シュナイゼルにとって、ルルーシュの涙目姿も『萌え♪』の対象であるという事を…(と云うか、ルルーシュの姿であれば、何でも『萌え♪』変換できる男なのだが…)
「嘘言わないで下さい!ルルーシュが優しい事は認めますけれど…あなたがルルーシュを争いから救い出す為なんて…あなたにとって都合のいい解釈の大義名分だ!ルルーシュはバカじゃない!そう云う事をしてくれている相手であれば、自分から心を開いてくれる!僕だって、頑張って、頑張って…ルルーシュのお手製のご飯を食べたり、バレンタインにチョコレートのケーキを作って貰ったりしたんだ!でも、あなたみたいに追いかけ回すなんて事は僕は天に誓ってしていない!」
途中から、ルルーシュにこんな事をして貰ったという自慢話になっちゃっている気もするが…
それでも、まだ日が浅いとはいえ、ルルーシュと一緒に生活をして来て、ルルーシュは人の好意に対してただ、無碍な態度を取る事は考えにくい。
スザクに対しては、本当に必要以上にスザクの好意に対して応えてくれているのだから…
スザクがそんな事を考えている中…
スザクの発言に対してシュナイゼルとロイドが表情を変えた。
シュナイゼルは嫉妬に満ち溢れた表情…ロイドは『あちゃぁぁぁ〜〜〜〜』と云う表情…
どうやら、スザクは地雷を踏んだらしいが…スザク自身はその事に気づいていない。
シュナイゼルの醸し出している負のオーラが『キングレベル』に達しようとしていた。
ロイドとしては、そこまでシュナイゼルの黒オーラが増大する事はちょっと困ってしまうのだ。
シュナイゼルは確かに猫帝国でも非常に優秀な皇子様なのだが…
しかし、ルルーシュが絡んで来ると非常にシュナイゼルの人柄が変わってしまう事をロイドはよく知っている。
そのお陰で、いつもシュナイゼルの傍にいるロイドの同僚が苦労しているところを何度も目にしているし…
この状況でスザクと変に子供染みた争いをされると、ここはロイドの研究施設であり、ロイドの膝の上のバスケットの中ではルルーシュも眠っているのだ。
ロイド自身、シュナイゼルほどではないが、この、可愛らしい黒猫は結構気に入っているので…それに、スザクもこの黒猫皇子がいてくれる事でロイドの研究に非常に役に立ってくれている事は百も承知なのだ。
それ故に…今、この時点でシュナイゼルにあんまり頑張られても困る…と云うのは正直な気持ちだ。(なにせ、スザクの場合、彼の精神状態があからさまに結果に反映するので)
そんな事を考えている内に…どうやら、ルルーシュが目を醒ましてしまったようだ。
耳がピクリと動き、瞼がゆっくりと開いている。
「みゃあ…」
まだ、猫の鳴き声しか出せないようだが…
それでも、少しずつ回復はしているようだ。
そして…ルルーシュを溺愛している二人がルルーシュの泣き声を聞き逃す訳がない。
「「ルルーシュ!!!」」
二人が臨戦態勢を解き、ルルーシュのところへと走ってくる。
さっきまでの戦々恐々とした空気は一気にルルーシュへの愛情オーラへと変換されている。
「みゃ…?」
ルルーシュが周囲を見渡し、シュナイゼルの姿をその目に入れると…
猫の表情変化はスザクにはよく解らないのだが…
それでも、確実に表情が変わった事が解る。
「みゃあ!みゃあ!みゃあ!」
興奮状態でルルーシュが鳴き続けている。
そして、スザクの姿を確認して、それまで、熱を出して体力消耗が激しい状態であるにもかかわらず、スザクの身体に力いっぱい飛びついた。
「みゃあ…みゃあ…みゃあ…」
スザクの服に爪を立ててしがみついている。
流石にこの状態にスザクは驚くのだが…
そして…シュナイゼルの目には…今にもこぼれそうなほど涙がたまっているのだ…
「ルルーシュ…何故なんだい?私が折角君に会いに来たというのに…」
さっきまで無駄にばらまいていた殺気が一気に消え去って、何かを訴える様なオーラへと変わっている。
「みゃあ…みゃあ…みゃあ…」
「シュナイゼル殿下…仕方ありませんよ…?シュナイゼル殿下がルルーシュ殿下を溺愛している事は僕もよく解っていますけれど…でも、その解り難い愛情表現はあんまり伝わっていないみたいですし…」
「何故だ…ルルーシュ…私は…君をあの争いの中から救い出そうと…」
何か必死に訴えているのだが…ロイドはやれやれといった様子で付け加える。
「そりゃ…いくらルルーシュ殿下を手に入れるためとはいえ…ルルーシュ殿下にマタタビをぶちまけて腰抜かさせて、そのまま拉致して…マタタビ部屋に監禁した揚句、猫じゃらしで遊びまくって、人間の姿に戻して服も着せずに縛り上げたかと思えば、宮廷画家を10人以上連れてきて絵を描かせて……」
ロイドの暴露話はその後、30分ほど続いた…
スザク自身…顔を引き攣らせながらシュナイゼルを見ているのだが…シュナイゼルは『愛するものを楽しく愛でて何が悪い!!』と云う態度だ。
そして…スザクは決意する…
―――ルルーシュ…君の事は僕が絶対に守ってあげるからね!こんな変態兄貴には絶対に渡さないから!
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