トンデモ皇子のお守役2


 ここは…ルルーシュとゼロが通うアッシュフォード学園の正門…
そこに一人の長身の男が降り立った。
「ここか…まったく…私がこんなに君を愛していると云うのに…」
そんな事を云いながらその男はその正門をくぐって行った。
その後を…その男に付き従っているであろう男がついて行く。
この…金髪で、サファイアの瞳を持つ男…
「お待ち下さい…殿下…。ルーベン=アッシュフォードには連絡を入れていないのです…。いきなり殿下が押しかけて行ったら、アッシュフォード卿がショックで倒れてしまいます…。まして、そんな恐ろしげなお顔をされていては…」
確かに…この男…
その身体から発せられているマイナスオーラで一人や二人、人を殺せてしまえそうな勢いだが…
「別にかまわん…。私に逆らって…双子たちを拉致するなど…」
「殿下!そんな物騒なことではないのです!ルルーシュ殿下とゼロ殿下がお望みになられて、そして、彼らの専任騎士が同行しているだけなのです…。それは、母君であるマリアンヌ様も御承知なのです…」
マイナスオーラ全開の男に対して…宥め役となっている人物がため息をつきながら説明する。
本当は説明するまでもないのだ。
彼自身、よぉ〜く解っているし、重々承知しているのだが…
それでも…彼にとって、ルルーシュと云う少年は…とってもVIPな存在らしく…普段の彼ならあり得ない暴挙に出るようだ。
「きっとルルーシュは優しいから…あのゼロの我儘を突っぱねる事が出来なかっただけなのだ…。大丈夫だ!ルルーシュ…今、私が君をブリタニアに連れ帰ってあげるからね…」
ルルーシュの双子の弟…ゼロに対してめらめらとジェラシーの炎を燃やし…本当は彼らよりも10歳以上年上の筈なのだが…
完全に精神が幼児化しているようだ。
「殿下!あんまりそんな事ばかり云っていると本当にルルーシュ様に嫌われてしまいますよ?ルルーシュ様は確かのゼロ様にお優しいですけれど…そんな子供染みたジェラシーを燃やす必要はありませんよ?」
どうも、この男の側近も、ゼロの騎士であるライ動揺…ルルーシュが関わって来ると非常に苦労している事が窺える。
ルルーシュとゼロは確かに双子の兄弟なのだが…同じ顔なのだが…性格がはっきり分かれているので、好みが非常にはっきりと分かれているのだ。
現在この話においては、ルルーシュを好む人物が多いように見えるのだが…ゼロに対しても、時々、冷静なルルーシュが機嫌を悪くする程ゼロにしつこく言い寄って来る輩がいるのだ。(ここだけの話)
しかし、ゼロ自身、自分の騎士であるライは別格として、ルルーシュ以外に興味がないので、ゼロ自身は完全に無自覚だ。

 そんな話はともかく…
ルルーシュとゼロの元に、色んな意味でトラブルを撒き散らす彼らの異母兄がやってきた。
確かにこの双子…ブリタニア皇族の中でとても愛されている双子なのだが…
彼らの異母兄、シュナイゼルはとにかく、ルルーシュを愛している皇族すべての愛情を合わせてもあまりある程の愛情を抱いている。
だから…ゼロとシュナイゼルはなんだか、『トム◇ェリ』の様相を見せる事もあるし、『碇ゲン◆ウVSゼレ』を思わせる事もある。
とにかく、ルルーシュを愛してやまない…そして、独占欲丸出しのこの二人がルルーシュを挟んで対峙した時は…
ルルーシュ自身もそうだが…この3人の騎士たちが非常に大変な思いをするのだ。
だから、シュナイゼルにくっついて離れない、シュナイゼルの側近であるカノン=マルディーニが宥めているのだが…
しかし、カノン自身、重々解っているのだ。
かの殿下の為にブチ切れてしまった自分の主を止める手だてなどない…
敢えて言うなら、かの殿下が素直にシュナイゼルに連行されて、かの殿下専用のシュナイゼルのプライベートハウスにでも入ると云えば、丸く収まるが…
しかし、そこで丸く収まってくれるのはシュナイゼルだけだ。
他の皇族や彼の騎士が絶対に黙っちゃいない。
しかし、かの殿下の母君は結構面白がってシュナイゼルを挑発するような真似をしてくれるので…カノンの気苦労は絶えない。
そもそも、どこの世界に半分だけとはいえ、血の繋がっている異母弟を自分のプライベートハウスに入れる皇子がいると云うのだか…
しかし、シュナイゼルは年若いながら、神聖ブリタニア帝国の宰相を務める程の有能な人間である。
これは、シュナイゼルのターゲットにされてしまっているルルーシュや、しょっちゅう目の敵にされているゼロも認めるところだ。
しかし、考えている事が危なすぎる。
時にゼロがカノンに対して同情のまなざしを向けてくれるほどに…
最近ではカノンの持っている胃薬の種類が増えた気がするが…
これは…宰相シュナイゼルの側近としての気苦労の為ではなく、絶対にシュナイゼル個人のお守役としての気苦労の為であろう。
これは断言しても誰も咎める事はあるまい。
時折、シュナイゼルの遠征で同行する、シュナイゼルの異母妹のコーネリアなどは…
『すまんな…我が兄ながら…。私からも謝罪する…』
と頭を下げられてしまった。
恐れ多くも第二皇女殿下がそこまで云ってくれるような相手に仕えているのだ…
カノンは…
―――その事実に誇りを持とう!
そう思って、自分を奮い立たせているのが現状だ。
何ゆえ、この、神聖ブリタニア帝国の殿下たちはこうも厄介なのだろうか…
そう言えば…
第二皇女殿下の専任騎士がこんな事を云っていたのを思い出した。
『うちの姫様…何とかもう少しおしとやかに出来ないものだろうか…』
恐らく、本人の前でそんな事を云ったりしたら、確実に不敬罪に問われるだろう。
本人が許したとしても周囲が許さない場合も多い。
それが、誰もが認めざるを得ない事実であったとしても…
そう言えば、この皇族の専任騎士や側近をしていて胃薬の必要のない者が一体どれだけいるのだろうか…と考えてしまう。
そう思えば…
―――私などはまだ楽な方なのかもしれませんね…

 そんな事を考えながら、自分の主を追いかけている内に…
主の大好きな異母弟君とその異母弟君をめぐって争っている、異母弟君のいるこの学園の生徒会室に到着してしまった…
「ルルーシュ!」
元気にその名を呼んで抱きつきに突進しようとするが…
ルルーシュを愛してやまないルルーシュの双子の弟のゼロと、ルルーシュの専任騎士、枢木スザクの手によって全力で阻止される。
「何をする!私とルルーシュの感動の再会を邪魔するとは!」
シュナイゼルもそんな二人に全力で抗議するのだが…
しかし、ゼロもスザクもルルーシュだけは譲れない。
シュナイゼルは色んな意味で腹黒で、一筋縄ではいかない事をよく知っている。
だから、普段は決して力を合わせるとか、協力し合うとか…そんな事は絶対にあり得ないのだが…
シュナイゼルを相手にするときには、全力で手を組んでいる。
そんな二人を見て、シュナイゼルも腹黒さを全開にする。
「そうやって…私のようにひ弱な人間に、体力バカな騎士と、自分の欲望の為にならバトルパワーを10,000倍に増大出来る双子の弟がそんなに全力で睨みつける事はないじゃないか…。か弱い私は、そのオーラでふっ飛ばされてしまいそうだよ…」
うっすらと腹黒な笑みを零しながら、そんな事をほざいている。
実際に、彼らのオーラなど、痛くもかゆくもないのだが…
シュナイゼルとしては、挑発して頭に血を上らせて、言いくるめる事を目的としている以上、これは至極当然の手法だ。
それに、本当に腕っ節勝負をしたら、シュナイゼルとカノンではゼロ一人にすら勝てないし、ゼロにはゼロを守る為なら普段は封印している1,000,000,000倍界拳を発揮してしまう騎士もいるのだ。
腕っ節で敵わないなら口で云い負かして、決定的な精神的ダメージを与えるしかない。
いくら、力が強いとか、強大な破壊力と云ったって、発動されなければ…敵に当たらなければないも同じなのだ。
自分で、物理的に攻撃を加えたり、身を守ったりする事が出来ないなら…彼らの力を封印すればいい…
彼らが肉体を武器とするなら、シュナイゼルはその、無駄なところにばかり発揮される優秀な頭脳とよく回る口を利用すればよい。
それを発揮する度に、『卑怯者!』と罵られるのだが…
これはこれで心地いいものなのだ。
シュナイゼルにとって、ルルーシュに対するそれとは違うが、ゼロもちゃんと愛しちゃっているのだ。
どちらにとっても、正直、厄介な愛情表現でしかないのだが…
ルルーシュに対しては自分の手元に置いておきたいと云う独占欲…
ゼロに対しては自分のおもちゃにしておきたいと云う迷惑極まりない愛情…
つまり、宰相閣下としては世界に名をはせるシュナイゼルだが…
一旦政務から離れてしまうと、これほどまでにお子ちゃまな精神構造をしていると云う訳だ。
―――この、幼稚さが消えない限り…お妃を望むのは無理なんでしょうねぇ…

 実際に一番迷惑を被るのは…
ルルーシュなのだが…
カノンはそんなルルーシュに『本当に申し訳ありません…』そんな視線を送っている。
そんなカノンを見てルルーシュも流石に哀れに思ったのか…
恐れ多くも…(但し、シュナイゼル、ゼロ、スザクにばれたらフクロにされそうだが)『こちらこそいつもすまないな…』と云う視線が送られる。
そのルルーシュの心遣いに少しだけ救われる思いをするのだが…
それを顔に出したらカノン自身の身に危険が及ぶ。
少なくとも、シュナイゼルはともかく、このルルーシュ命な双子の弟と専任騎士の殺気だけで…先ほどのシュナイゼルの言葉ではないが、本当に命をふっ飛ばされそうだ。
「異母兄上…一体何の騒ぎです?まったく…今日はEUの代表との会談だった筈では?」
この騒ぎにルルーシュが立ち上がり、シュナイゼルに対して叱責する。
今のところの救いは…
シュナイゼルがこよなく愛するルルーシュが…この騒ぎを止める事が出来るくらいの人的器を持ち合わせていた事だろう。
しかし…ルルーシュのこの一言…
シュナイゼルに妙なパワーを与えてしまった…
「ルルーシュ!君は私のスケジュールも把握してくれているんだね…。嗚呼…なんて大きな愛を私は注がれているのだ…。ルルーシュ…遠慮はいらない…さぁ…久しぶりに会う事の許されたこの…君の最も愛する異母兄の胸の中に飛び込んでおいで…。確かに、ゼロや枢木と云った障害はあるが…何…かまうものか…。私は生涯が大きく、多い程燃え上がるタイプだからね…。そして、その生涯をぶち壊す覚悟は勿論出来ているよ…ルルーシュ…さぁ…私の広い胸に飛び込んでおいで…。君の細い身体をすっぽりと…」
延々と続く、ルルーシュの言葉を妙な方向に解釈して、話を膨らませて行くシュナイゼル…
この状況に…カノンの胃もキリキリと痛みだす。
完全に自分の世界に浸りこんでしまったシュナイゼルを現実に戻すのは非常に骨の折れる話だし…。
自然に還ってきてくれればまだいいのだが…
無理矢理連れ戻すと頗る機嫌が悪くなるのだ。
それに…ここにはゼロやスザクがいるのだ。
ゼロの専任騎士であるライも…シュナイゼルがこんな、お花畑モードに突入して、ゼロが触発されてしまうと、いつものキザな言葉も通用しない事を知っている。
スザクに至っては、自分の怒りを止める術を知らないし、知っていたとしても止める気はさらさらないと思われる。
仮にルルーシュが止めようとしても…後のとばっちりはルルーシュに向かう。
そう…完全に年中発情騎士はルルーシュに無理矢理抑え込まれてしまうとその欲求を全てルルーシュにぶつけると云う…厄介な悪癖を持つ。(『萌え♪』を求める腐女子や貴腐人にとってはどんとこい!だろうが)

 このカオス…
何とか、ミレイ=アッシュフォードの怒りに触れない程度に収めて欲しいものだが…
確かに、ミレイ自身はこの学園をこよなく愛し、『我が城』と言って憚らない。
勿論、そこを破壊したなどと言ったら…たとえ皇族であるルルーシュやゼロは勿論、帝国の宰相閣下ですら許さないだろう。
本来なら皇族の権威を使えばいい話なのだが…
ミレイに関しては、個人的な人徳とでも云うのだろうか…
そう云った、形式に縛られる事はないのだ。
だから、ルルーシュとゼロがこの学園で、生徒たちが『皇族扱いした態度を取った者を無茶振りな罰ゲームをする!』と宣言して、素直に受け入れられたのだろう。
ミレイ自らがこの二人にハリセンをぶちかます事などしょっちゅうだし、彼らに対して無茶振りをする事も厭わない。
と云うより、しっかりと楽しんじゃっている。
だから、ルルーシュもゼロも安心してこの学園にいられるし、居たいと思うのだろう。
ただ…そこまでフリーダムな事をしてくれると、彼らの護衛の為について来ている騎士たちの苦労は色んな意味で絶えないのだが…
この双子…とにかく、神聖ブリタニア帝国の皇族の中で溺愛されているのだ。
可愛らしい、お姫様みたいな男の子が双子で並んでいるのだ。
黙って立っているだけで十分に絵になるのだ。
それなのに…二人の寄り添う兄弟の姿にメロメロといってしまう掃いて捨てる程の彼らの兄弟たち…
可愛いからいじめたいと思う者、可愛いから見守りたいと思う者、可愛いから構い倒したいと思う者、可愛いからスペシャルになりたいと思う者…とにかく様々だが…
この双子にとって、愛情と云うのはありがたいものであるとは思うのだが…
過ぎる愛情は…大変だ…。
まして、その愛情に『独占欲』と云う厄介な物が付属している場合には逃げるのも大変だし、全員に対して公平に接しないと争いが起きる。
父である皇帝陛下などは…
『そうやって、全ての者に公平な感情を抱ける者こそ王たる資格を持つ者!』
とか云って、最近では、自分の後継者にこの双子を考えているなどと云う冗談ではない噂を聞いている。
本当なら、第11皇子、第12皇子と云う立場であれば、どっかの領主が関の山…で、絶対に他の者たちからは猛反発を食らうのだが…
この双子に関しては…
『この可愛い皇帝なら…是非とも私が守って差し上げる…。大丈夫だ…ルルーシュ…ゼロ…君たちが可愛い子猫ちゃん皇帝になったら…私たちが全力で君たちの御世を守りぬいて見せよう…』
などと、暗黙の了解な決意が…最近では蔓延しているそうだ。
その思想のコントロールをしているのがシュナイゼルであると云う事は…カノンは知っているが、この双子には云えない…
この先、胃薬を増やして行く事になりそうだが…
それでも、カノン自身、この可愛らしい双子皇子様に関しては、ルルーシュだけでなく、ゼロに対しても愛情を抱いているので、それはそれでもいいかと…最近ではある意味自虐的思考に走っているフシが見られるのである。

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